肥満(ひまん、Obesity, Corpulence)とは、一般的に、正常な状態に比べて体重が多い状況、あるいは体脂肪が過剰に蓄積した状況。体重や体脂肪の増加に伴った症状の有無は問わない。体内に脂肪が過剰に蓄積しており。「健康が脅かされるほどに太っている」状態を指す。肥満はあらゆる病気の原因でもある。厚生労働省は肥満を「生活習慣病」の1つに含めている。
肥満症 | |
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腹囲の比較(通常:左、過体重:中央、肥満:右) | |
概要 | |
診療科 | 内分泌学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | E66 |
ICD-9-CM | 278 |
OMIM | 601665 |
DiseasesDB | 9099 |
MedlinePlus | 007297 |
eMedicine | med/1653 |
ペットの肥満も参照。
人間の肥満体型は下記の2種類に分けられる
標準体重よりも20%以上体重が超過した辺りからを「肥満」と呼んでいる。
体重に基づく肥満診断として、BMI が頻繁に用いられている。BMIの数値が一定以上だと「肥満」と判定される。
その基準は様々な組織や団体が設けているが、主な基準は以下の通りである。
状態 | BMIの指標 | |
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痩せすぎ(重度の痩せ) | 16.00未満 | 低体重(18.50未満) |
痩せ(中度の痩せ) | 16.00以上、17.00未満 | |
痩せぎみ(軽度の痩せ) | 17.00以上、18.50未満 | |
普通体重 | 18.50以上、25.00未満 | 標準 |
過体重(前肥満) | 25.00以上、30.00未満 | 太り気味(25.00以上) |
肥満(1度) | 30.00以上、35.00未満 | 肥満(30.00以上) |
肥満(2度) | 35.00以上、40.00未満 | |
肥満(3度) | 40.00以上 |
状態 | BMIの指標 | |
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低体重(痩せ) | 18.50未満 | 低体重 |
普通体重 | 18.50以上、25.00未満 | 標準 |
肥満(1度) | 25.00以上、30.00未満 | 肥満 |
肥満(2度) | 30.00以上、35.00未満 | |
肥満(3度) | 35.00以上、40.00未満 | 高度肥満 |
肥満(4度) | 40.00以上 |
乳幼児では BMIはカウプ指数と呼ばれ、18.0 以上が肥満傾向とされる。学童では、ローレル指数 (= 10 × kg/m3) が 160以上で「肥満」と見なされる。これらは身長と体重から単純に計算された値であり(成人の正常体重では BMIは「22」とされている)、大体の目安にはなるが、これだけでは筋肉質なのか脂肪過多なのかが分からない。BMIは標準体型の人には当てはまるが、骨太の人、足長な人、骨細の人、筋肉の量が多い人には間違った判定が出る欠点がある。このため、肥満と診断する際は下のような定義と併用することがある。
適正な体脂肪率は、男性では15%から19%、女性では20%から25%とされ、これを上回ると「肥満」と見なされる。正確な測定には困難を伴うため、その値の扱いを巡っての一定の見解は得られてはいない。筋肉質なのか脂肪過多なのかどうかを判断するには精密な機械を用いる必要があり、その際にはCTやMRIで体脂肪面積を測定し、体脂肪率を推定するのが最も正確と言われる。
通常は医師が腹囲を見て診断するが、その診断基準は統一されてはいない。2007年6月、アメリカ糖尿病協会・アメリカ栄養学会・北米肥満学会は共同声明を発表し、「現時点では、腹囲の基準値はすべて、科学的根拠が不十分であり、今後確立される科学的基準値は人種別、性別、年齢別、肥満度別の非常に複雑なものになるであろう」と指摘した。
また、肥満細胞の肥大化によるインスリン抵抗性の発現は高インスリン血症(Hyperinsulinemia)の原因となる。これは尿細管に直接作用してナトリウムの貯留につながり、水分の貯留により血圧が上昇する。
親のいずれか、もしくは両親とも肥満であることが多く、身長が暦年齢相当で、精神運動発達は正常、奇形は見られない。食生活が最も影響する。
シンシナティ小児病院医療センター(Cincinnati Children's Hospital Medical Center)で行われた研究では、「肥満の女の子は思春期初来が早く、胸が大きくなり始める(乳房の発達が始まる)のが早い」という。これは男の子でも同様であり、「肥満の男児は第二次性徴が早く発現する」。脂肪沈着は、皮下脂肪から内臓脂肪へ、さらには脂肪以外の臓器(異所性脂肪)へと進行し、それに伴って以下の合併症の頻度が大きくなる。
関連の強さ | リスクを下げるもの(部位) | リスクを上げるもの(部位) |
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確実 | 身体活動(結腸) | 過体重と肥満(食道<腺がん>、結腸、直腸、乳房<閉経後>、子宮体部、腎臓)、(略) |
可能性大 | 身体活動(乳房)、(略) | (略) |
肥満による代謝異常や内分泌疾患を「症候性肥満」「二次性肥満」と呼ぶ。
国立がん研究センターによる16万人の男性に対する平均11年間の追跡調査によれば、全死因でもっとも死亡率が少なかったのは、BMI値が25 - 26.9とされたグループであったという。このグループは「肥満」に該当する。
アメリカ疾病管理予防センターが様々な人種の約288万人を対象に行った研究結果によれば、「BMI値が『18.5 - 25未満の標準体重グループ』と『25 - 30未満の過体重グループ』では、過体重グループの方が死亡リスクが6%も低い」という。
脂肪細胞は、細胞質内に脂肪滴を有する細胞のことである。前駆脂肪細胞が、脂肪細胞への脂肪酸輸送を促進する転写因子であるPPARγ等の因子によって刺激されて成熟脂肪細胞(正常脂肪細胞)となる。カイロミクロンやVLDLの中性脂肪をリポタンパクリパーゼによって分解し、脂肪酸を脂肪細胞へ運ぶことによって脂肪細胞が成熟する。また、グルコースが脂肪細胞へ取り込まれると脂肪酸が合成される。通常の脂肪細胞は、インスリン受容体を介さずにグルコースの取り込みを促進し、さらに、インスリン受容体の感受性を良くするアディポネクチンを分泌する。高カロリー摂取や運動不足などによって脂肪細胞は次第に肥大化していき、肥大化脂肪細胞となる。脂肪細胞の大きさが上限に達し、これ以上脂肪を溜め込めない状態になると、周囲の前駆脂肪細胞がPPARγなどによって刺激されて成熟脂肪細胞となり順次肥大化していく。また、脂肪細胞も細胞分裂し、脂肪細胞の数も増加する。この巨視的な状態が肥満である。
白色脂肪細胞はヒトにおいて250-300億個あり、直径は成熟脂肪細胞において70-90μmであり、肥大化脂肪細胞は130-140μmまで大きくなる。
脂肪細胞が肥大化すると、インスリン抵抗性を惹起する種々の物質(TNFα、脂肪酸、レジスチン)、肥満中枢を刺激して食欲を抑制するレプチン、インスリン受容体の感受性を良くするアディポネクチンの分泌低下、血液凝固を促進する物質(en:plasminogen activator を阻害して血液凝固の溶解を阻害する物質)、単球やリンパ球の遊走を引き起こす単球走化性タンパク質(monocyte chemoattractant protein)、昇圧作用を持つ生理活性物質アンジオテンシンIIの原料となるアンジオテンシノーゲンなどが分泌される。
脂肪細胞が肥大化すると、次のことが起こる。
また、肥満細胞の肥大化(=肥満)によるインスリン抵抗性の発現は高インスリン血症をきたす。高インスリン血症は、腎尿細管へ直接作用してナトリウム貯留を引き起こし、これが水分を貯留し結果として血糖値を下げる作用につながるが、水分の貯留により高血圧を発症させることとなる。
脂肪細胞が肥大化すると、特に内臓に存在する脂肪細胞から遊離脂肪酸が遊離される。この脂肪酸の一部が骨格筋や肝細胞に運ばれ、骨格筋内へ運ばれた脂肪酸はタンパク質分子をリン酸化する酵素であるプロテインキナーゼCを活性化し、更にNF-κBに関連したIκBαのセリン残基をリン酸化する酵素複合体であるIκB kinase (IKK)が活性化されて、インスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化する。この経路によってIRS1タンパクがリン酸化されると、正常なリン酸化過程が阻害され、結果的にIRS1以降のシグナルが伝達されず、インスリン依存のグルコーストランスポーターであるGLUT4を膜に移送できなくなる。GLUT4が機能しにくくなると、インスリンによりグルコースが細胞に取り込まれにくくなる。この状態がインスリン抵抗性となる。
もう1つのメカニズムとして、脂肪細胞から単球走化性タンパク質であるMCP-1が遊離され、MCP-1は単球を引き寄せ、細胞外に出た単球は活性化されてマクロファージとなる。このマクロファージは脂肪細胞の周囲に集積し、ここから腫瘍壊死因子として知られるTNFαを分泌する。TNFαが受容体に結合するとセリン・スレオニンキナーゼであるJNK(c-Jun amino-terminal kinase)がインスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化する。この経路でも上記メカニズムと同様にインスリン抵抗性となる。また、TNFαは、GLUT4の発現を抑制する作用もある。TNFαのこれらの作用は著明なインスリン抵抗性を示す。
さらに加えて、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンは、TNFαや遊離脂肪酸と異なり、インスリン受容体の感受性を上げるが、脂肪細胞の肥大化によりアディポネクチンの分泌が低下し、結果としてインスリン抵抗性を示す。
日本肥満学会による診療ガイドラインでは、次のものが肥満症の要因として挙げられている。
肥満への対処として、食事と運動など生活習慣の改善を行う行動療法(食餌療法、運動療法)が有効である。
既に肥満症となっている人の治療では食餌療法が基本であり、肥満の予防には運動が有効であると日本肥満学会は推奨する。
世界保健機関(WHO)は、肥満問題に対する戦略として以下を挙げている。
2003年、世界保健機関は、肥満について、「高カロリー食品、動物性脂肪、ファストフード、砂糖を含んだジュースの過剰摂取が原因である」と発表した。
2014年、世界保健機関は、肥満と口腔の健康に関する体系的批評を元に、砂糖の摂取量をこれまでの1日あたり10%以下を目標とすることに加え、5%以下ではさらなる利点があるという砂糖のガイドラインのドラフトを公開した。具体的には、砂糖の摂取量は「1日にティースプーン6杯分以内(約25グラム)に抑えること」としている。
日本動脈硬化学会、日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本老年医学会は肥満の治療における運動療法として中強度の有酸素運動(ただし慣れるまでは強度を上げすぎないこと)を推奨する。この他、レジスタンス運動も推奨されることがある。
運動療法は食事療法と組み合せて行われる。世界保健機関(WHO)は肥満の原因として、不健康な食生活に加え、身体運動の欠如 ("physical inactivity")を挙げる。
肥満の治療方法としては、食事療法と運動療法の2つであると言われる。 短期的には減量できるが、減量した体重を維持するのはなかなか難しく、運動と減食を続けるように、と要求されることが多い。生活習慣の改善を伴った長期的な減量成功率は、「2 - 20%」とされている。食生活の改善は、妊娠期における体重増加を食い止め、母子の健康を改善する。
肥満症においては食事療法が基本であり、摂取エネルギー量を制限することが最も有効で確立された方法である。
日本肥満学会の診療ガイドラインでは、一般的にエネルギー算出栄養素の比率は炭水化物50~65%、タンパク質13~20%、脂肪20~30%とし、必須アミノ酸を含むタンパク質、ビタミン、ミネラルの十分な摂取を欠かさないようにするとしている。 BMI25以上の肥満症の改善においては1日あたりの摂取エネルギー量を25kcal/kg×目標体重kg以下に設定する。ただし、一律に目標体重に基づいた摂取エネルギー量の遵守を求めることが現実的でない場合もあり、対象者のエネルギー摂取状況や状況に合わせて個々に選択するものとしている:53-56。
総エネルギー摂取量が同じであれば、炭水化物(アルコール含む)・タンパク質・脂質それぞれの摂取量を変えても減量効果は有意に異なるものではないというメタ・アナリシスが多い。つまり、例えば炭水化物の摂取を削減したとしても、同量のエネルギーをタンパク質および脂質から摂取した場合は減量効果は期待できない:155。
運動は肥満症に関連する死亡リスクや心血管疾患発症・重症化リスクを低減させる。また、肥満の予防に有用であり、減量体重の維持にも有用である。一方で、肥満症の者に実施可能な運動量では減量については効果が期待できない。 運動量がガイドライン推奨レベルに達していなくても心血管疾患発症・重症化リスクを低減させるため、減量効果がなかったとしても少しでも身体活動・運動量を増やすことが推奨されている:58-63。
歩行や呼吸が困難になるほどの重篤な肥満は「病的肥満」と呼ばれ、手術を要する場合もある。
世界的には、男性の24%と女性の27%が肥満であるという。一般的に、アジア諸国に比べてアメリカ合衆国および欧州各国のほうが肥満の人々の割合が高いとされる。
2021年6月、世界保健機関は以下のように発表した。
アメリカ合衆国では、BMIが「30」以上で「肥満」と見なされている。2002年に取られたデータによれば、BMIが25以上の国民は65.7%で、BMIが30以上の子供は16%以上に達するという。同国では、ジャンクフードの販売について、子供の健康や食の嗜好を守るために自主規制する方向に向かっている。公的な医療保険制度が整っていないことも手伝い、経済上の理由による医療保険未加入者が約4700万人いると言われており、低所得者層ほど栄養価の高いものは食べられず、肥満や病気を患いやすくなっている。アメリカ国民の30%以上は肥満であり、単純性肥満は全肥満のうちの約90%を占めるとされる。
アメリカ医学研究所(のちの『全米医学アカデミー』, National Academy of Medicine)は、「カロリーが高く、栄養価に乏しい食品のコマーシャルが子供の肥満に関わっている」としており、自主規制ないし政府の介入を求めた。
シカゴ大学(The University of Chicago)は、「18歳未満をターゲットにした食べ物のコマーシャルに使われている商品の90%以上が栄養価に乏しいものばかりであり、食の嗜好に影響を与える」と報告した。
公立学校において、肥満対策として「糖分の多い飲料や脂肪を除去していない牛乳の販売はしないように」との合意ができた。この合意は「任意」であるという。
マクドナルドやペプシコは、「12歳以下の子供にはジャンクフードの広告を見せない」との合意に至った。
1980年の時点ではメキシコの肥満率は7%であったが、2016年には20.3%に上昇した。同国では、年間80,000人が糖尿病で命を落としている。北米自由貿易協定が締結されたのち、アメリカのファーストフードレストランやコンビニが増えた。「メキシコ人の多くがソフトドリンクや加工食品を利用しやすくなった」「自由貿易協定に基づき、アメリカの企業による投資がメキシコ人の食生活の変化と肥満の増加を加速させた」と結論付けている学者もいる。
ルーマニアの研究機関によれば、ルーマニア国民の4人に1人が肥満であり、子供の肥満の場合、冷戦時代の2倍以上の8%に達するという。肥満の一歩手前の「太り気味」も含めると、5人に1人が生活習慣病のリスクを抱えているという。また、「所得の低い家庭ほど、ファストフードに頼る傾向がある」とされる。2010年1月、同国は「ジャンクフード税」の導入を発表した。ブルガリアでは、政府の方針に基づき、全国の学校の食堂や売店からスナック菓子や清涼飲料水を撤去した。
2010年の時点で、国民の74%が「太りすぎ」であり、国民の14%は糖尿病を患っており、その数は増加しつつあるという。8歳の子供が糖尿病にかかる事例も起こっている。政府は健康的な食品の販売や運動の奨励を行うことで対策に乗り出しているという。
2010年の時点での中国の肥満人口は3億2500万人であったが、2030年には倍増して6億5000万人に達する見通しだという。
日本における肥満率は先進国最小の低さであり、BMI指数は男女とも「普通体重」階級内に収まる。男子のほうが肥満傾向にある。
日本における肥満(BMI30以上)の頻度は3%とされているが、成人や小児を問わず、肥満は増加しているという。10歳から12歳では、男子の10%、女子の8 - 9%が肥満であり、その9割以上が単純性肥満であるという。健康増進法が制定されたことに伴い、肥満者には特定健診・特定保健指導が推進されている。
18歳人口のうち、肥満とされる人の比率を示す肥満率の国際比較では、南太平洋に点在する島嶼国家が上位を占める。世界保健機関が肥満率を集計した2014年のデータによれば、トップのクック諸島は50%を超え、上位10カ国に入るパラオ、ナウル、サモア、トンガ、ニウエ、マーシャル諸島、キリバス、ツバルは40%台であり、成人の半数近くが「肥満」と見なされている。
トンガの首相、アキリスィ・ポヒヴァ(Akilisi Pōhiva)は、近隣島嶼国家の首脳に対し、1年間の「ダイエット競争」を呼び掛けた。
ブラジルにおける女性の肥満率は、1975年には24%だったのが、2003年には38%に上昇した。バングラデシュにおいては、1996年では3%だったのが、2007年には12%に上昇した。ケニアにおいては、1993年には15%だったのが、2003年には26%に上昇した。
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