高血圧(こうけつあつ、英語: Hypertension、高血圧症)とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態のことを指す。高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症原因となるので臨床的には重大な状態である。
高血圧 | |
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動脈性高血圧を示している自動血圧計(収縮期血圧(最高血圧)158水銀柱ミリメートル (mmHg)、拡張期血圧(最低血圧)99mmHg、心拍数80bpmを表示している) | |
概要 | |
診療科 | 家庭医療, hypertensiology[*] |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | I10,I11,I12, I13,I15 |
ICD-9-CM | 401.x |
OMIM | 145500 |
DiseasesDB | 6330 |
MedlinePlus | 000468 |
eMedicine | med/1106 |
Patient UK | 高血圧 |
MeSH | D006973 |
生活習慣病のひとつとされ、厚生労働省(2013年度)は男女共に最も通院者率が高い疾患として公表している(2位は男性が糖尿病、女性が腰痛)。
アメリカ合衆国では1995年に、成人全体の24%には高血圧があり、そのうちの53%の人は降圧剤を服用していた。日本高血圧学会によると、日本には4000万人の高血圧の人がいると推定されている。肥満、脂質異常症、糖尿病との合併は死の四重奏、syndrome X、インスリン抵抗性症候群などと称されていたが、これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれる。
日本高血圧学会では高血圧の基準を以下のように定めている。
分類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
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正常血圧 | 120未満 | かつ | 80未満 |
正常高値血圧 | 120から129 | かつ | 80未満 |
高値血圧 | 130から139 | または | 80から89 |
I度(軽症)高血圧 | 140から159 | または | 90から99 |
II度(中等症)高血圧 | 160から179 | または | 100から109 |
III度(重症)高血圧 | 180以上 | または | 110以上 |
収縮期高血圧 | 140以上 | かつ | 90未満 |
すなわち、収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上に保たれた状態が高血圧であるとされている。しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で120mmHg未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされている。
ここでの注意点は、血圧が高い状態が持続することが問題となるのであり、運動時や緊張した場合などの一過性の高血圧についての言及ではないことである。高血圧の診断基準は数回の測定の平均値を対象としている。運動や精神的な興奮で一過性に血圧が上がるのは生理的な反応であり、これは高血圧の概念とは違うものである。
血圧は1日の中でも変動している。そのため、計測する時間帯には正常値の基準を満たしているものの、その他のほとんどの時間帯には高血圧となっている場合がある。これを仮面高血圧と呼ぶ。また降圧剤が処方されている場合でも、その効果が切れている時間帯では安全域を外れている場合もあり、この点にも留意する必要がある。逆に、普段は正常血圧状態ではあるが、診察室で医師が測定すると血圧が上昇して、高血圧と診断されてしまう場合もあり、白衣高血圧と呼ばれる。
糖尿病患者では起立性低血圧の症例が有るため、座位だけでなく臥位・立位でも測定する。
上腕の血圧測定結果で左右の血圧差が生じることがある。血圧差は、上腕動脈或いは鎖骨下動脈の病変に起因すると考えられ、差が10mmHg以上の患者は心血管疾患による死亡リスクが有意に高い。また、家庭で測定を行う場合は高い側の腕で測定を行うことが推奨されている。
などとしている。
収縮期血圧の目標値は数回にわたり引き下げの変更が行われている。
大櫛ら(2008) によれば、血圧と死亡率を年令の関連をグラフにすると、120/80mmHg未満での死亡率が有意に低くなり、一見すると「血圧は低ければ低いほどよい」ように見えるが、年令別にみると男女共に年令に関係なく160/100mmHg未満までは循環器系疾患死亡率が上昇しない。一方、180/110mmHg以上の人を160/100mmHgと強く下げた場合に死亡率が上昇する傾向がある。また、高血圧症治療(降圧薬服用)は全ての世代でリスク要因であった。さらに、「基準値を年齢別・性別に設定すべきである」「160/100mmHg 以下では健康リスクとならない」「薬物治療は180/110mmHg以上を限定とし降圧は20mmHgまでとする」などの指摘を行っている。
血圧以外のリスク要因を加味し下記のように層別化される。
分類 | 高値血圧 130-139/80-89 | I度高血圧 140-159/90-99 | II度高血圧 160-179/100-109 | III度高血圧 ≧180/≧110 |
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リスク第一層 (予後影響因子なし) | 低リスク | 低リスク | 中等リスク | 高リスク |
リスク第二層 (年齢65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある) | 中等リスク | 中等リスク | 高リスク | 高リスク |
リスク第三層 (CeVD既往、非弁膜症性af、糖尿病、蛋白尿のあるCKDのいずれか、 または第二層の危険因子が3つ以上ある) | 高リスク | 高リスク | 高リスク | 高リスク |
※CeVD:脳血管疾患、af:心房細動、CKD:慢性腎臓病
現在、原因が特定できている場合とそうでない場合で大きく二分類して、原疾患が不明な「本態性高血圧症」と、特定の原因が明らかになっている「二次性高血圧」に分類するということが行われている。
現在の医学では、「本態性高血圧症」の割合がかなり多い。つまり現在の医学のレベルでは高血圧に関しては原因があまりよく判っていない場合のほうが多いということである。ただしこの二分類は、固定的に理解するのはあまり正しいとは言えず、医師が仕事を進めるうえでの便宜的なものだと理解したほうがよい。生物学的な原因と環境的な原因の両方が関与している可能性がある。
アメリカ心臓協会に発表された論文によれば、ラットによる動物実験で腸内細菌叢における腸内毒素症 (Dysbiosis) との関連を示したと報告された。アメリカ心臓協会は、抗生物質による高血圧治療を示した。
「二次性高血圧」(原因が特定されているもの)に関しては、いろいろな場合がある。
本態性高血圧の原因については、原因のよく判らないものを「本態性高血圧症」と呼ぶことにしているので、良く判っていないとされているが、「原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどのさまざまな環境因子によって修飾されて高血圧が発生する」という説(モザイク説)がある。
食塩感受性高血圧の病態については、諸説あるが、名古屋市立大学医学部の木村玄次郎の説では摂取したナトリウムを腎から排泄しきれず、夜間も腎臓でナトリウム排泄のため多くの血流を要するnon-dipper型高血圧(夜間高血圧)が良い説明モデルとなる。non-dipper型高血圧ではナトリウム排泄を促進する利尿剤を投与することでnon-dipper型がdipper型へと変化することが認められており、ナトリウム排泄が食塩感受性の有無を規定する因子のひとつと論じている。
脂肪細胞が肥大化すると、血圧に関連して次のことが起こる。
これらのことにより高血圧を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである。
肥満によるインスリン抵抗性は高インスリン血症をきたす。高インスリン血症は、腎尿細管へ直接作用してナトリウム貯留を引き起こし、これが水分を貯留し結果として血糖値を下げる作用につながるが、水分の貯留により高血圧を発症させることとなる。
この他、脳血管障害の急性期に著明な高血圧を来たすことが知られている。脳出血では応急的な降圧が必要だが、脳梗塞では寧ろ脳血流を保てなくなる恐れがあるため、降圧は行われない。
高血圧が持続すると強い圧力の血流が動脈の内膜にずり応力を加えると同時に血管内皮から血管収縮物質が分泌されることで、血管内皮が障害される。この修復過程で粥腫(アテローム)が形成され、動脈硬化の原因となる。慢性的疾患は大きく 「脳血管障害」、「心臓疾患」、「腎臓疾患」、「血管疾患」の4つに分類され、高血圧によって生じる動脈硬化の結果、以下のような合併症が発生する。
血圧は変動しやすいので、高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧測定値に基づいて行われるべきである。最近は家庭血圧計が普及しているが、家庭で自分自身で測定した血圧値の方が、診察室で医師や看護師によって測定した血圧値よりも将来の脳卒中や心筋梗塞の予測に有用であるとする疫学調査結果が相次いで報告されている。診察室での血圧測定では、白衣高血圧(医師による測定では本来の血圧より高くなる現象)や仮面高血圧(普段は高血圧なのに、診察室では正常血圧となる現象)が生じるため、必ずしも本来の血圧値を反映していないという考え方が普及している。家庭での正常血圧値は診察室での血圧値よりもやや低いために、家庭血圧では135/85mmHg以上を高血圧とする。家庭では朝食前に2回血圧を測定することが望ましい。心筋梗塞や脳卒中の発症は朝起床後に多発することから、早朝の高血圧管理が重要である。
脳卒中や心筋梗塞の発症には高血圧のみならず、喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満などの他の危険因子も関与するために、危険因子や合併症も考慮した高血圧の層別化によって将来の脳卒中、心筋梗塞の危険度の予測能が高まる。
動脈硬化の診断や、腎機能、血圧反射機能といった自律神経機能などの診断も病態の把握に重要であり、動脈硬化の定量診断には脈波伝播速度計測なども行われている。血圧反射機能診断のためには、血圧変化に対する心拍反応や、動脈の血圧反射機能を診断する方法論も提案されている。精密な病態の診断が最適な治療には不可欠である。
臨床的には心臓超音波検査(心エコー)において、心重量の増大や左室肥大が観察される。
高血圧治療ガイドラインに定められた期間の食事療法や運動療法を行い、それでも140/90mmHgを超えている場合は降圧薬による薬物治療を開始する。
減塩1g/日ごとに収縮期血圧が約1mmHg減少するとの報告があり、原因によらず、ほぼ全ての高血圧患者で塩分(塩化ナトリウム)摂取制限は必須である。2006年の米国心臓協会(AHA)の勧告による食塩換算値の理想的な摂取量は3.8g/日以下とされているが、日本では目標値として6g/日以下が用いられている。日本の国民栄養調査によれば、「塩分制限をしている」と答えた人は、平均1.6gの食塩を減らしているに過ぎず、日本では多くの高血圧患者が、6g/日未満の目標値を達成できていない。欧米の介入試験の成績をみると、少なくとも6.5g/日まで食塩摂取量を落とさなければ有意の降圧は達成できない。
食品の含有量が食塩(塩化ナトリウム:NaCl)でなくナトリウム (Na) の表示の場合は、2.5倍して塩化ナトリウムに換算する。健康ブームに乗って「この天然塩はミネラル豊富なため多く摂っても高血圧にならない」などの宣伝が散見されるが、このような文言をうのみにすることは危険である。上記メカニズムにより、問題は塩の質ではなくナトリウムの量である。また、炭酸水素ナトリウム(重曹)やグルタミン酸ナトリウム(アミノ酸など)もナトリウム源となる。調味料として塩分をほとんど摂取しないヤノマミ族には高血圧を発症するものはおらず、健康に生活している ことから、日常生活で醤油・味噌を用いる日本では調味料としての食塩の摂取下限はないと考えられている。摂取する食塩の多く(77%)は、加工食品やレストランの食事に含まれる食塩である。なお、高血圧患者において、減塩療法だけで血圧を正常化できるのは、全患者の30%から40%とする報告がある。科学的研究が一貫して明らかにしているのは、食塩摂取を適度に減らすと、全ての年齢集団や民族集団において、高血圧の人でも正常血圧の人でも、程度の差はあっても、血圧が低下することである。
多数の人口を対象にした大規模な研究により判明しているのは、生活習慣の改善を行って、わずかな降圧しか達成されなかった場合でも、長い経過の中では、心血管系の病気のリスクを減らしていることである。英国の CASH(食塩と健康に関する合意形成運動)は、摂取食塩を1日に1gずつ減らすことができれば、英国全体では脳卒中と心筋梗塞を1年に1万3000件減らすことができると推定している。また、ある研究者は、米国において1日に3gの食塩を減らすことができれば、脳卒中を年に3万2000件〜6万6000件、心筋梗塞を年に5万4000件〜9万9000件減らすことができると推定してる。
減塩には、あらゆる関係者の努力が必要である。とくに、消費者自身が意図的に食塩を減らすこと、食品産業が加工食品中の食塩を減らすこと、一般向けに減塩のキャンペーンを行うことが重要である。フィンランド、英国、米国では、食品産業の協力を得て、減塩プログラムを実施し、意図的に食塩を減らすことに成功している。例えば英国では、最近、食品中の食塩を20%〜30%減らすことに成功した。減塩は、欧米諸国の政府の重要な政策課題となっており、最近の日本における減塩の取り組みは、国際的に見て相当に遅れている。
摂取食塩量の推定には、食べた食事から計算する方法、24時間の蓄尿を検査する方法、随時尿のクレアチニン値から推定する方法 がある。
血圧上昇を抑制する作用があり、早朝スポット尿検査からもカリウム摂取は重要と考えられている。カリウム摂取量が多い成人ほど収縮期および拡張期血圧が有意に低く、脳卒中リスクも低いことが報告されている。2012年WHO は、カリウム摂取のガイドラインを初めて発表し、推奨摂取量を90mmol/日(3519mg)以上とした。(カリウム 1mmol = 39.1mg)
腎臓に障害がなくカリウムを摂取しても問題がなければ、カリウムを豊富に含む野菜や果物や豆の摂取を増やすことによる降圧が期待できる。
マグネシウム、カルシウムにも、カリウムと同様の作用がある。
酒の摂取では一時的な血管拡張により降圧するが、飲酒習慣は血圧を上昇させることはよく知られている。毎日の飲酒習慣は 10歳の加齢に相当する血圧値を示す。降圧効果は1 - 2週間以内に現れる。大量飲酒者は急に飲酒の制限を行うと血圧上昇をすことがあるが、飲酒制限の継続により数日後から血圧は下がる。
エタノール換算量は、男性が20 - 30ml/日(日本酒換算1合前後)、女性が10 - 20ml/日、これ以下にするべきである。
米国政府は、高血圧を治療する食事療法としてダッシュダイエットを勧めている。野菜、果物、低脂肪乳を多く摂って、砂糖を減らすダイエットである。ある研究者が、降圧の効果を、減塩、運動、減量、節酒、ダッシュダイエット、で比較したところ、降圧が最も大きかったのは、ダッシュダイエットであった。米国心臓病協会AHAもダッシュダイエットを推奨している。
疫学研究から寒冷が血圧を上げることが示され、季節では冬季に血圧が高い。高血圧患者では冬季の寒冷刺激を緩和するために、トイレや浴室などの暖房も望まれる。入浴は熱すぎる風呂、冷水浴、サウナは避けるべきである。便秘に伴う排便時のいきみは、血圧を上昇させるので避ける。
夕食後から就寝までの時間が2時間未満の集団と、3 - 4時間空けた集団のロジスティック回帰分析を行った結果、3〜4時間空けると高血圧の予防につながる可能性が示唆された。
運動により拡張期血圧4-8mmHgの降圧が認められている。
有酸素運動が推奨されてきたが、木津直昭、稲島司らは、歩行速度との関連が指摘され速く歩くことが効果的と主張している。
喫煙など動脈硬化を促進する生活習慣も断つ必要がある。喫煙はβ遮断薬の降圧効果を減じる作用がある。
近年は大規模臨床試験がいくつも出そろい、高血圧治療指針(ガイドライン)では科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。
日本では依然として主治医の裁量ではある。
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