『ストップ!! ひばりくん!』は、江口寿史による漫画作品。『週刊少年ジャンプ』(WJ、集英社)誌上において1981年(昭和56年)45号から 1983年(昭和58年)51号まで多くの休載を挟みながら連載され、長期の中断を経て27年越しで完結した。1983年には東映動画によりアニメ化もされた江口の代表作の一つである。
ストップ!! ひばりくん! | |||
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ジャンル | ラブコメディ、少年漫画、ギャグ漫画 | ||
漫画 | |||
作者 | 江口寿史 | ||
出版社 | 集英社 | ||
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掲載誌 | 週刊少年ジャンプ | ||
レーベル | ジャンプ・コミックス(JC) 双葉文庫(FB) ホーム社漫画文庫(HMB) 集英社ジャンプリミックス(SJR) | ||
発表期間 | 1981年45号 - 1983年51号 | ||
巻数 | 4巻(JC・SJR) 3巻(完全版) 2巻(FB・HMB) | ||
アニメ | |||
シリーズディレクター | 久岡敬史 | ||
キャラクターデザイン | 兼森義則 | ||
音楽 | 西村耕次 | ||
アニメーション制作 | 東映動画 | ||
製作 | フジテレビ、東映 | ||
放送局 | フジテレビほか | ||
放送期間 | 1983年5月20日 - 1984年1月27日 | ||
話数 | 全35話 | ||
テンプレート - ノート |
母との死別をきっかけとしてヤクザの大空組に世話になる事となった高校生・坂本耕作と、事実を知らなければ美少女としか見えない大空組の長男・大空ひばりを中心とした日常生活を描いたラブコメディである。
江口の意図は、ヒロインを「女装した男の子」にする事によってギャグとし、ちゃかす事によって、当時少年誌で全盛を誇っていたラブコメのアンチテーゼとなりうるギャグ漫画を制作することにあった。
本作は『ひのまる劇場』の次に当たる江口3作目となる連載作品である。
江口が『ひのまる劇場』を連載際していた当時は、少年誌でラブコメディが流行していた。江口は元々あだち充や柳沢きみおの作品を好いていたものの、これらの作品の二番煎じといえるほど程度が低い作品が連載されていることに不満を抱いていた。そこで、江口は「惚れた美少女が実は男で、主人公が困ってしまう」という漫画を描こうと考え、ヒロインをかわいく描けば描くほど周囲がパニックに陥り、物語が動くだろうと見込む。女装への認知度は低かった当時であったが、連載開始にあたり障害となったものはなかった。主人公の名前だけは変えてくれと言われ、「美空ひばり」であったものが「大空ひばり」になったという。タイトルは関谷ひさしの『ストップ!にいちゃん』に由来する。また、連載当時江口は『イラストレーション』という雑誌を読んでいたが、イラストの手法は躍動感のあるギャグ漫画には不向きだったため、扉絵で同誌から学んだ手法などを試していた。ひばりの容姿服装についてはファッション誌『エムシーシスター』を参考にしていた。
当初はオカマキャラを前面に出したギャグ漫画として考えていたが、ひばりくんを可愛く描けば描く程ギャグとなる事に気付き、出来る限りの可愛さでひばりくんを描くようになる。その反面、可愛く描きすぎたことによって、「ひばりくん」というキャラクターが超人的存在として一人歩きを始め、情けない行動を取らせられなくなり行き詰まるようになる。また可愛く描く事を含めた絵へのこだわりがアシスタントの使用を困難にして原稿の完成が遅れ、1話を1週間で完成させる事ができなくなっていった。江口は隔週での連載を希望するが、西村繁男が編集長を務める当時の編集部には受け入れられず、その結果、落稿や休載が目立つようになっていく。このことは劇中にも表れており、序盤で唐突に本編とは何の関係も無い話を描いてページを埋めていた。
ジャンプ・コミックス版の最後に収録された「メイキング・オブ・ひばりくん!」では、終始一貫して江口が締切を守れない言い訳ともとれる内容 が描かれており、最後には製作現場が崩壊した挙句、お粗末な原稿の仕上がりを詫びる担当と怒り心頭の編集長の傍らで「いきのいいネタを探しに千葉の勝浦に行く」と江口が逃げ出している。実際に、江口が連載を投げ出し、締め切り日に逃亡した事から、編集部も打ち切りという形で連載終了を決定した。本作は江口が『WJ』で連載した最後の作品となっている(2020年時点)。
2020年7月放送の『漫道コバヤシ』に出演した際にも、本人の口から当時の経緯の一部が語られた。毎週締め切りに追われ、遂には翌日まで5ページを仕上げなければ間に合わない状況に追い込まれた。到底無理と判断した本人は仕事場から逃走し、締め切り時間が過ぎるまでホテルに潜伏してやり過ごした。翌日「もう終ったな」と覚悟の上で自宅に戻ると、西村編集長自らの電話があり「おう、出てこいや」と編集部への出頭を要求。そして会議室で話し合いが持たれた。本人は改めて週刊連載の限界を訴え、隔週もしくは月刊連載への変更を要望する。同時期にTVアニメも放送中のデリケートな時期であったが、厳格で知られる西村編集長はそれを許さず「うちでは面倒見きれないので、それなら余所でやってくれ」と突き放し、連載打ち切りの降板が決まった。
また、2021年7月の朝日新聞とのインタビューの中でも、同様の経緯が語られており、その際、最終回となった原稿はネームができていたものの、締め切りまで約1日しかなかったことが明かされた。
1983年以来、本作は未完のままの状態であり、連載末期の分も長らく単行本未収録の状態(後記)が続いていた。本作は江口が連載を放棄してそのまま未完となった最初の作品とみなされていた。2005年、『SIGHT』 Vol.23に「2005年のひばりくん」が掲載された。2007年のインタビューで、江口は他の作品の続編への意欲を示したが、本作の続編執筆に関しては「ひばりくんは難しいけど」と否定的な発言をした。 2007年、『週刊少年ジャンプ』時代の江口作品をまとめた総集編『江口寿史 JUMP WORKS』の第1巻、『江口寿史 JUMP WORKS 1 ストップ!! ひばりくん!』の表紙用に新たにひばりが描き下ろされた。
再開を望む読者の声は多く、江口は彼らに向けて何らかの意思表示をする必要を感じていた。2009年より、加筆修正と再編集を加えた『ストップ!! ひばりくん! コンプリート・エディション』が刊行を開始、表紙を江口が描き下ろした。そして、2010年2月27日に発売された『コンプリート・エディション』最終巻(第3巻)では、ラスト5ページが加筆された最終話の完全版が収録された。これにより未完であった本作が27年越しで完結した。ただしこれは未完部分だったオチを完全にしたものであって、物語全体が完走した訳ではなかった。
完結を受けて「男の娘」専門誌『おと☆娘』に江口のインタビュー記事が掲載された。江口は続編について問われ、「続編を描くとしたら、突っ込んで描かないといけない感じがするんですよね」としつつ、次のようなアイデアを語っている。
19歳くらいの大学生になるのかなあ。お父さんが死んだシーン、遺影から始まるのかな、と思っているんです。心臓発作がたびたび起こっていたんで。
多分、耕作くんが主人公で、ひばりくんと一緒に住んでいるかもしれない。自然な流れとして、つぐみさんがサブさんと一緒になって、サブさんが大空組の跡目を継いで……。〔……〕
それから、今度は耕作くんの気持ちのほうが焦点になってきて、“ほんとに男同士でも愛し合えるのか?”と。愛し合えると僕は思うんですけれど、そんなふうにしていくと面白い感じがするんです。 — 江口寿史
江口としては本編の続きをそのまま描くつもりはなく、描くにしても『ストップ!! ひばりくん!』というタイトルではないとしている。後年『漫道コバヤシ』に出演した際も、「あくまで本作はギャグコメディであり、坂本耕作と大空ひばりの結末は当初から全く考えていない。ストップ!! ひばりくん!の世界観で二人を描けるのは高校卒業まで。それ以降を描くとしたら別の物語(設定)になるだろうな」と語っている。
母を亡くし天涯孤独の身となった少年耕作は、遺言に従い、母の古い友人・大空いばりの家に身を寄せる事になる。しかし事もあろうに大空家は「関東極道連盟・関東大空組」、つまり弱小団体とはいえ暴力団であり、いばりはその組長だった。
身の危険を感じて逃げようとする耕作の前にとびきりの美少女が現れ、にっこりと微笑みかける。彼女に一目惚れしてしまった耕作は大空家で生活する決心をしたが、それが運の尽きだった。つばめ・つぐみ・すずめと美人ぞろいの大空家の姉妹の中で、耕作が最初に会った一番の美少女・ひばりは実は男だった。
ひばりは学校では女で通しており、ごく一部の者以外はその秘密を知らない。その上ひばりは耕作を好きになったそぶりを見せ、積極的にアタックしてくる。ひばりの引き起こす騒動に巻き込まれて耕作の気の休まる暇もない日々が続く。
ひばりの秘密に気づいた高円寺さゆりが口外しない代償として、耕作に自分とデートするよう要求した結果、他の者に目撃され、翌日学校で噂になるところでストーリーは一旦終わっている。
1983年5月20日から1984年1月27日まで、フジテレビで金曜日19:00 - 19:30枠に於いて放送された。全35話。元々原作のストックが少なかった為、すぐに原作のエピソードを使い切ってしまい、後半は他の江口作品のストーリーを転用したり、アニメ側のスタッフが作ったオリジナルストーリーを制作している。また原作よりもラブコメテイストが強めに描かれている。2003年、全話収録のDVDボックスセットが発売された。なお、アニメ内で描かれる電柱には練馬区(東映動画の所在地)の住所表示がある。
上記2曲を収録したEPレコードは、キャニオン・レコード(現在のポニーキャニオン)から発売された。2曲とも後にCD化されている。オープニングテーマは大杉久美子によるカヴァーバージョンが存在する。なお、「コンガラ・コネクション」のギターは、当時まだ無名だった布袋寅泰がスタジオ・ミュージシャンとして演奏している。
話数 | 初回放送日 | サブタイトル | 脚本 | (絵コンテ) 演出 | 作画監督 | 美術 |
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1 | 1983年 5月20日 | 彼女!?はアイドル! | 柳川茂 | (今沢哲男) 久岡敬史 | 伊東誠 | 椋尾篁 |
2 | 5月27日 | 特訓!スパルタの辰 | 浅野佑美 | (笹川ひろし) 池田裕之 | 兼森義則 | 窪田忠雄 |
3 | 6月3日 | ばれた!?みられた!? | 土屋斗紀雄 | 川尻善昭 | 富沢和雄 | 椋尾篁 |
4 | 6月10日 | リングサイドの恋 | 戸田博史 | 石黒育 | 松本清 | 窪田忠雄 |
5 | 6月17日 | 失恋は夏ミカンの味? | 柳川茂 | 山吉康夫 | 河村信道 | |
6 | 6月24日 | ああ!!ロミオとジュリエット | 筒井ともみ | (笹川ひろし) 高山秀樹 | 八島善孝 | |
7 | 7月1日 | 吹けよ風!小辰の逆襲!! | 浅野佑美 | 今沢哲男 | 香西隆男 | 鹿野良行 |
8 | 7月8日 | 身代わりデート作戦 | 戸田博史 | 池田裕之 | ||
9 | 7月15日 | すずめのボーイフレンド | 柳川茂 | 高山秀樹 | 梅津泰臣 | 窪田忠雄 |
10 | 7月22日 | 愛のレッスンA・B・C | 首藤剛志 | 石黒育 | 松本清 | 鹿野良行 |
11 | 7月29日 | 海辺のパニック! | 土屋斗紀雄 | 山吉康夫 | 河村信道 | 窪田忠雄 |
12 | 8月5日 | 青春はきもだめし! | 浅野佑美 | 高山秀樹 | 横山健次 | 鹿野良行 |
13 | 8月12日 | ひばり大勝負入ります!! | 戸田博史 | 今沢哲男 | 香西隆男 | 河野尋美 |
14 | 8月19日 | ドキ!ドキ!三角関係 | 柳川茂 | 久岡敬史 | 兼森義則 | 窪田忠雄 |
15 | 8月26日 | 政二さんの熱い一日 | 土屋斗紀雄 | 池田裕之 | 梅津泰臣 | 鹿野良行 |
16 | 9月2日 | つぐみのセカンドラブ! | 戸田博史 | 今沢哲男 | 香西隆男 | 窪田忠雄 |
17 | 9月9日 | ㊙父さんのロマンアルバム! | 筒井ともみ | (福島和美) 久岡敬史 | 伊東誠 | 鹿野良行 |
18 | 9月16日 | いちゃついて!ラブラブラブ | 柳川茂 | 山吉康夫 | 河村信道 | 伊藤豊 |
19 | 9月23日 | 探せ!マフィアの花嫁 | 戸田博史 | (笹川ひろし) 新田義方 | 西城隆詞 | 鹿野良行 |
20 | 10月7日 | おひかえなすって!家庭訪問 | 土屋斗紀雄 | 久岡敬史 | 兼森義則 | 伊藤豊 |
21 | 10月14日 | 女子プロレス!理絵VSひばり | 柳川茂 | 池田裕之 | 今沢恵子 | 鹿野良行 |
22 | 10月21日 | うるわし!学園タカラヅカ | 戸田博史 | (笹川ひろし) 新田義方 | 西城隆詞 | 窪田忠雄 |
23 | 10月28日 | 本日開店!くりから探偵物語 | 柳川茂 | 笠井由勝 | 伊東誠 | 鹿野良行 |
24 | 11月4日 | 恐ろしか!!南の島の怪奇事件 | 戸田博史 | 山吉康夫 | 河村信道 | 伊藤豊 |
25 | 11月11日 | ヤシの木陰で恋じゃらホイ!! | 久岡敬史 | 兼森義則 | 鹿野良行 | |
26 | 11月18日 | お祭りこわい!野球もこわい!! | 土屋斗紀雄 | 新田義方 | 西城隆詞 | 伊藤豊 |
27 | 11月25日 | いばりの純愛一曲線!? | 柳川茂 | 池田裕之 | 今沢恵子 | 鹿野良行 |
28 | 12月2日 | 悪い子団がやってきた! | 戸田博史 | 江幡宏之 | 水村十司 | 窪田忠雄 |
29 | 12月9日 | ひろ子そっくり!恋の爆弾娘!! | 新田義方 | 西城隆詞 | 鹿野良行 | |
30 | 12月16日 | 怪盗マウスキッドに御用心!! | 柳川茂 | 山吉康夫 | 河村信道 | 伊藤豊 |
31 | 12月23日 | みんな呼んでメリー誕生日!! | 久岡敬史 | 兼森義則 | 鹿野良行 | |
32 | 1984年 1月6日 | おとぎSF!?枕の源氏ひばり絵巻 | 戸田博史 | 池田裕之 | 今沢恵子 | 窪田忠雄 |
33 | 1月13日 | 大混線!!ひばりが耕作・耕作がひばり | 新田義方 | 西城隆詞 | 鹿野良行 | |
34 | 1月20日 | ゴッホン!昭和の沖田くん!! | 柳川茂 | 久岡敬史 | 兼森義則 | 峰村るみ子 |
35 | 1月27日 | 超人ひばり?!時をかける!! | 土屋斗紀雄 | 山吉康夫 | 河村信道 | 鹿野良行 |
キー局・制作局であるフジテレビではローカルセールス枠で放送されたことから、フジテレビ系列の基幹局でもテレビ西日本 など放送されなかった局や、東海テレビ、関西テレビ 等時差ネットした局があった。また、テレビ新広島 では本放送終了後の1984年7月より放送が開始されたが、小学校・中学校の夏休み期間中の特別編成による集中放送であった。
テレビ新広島を除く放送日時は個別に出典が掲示されているものを除き、1983年9月中旬 - 10月上旬時点のものとする。
この節の加筆が望まれています。 |
テレビアニメの放映当時、家庭用ビデオデッキはまだそれほど普及しておらず、家庭内には厳しいチャンネル争いがあるのが一般であった。本作テレビアニメの裏番組には『ドラえもん』があり、1983年10月からは『銀河漂流バイファム』の放送が開始され、関東地方などでは同じ時間帯に『ひばりくん』『ドラえもん』『バイファム』が並ぶ状況となった。ライターの早川清一朗は、当時の状況を振り返って、「時代の最先端を行くジェンダー論を取り込んだアニメと『ドラえもん』。果たして子を持つ親はどちらを見せたがるかと言えば、それは『ドラえもん』になってしまいます。」と述べている。『ドラえもん』のために本作テレビアニメは視聴者獲得で苦戦することになった。
精神科医の斎藤環は、本作は「女性的な外見と男性的な内面を対比させることで」大空ひばりとの「目まぐるしい日常」を実現しているものであるとし、異性装のキャラクターたちによる「服装倒錯の連続」として捉えることができると解説している。マンガ評論家の中野晴行は、大空ひばりが(本当は)少年であり、かつヤクザの跡取りでもあるという複合した設定が、本作をユニークで傑出したギャグマンガにしていると評し、この成功はまた、少女たちを単にかわいく描くだけでなく、いい味を持たせ、色気も醸し出せる江口の能力によるところが大きいとしている。(一般に)ひばりの繊細な描き方は、ギャグマンガであることを読者が忘れてしまうほど魅力的だとされている。ライターの島田一志は、80年代の空気感を見事に切り取りつつ、年月を経ても古びない時代を超越したクールな絵と評している。
雑誌『Cyzo』に寄稿した漫画評論家のJyamaoは、本作ではその全体的に軽快・ポップな文体のために、わいせつまたは不道徳な女装が生じておらず、テレビアニメがゴールデンタイムに放映できたのもそのためであろうと推測している。Jyamaoは、女装を伴うギャグと比べ、ヤクザの組員を取り巻くギャグは性質が極端であると指摘し、今日では薬物ネタを含む一部のギャグはユーモアとは受け取られないだろうと述べている。マンガ解説者の南信長は、高いファッションセンスを持つキャラクターを描いたパイオニアとして、本作の江口を賞賛している。南は、本作が少年漫画のファッションを「シンボル」から「アクセサリー」へと事実上変化させたと評している。江口の細部へのこだわりも賞賛しており、例えばある回で耕作がチャック・テイラー・オールスターズを履いている点を挙げている。
『ガーディアン』紙はジャパン・ソサエティーの美術展を紹介した記事において、江口が『すすめ!!パイレーツ』や本作の創作を通じ、実質的にJ-POP現象全体への道を開いたとしている。中学時代に本作を読んだ『テガミバチ』の作者・浅田弘幸は、本作の新しいセンスに憧れ、絵にも影響を受けた。火浦功による小説『未来放浪ガルディーン』の主人公の一人は「大空ひばり」がモデルになっている。幾夜大黒堂『境界のないセカイ』は18歳になると「性別の選択」が可能になる世界を描いた漫画作品であるが、幾夜は第1巻の内田啓子編を本作や『プラナス・ガール』のフォーマットに準じて描いたと述べている。
島田一志は2020年の論稿において、大空ひばりが異性装者やゲイに対する差別や偏見を排除し、80年代の人々の認識を変えた原動力のひとつになったのではないかと述べている。江口も何人かの読者が本作に影響され女装を始めたと報告している。島田は、ギャグであるはずのひばりの女装が、実際は「あなたの好きなように生きればいい」というマイノリティへのメッセージになっており、読者に対し「マイノリティであることは悪いことではなく“個性”」という感覚を秘かに植えつけた可能性を指摘している。
江口本人は本作のような「オカマの面白さ」を扱った作品として、後に「BREAK DOWN」等を描いている。
おたく文化史研究家・吉本たいまつによれば、本作はその後の「男の娘」ブームの直接の先祖であるとされている。吉本は、江口が男女の描画コードを明示的に転倒させることでギャグを生み出している一方、そこにおいて「性別を越境する妖しい魅力」をも作り出していたと分析する。男性キャラクターに対して女性の描画コードを使い、受け手の認識を混乱させる試みは、吉本によれば手塚治虫の『リボンの騎士』にまで遡るとされ、本作では『リボンの騎士』より明確に「男の子でもかわいければ恋愛・性の対象にしてもよい」という視点が打ち出されているとされている。吉本は、描画コードの転倒は、その後も漫画表現の中に根付いて継続していったとし、奥浩哉『HEN』、小野敏洋『バーコードファイター』(ともに1992年)をその例として挙げている。
「オトコの娘年表」(『おと☆娘』VOL.7)の構成を担当した来栖美憂は、「オトコの娘文化」の始点はどこかと論じることから始めている。それによれば、江戸川乱歩の小林少年、横山光輝『伊賀の影丸』の影丸の女装の頃には、一部に熱狂的なファンがついていたという。そこへ「大きな一石を投じ」ることになったのが本作であるとし、「ひばりくんの可愛さは衝撃的であり、彼が近代女装美少年文化の始点という評価に異を唱える者はまずいないだろう」と断じている。一方で来栖は、『オトコノコ倶楽部vol.1』において本作を「女装系漫画のルーツ」とみなす認識に異を唱えている。ラブコメのアンチテーゼとして書かれた本作であるが、結局本作の流れを継いだのは『きまぐれオレンジ☆ロード』などのポップなラブコメであった。系譜を作り得なかった本作は、その意味において「ルーツ」とまでは言えないと述べている。『おと☆娘』における来栖の分析では、本作の流れは一旦少女漫画に受け継がれつつ、『バーコードファイター』で多くの児童の価値観を再び揺るがしたとされている。
漫画評論を行っている永山薫もまた、現在の男の娘漫画に直結する先駆的作品として本作を挙げている。家族が嘘をついて耕作をからかっているだけという可能性を指摘しつつ、「実は男の子なんだけど、本当は女の子かもしれない」という想像の余地を読者に残す本作の手法は、後の松本トモキ『プラナス・ガール』(2009年)に継承されたとしている。
一方、あしやまひろこは2015年の、本作を「男の娘作品」の古典として挙げた論稿において、大空ひばりには「男の娘」の本質の一部が欠けていたと分析している。あしやまはひばりを『プラナス・ガール』の主人公・藍川絆と比較し、「容姿と行動で男の主人公を翻弄する小悪魔」という点では通じるものがあるとしつつ、両者には決定的な違いがあると論じた。すなわち、大空ひばりは、主人公と家族以外の世間には女性として紹介され、かつ認知されている。また性同一性障害やオカマとして扱われる一面もあり、ポジションはギャグキャラクターである。対して藍川絆は、常に女装で生活していながら、性自認は一貫して男性であり、にもかかわらず学園中からアイドルとして扱われているのである(この点には永山も注意を与えている)。あしやまは『プラナス・ガール』では男の娘の可愛さが性別の範疇を超越するものとして表現されていると評し、両者の対比の中に80年代から現代に至るまでのパラダイムシフトを見出せるとしている。
『プラナス・ガール』などの後、男の娘ブームは収束に向かった。『オトコノコ倶楽部』の創刊者で、『オトコノコ時代』の編集長であった井戸隆明は、ブームの頃に面白いコンテンツがあまり出てこなかったことを衰退の原因の一つに挙げている。その上で、本作を次のように評価している。
絶対的にかわいい、小悪魔的な男の娘というのは『ひばりくん』を超えるものはもうないんじゃないかと。ただ、あれを描ける時代というのもあったと思います。ニューハーフブームはあったにしても、ひばりくんの実態がはっきりとはわからないんですよ。それに翻弄されるというのがギャグマンガとして成り立ったのは時代性でしょうね。いま同じようなことをやってもたぶん成立しない。 — 『オトコノコ時代』編集長・井戸隆明
井戸は、今後も大きな波は再びやってこないだろうと予測し、男の娘的なもののメルクマールといえるものは、結局、本作や『バーコードファイター』になるだろうとしている。
6度にわたって刊行されている。 最初に発行されたジャンプ・コミックス(JC)版の単行本には最後の4話が未収録であった。1991年に発売された完全版は、JC版に未収録だった4話のうち3話を収録したものの、連載最後の回は収録しなかった。最終回の収録は1999年の短編集『江口寿史の犬の日記、くさいはなし、その他の短篇』(KKベストセラーズ)が最初となる。その後2004年に発行された文庫版(ホーム社)はこの最終回も含んでおり、一応の全編収録となった。 『ストップ!!ひばりくん! コンプリート・エディション3』に最終話が加筆掲載された(前出)。なお第2巻(2009年)に単行本未収録の「Jの告白」のエピソードが初掲載された。
ただし、JC版の時点で、コマ割りに手を加える、『ジャンプ』掲載時の2話を1話にまとめ直すなど、大きく手を加えている話が多々あるため、未収録のページが存在する。
フジテレビ 金曜19:00~19:30枠 | ||
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前番組 | 番組名 | 次番組 |
ストップ!! ひばりくん! (1983. 5/20 - 1984. 1/27) |
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