こうま座(こうまざ、ラテン語: Equuleus)は、現代の88星座の1つで、プトレマイオスの48星座の1つ。馬をモチーフとしている。ペガスス座・いるか座・みずがめ座に囲まれた、天の赤道近くに位置する。全天88の星座の中でみなみじゅうじ座の次に面積が小さく、また暗い星が多いため目立たない星座である。
Equuleus | |
---|---|
属格形 | Equulei |
略符 | Equ |
発音 | [ɨˈkwuːliəs] Equúleus, 属格:/ɨˈkwuːliaɪ/ |
象徴 | 馬 |
概略位置:赤経 | 20h 56m 10.9212s - 21h 26m 20.0331s |
概略位置:赤緯 | +13.0390635° - +2.4773185° |
20時正中 | 10月上旬 |
広さ | 71.641平方度 (87位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 10 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
最輝星 | α Equ(3.92等) |
メシエ天体数 | 0 |
確定流星群 | こうま座β流星群 |
隣接する星座 | みずがめ座 いるか座 ペガスス座 |
この星座の星は、3つの4等星がある以外は全て5等以下の暗い星である。銀河平面から離れた位置にあり、領域も狭いため、星団や星雲など天の川銀河内の天体で目立つものもない。
2023年11月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている。
このほか、以下の恒星が知られている。
こうま座の名前を冠した流星群で、IAUの流星データセンター (IAU Meteor Data Center) で確定された流星群 (Established meteor showers) とされているものはこうま座β流星群 (beta Equuleids, BEQ) のみである。この流星群は、毎年7月9日頃に極大を迎える。
こうま座は、2世紀頃のクラウディオス・プトレマイオスの天文書『ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース (古希: ἡ Μεγάλη Σύνταξις τῆς Ἀστρονομίας)』、いわゆる『アルマゲスト』に星座として上げられた、プトレマイオスの48星座の1つであるが、プトレマイオス以前の記録に乏しく、その由来や成立史は不確かな点が多い。紀元前3世紀前半の詩人アラートスの詩編『パイノメナ (古希: Φαινόμενα)』や、紀元前3世紀後半の天文学者エラトステネースの天文書『カタステリスモイ (古希: Καταστερισμοί)』、帝政ローマ期1世紀初頭のゲルマニクスによる『パイノメナ』のラテン語訳、著作家ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『天文詩 (羅: De Astronomica)』といった古代ギリシア・ローマ期の星座と伝承を伝える主な文献の中には、こうま座は全く登場しない。キケロやマルクス・マニリウス、ウィトルウィウスらも同様であった。そのため、16世紀末から17世紀初頭のイギリスの数学・物理学者のトーマス・フッドは、「この星座については、プトレマイオスとその追随者の『アルフォンソ表』を除けば、ほとんど誰も何も書いていないので、どのように天にもたらされたのか確かな物語や歴史は伝えられていない。」とまで述べている。
プトレマイオス以前にこの星座が存在したことは、紀元前1世紀に活躍したロードス島のゲミーノスの現存する唯一の著書『パイノメナ序説 (古希: Εἰσαγωγὴ εἰς τὰ Φαινόμενα)』に伝えられており、ゲミーノスはこの著書の中で「この星座はヒッパルコスがいるか座の星を切り取って作った」としている。しかし、ヒッパルコスの唯一現存する著書『Τῶν Ἀράτου καὶ Εὐδόξου φαινομένων ἐξήγησις(エウドクソスならびにアラートスによるファイノメナの注解)』にはこうま座について言及されておらず、ゲミノスの言説を確認することは困難である。イギリスの科学史研究者イアン・リドパスは、プトレマイオスの創作ではなくヒッパルコスによって作られたと考えるのがもっともらしいとしている。
『アルマゲスト』では、ギリシャ語で「馬の前半身」を意味する Ἵππου Προτομή という星座名が付けられていた。プトレマイオスはこの星座の星の数を4つとしている。大きく時を下った17世紀初頭の1603年にドイツの法律家ヨハン・バイエルが編纂した星図『ウラノメトリア』では、「小さい方の馬」を意味する EQVVS MINORという星座名が付けられ、α・β・γ・δの4つの星があるとされた。バイエルは、「先行する馬」を意味する Equus prior や現在と同じ Equuleus という星座名も付記している。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Equuleus、略称は Equ と正式に定められた。
紀元前500年頃に製作された天文に関する粘土板文書『ムル・アピン (MUL.APIN)』では、こうま座αはペガスス座の ζ・θ・ε の3星とともに、ツバメの星座とされた。
ドイツ人宣教師イグナーツ・ケーグラー(戴進賢)らが編纂し、清朝乾隆帝治世の1752年に完成・奏進された星表『欽定儀象考成』では、こうま座の星は、二十八宿の北方玄武七宿の第四宿「虚宿」に配されていたとされる。虚宿では、α がみずがめ座βとともに墳墓に侍衛する役人を表す星官「虚」に、β・9 の2星が安危禍福を司る天界の役人を表す星官「司危」に、γ・δ の2星が是非正邪を明らかにすることを司る天界の役人を表す星官「司非」に、それぞれ配されていた。
トーマス・フッドが述べたように、この星座に直接結び付いた伝承は伝わっていない。19世紀末アメリカのアマチュア博物家のリチャード・ヒンクリー・アレンは著書『Star-Names and Their Meanings』の中で俗説として、天馬ペーガソスの弟でメルクリウスがカストールに与えたケレリス(羅: Celeris) 、ユーノーがポルックスに与えたキュラルス (羅: Cyllarus) 、ネプトゥヌスがミネルウァと力比べをしたときに三叉槍で大地から叩き出された馬や、サトゥルヌスとケイローンの母ピリュラーの物語と関連付ける者もいたことを紹介している。
リドパスは、プトレマイオスはケンタウロスのケイローンの娘ヒッペーを想定していたのではないかとしている。ヒッペーにまつわる物語はエラトステネースの『カタステリスモイ』やヒュギーヌスの『天文詩』にも伝えられているが、あくまでペガスス座と結び付いた伝承とされている。
世界で共通して使用されるラテン語の学名は Equuleus、日本語の学術用語としては「こうま」とそれぞれ正式に定められている。
1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳して刊行された『洛氏天文学』では「リットルホールス」と紹介された。それから30年ほど時代を下った明治後期には「駒」と呼ばれていたことが、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会報『天文月報』第2巻11号に掲載された「星座名」という記事で確認できる。この訳名は、東京天文台の編集により1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「駒(こま)」として引き継がれ、1944年(昭和19年)に天文学用語が見直しされた際も「駒(こま)」が継続して使用されることとされた。
これに対して、天文同好会の山本一清らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では、星座名 Equuleus に対して「駒(こま)」を充てたが、翌1929年(昭和4年)刊行の第2号ではこれを「小馬(こうま)」と改め、以降の号でもこの表記を継続して用いた。これについて山本は東亜天文学会の会誌『天界』1934年8月号の「天文用語に關する私見と主張 (3)」という記事の中で以下のような見解を開陳していた。
Equuleus は小さい馬である.之れを「駒」と譯する人があるのは,「こま」卽ち小馬であるのだから,一應は首肯するに足る.しかし,よく考へて見ると,この「駒」といふ譯名を幾百年も昔し,我等の祖先から受け繼いだのならば,もはや何も言ふ資格も權利も無い.けれど,實は左様でなく,現代の日本人が「小さい馬」といふ意味の語を日本語の中に求めやうといふのである.今日の吾々の vocabulary 中の「駒」は,決して「小さい馬」だけを意味するのでなく,いろゝゝ永い國語史上の慣はしによつて,「駒」は敢へて小さからざる普通の寸法の堂々たる馬をも立派に意味する文學用語であるし,尚ほ又,一般社會に於いて,特に何の註釋も加へずに只「駒」と言へは,將棋の駒だとすぐに解釋する人の方が遙かに多い現代である.して見ると,Equuleus は寧ろ率直に「小馬」(こうま)と譯して置くのが無難であり,自然である — 山本一清、「天文用語に關する私見と主張 (3)」『天界』1934年8月号
戦後も継続して「駒(こま)」が使われていたが、1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」とした際に、Equuleus の日本語名は「こうま」と改められた。これ以降は「こうま」という表記が継続して用いられている。
現代の中国でも、小马座(小馬座)とされている。
This article uses material from the Wikipedia 日本語 article こうま座, which is released under the Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 license ("CC BY-SA 3.0"); additional terms may apply (view authors). コンテンツは、特に記載されていない限り、CC BY-SA 4.0のもとで利用可能です。 Images, videos and audio are available under their respective licenses.
®Wikipedia is a registered trademark of the Wiki Foundation, Inc. Wiki 日本語 (DUHOCTRUNGQUOC.VN) is an independent company and has no affiliation with Wiki Foundation.