底質汚染(ていしつおせん)とは底質が汚染されていることをいう。
底質とは海域、港湾、河川、水路、湖沼などの水底の土砂やヘドロ等のことである。
底質は魚介類等の生息の場として水環境の重要な要素となっているが、水質汚濁が進むと化学物質等が蓄積・溶出する媒体となりうる。
汚染された底質を浚渫等により除去する場合、工事の際の底質の撹乱・拡散、処分地からの有害物質の流出・浸出など二次汚染を防止する措置が必要となる。
日本では底質暫定除去基準によりPCBや水銀が高濃度で含まれている水域の浚渫が過去に実施された。その浚渫土は無害化されずに仮置きされたり、埋立てに利用されている。
環境リスクや人の健康被害防止の観点から十分な検討が必要であり、例えば、兵庫県高砂市では学識経験者等による検討会を開催し議論が進んでいる。
水底には多くのゴミがあり、特に瀬戸内海や東京湾・大阪湾・伊勢湾等の閉鎖性海域には多く沈んでいる。水底ゴミは水底環境を悪化させるだけでなく底質汚染対策の妨げにもなっている。
アメリカ環境保護庁(EPA)は他の連邦機関や州機関とともに2010年に米国沿岸及び五大湖の1104か所で水質、生物学的水質、底質の調査を行った。その結果、2005~2006年に実施された調査に比べて生物学的水質は17%改善されたが底質は22%悪化した。
日本では底質の環境基準はダイオキシン類のみ(150pg-TEQ/g)が定められておりこの基準を超過するもの(詳しくは底質の環境基準を参照)のこと。 なお、PCBや水銀には底質暫定除去基準が定められており、対策は一旦行われた水域もある。
環境白書に底質についての言及が現れたのは昭和46年版公害白書であり、それまでは典型公害として、大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、地盤の沈下、悪臭の6種を公害の対象として捕らえていたが、冷却用水等による温排水問題やヘドロ問題に対処すれる為に「水底の底質の悪化」を公害の対象として認識するようになった。ここで言う「ヘドロ問題」とは東京湾、大阪湾、田子の浦港、洞海湾、伊予三島港のヘドロである。問題にしているのはCOD(生物の大量死)や硫化物量(悪臭)が主であるが、東京湾と洞海湾ではカドミウム、クロム、水銀、鉛なども底質中に検出されているが、この頃は生物の大量死や藻類の異常繁茂が問題視されていた為、底質の多量の有機物に注目が集まっていた。
地域 | 測定年度 | COD(mg/g) | 硫化物(mg/g) | カドミウム(mg/g) | クロム(mg/g) | 全水銀(mg/g) | 鉛(mg/g) |
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東京湾(鶴見付近) | 昭和45 | 6.2 | — | 0.009 | 0.01 | 0.018 | 0.25 |
東京湾(横浜本牧付近) | 昭和45 | 4.9 | — | 0.001mg/g | 0.006 | 0.023 | 0.03 |
大阪湾(大坂港口) | 昭和42 | 18.9 | 1.3 | — | — | — | — |
大阪湾(神戸港沖) | 昭和42 | 25.2 | 0.3 | — | — | — | — |
田子の浦港 | 昭和44 | 11.4 | 2.1 | — | — | — | — |
洞海湾(湾口) | 昭和44 | 16.4 | — | 0.012 | 0.055 | — | — |
洞海湾(湾奥) | 昭和44 | 21.6 | — | 0.122 | 0.051 | — | — |
伊予三島港 | 昭和39 | 13.6 | 0.6 | — | — | — | — |
1972年に初めて底質のPCB汚染の実態調査が全国1,445地点において実施されたその結果工場近接水域の4箇所については水質で0.011ppm以上底質で500ppm以上のPCBを検出し「PCB取扱い工場周辺の公共用水域の底質がかなり汚染されていることが明らかになった。」と環境白書では総括している。
1970年12月に「公害防止事業費事業者負担法」が制定され、1971年5月10日から施行されている。5年後の1975年2月末までにこの法律に従い静岡県・田子の浦湾(有機物堆積汚泥浚渫)、福岡県・中の川水系(PCB含有堆積汚泥浚渫)などの総計17件の底質汚染防止対策事業が実施されることとなる。
この様に底質汚染除去事業が開始され、水銀に係る底質汚染については48年度底質調査では27水域で暫定除去基準値を超えたものが昭和49 - 52年度では暫定除去基準値を超える水域は42水域中7水域に減少した。PCBに係る底質汚染については昭和47 - 52年度の調査で除去等の対策を講じる必要がある69水域中54水域の除去事業が完了することになる。その約十年後の1987年には水銀による底質汚染で暫定除去基準を超え除去等の対策を講じる必要がある42水域中41水域が事業を完了し、PCBによる底質汚染底質汚染で暫定除去基準を超え除去等の対策を講じる必要がある71水域はすべて事業を完了している。
ダイオキシン類についての底質汚染は昭和62年度の調査よりモニタリングが開始され、低濃度ではあるが0.001 - 0.006ppbの2,3,7,8-TCDFが18箇の検体より検出されている。約十年後の平成11年版環境白書においても「海、川、湖の底質、生物についてもこれまで10年以上にわたって毎年調査しているが、ダイオキシン類濃度に特段大きな変化は認められない。しかし、環境中から広く検出されており、引き続き調査が必要である。」と環境白書で総括されているその後平成14年度にダイオキシン類の環境基準を変更し、底質ダイオキシン類については757地点中18点で環境基準(150pg-TEQ/g)を超えることとなった。(平均11pg-TEQ/g)
2007年の国土交通省の発表によると汚染土量が把握されているのは7港湾であり、1港湾当たりの汚染土量の頻度分布を1港湾当たりの汚染土量は250,000m3 以下が3港湾と最も多く、250,000m3超が4港湾とされている。以下に各地の取組み状況を示す。
自治体 | 取り組み |
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埼玉県 | 古綾瀬川において委員会を組織し取り組んでいる。 |
千葉県 | 市原港で高濃度の底質ダイオキシン類 (15,000pg-TEQ/g) の公開すると共に、汚染原因特定についても取り組んでいる。 |
東京都 | 横十間川や隅田川河口部などの底質汚染について対策がなされている。水銀やダイオキシン類による食品汚染調査結果を公開している。豊洲貯木場でダイオキシン類による底質汚染が検出され屋形船係留施設の計画を変更した。 |
横浜市 | 横浜港などの底質汚染について対策が検討されている。 |
静岡県富士市 | 田子の浦港底質(ダイオキシン類)浄化対策事業を港管理事務所が中心となって取り組んでいる。 |
京都府 | 「舞鶴引揚記念館周辺地域における環境問題専門家会議」で舞鶴湾の底質について議論し、鉛溶出量が0.1mg/L以上の範囲の対策として、浚渫及び覆砂を行うことが適当であるとし公開されている。また阿蘇海においても取り組んでいる。 |
大阪府 | 神崎川など大阪府が管理する河川について委員会を組織して取り組んでおり、公害防止事業費事業者負担法に従い三箇牧水路の汚染対策費用を汚染原因者が負担する計画を作成した。 |
大阪市 | 市内河川の底質汚染についてデータを公開し取り組んでいる。また、港湾部についても調査を進めている。 |
神戸市 | 遠矢浜北側水域の底質におけるダイオキシン類の環境基準超過について委員会を開催し、委員会内容も公開して取り組んでいる。また、2008年から浚渫だけでなく無害化処理等の無害化を含めた浄化対策を行っている。 |
高砂市 | 高砂西港盛立地のPCB汚染土に係る技術検討専門委員会を開催し、委員会内容も公開して取り組んでいる。 |
島根県 | 馬潟団地に周辺水路において委員会を組織して、公害防止事業費事業者負担法を適用し取り組んでいる。 |
福岡県北九州市 | 洞海湾の底質汚染について取り組んでいる。 |
環境省の発表では底質ダイオキシン類の検出は年を経るごとに減少し、平成17年度の調査によると底質のダイオキシン類で環境基準150pg-TEQ/gを超えている地点は下記の6か所であったとされている。
しかしながら、各自治体は独自に底質ダイオキシン類濃度を測定しており、環境省が発表した値より高濃度の底質汚染があることをホームページで公表している。
浄化対策は多額の費用を要するので余り進んでいないが、試験施工等が実施されていることが公表されている。
底質汚染の浄化には多額の費用が必要となる。公害防止事業費事業者負担法により汚染原因者がその費用を負担することになる事例が増えている。近年では島根県の馬潟工業団地付近において廃棄物処理業者等が費用を負担している。
永年の不要な物質や有害物質の蓄積である底質汚染には多くの法規制が適用されることになる。まず、ダイオキシン類の底質環境基準が挙げられる。ダイオキシン類対策特別措置法により都道府県知事は底質等に含まれるダイオキシン類を測定し基準を超過している場合は浄化計画を策定し措置する義務があり対策に取り組んでいる地域がある。なお、水質に定められているように人の健康被害に関する環境基準に定める水銀・鉛・ヒ素・シアン・六価クロムなどの有害物質に関する底質環境基準は定められていないが、地下水汚染リスクや浚渫後の土壌汚染の観点から土壌環境基準を援用することが多い。
水質汚濁防止法や海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律さらに廃棄物処理法が汚染原因者に対して適用されるべきであるが、現場確認や時効の問題もあり適用される事例は多くない。しかし、汚染者負担原則から公害防止事業費事業者負担法により汚染原因者に応分の負担を求める事例が増えている。なお、外部リンク欄に関係法規制を示す。
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