星座

星座(せいざ、英: constellation)は、天球を赤経・赤緯の線に沿った境界線で区切った領域のこと。かつては、複数の恒星が天球上に占める見かけの配置を、その特徴から連想した人、神、動物、物などさまざまな事物の名前で呼んだものであった。古来さまざまな地域・文化や時代に応じていろいろなグループ化の方法や星座名が用いられた。

星座
左は北半球、右は南半球の星座

概要

天文学的には恒星同士の見かけの並びに特段の意味はない。プレアデス(すばる)などの散開星団を除き、星座を構成する星は互いに天体力学的な関連をもって並んでいるわけではなく、地球からの距離もまちまちで、太陽系の位置からたまたま同じ方向に見えるだけである。しかし、古来星座にまつわるさまざまな伝説・神話が伝承されているため、これらの物語が宇宙や天体観測に興味を持つきっかけとなる人も多く、天文学の入門として広く話題に取り上げられ、親しまれている。

星座以外に、特定の星の並びに対してつけられた非公式な呼び名としてアステリズム: asterism星群)もある。たとえば、「北斗七星」はおおぐま座の一部で、くまのしっぽにあたる目立った7個の星がひしゃく状をなすことからつけられた名前である。

国際天文学連合(IAU)が定めた88の星座には、境界線は定められている。しかし、星のつなぎ方(星座線)は定められていない。

歴史

古代エジプト・メソポタミア・ギリシア

古代エジプトの遺跡で、星の並びを人などに見立てた図が発見されている。この星座は総称してデカン英語版と呼ばれ、一年を360日として10日ごとの区画に割る指標として用いられていた。しかし、一部を除いて同定されていないものが多く、現在も研究が続けられている(エジプト天文学英語版)。これが記録に残る最古の星座である。なお、現在の88星座に直接結びついてはいない。星同士を結んで星座を作る風習がのちにメソポタミア文明に伝わり(バビロニア天文学英語版)、ここで現在の星座の原型ができたと考えられる。ただし、エジプトとは独立して、別個に星座を作ったという可能性もある。

最初に決められた星座は、黄道十二星座である。物的な証拠は残っていない。しかし、メソポタミア文明以前から住み着いていた羊飼いによって設定されたという説がある。ヒツジ、ヤギ、ウシといった家畜がすべてこの黄道十二星座に含まれているのが間接的な証拠とされるが、羊飼いが設定した星座は12個ではなかった可能性もある。ただし、欧米ではこの「羊飼い説」はその資料を探すのも困難で、物的資料からも星座の起源は紀元前5世紀ごろとされて久しい。日本でのみ羊飼い説が信じられている。しかし、最近の関連図書ではようやく紀元前5世紀が正しいとするものも出てきた。

これらの黄道の星座はメソポタミア文明に取り入れられ、西洋占星術の基礎となった。メソポタミアのムル・アピン英語版粘土板(紀元前6世紀、写しは大英博物館蔵)には、黄道十二星座を含め66の星座のリストが存在し、メソポタミアの神に基づくエンリルの道、アヌの道、エアの道に大別される。これらは古代エジプトを通じて古代ギリシアに伝わり、ギリシア人たちは自分たちの神話体系にこれを取り入れるとともに、自分たちでもさらに新しい星座を設定した。ギリシア人が設定した星座にはみな神話がついている。

古代ギリシアでの星座への言及でもっとも古いものは、紀元前9世紀ホメロスの二大叙事詩『イーリアス』『オデュッセイア』で、星座名としてはおおぐま座、オリオン座、うしかい座が登場した。

紀元前4世紀の天文学者エウドクソスは、現代につながる44星座を決定したとされるが、その著書は残っていない。かわりに紀元前3世紀の小アジア生まれのマケドニアの詩人アラトスがこの44星座を詩にし、これが残っている。プレアデスとヒュアデスの2星団を星座にしているほかは、ほぼ現行のものが使われていた。

現代につながる49星座の設定者は紀元前2世紀の天文学者ヒッパルコスで、アラトスのものに修正を加え、現在にすべてつながる46星座を決定した。この後、トレミーの48星座とかみのけ座を合わせた全49星座を決定したという説もあるが、その著書は残っていない。

紀元2世紀クラウディオス・プトレマイオストレミーの48星座を決定した。彼はかみのけ座を認めなかった。この48星座を決定した者はヒッパルコスだという主張もあるが、著書の残るプトレマイオスの名をとり、今でもこれらの星座は「トレミーの48星座」と呼ばれ続けている。なお、トレミーはプトレマイオスの英語読みである。これは長く標準となり、16世紀までは変更が加えられることはなかった。

古代中国

    星の集合体

中国では星空を天上世界の官僚機構に見立て、星同士を結ぶ線で構成される形を「星官」と呼んだ。西洋の星座と違い、1星や2星といった少数の星によって構成されるものも多いことが特徴である。古来より天文家ごとに星官の名称は異なっていたが、三国時代陳卓が石氏・甘氏・巫咸三家の星官を統合して283官1,464星とし、以後、この体系が沿用された。なお代の「蘇州・石刻天文図」には1,440星が刻されている。

    天球上の領域

星官は西洋天文学の星座と異なり、それ自体に星空を分割した区画の意味は含まれていない。天球上をある程度の面積をもった領域に区分した天区には三垣二十八宿の体系が作られた。個々の天区は天の北極付近および黄道沿いにある主要な星官に距星が置かれ、その距星のある星官によって名前がつけられている。

また二十八宿を7宿ごとにまとめた四象があり、東方青龍・北方玄武・西方白虎・南方朱雀に四分された。

なお、三垣二十八宿や四象は星官にもとづいた不均等区分の天球分割法であるが、中国天文学にはこのほかに天球を12の区画に均等区分した十二次十二辰といったものがあった。十二次・十二辰の領域や境界は二十八宿の度数を座標系として使用することによって表された。

大航海時代以降

16世紀、大航海時代が始まると、プトレマイオスが観測できなかった南天にも星が続々と見つかった。16世紀末に、オランダの航海者ペーテル・ケイセルフレデリック・デ・ハウトマンが遺した記録を元に、1603年ヨハン・バイエルが『ウラノメトリア』に南天の星座を描き、以後「バイエル星座」として知られるようになった。これ以降、さまざまな天文学者が続々と新しい星座を設定したが、ヨハネス・ヘヴェリウスの7星座とニコラ・ルイ・ド・ラカーユの14星座を除くと、そのほとんどは現行の88星座に採用されていない。

この時代には南天だけでなく、北天でも星が少なくこれまで星座が設定されていなかった領域にいくつかの星座が設定された。また、当時の支配者層である王侯貴族にちなんで名付けられた星座も作られたが、そのほとんどは88星座に採用されなかった。ドイツの天文学者で宗教家のジュリアス・シラーは、キリスト教の伝聞に基づいた星座を設定し1627年に出版したが、現在はどれも使われていない。

現在の星座(IAU方式)

現在の88星座の原型となったのは、アメリカの天文学者エドワード・ピッカリングが1908年に刊行した『ハーバード改訂光度カタログ (Harvard Revised Photometry Catalogue)』である。この星表では、北天はフリードリヒ・ヴィルヘルム・アルゲランダーの『アルゲランダー星図 (Uranometria Nova)』(1843年)やそれを改訂したエドゥアルト・ハイスの『Atlas Coelestis Novus』(1872年)、南天はベンジャミン・グールドの『Uranometria Argentina』(1877 - 1879年)で使用された星座を引用していた。20世紀初頭に標準参照されたこの星表で使われた星座がほぼそのまま採用されることとなる。

1922年にIAUの第1回総会がローマで開催された際、全天の星座は88個とされ、同時にその名称が承認された。名称と合わせて、デンマークアイナー・ヘルツシュプルングアメリカヘンリー・ノリス・ラッセルの提案により、アルファベット3文字で表記する略号も定められた。またこのとき、ベルギーウジェーヌ・デルポルトとカスティールズは、北天の星座に対して赤道座標経線緯線に平行な円弧で境界線を設けることを提案した。これは、グールドが南天の星座に対して境界線を定めたのと同じ手法であった。IAUは、1925年にケンブリッジで開催されたIAU総会で「星座の科学的表記」の分科会を設立し、デルポルトに赤緯-12.5°以北の天球上の境界線を策定するよう要請した。デルポルトはグールドと同じく1875.0分点を基準とした境界線の案を1925年10月から1927年9月にかけて策定してIAUに提出し、この案が1928年にライデンで開催された第3回IAU総会で承認された。IAUは、北天と同じく南天の星座の境界線も定めるように要請、これを受けたデルポルトはグールドの定めた境界線のうち斜めに線が引かれたものを修正し、なおかつ1つの恒星も所属する星座が変わらないように境界線の改訂案を策定した。この案がIAUで承認され、1930年にケンブリッジ大学出版会から『Délimitation Scientifique des Constellations』と『Atlas Céleste』という2つの出版物として刊行されたことにより、現在の88の星座の境界線も確定された。このようにして、各星座の名称と領域が厳密に決められたことによって、あらゆる太陽系外の天体は必ずどれか1つの星座に属することとなった。

現在の88星座は、「トレミーの48星座」をベースに、近世に考案された新たな星座を加えることで成立したが、採用されなかった星座も数多くある。たとえば、ジェローム・ラランドが考案した「しぶんぎ座」は、現在はうしかい座りゅう座の一部とされている。これにちなんでりゅう座ι星近辺を輻射点とする流星群には正式に「しぶんぎ座流星群 (Quadrantids)」の名がつけられている。

和名

88の星座とそのラテン語での正式名は決まったあとも、日本語での訳名は各天文団体ごとに若干異なる訳名が使われていた。1944年に学術研究会議(現・日本学術会議)が訳名を定めるとこれが全国的に使われるようになった。その後数度の改定を経ており、1994年の「学術用語集天文学編(増訂版)」で「はい座」が「はえ座」と改称されたのがもっとも新しい改定である。なお、学術用語としての星座名は、平仮名または片仮名で表記される。

また、これら学術用語とは別に、星の並び(アステリズム)に対して地方によってさまざまな呼称が存在する(星・星座に関する方言を参照)。

星座の一覧

国際天文学連合による88星座

和名 略号 ラテン語名 備考 提案された記号
アンドロメダ座 And Andromeda 星座 
いっかくじゅう座 Mon Monoceros 星座 
いて座 Sgr Sagittarius 星座 
いるか座 Del Delphinus 星座 
インディアン座 Ind Indus 星座 
うお座 Psc Pisces 星座 
うさぎ座 Lep Lepus 星座 
うしかい座 Boo Boötes 星座 
うみへび座 Hya Hydra 星座 
エリダヌス座 Eri Eridanus 星座 
おうし座 Tau Taurus 星座 
おおいぬ座 CMa Canis Major 星座 
おおかみ座 Lup Lupus 星座 
おおぐま座 UMa Ursa Major 星座 
おとめ座 Vir Virgo 星座 
おひつじ座 Ari Aries 星座 
オリオン座 Ori Orion 星座 
がか座 Pic Pictor 旧称は Equuleus Pictoris 星座 
カシオペヤ座 Cas Cassiopeia 星座 
かじき座 Dor Dorado 星座 
かに座 Cnc Cancer 星座 
かみのけ座 Com Coma Berenices 古来は星群だった 星座 
カメレオン座 Cha Chamaeleon 星座 
からす座 Crv Corvus 星座 
かんむり座 CrB Corona Borealis 星座 
きょしちょう座 Tuc Tucana 星座 
ぎょしゃ座 Aur Auriga 星座 
きりん座 Cam Camelopardalis 星座 
くじゃく座 Pav Pavo 星座 
くじら座 Cet Cetus 星座 
ケフェウス座 Cep Cepheus 星座 
ケンタウルス座 Cen Centaurus 星座 
けんびきょう座 Mic Microscopium 星座 
こいぬ座 CMi Canis Minor 星座 
こうま座 Equ Equuleus 星座 
こぎつね座 Vul Vulpecula 旧称は Vulpecula Cum Ansere 星座 
こぐま座 UMi Ursa Minor 星座 
こじし座 LMi Leo Minor 星座 
コップ座 Crt Crater 星座 
こと座 Lyr Lyra 星座 
コンパス座 Cir Circinus 星座 
さいだん座 Ara Ara 星座 
さそり座 Sco Scorpius 別名 Scorpio 星座 
さんかく座 Tri Triangulum 星座 
しし座 Leo Leo 星座 
じょうぎ座 Nor Norma 星座 
たて座 Sct Scutum 星座 
ちょうこくぐ座 Cae Caelum 星座 
ちょうこくしつ座 Scl Sculptor 星座 
つる座 Gru Grus 星座 
テーブルさん座 Men Mensa 旧称は Mons Mensæ 星座 
てんびん座 Lib Libra 星座 
とかげ座 Lac Lacerta 星座 
とけい座 Hor Horologium 星座 
とびうお座 Vol Volans 旧称は Piscis Volans 星座 
とも座 Pup Puppis 星座 
はえ座 Mus Musca 星座 
はくちょう座 Cyg Cygnus 星座 
はちぶんぎ座 Oct Octans 星座 
はと座 Col Columba 星座 
ふうちょう座 Aps Apus 星座 
ふたご座 Gem Gemini 星座 
ペガスス座 Peg Pegasus 星座 
へび座 Ser Serpens (caput, cauda) 星座 星座 星座 
へびつかい座 Oph Ophiuchus 星座 
ヘルクレス座 Her Hercules 星座 
ペルセウス座 Per Perseus 星座 
ほ座 Vel Vela 星座 
ぼうえんきょう座 Tel Telescopium 星座 
ほうおう座 Phe Phoenix 星座 
ポンプ座 Ant Antlia 星座 
みずがめ座 Aqr Aquarius 星座 
みずへび座 Hyi Hydrus 星座 
みなみじゅうじ座 Cru Crux 星座 
みなみのうお座 PsA Piscis Austrinus 星座 
みなみのかんむり座 CrA Corona Australis 星座 
みなみのさんかく座 TrA Triangulum Australe 星座 
や座 Sge Sagitta 星座 
やぎ座 Cap Capricornus 別名 Capricorn 星座 
やまねこ座 Lyn Lynx 星座 
らしんばん座 Pyx Pyxis 星座 
りゅう座 Dra Draco 星座 
りゅうこつ座 Car Carina 星座 
りょうけん座 CVn Canes Venatici 星座 
レチクル座 Ret Reticulum 星座 
ろ座 For Fornax 星座 
ろくぶんぎ座 Sex Sextans 星座 
わし座 Aql Aquila 星座 

★:りゅうこつ座とも座ほ座の3星座は、かつてはアルゴ座としてひとつの星座だった。

現在採用されていない星座

北半球・南半球からの観望

北半球では星空は北極星を中心に反時計回りの方向で動いて見える。北半球において南を向いて星空を観察すると星は東から昇り西へと沈む。南半球では天の南極を中心とした星空の動きが見えるが、天の南極の位置には天の北極の北極星にあたるような明るい星は存在しない。北半球と南半球とでは星座が上下逆さまに見えるため印象も大きく異なる。極付近に近づくにしたがって星は横方向に流れるような動きになる。

下記は日本からの観望の例である(ここでは大気差、山などの遮蔽物、光害、低高度での大気の影響は考慮せず、単純に緯度と星座の赤緯のみで判断する)。以下に記載していない55の星座は、理論上は日本のどこからでも全域を見ることができる日時がある。なお、星は高度が低いほど大気の影響を受け、特に20度以下では著しく像が悪化する。たとえば、みなみのかんむり座は理論上は札幌市から全域を観望できるが、実際には九州・沖縄まで行かないと肉眼では観望しづらい。

    日本からはまったく見えない星座
    日本からは一部だけしか見えない星座
    <>内は、これ以南で星座の一部を見ることが可能な主な地域。
    日本の一部の地域からは、まったく見えない星座
    上記11星座(日本からは一部だけしか見えない星座)も含む。()内は、これ以南で星座の全域を見ることが可能な主な地域。<>内は、これ以南で星座の一部を見ることが可能な主な地域。
    日本の一部の地域からは、一部だけしか見えない星座
    ()内は、これ以南で星座の全域を見ることが可能な主な地域。

脚注

注釈

出典

参考文献

関連文献

関連項目

外部リンク

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