『遊星からの物体X』(ゆうせいからのぶったいエックス、原題: The Thing)は、1982年のアメリカ合衆国のSFホラー映画。ジョン・カーペンター監督、ターマン・フォスター・プロ製作。SFX担当は当時22歳のロブ・ボッティンで、同監督の『ザ・フォッグ』(1979年)に続いての登板となる。出演はカート・ラッセルとA・ウィルフォード・ブリムリーら。1951年の映画『遊星よりの物体X』に続く、ジョン・W・キャンベルの短編SF小説『影が行く』の2度目の映画化で、南極基地に現れた地球外生命体の怪物とそれに立ち向かう隊員達を描いている。
遊星からの物体X | |
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The Thing | |
監督 | ジョン・カーペンター |
脚本 | ビル・ランカスター |
原作 | ジョン・W・キャンベル 『影が行く』 |
製作 | デイヴィッド・フォスター ローレンス・ターマン スチュアート・コーエン |
製作総指揮 | ウィルバー・スターク |
出演者 | カート・ラッセル A・ウィルフォード・ブリムリー T・K・カーター デヴィッド・クレノン キース・デイヴィッド リチャード・ダイサート チャールズ・ハラハン ピーター・マローニー リチャード・メイサー ドナルド・モファット |
音楽 | エンニオ・モリコーネ |
撮影 | ディーン・カンディ |
編集 | トッド・ラムジー |
製作会社 | デヴィッド・フォスター・プロダクションズ ターマン=フォスター・カンパニー |
配給 |
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公開 | |
上映時間 | 109分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
製作費 | $15,000,000 |
興行収入 | $19,600,000 |
2018年10月にはデジタル・リマスター版が国内で劇場公開された。
約10万年前、宇宙から飛来した円盤が地球に引き寄せられ、大気圏で炎に包まれながら南極へと落下した。
1982年、冬の南極大陸。ノルウェー観測隊のヘリが雪原を駆ける1匹のハスキー犬を追って、全12名の隊員がいるアメリカ南極観測隊第4基地へ現れた。銃や焼夷手榴弾を使い執拗に犬を狙うが失敗し、手違いからヘリは爆発。一人生き残ったノルウェー隊員はなおも逃げる犬を殺そうと銃撃を続ける。その際に基地の隊員が一人負傷したため、隊長のギャリーが拳銃でそのノルウェー隊員を射殺した。
ノルウェー隊に一体何があったのか真相を究明するべく、ノルウェー隊の観測基地へ向かったヘリ操縦士のマクレディらが見つけたものは、焼け落ちた建物、自らの喉を切り裂いた隊員の死体、何かを取り出したと思しき氷塊、そして異様に変形し固まったおぞましい焼死体だった。一行は調査のため、残されていた記録フィルムと焼死体を持ち帰る。
生き延びた犬は基地内を徘徊していたため、夜になると犬小屋に入れられた。その途端犬は変形し、グロテスクな姿の「生きもの」となり、他の犬たちを襲い始めたが、鳴き声を聞いて駆けつけたマクレディらにより火炎放射器で焼かれ撃退される。
ノルウェー隊の記録フィルムに映し出されたのは、雪原の巨大なクレーターと、約10万年前のものと推測される氷の層にある巨大な構造物を調査している場面だった。やがて持ち帰った焼死体が動きだし、蘇った「生きもの」が隊員の一人を襲ってその姿に成り代わった。結局その「生きもの」は、隊員たちの手で他の「生きもの」の死骸と共に外で焼却処分された。
調査の結果、「生きもの」は取り込んだ生物に同化・擬態して更に増殖することが可能で、コンピュータの試算により、もし人類の文明社会にそれが辿り着くと、およそ2万7000時間、約3年で全人類が同化されることが判明する。それを知った主任生物学者のブレアが誰も基地の外へ出られないようにするため無線機やヘリ等を破壊、残った犬も殺してしまい、基地は完全に孤立する。その状況下で隊員たちは誰が「生きもの」に同化されているか判断出来なくなり、疑心暗鬼に陥っていく。
※括弧内は日本語吹替(二名記載の場合はフジテレビ版 / Netflix追加録音の順)
日本語吹替 - 初回放送1985年11月30日 フジテレビ『ゴールデン洋画劇場』 21:02-22:54
1951年の映画『遊星よりの物体X』のリメイクというよりも、原作となった短編小説『影が行く』の忠実な映像化となっている。「通信機能が麻痺してしまった南極越冬基地」という閉鎖空間において、「誰が人間ではないのか、自分が獲り込まれたのかすらも分からない緊迫した状況下における、隊員達の心理状態と、難局を打開しようとする姿」を描き、最後まで明快な結末は見えない。原作と大きく異なる部分は「『物体』の形状」「登場人数」「『物体』を退治する方法」などである。また、映画では地球外生物の同化する様子、増殖し擬態する生態をSF的理論の範囲内でまとめ、説明も行っている。
1975年、ユニバーサル映画のスチュアート・コーエンが友人のカーペンターに『遊星よりの物体X』のリメイク企画を打診。1979年に公開されたSFホラー『エイリアン』のヒットによって企画にゴーサインが出たものの、脚本は難航した。1981年初頭、プロダクションアート担当のデイル・キュイパース(『おかしなおかしな石器人』)がクリーチャーデザインを進める途中で事故に遭い離脱、後を引き継いだロブ・ボッティンがデザインを大幅に変更した。撮影は同年8月頃から行われたが、特殊効果の作業は本編終了後も続き、それは1982年4月にまで及んだ。
細胞単位で生存し、あらゆる生物を同化する「物体」の姿を、ありふれたモンスター的なデザインとはせず、地球上の様々な生物やその一部の形状を混ぜ合わせた形容しがたいグロテスクなものにまとめ、CGによるVFXが全盛の現在においても全く見劣りしないリアリティーを与えたボッティンの造形は、後のSFXやクリーチャーデザインに多大な影響を与えた(DVDには特典映像として、キュイパースによる「モンスター的な宇宙生物のデザイン」が収録されている)。 小屋の中で「物体」に変容する犬は1982年初頭までデザインも決まっておらず、時間的な都合からスタン・ウィンストンの率いるチームによって製作された。
終盤に床板を突き破って出現する「物体」は、当初ストップモーション・アニメで撮影されていたが、カーペンターの納得が行くものが作れず、アニマトロニクスで作り直された結果、断片的な採用となった。暗闇に消えたノールスについては、巨大化したブレアに吸収される様子が絵コンテで残っており、当初の構想を伝えている。なお、どちらもDVDに映像特典として収録。
ラストシークエンスには息をしていないように見える人物が登場し、「物体」に同化されたことを示す演出だという説が出たが、カーペンターはこれを「照明の加減で息が見えにくかっただけ」と否定している。物語の中盤で、ベニングスに同化した「物体」が戸外で他の隊員たちに取り囲まれた場面では、白い息が目視で確認できる。
レビュー・アグリゲーターのRotten Tomatoesでは76件のレビューで支持率は83%、平均点は7.40/10となった。Metacriticでは13件のレビューを基に加重平均値が57/100となった。
本作の続編として、2003年にアメリカ合衆国のBLACK社からPC及びPS2用ソフト『遊星からの物体X episodeII』が発売された。日本語版はコナミ社が発売している。
数度の頓挫と公開延期を経て、2011年に『遊星からの物体X ファーストコンタクト』が公開された。
内容は、1951年、1982年作品のリメイクではなく、ノルウェー隊が3日前に円盤を発見し、「物体」の蘇生と隊の全滅、生き残った隊員が犬に姿を変えて逃げ出した「物体」をヘリコプターで追跡するまでが語られる前日譚である。共同プロデューサーは1982年版で製作総指揮を務めたローレンス・ターマン。オランダのCFディレクターで劇映画は初監督となるマティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニアがメガホンを取り、ジョエル・エドガートンやウルリク・トムセンといった男性隊員役に加えて女性もメアリー・エリザベス・ウィンステッドとキム・バッブスの2名が出演している。1982年版で犬の効果を担当したウィンストンのもとで『エイリアン2』などに携わったアレック・ギリスとトム・ウッドラフ・ジュニア率いるアマルガメイテッド・ダイナミクスが、「物体」の造形・操演を手掛けた。音楽は『エイリアン』のジェリー・ゴールドスミスに師事したマルコ・ベルトラミが1980年代を意識したオリジナル楽曲を提供しているが、終盤にはモリコーネによる1982年版のエンディング曲が使用されている。
82年版のタイトルロゴは51年版をほぼそのまま用いているが、本作ではカイル・クーパーが氷の棺をモチーフにタイトルロゴを新たに製作した。エンディングではクーパーと同じPrologueのヘンリー・ホブソン(2015年には映画『マギー』を監督)と、マニジャ・エムランがデザインを担当。カーペンターが80年代に監督作の多くでスタッフ・キャスト名表記に用いたAlbertusフォントを元に新しいフォントを開発し、メインスタッフと出演者の表記を行っている。
1982年版でモンスター製作を手掛けたロブ・ボッティンは、撮影にほとんど常時立ち会ってモンスタープロップの調整にあたり、プロップをゼラチンと血糊で覆ったり、焦点を外して撮影したり、逆光で映させるなど照明を暗くすることで、作り物に映ることを避け、脚本にも「物体の浸潤には寄生主と暗中の接触が必要」という設定を盛り込ませていたが、今作ではアニマトロニクスやカーペンター監督が使用を避けたモンスタースーツといった1982年当時も使用可能だった古典的なSFXテクニックを、CGIプロダクションのイメージエンジンによるデジタル加工でスケールアップする手法(背景やプロップの色彩調整はもちろん、プロップを直接炎上させていた1982年版と異なり、炎を任意の演出規模で後付けできる)を採用しており、製作上の制約が減ったために一部の設定が撤回されている。その代わり、同化時にピアスや歯の詰め物など体内の無機物は複製できずに排出されるという設定が盛り込まれた。
日本ではなかなか配給が決まらずインターネット上では『遊星からの物体X ビギニング』という仮題で呼ばれていたが、本国でDVD/BDが発売された後の2012年8月4日に上記題名で小規模ながら公開が始まり、日本版DVD/BDが2013年1月9日に発売された後も限定的に上映が続いた。
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