バイオディーゼルとは、生物由来油から作られるディーゼルエンジン用燃料の総称で、バイオマスエネルギーの一つである。諸外国においてバイオディーゼルとして規格化がなされているのは脂肪酸メチルエステル(Fatty acid methyl ester、以下「FAME」)のみであるが、厳密に化学的な定義はない。原料となる油脂からグリセリンをエステル交換により取り除き粘度を下げる等の化学処理や改質処理を施し、ディーゼルエンジンに使用できるようにしている。Bio Diesel Fuelの頭文字をとってBDFと略されることもある(BDFは登録商標)。
ディーゼルエンジンは、元々は落花生油を燃料とし、圧縮熱で燃料に点火するエンジンとして19世紀末に発明されたものであり、バイオディーゼルを燃料として使用することを想定していた。しかし落花生の生産は天候に左右され供給が不安定であったこと、当時ルーマニアで油田が発見され軽油や重油などの鉱物油が本格的に入手できるようになったことなどから、ディーゼルエンジンの燃料はバイオディーゼルから化石燃料へシフトしていった。
日本では、第二次世界大戦前夜にはガソリンの入手が困難となり、満州向けの戦車には大豆由来のバイオディーゼル燃料を使用することが検討されていた。 1935年(昭和10年)、池貝鉄工所はディーゼル車の寒地試験を行う中で、大豆油を燃料にして三本木から青森間を走破することに成功した。
地球温暖化対策として再びバイオディーゼル燃料が注目されている。
菜種油、パーム油、オリーブ油、ひまわり油、大豆油、コメ油、ヘンプ・オイル(大麻油)などの植物油、魚油や豚脂、牛脂などの獣脂及び廃食用油(いわゆる天ぷら油等)など、様々な油脂がバイオディーゼル燃料の原料となりうる。
欧州では菜種油、中国ではオウレンボク等、北米及び中南米では大豆油、東南アジアではアブラヤシやココヤシ、ナンヨウアブラギリから得られる油が利用されている。
ディーゼルエンジンの燃料として通常用いられる化石燃料である軽油に比べて、化学的特徴として次のことが指摘されている。
原料となる油脂はそれぞれ性状が異なるため、バイオディーゼル燃料自体の性状も原料により異なったものとなる。
とりわけ廃食用油は様々な油脂が含まれうるものであることから、個々の原料の性状に大きなばらつきがある。それゆえ、廃食用油を原料とする場合は特に、小規模での製造では製品の品質が極めて不安定なものとなることから、品質を安定させるためには一定程度大規模なプラントで製造を行う必要がある。
精製方法の違いによっても、完成した製品の性状は異なりうる。例えば、精製が不十分でグリセリンが完全に除去しきれておらず、原料油脂(トリグリセリド)が残留している場合、スラッジ(固まり)が発生してピストンリングを固着させたり、フィルターの目詰まりを発生させることがある。またメタノールの除去が不十分な場合、残留メタノールが金属部材の腐食の原因となる。
不飽和結合を有する有機化合物は、飽和有機化合物よりも化学的に不安定であり、酸素存在下で自動酸化を起こしやすい。酸化劣化の進んだ燃料はタンクを腐食させ、また重合物を生成しフィルタ詰まりを引き起こすことから、バイオディーゼル燃料を精製するにあたっては酸化防止剤を添加し、酸化安定性を向上させることが必要となる(なお、通常の軽油であれば酸化劣化は起こらないと考えられている)。
ディーゼル機関へ不完全な生成油が混入することにより、着火温度の差が発生すると、エンジンの不調や破損の原因になる。
排ガス規制に対応するため近年開発が進んでいる、コモンレール方式を採用したディーゼルエンジンと、バイオディーゼル燃料との相性の問題が指摘されている。
ディーゼル自動車からの排ガス規制が厳しくなる中、コモンレールシステムにより燃料噴射圧の高圧化が必要とされているが、燃料の高圧化は同時に断熱圧縮による燃料温度の上昇にもつながる。燃料温度の上昇は酸化劣化を引き起こす大きな要因であり、BDFを使用する上ではこのような高圧、高温環境下において燃料品質の劣化が起こらないよう適切な性状を確保することが非常に重要となる。
バイオディーゼル100%か、または軽油・灯油と一定割合で混合して使用する。低温では粘度が高くなり流動性が低下し、特に寒冷地や冬季にバイオディーゼル100%で使用するとワックス分が燃料経路内で固まることがある。このため、ヒートエクスチェンジャーやフュエルヒーターを使用して燃料を加温する、始動は軽油で行い、完全暖機後にバイオディーゼル燃料に切り替えて使用するなどの対策が必要となる。
後述する揮発油等の品質の確保等に関する法律においては、自動車用燃料として販売することが認められる軽油中のFAME含有量は5.0質量%以下とされている。また、経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省ではBDFに関する調査等を実施しており、軽油と混合しないバイオディーゼル100%での利用については、既存の自動車で利用した際、問題が生じた、又は車両側での対策が必要になった事例が報告されている。こうした例も踏まえ、国土交通省においては、neat(混合)BDF対応車の開発を行っている 。
また、自動車の燃料として使用する場合、自動車検査証の備考欄に廃食用油燃料併用、バイオディーゼル100%燃料併用若しくは品確法特例措置高濃度バイオディーゼル燃料併用といった内容の記入申請を行った後に使用することができる。
欧州ではFAMEについて、欧州規格であるEN14214において、軽油に混合しない状態での性状を規定している。鉱物ディーゼル燃料(軽油)の品質規格(EN590)では、「軽油は脂肪酸メチルエステル5%までブレンドできる。しかし、バイオディーゼルの品質規格はEN14214に基づくこと。」と規定している。 これらの規格は2004年から有効とされている。また、不適合燃料を取り締まる方法等については、各国にて検討することとされている。
日本においては、従前、バイオディーゼル燃料についての規格が存在していなかった。しかしながら、近年これを一般自動車用の燃料として使用する動きがあることから、経済産業省の審議会である総合資源エネルギー調査会において、上記欧州規格を参考としつつ規格化が検討されてきた。
この審議会での検討結果を受けて、BDF混合軽油を一般のディーゼル車に用いた場合における必要な燃料性状に係る項目を規定するため、揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則の改正がなされた。(平成19年経済産業省令第3号。改正省令公布日:平成19年1月15日、同施行日:平成19年3月31日)
上記品質確保法においては、FAME混合軽油について満たすべき基準が設けられており、軽油販売業者はこの基準を満たさないものを自動車の燃料用として消費者に販売してはならない。(揮発油等の品質の確保等に関する法律第17条の7及び同法施行規則第22条)
軽油生産業者及び輸入業者は、自動車の燃料として販売又は消費しようとするときは、この軽油規格に適合することを確認しなければならない。(同法第17条の8)
なお、品質確保法はあくまで炭化水素油を対象とした規制であるため、炭化水素成分を含まないFAME(含酸素燃料)は同法の規制の対象とはならない。軽油と混合される前のFAMEについては、FAMEやNEATFAME混合軽油を製造するにあたっての品質の目安として、軽油と一定割合(5%)で混合することを前提とした標準化が任意規格によりなされている。また、品質確保法による規制は、石油製品は消費者が見た目で品質の適否を判断することができないために設けられたものであることから、例えば消費者が自ら法に定められた基準以上のバイオディーゼル燃料を軽油に混和したとしても、それは自己責任でなされたものであり、同法による規制の対象とはならない。
バイオディーゼル燃料を軽油等と混和して販売したり、自動車の使用者自らがバイオディーゼル燃料を購入又は製造して軽油等と混和して使用する場合、軽油引取税の課税対象となる。
バイオディーゼル燃料を、現行の日本の税法に抵触することなく非課税で自動車に使用するには、軽油等を混和させずに100%バイオディーゼル燃料でエンジンを作動させる必要がある。この場合、軽油とバイオディーゼル燃料の両方を使用可能な車両では、燃料タンクを分離させ、エンジンへの配管途中で弁による切り替えを可能として、燃料の混合を防止させなければならない。
気候変動枠組条約に基づき地球温暖化防止のため策定された京都議定書では、生物由来となる燃料については二酸化炭素の排出量が計上されないこととなっている。すなわち、化石燃料を燃焼させることは、それに含まれる炭素を二酸化炭素として大気中に新たに追加させることになるが、バイオディーゼルは原料となる生物が成長過程で光合成により大気中の二酸化炭素を吸収していることから、その生物から作られる燃料を燃焼させても元来大気内に存在した以上の二酸化炭素を発生させることはない(カーボンニュートラル)という考え方である。これによれば、バイオディーゼル燃料は太陽光や風力などと同じく、再生可能エネルギーに位置づけられることとなる。
他方、上述・通商産業省の審議会では、原料として日本が大量に輸入することになるパーム椰子の原産国であるマレーシアやインドネシアにおいて、ヤシ畑開発のために森林破壊が進行してしまう(環境破壊を進行させてしまう)懸念が指摘されている [2]。
また、ブラジルなどではより収益率の高いバイオ燃料生産のためオレンジ生産などが転換され、それによる果実、穀物の供給不足、高騰が起こり、バイオマスエタノールでの事例と同様に食料を燃料として消費する事に対する疑念、批判も起こっている。
米国環境保護局(U.S. EPA)の調査によると、軽油中のFAME混合率を高めると、ディーゼルエンジン排ガス中の粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)は減少するが、窒素酸化物(NOx)は増加すると報告されている。 NOxが増加するのは、バイオディーゼルには軽油と比較して多くの酸素が含まれており、燃焼するとき吸気中の窒素とより容易に結合することが原因であると考えられている。
一方、環境省の中央環境審議会答申によると、FAMEを使用した場合の排出ガス性能に与える影響について以下のようにとりまとめられている。
油脂は粘度が高いなどの特徴を有しており、そのままディーゼル自動車用の燃料として使用した場合、噴射ポンプや噴射ノズルに析出物が付着して不具合が発生することが懸念される。このため、化学処理を施して原料油脂からグリセリンを取り除くことで、油脂を脂肪酸メチルエステル(Fatty Acid Methyl Esterの頭文字をとってFAMEと略される)等の軽油に近い物性に変換したものがディーゼル自動車用燃料として使用されている。
主な製造技術には、下記の方法がある。
均相アルカリ法は アルカリ溶液法とも呼ばれ 比較的小型な装置でも製造を行うことができることから、一定の化学の知識があれば個人や小規模な団体でもバイオディーゼル燃料を製造することは可能である。ただし、後述のとおり、製品の品質を安定させるためにはある程度の規模を確保する必要がある。
具体的には、
メチルエステル化によって、副産物として原料油脂の10%程度のグリセリンが生成される。通常、このグリセリンには触媒や未変換の脂肪酸などが混入しており、有効な用途がないとされる。また、酵素法や超臨界法などにより純度の高いグリセリンを得ることはできるが、現在の日本では供給過剰状態にあること、小規模分散型の変換設備では十分な量が得ることができないことなどから、グリセリンの売却や処分が非常に困難な状況にある。このためグリセリンのメタン発酵による資源化の研究が行われている。
イオン交換樹脂触媒を用いる方法がある。この方式は種子島で実証実験も行われている。
原料油脂をメチルエステル化してグリセリンを除去し脂肪酸メチルエステル(FAME)を精製する既存の技術とは異なり、原料植物を問わず獣脂も含めた広範な原料油脂を石油精製の水素化処理技術を応用して分解し、合わせて雑物を除去して作る水素化処理油(Bio Hydrofined Diesel、略称:BHD)が、新日本石油株式会社(当時)とトヨタ自動車株式会社により研究開発されている。
この技術によれば、油脂を原料としつつ、既存の石油由来の燃料と何ら遜色のない、一般の軽油の規格に適合した燃料を精製することが可能であるとされる。BHDは油脂に水素を化合させる過程で不純物が除去される。また、酸化による劣化がしにくく、化学合成軽油(GTL)と同等品であるとされる。
これまでに、減圧軽油留分とパーム油を混合して水素化分解処理を行い、パーム油の水素化分解による軽油留分の収率の向上や、既存の石油精製で得られている軽油に近い性状の軽油留分が得られることが確認されている。
このBHDを路線バスの営業運行で使用する実証実験が2007年10月から2008年3月まで都営バス渋谷営業所の一部車両で行われる。
設備が大掛かりになりがちな水素化分解ではなく、触媒と比較的低温の温度で油脂を接触分解させて改質する技術が、研究されている。
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