報道の自由(ほうどうのじゆう)とは、事実を告げ知らせる行為の自由。
現社会において国民が必要とする情報の相当部分は報道機関の報道によって伝達される。したがって、国民の知る権利は報道機関の報道を通じて充足されるという側面を有する。表現の自由には思想の表明のみならず事実の伝達の自由をも含む。
国民主権原理にたつ民主主義政治にとっては自由な討論が不可欠であり、自由な討論のためには国民が争点を判断する際に必要な意見や情報に自由に接しうることを当然の前提とする 。また、いわゆる「思想の自由市場」論では「真理の最良の判定基準は、市場における競争のなかで、みずからを容認させる力をその思想が持っているかである」(オリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニア)とされ、この「思想の自由市場」論からも各人が他人の考えに自由に接しうることが要求される。
事実を伝達することが報道の基本的意味であるが、受け手側の意思形成のために素材を提供することだけでなく、報道すべき事実の認識や選択に送り手側の意思が働いていることも認められるから、報道の自由は言論の自由の内容をなすものと理解されている。
取材の自由を無制限に制約することができるとすれば報道の自由の保障は有名無実のものとなるから、報道の自由はそのための取材の自由をも要請する。
ただし、取材の自由の保障とそれに対する制約をめぐっては次のような問題がある。
日本の最高裁は博多駅テレビフィルム提出命令事件において、報道の自由について「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政[要曖昧さ回避]に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。」とし、取材の自由についても「報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。」と判示した。
刑事訴訟規則第215条は「公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所の許可を得なければ、これをすることができない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。」と定める。
北海タイムス事件で最高裁は「新聞が真実を報道することは、憲法二一条の認める表現の自由に属し、またそのための取材活動も認められなければならないことはいうまでもない。」としつつ「憲法が裁判の対審及び判決を公開法廷で行うことを規定しているのは、手続を一般に公開してその審判が公正に行われることを保障する趣旨にほかならないのであるから、たとい公判廷の状況を一般に報道するための取材活動であっても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害するがごときものは、もとより許されないところであるといわなければならない。」とし、刑事訴訟規則第215条は憲法に違反しないと判示した。
刑事事件については、石井記者事件で最高裁は取材源の秘匿に関連して憲法第21条第1項について「憲法の右規定は一般人に対し平等に表現の自由を保障したものであって、新聞記者に特種の保障を与えたものではない。」とし「その取材源について、公の福祉のため最も重大な司法権の公正な発動につき必要欠くべからざる証言の義務をも犠牲にして、証言拒絶の権利までも保障したものとは到底解することができない。」と判示した。
一方、民事事件については、下級審で旧民事訴訟法第281条第1項第3号(現行の民事訴訟法197条第1項第3号)にいう「職業の秘密」に当たるとして記者の証言拒絶権を認めた裁判例がある(島田記者事件の札幌高決昭和54・8・31判時937号16頁)。
取材源秘匿との関連では、米国の企業が所得隠しをおこなっていたとされる複数社の報道に対し、NHKや読売新聞、共同通信の記者に対して取材源の開示を要求した訴訟のケースでは2006年3月14日の東京地裁判決が読売の報道について取材源を秘匿すべき事情は認められないと判断した一方、NHKの報道については2005年10月11日の新潟地裁・2006年3月17日の東京高裁判決は取材源の秘匿を認め、同年10月3日最高裁判所決定で確定した。
前述の博多駅テレビフィルム提出命令事件では、最高裁が取材フイルムについて「報道機関がその取材活動によって得たフイルムは、報道機関が報道の目的に役立たせるためのものであって、このような目的をもつて取材されたフイルムが、他の目的、すなわち、本件におけるように刑事裁判の証拠のために使用されるような場合には、報道機関の将来における取材活動の自由を妨げることになるおそれがないわけではない。しかし、取材の自由といっても、もとより何らの制約を受けないものではなく、たとえば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することができない。」と判示している。
西山事件で最高裁は政府情報の取材について「真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。」としつつ、「法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならない。」と判示した。
国境なき記者団が2020年に発表した世界報道自由度ランキング(Worldwide Press Freedom Index 2020)では、対象となる180カ国中、報道の自由が保障されている国として、ノルウェー、フィンランド、デンマークなどがあげられている。逆に、報道の自由が保障されていない国としては、北朝鮮、トルクメニスタン、エリトリアなどがあげられている。
年 | 順位 | 当時の首相 |
---|---|---|
2002 | 26 | 小泉純一郎 |
2003 | 44 | |
2004 | 42 | |
2005 | 37 | |
2006 | 51 | |
2007 | 37 | 安倍晋三 |
2008 | 29 | 福田康夫 |
2009 | 17 | 麻生太郎 |
2010 | 11 | 鳩山由紀夫 |
2011 | N/A | 菅直人 |
2012 | 22 | 野田佳彦 |
2013 | 53 | 安倍晋三 |
2014 | 59 | |
2015 | 61 | |
2016 | 72 | |
2017 | 72 | |
2018 | 67 | |
2019 | 67 | |
2020 | 66 | |
2021 | 67 | 菅義偉 |
福島の検閲逮捕、家宅捜索、国内情報機関による取り調べや司法手続きの脅威 ― 2011年の福島第一原発の事故が日本のフリーランス記者にとって多大なリスクになると、誰が考えていただろう。福島の事故以来、『記者クラブ』という日本独特のシステムによって、フリーランスや外国人記者への差別が増えている。
『原子力村』として知られている原子力産業の複合体を取り上げようとするフリーランスの記者は、政府や東京電力が開く記者会見への出入りを禁じられたり、主要メディアならば利用できる情報へのアクセスを禁じられたりするなどで、手足を縛られている。
今、安倍晋三首相が『特定秘密保護法』という法律で縛ることで、彼らの闘争は、更に危険なものになってきた。 — 国境なき記者団、World press freedom index 2014 Asia-Pacific
年 | スコア | 順位 | 当時の首相 |
---|---|---|---|
2002 | 17 | 18 | 小泉純一郎 |
2003 | 17 | 29 | |
2004 | 18 | 33 | |
2005 | 20 | 37 | |
2006 | 20 | 35 | |
2007 | 21 | 39 | 安倍晋三 |
2008 | 21 | 35 | 福田康夫 |
2009 | 21 | 33 | 麻生太郎 |
2010 | 21 | 32 | 鳩山由紀夫 |
2011 | 21 | 32 | 菅直人 |
2012 | 22 | 37 | 野田佳彦 |
2013 | 24 | 40 | 安倍晋三 |
2014 | 25 | 42 | |
2015 | 25 | 41 | |
2016 | 26 | 44 | |
2017 | 27 | 48 |
アメリカ合衆国に本部を置く国際NGO「フリーダム・ハウス」の報告書における日本の評価は、順位の浮き沈みが大きい国境なき記者団の評価と比べて、一定して下落傾向にある(右図を参照)。
フリーダム・ハウスの評価スコアは、報道がもっとも自由であれば0、不自由であれば100となっている。日本のスコアは、小泉政権期の初めには17であったのが、小泉政権後期には20にまで増加し、その後はほぼ21から22を維持していたが、第2次・第3次安倍政権期(2013年 - )になるとスコアは漸増し、2017年には27に達した(世界48位に下落)。
年 | 順位 | 当時の大統領 |
---|---|---|
2002 | 39 | 金大中 |
2003 | 49 | 盧武鉉 |
2004 | 48 | |
2005 | 34 | |
2006 | 31 | |
2007 | 39 | |
2008 | 47 | 李明博 |
2009 | 69 | |
2010 | 42 | |
2011 | N/A | |
2012 | 44 | |
2013 | 50 | |
2014 | 57 | 朴槿恵 |
2015 | 60 | |
2016 | 70 | |
2017 | 63 | |
2018 | 43 | 文在寅 |
2019 | 41 | |
2020 | 42 |
韓国の報道の自由度は2017年時点で、国境なき記者団による調査では世界で63位 であり、国際言論監視団体「フリーダムハウス」の調査では66位で「部分的に自由」がある国とされている。しかし、これは2014年から2017年の間の一時的な下落であった。2020年時点で、韓国の言論自由指数は42位「完全に自由」と評価されており、アジア各国の言論の自由度の低下に支えられ、2019年に続いてアジア1位を維持した。
2014年8月3日、産経新聞のソウル支局長(9月末まで)が朝鮮日報が報道した「大統領をめぐるうわさ」と題したコラムを引用して「【追跡ソウル発】朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」という記事を日本向けウェブサイトに掲載したところ、それを、非営利のネット媒体「ニュースプロ」の韓国語記事を通じて知った韓国の市民団体が、名誉棄損だとして告発したため、ソウル中央地検が産経ソウル支局長に複数回出頭を求め、50日以上の出国禁止措置を行い、ついには在宅起訴を行った。セヌリ党の金武星代表は「(産経新聞は)罰を受けねばならない」と韓国メディアとの討論会で語った。2014年8月7日に始まった出国禁止の措置は、その後8回延長され、2015年4月14日付で解除されるまで8ヶ月以上続いた。
このような韓国の行為に対して、海外メディアで構成される「ソウル外信記者クラブ」が「(捜査に)高い関心を持ち、注視していく」との懸念を大統領府報道官に口頭で伝達、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」も抗議をし、特に韓国が起訴までしたことについて「あぜんとした」と批判する声明を出した、ウォールストリート・ジャーナルでは「言論の抑圧の事例」として報道。また新聞労連は「取材と報道の自由を守る立場から強い懸念を表明する」との声明を発表。アメリカからも「(米政府は)言論と表現の自由を支持している」「韓国の法律に懸念を有していることは既に明らかにしている」と批判されるなど、韓国は各方面から批判された。
テレビ、ラジオなど電波メディアによる情報提供の自由を放送の自由とよぶ。広義には有線放送も含まれる。
ただ、報道の自由の保障は新聞と放送とでは異なる扱いを受けている。
放送はジャーナリズム機能を持ったマスメディアである。ニュースやドキュメンタリーに限らず他の番組についても程度の差こそあれ、ジャーナリズム性を帯びているといえる。加えて放送には聴覚性、視覚性、同時性、臨場性があり、他の活字メディアに比べ受け手に与えるインパクトがはるかに強く、社会的影響力が大きい。活字メディアである新聞や雑誌は誰でも自由に刊行できるが、放送事業は電波を使わなければ成立しない電波メディアである。電波は天然資源と同様に有限・希少な資源である。すなわち電波は「国民の共有財産」であり、放送局は国民の共有財産をその負託を受けて利用しているということになる。すなわち「社会的影響力の大きさ」「電波利用」の二つの特徴から「公共性」が極めて高いということになり、放送には電波法や放送法などによってさまざまな規制が課されている。
放送はその「中立性」を保つため、公権力の介入を認めないものとしているが、それが他者の人権を侵害する場合は、一定の制限を受けることになり、公権力の介入を受けることになる。このことから各放送事業者はそれぞれ自律するための「放送基準」を定め、自らに制限を課している。
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