『銀河鉄道の夜』(銀河鐵道の夜、ぎんがてつどうのよる)は、宮沢賢治の童話作品。孤独な少年ジョバンニが、友人カムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語で、宮沢賢治童話の代表作のひとつとされている。
銀河鉄道の夜 | |
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訳題 | Night on the Galactic Railroad |
作者 | 宮沢賢治 |
国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
ジャンル | 童話 |
刊本情報 | |
収録 | 宮澤賢治全集 第三卷 |
出版元 | 文圃堂書店 |
出版年月日 | 1934年 |
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作者の死により未定稿のまま遺されたこと、多くの造語が使われていることなどもあって、研究家の間でも様々な解釈が行われている。この作品から生まれた派生作品は数多く、これまで数度にわたり映画化やアニメーション化、演劇化された他、プラネタリウム番組が作られている。
1924年ごろに初稿が執筆され、晩年の1931年頃まで推敲が繰り返された後、1933年の賢治の死後、草稿の形で遺された。初出は1934年刊行の文圃堂版全集(高村光太郎ら編。全国書誌番号:47022638。)である。未定稿のため本文の校訂が研究者を悩ませてきたが、筑摩書房版全集(『校本宮澤賢治全集』、1974年)の編集過程で綿密な検討が行われ、第1次稿から4次稿まで3回にわたって大きな改稿が行われたことが明らかになった。
第1-3次稿(初期形)と第4次稿(最終形)の間には大きな差異がある。「銀河鉄道の夜」という題名や、冒頭の三章分、そして結末のカムパネルラが川で行方不明になる挿話などは第4次稿で追加されたものである。また、第3次稿までは「銀河鉄道の旅はブルカニロ博士(後述)の実験により主人公が見た夢だった」という設定であるが、最終形に博士は登場しない。
文圃堂版全集以来長く読まれてきた刊本では、ブルカニロ博士の存在が大きな位置を占めていたが、博士の登場しない展開が最終形であることが判明しており、校本全集以降の刊本では博士の登場する展開を「初期形」として別作品と扱っている。以下のあらすじは第4次稿(最終形)によるものである。
なお、「最終形」とは「第4次稿以後の改稿が確認されていない」という意味であり、「賢治が第4次稿を決定稿とし、これをもって正式な作品とみなした」という事ではない。
「 | けれどもほんたうのさいはひは一体何だらう。 | 」 |
漁から戻らない父のことでクラスメイトにからかわれ、朝夕の仕事のせいで遊びにも勉強にも身が入らない少年ジョバンニは、周りから疎外され、あたかも幽霊のような存在として描かれている。
星祭りの夜、居場所を失い、孤独をかみしめながら登った天気輪の丘で、銀河鉄道に乗り込み、親友カムパネルラと銀河めぐりの旅をしばし楽しむ。二人は旅の中で出会う様々な人の中に次々と生きる意味を発見して行く。旅の終わりにジョバンニはさそりの話に胸を打たれて、カムパネルラに、みんなの本当の幸いのためにどこまでも一緒に行こうと誓い合うが、カムパネルラは消えてしまう。悲しみのうちに目覚めたジョバンニは、まもなくカムパネルラが命を犠牲にして友達を救った事実を知る。この瞬間、ジョバンニは銀河鉄道の旅が何を意味していたのか気づいて、みんなの本当の幸いのために尽くすことに、生きる意味を悟った。
さらに父が間もなく帰ってくることを知らされ、勇気づけられる。こうしてジョバンニは星祭りの夜、幽霊であった自分と決別して、母の元に戻ったのである。
銀河鉄道の旅は、銀河に沿って北十字から始まり南十字で終わる異次元の旅であり、ふたつの十字架はそれぞれ石炭袋を持っている。石炭袋が一般に暗黒星雲だと知られるようになったのは最近のことであり、かつては天文分野の専門書でもしばしば「空の穴」と表現されていた。賢治は南北ふたつの石炭袋を冥界と現世を結ぶ通路として作品を構成したとされている。
南十字の天上に行かなかったカムパネルラの行方については、ブルカニロ編にふれ輪廻したという解釈や、母の記述にふれ、万物の母の元に帰ったという解釈など、様々に解釈されていて定説はない。
『銀河鉄道の夜』の成立には、賢治が盛岡高等農林学校在学時から親密な関係を築いた一年後輩にあたる保阪嘉内の影響が大きく関係していると考える研究者もおり、作品中の様々なモチーフに、20代の頃に賢治と嘉内とが二人で登山し夜を通して共に語り合った体験が色濃く反映され、登場人物の「ジョバンニ」を賢治自身とするなら、「カムパネルラ」は保阪嘉内をあらわしていると考える研究者もいる。ただし第4稿におけるカムパネルラのモデルは、賢治の死別した妹トシであるとする説がある。
登場人物の名前について、「ジョバンニ」はイタリアの洗礼名のひとつ(ラテン語におけるヨハンネス)に由来し、「カムパネルラ」は神学者トマソ・カンパネッラ(ちなみに幼名は「ジョヴァンニ・ドミニコ」)からとったという推定がある。天沢退二郎は、作品の成立にいたる草稿の中では、賢治が「ジョバンニ」と「カムパネルラ」の混同ないし混同しかけていた形跡から、「ジョバンニ」と「カムパネルラ」というネーミングに隠れた、双子性に光を当てている。ちなみにイタリア語のCampanellaは「鐘」を意味する単語である。
現在の底本として、「校本宮澤賢治全集」の鑑賞用普及版である「新修宮沢賢治全集」(1980年)が主流となっている。
小説の舞台は、宮沢賢治の故郷にあった岩手軽便鉄道沿線風景をモデルにしたというよりも、当時花巻市内から市西部の温泉地区へ敷かれ、1972年まで運行されていた花巻電鉄をモデルにしたと推察されている。一方、小説を執筆する直前の1924年、宮沢賢治は花巻農学校の修学旅行引率で北海道苫小牧市を訪れており、同地の王子軽便鉄道・浜線(現JR北海道日高本線)沿線風景をモチーフにしたのではないかと推測する論文も存在する。その他、1923年夏に訪れた樺太庁鉄道樺太東線がモデルではないかとの説も存在する。
小説の挿絵や表紙や絵本、アニメなどでの銀河鉄道は蒸気機関車に牽引される客車として描かれる場合がほとんどであるが、本編中には「この汽車石炭をたいていないねえ」「アルコールか電気だろう」というジョバンニとカムパネルラの会話があるため、通常の石炭で走る汽車ではない。1925年全線開業の、花巻温泉電気軌道(後の花巻電鉄)ではないか、という説もある。
本作とキリスト教の関連がしばしば指摘されるが、宗教学者からは法華経との関連を指摘されている。賢治は、父親が浄土真宗の熱心な信者であったことから、幼少のころから仏教的な環境で育ったが、18歳のときに『漢和対照、妙法蓮華経』を読み、法華経に興味を持った。国柱会の田中智学の講演会を聴いたことをきっかけに、家出をして上京し、国柱会に入信、同会の講師から法華文学の創作を勧められたことから、『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』『風の又三郎』などの童話を執筆した。後年、国柱会とは一定の距離を置いたものの、法華経への信仰は生涯続いた。
影絵による絵本。1983年には、チェコスロバキアのブラチスラヴァ国際絵本原画展で金のリンゴ賞受賞。2006年12月時点で52刷(DVD ASIN B000P5FY2O の内容紹介より)。
1985年制作の劇場用アニメ映画。同年7月13日公開。毎日映画コンクール・大藤信郎賞受賞作。
劇中に登場するすべての文字はエスペラントで、表題のラテン文字表記も「Nokto de la Galaksia Fervojo」としている。主要登場人物を人間ではなく擬人化した猫として描いた設定は、ますむらひろしが(アニメ版のもとになった)漫画化に際して施した脚色で、賢治の実弟である宮澤清六は、当初これに反発したが『校本宮澤賢治全集』の編集者である天沢退二郎らの説得により了承。最終的に作品の仕上がりを評価した。研究者の間でも最後まで「猫」への変更を了としない向きもあった。これはますむらの著書『イーハトーブ乱入記』(ちくま新書)に詳しい経緯が記されている。なお、漫画版ではズボンに靴まで履いていたのに対して、アニメ版では上着だけと衣服の着用は最低限度なものになっている。
また、この映画を観て「宮沢賢治の原作でも登場キャラクターは猫なのだろう」と勘違いする人が少なからず存在する。小谷野敦も、この様な影響を及ぼした事は好ましくないとして批判している。なお、本作にはタイタニック号の沈没をモチーフとした(ただし細部はタイタニックと合致せずあくまで架空の)エピソードが登場するが、この映画の音楽を担当した細野晴臣の祖父(細野正文)が実際のタイタニック号に乗船していたことが公開当時奇縁として紹介された。またこの歴史的な惨事に配慮して、船舶事故のシーンのみ猫の世界ではなく人間世界に起きたこととしてリアルに描かれており、ジョバンニらと旅をともにする青年と幼い姉弟も人間の姿となっている(漫画版ではジョバンニ達と同じく猫として描かれていた)。青年は、ますむらひろしの代表作『アタゴオル』シリーズの登場人物を基にデザインされている。
エンディングで細野晴臣の音楽に合わせて常田富士男が朗読している詩は、詩集『春と修羅』の「序」の一節である。
1986年7月21日にテレビ放送され、13.2%の視聴率(ビデオリサーチ調べ)を記録した。
2007年9月27日の『BSアニメ夜話』(BS2)でこの作品が取り上げられた。
2009年8月13日には『BS夏休みアニメ特選』(BS2)でこの作品が放送された。
地方局では年末になると深夜に放送する事も多く、また制作にテレビ朝日が関わっていたので既に地上波では何度か放送されている。
近年ではBSやCSで再放送される機会が多い。この映画の原作であるますむらひろしの漫画をはじめ、パンフレット、サウンドトラック等のデザインは羽良多平吉が手掛けている。
映画評論家の淀川長治は、公開当時「十年もたつとこれは名作としての生命をよみがえらす」と述べ絶賛、後に自身のオールタイム・ベストムービーランキングの2位に挙げた[要出典]。
2013年3月6日、NHK BSプレミアムで宮沢賢治没後80年を記念した映像作品による特別番組『80年後のKENJI〜宮沢賢治 映像童話集〜』の第5回と第6回として、それぞれ前編と後編が放送された。
2008年、劇団ひまわりのミュージカル。
キャストが女性中心で構成されたベガ公演と、男性中心で構成されたアルタイル公演の2種類の公演が行われた。
2004-2007年、劇団わらび座のミュージカル。
「本作品は多くのミュージカルが制作されてきたが、どれも納得できない」と台本の市川は語る。その反省を踏まえて「原作に忠実に、余計なことを語らない。」をモットーに「今までの脚本家人生で最高の作品のひとつに仕上がった。」とのこと。
2001年、宝塚歌劇団星組のミュージカル。
2012年、ネルケプランニング企画製作のミュージカル。
「銀河鉄道の夜」を題材にしたまったく新しいタイプの 「ソング・ダンス・ミュージカル」。
東京演劇アンサンブル公演、ブレヒトの芝居小屋。世界で初めて上演権を経て上演。初演1982年2月9日–22日(全14ステージ)、毎年クリスマスにブレヒトの芝居小屋にて上演中。
出演:水流梨津美、冨山小枝、松下重人、浅井純彦、熊谷宏平、本多弘典、永野愛理、尾崎太郎 ほか(2015年現在)
こどもの城主催、青山劇場。初演1995年8月3日-7日(全9ステージ)、再演1996年11月23日-30日(全11ステージ)。
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース、1995年のイーハトーボの音楽劇「銀河鉄道の夜」を再生。2020年9月20日-10月4日(全10ステージ)
演劇集団キャラメルボックスの成井豊が宮沢賢治作品を数作品を組み合わせて上演したものの一編。銀河鉄道の夜のエピソードを簡潔に展開、ラストには広く知られている最終稿と言われているエピソードだけではなく、初稿から第3稿に入っているブルカニロ博士の台詞も使用している。
2010年1月21-24日 東京都調布市せんがわ劇場で「調布市せんがわ劇場アンサンブル 第7回公演」として上演された。プロの人形遣と、オーディションで公募された出演者が、半年間のワークショップを経て上演した。
桜美林大学プルヌスホールプロデュース/市民参加企画。2007年の初演より毎年夏に桜美林大学プルヌスホールにて上演。市民と学生とプロのアーティストで創るユニークなステージ。
1957年(昭和32年)初演、木馬座(藤城清治)による影絵劇。1956年 国際演劇参加読売児童演劇祭奨励賞、日本ユネスコ協会連盟賞受賞、1982年 第37回文化庁芸術祭 優秀賞受賞。
劇を撮影して映像化したDVDも発売されている(「藤城清治 銀河鉄道の夜」(2007/7/18、ASIN B000P5FY2O))。
2006年制作。KAGAYA studio 制作、音楽は加賀谷玲。
サンシャインスターライトドーム満天(現、コニカミノルタ プラネタリウム満天)で2006年6月17日から11月12日まで上映されたプラネタリウム番組。上映に際してはプラネタリウムの光学式投影装置は使用せず、デジタルの全天周映像システムのみ使用してドームスクリーンに映像を映し出す短編CG映画のような作りになっている。2007年よりコニカミノルタプラネタリウム、五藤光学研究所、リブラの配給により全国各地のプラネタリウムで上映されている。また、2008年4月より70mmフィルム版がエクスプローラーズ・ジャパンの配給により全国各地で上映されている。サンシャインスターライトドーム満天上映版ではナレーションが女優の室井滋であるが、全国上映版のナレーションは声優の桑島法子と大場真人である。
この作品はDVDで市販もされている。本編の長さについては、上映通常版が38分、短縮版が28分なのに対し、DVDは48分と作りこまれている。
2009年、上映版については場面追加や音響面でのバージョンアップがなされ、コニカミノルタ プラネタリウム満天で上映された(2009年6月20日 - 11月23日)。
VOICE LANDより1996年3月5日に発売。
モモグレより、宮沢賢治生誕111周年記念アルバムシリーズとして2008年12月25日に発売。
Appleが開発したiPad用、iPhone及びiPod touch用のアプリケーションとして2011年から市販されている電子絵本。イギリス人翻訳家による英語版も存在する。4次稿を底本とした全文の絵本化が行われておりApple Japanはこのアプリケーションを国語の教科書アプリケーションに推薦している。
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