『怪物』(かいぶつ)は、2023年の日本映画。監督は是枝裕和、脚本は坂元裕二。主演は安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太。第76回カンヌ国際映画祭において、脚本賞、クィア・パルム賞を受賞した。
怪物 | |
---|---|
Monster | |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 坂元裕二 |
製作 | 川村元気 山田兼司 伴瀬萌 伊藤太一 田口聖 |
製作総指揮 | 臼井央 |
出演者 | 安藤サクラ 永山瑛太 黒川想矢 柊木陽太 高畑充希 角田晃広 中村獅童 田中裕子 |
音楽 | 坂本龍一 |
撮影 | 近藤龍人 |
制作会社 | AOI Pro. |
製作会社 | 「怪物」製作委員会 |
配給 | 東宝 ギャガ |
公開 | |
上映時間 | 126分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
興行収入 | 21.5億円 |
この節にあるあらすじは作品内容に比して不十分です。 |
大きな湖のある街で起きた雑居ビル火災に始まり、物語は3人の視点で描かれる。
シングルマザーの麦野沙織は、息子の麦野湊(みなと)と一緒に消火活動を自宅から眺めていると、不意に彼から「豚の脳を移植した人間は?人間?豚?」と問われる。その後、息子の身の回りで不審な出来事が相次ぐ。
いじめや教師からの暴力を疑った沙織は小学校へ通い詰め、湊の担任である保利道敏や校長らを問いただす。このとき沙織は、他の教員から、校長が最近孫を事故で亡くしたことを知らされる。
一方で保利は、湊が星川依里(より)をいじめているのではないかと疑念を抱いていた。依里の父である星川清高の自宅を訪ねると、「あれは化け物。人間ではない、豚の脳が入っている」と告げられた。しかし最終的には沙織に追い詰められ、依願退職せざるを得なくなる。
湊は、たまたま教室の片付けで一緒になった依里と親しくなる。依里が見つけたという、廃トンネルの先にある捨てられた鉄道車両を二人だけの秘密基地にして、生まれ変わる瞬間という「ビッグランチ(ビッグクランチの誤用)」を迎える準備を進める。
二人っきりで過ごす日々が続いたある日。依里から転校するという事実を告げられ、湊はショックを受ける。
それから何か月もたった、ある日。台風が迫る中で、湊は何日も姿を見せない依里を連れ出し、家を飛び出す。残された作文から真相を悟った保利は、早織と共に後を追った。
是枝裕和にとって『万引き家族』以来5年ぶりの邦画作品である。脚本を手掛ける坂元裕二とは初めてのタッグかつ、監督デビュー作である『幻の光』以来となる自身が脚本執筆をしない一作となった。
2017年5月13日から8月6日にかけて、早稲田大学の演劇博物館で企画展「テレビの見る夢 − 大テレビドラマ博覧会」が開催された。企画展の関連イベントとして、6月28日、早稲田大学大隈記念講堂で坂元と是枝のトークショーが開かれた。トークショーのあと、坂元は一度是枝に脚本を持って行ってみようかという気持ちがわいたという。
2018年、東宝の川村元気と山田兼司は、坂元に「映画の開発をしよう」と話を持ちかけた。「45分くらいの尺感で走り切って、それが3本立てになったらどんな映画になるのか」と川村は話した。監督として是枝の名前を挙げたのは坂元とされる。同年12月18日、川村は是枝に「映画のプロットができたので読んでもらえないか」とメールした。是枝は誰か脚本家と組むならとの質問の際には必ず坂元と即答するほどの大ファンであった。坂元も是枝について「憧れの存在であり、大好きな映画監督。脚本家としての是枝さんも尊敬している」と表現していた。そうした経緯から念願の共同作業が実現した。
脚本は2019年から3年かけて書かれた。是枝は脚本を最初に読んだ時、「この少年2人は『銀河鉄道の夜』のジョバンニとカンパネルラだ」と感じたという。坂元は是枝との対談で「世の中には被害者の物語が溢れているが、加害者の物語はどんどんなくなり、むしろ描くことが困難になってきている。そのなかでどうすれば自分が加害者になって、お客さんに加害者の主観を体験してもらうことができるのかをずっと考えてきた」と述べ、また、インタビューで「私たちは生きている上で、どうしても他者同士お互いに見えていないものがある、それを理解し合っていかなければならない時に直面した場合どういったことが起こるのか、そしてどうすればいいのか、その複雑さを表現するにはどうすればいいのか、長い間苦しみ悩みながら脚本を書きました」と答えている。
脚本は第75回読売文学賞(戯曲・シナリオ賞)を受賞している。
主演を務める4人のうち、黒川想矢と柊木陽太については是枝や坂元も審査に参加したオーディションによって選出された。是枝は黒川と柊木に会うと最初に『銀河鉄道の夜』の話をし、読んでほしい、と言った。
舞台設定は当初、東京都の西側の区域だった。脚本には、町を南北に分ける形で大きな川が流れているというト書きがあった。駅前での火災や、消防車の走行などのシーンの撮影を、東京都が許可しなかったため、千葉県と長野県諏訪地方が候補地に挙がった。ことに長野には「諏訪地方観光連盟 諏訪圏フィルムコミッション」(本部:諏訪市)があり、協力体制が整っていたことから、まずは諏訪に下見に行こうという話になった。2012年にテレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』をロケ撮影を行ったときの信頼感も是枝にはあった。「諏訪圏フィルムコミッション」の宮坂洋介に案内されて行ったのが、2021年3月に廃校となった旧諏訪市立城北小学校だった。是枝は昇降口の吹き抜けや、街と湖が見渡せる教室からの景色を気に入り、撮影地を諏訪に決定した。坂元には「大きな川」を「湖」に変えてほしいと依頼した。是枝はメディアの取材に対し、「全体を貫くテーマと湖を重ねてみようと思った」と述べ、「真っ黒い諏訪湖を見たときに『怪物だ』と感じた」と述べている。
2022年3月19日〜5月12日、7月23日〜8月12日に長野県諏訪地方(諏訪市・岡谷市・富士見町・下諏訪町)の約25カ所でロケーション撮影がおこなわれた。地元の小学生ら約700人がエキストラとして参加した。舞台となる旧諏訪市立城北小学校は、校名もそのまま「城北小学校」として映し出された。秘密基地の廃電車は富士見町の旧瀬沢隧道の付近にオープンセットとして設営された。製作には、富士見町の建設会社「今井建設」が協力した。同社は2011年からテレビドラマ、映画、CMなどのセット造成に関わっており、本作品ではセットの資材の運び入れの方法も発案した。主な撮影場所は下記のとおり。
坂本龍一が音楽を担当した経緯について、是枝は「撮影場所が諏訪に決まって描かれる脚本に風景が明快になった時、夜の湖に坂本龍一さんの曲の響きが重なった」と述べている。映画の編集をしながら坂本の音楽を仮当てし、それに手紙を添えて坂本に作曲の依頼をした。坂本はすぐに是枝へ「全部を引き受ける体力はもう残ってないけど、(仮当てした映画を)観させて頂いたらとても面白くて、音楽のイメージが何曲か浮かんでいるので形にします。気に入ったら使って下さい」と手紙を送り、その後2曲の新曲と一緒に「すでに私が発表している楽曲から自由に使って頂いて構いません」というメッセージを映画の製作陣へ送った。
最終的に完成した映画には計7曲が使用された。内訳は新曲が2曲、1998年発売のアルバム『BTTB』から「aqua」、2009年発売のアルバム『アウト・オブ・ノイズ』から「hibari」と「hwit」、2023年1月発売のアルバム『12』から2曲。
2023年3月28日、坂本は東京都内の病院で死去した。全国公開直前の5月31日、全7曲入りのアルバム『サウンドトラック「怪物」』が発売された。
2023年5月16日、第76回カンヌ国際映画祭が開幕。『怪物』は5月17日に同映画祭で上映された。5月18日、『怪物』の記者会見がカンヌで開かれ、是枝、坂元、安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太が参加した。英国のメディアが、日本映画にみる性的マイノリティ表象の少なさについて質問すると、是枝は「(『怪物』は)LGBTQに特化した作品ではなく、少年の内的葛藤の話と捉えた。誰の心の中にでも芽生えるのではないか」と答えた。さらに是枝は同日、ロイターの取材に応じ、「これらの子供たちの年齢はおそらく、自分たちの性的アイデンティティが十分に形成されていない年齢です。私はそのことにあまり焦点を合わせたくはなかったし、それを特別な種類の関係として考えたくなかった」と述べた。
同年5月27日、カンヌ映画祭が閉幕。授賞式前に発表される独立賞として、LGBTに関連した映画に与えられるクィア・パルム賞を受賞した。そして授賞式で脚本賞を受賞した。クィア・パルム審査員長のジョン・キャメロン・ミッチェルは賞の授与に当たり、「世間の期待に適合できない2人の少年が織りなす、この美しく構成された物語は、クィアの人々、馴染むことができない人々、あるいは世界に拒まれている全ての人々に力強い慰めを与え、そしてこの映画は命を救うことになるでしょう」と述べた。同日、フランスの「ル・モンド」はクィア・パルムに言及。「『怪物』は、二人の少年の間に親密な友情がめばえ、それが愛の関係に発展するというプロットを、非常に謙抑的に描いている。映画はある側面において、2022年のカンヌに出品されたルーカス・ドン監督の『CLOSE/クロース』を思い出させる」と報じた。
同年6月2日、日本で全国公開された。6月5日、全国映画動員ランキングトップ10(6月2日~4日の3日間集計)が発表。『怪物』は初日から3日間で動員23万1000人、興収3億2500万円をあげ、3位で初登場した。6月はプライド月間にあたっていたが、配給に携わる東宝とギャガは性的少数者に言及するパブリシティを行わず、メッセージも発信しなかった。6月30日、英語字幕付きの上映がTOHOシネマズ日比谷など都内3館で始まった。
同年9月10日、第48回トロント国際映画祭で上映された。最高賞の「観客賞」を競うスペシャルプレゼンテーション部門には、『怪物』と濱口竜介監督の『悪は存在しない』が出品された。
This article uses material from the Wikipedia 日本語 article 怪物 (2023年の映画), which is released under the Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 license ("CC BY-SA 3.0"); additional terms may apply (view authors). コンテンツは、特に記載されていない限り、CC BY-SA 4.0のもとで利用可能です。 Images, videos and audio are available under their respective licenses.
®Wikipedia is a registered trademark of the Wiki Foundation, Inc. Wiki 日本語 (DUHOCTRUNGQUOC.VN) is an independent company and has no affiliation with Wiki Foundation.