将棋における名人(めいじん)は、棋士の称号の一つである。江戸時代の1612年から昭和の1937年までは将棋界の最高権威者に与えられた終身位であり、棋界の近代化にあたって短期実力制へ移行した昭和12年(1937年)以降は名人戦におけるタイトル称号となっている。女流名人、アマチュア棋戦の「名人」はそれぞれを参照。
囲碁界と将棋界において用いられている「名人」という称号の起源は織田信長が任命した一世本因坊本因坊算砂(日海)といわれる。算砂はのちに徳川幕府の初代囲碁将棋統括最高位である連絡係に命じられたという。これが現在も各方面で常用される「名人」という言葉の起こりとされることがあるが、ただし、増川宏一『将棋II』(法政大学出版局)によると、鎌倉時代の『二中歴』にはすでに、囲碁と雙六の名人についての記述があるという。
その後、将棋の名人については大きく3つの時代に分けられる。
昭和9年(1934年)、東京日日新聞学芸部長の阿部眞之助が囲碁および将棋の「実力名人戦」を企画し、第十三世名人関根金次郎が受け入れて、昭和10年(1935年)に名人を実力によって選ぶ名人戦が発足した。昭和12年(1937年)12月6日には木村義雄が第1期名人戦の優勝者と決定。昭和13年(1938年)2月11日に関根が名人を退位し、木村の名人就位式を実施した。
実力制による名人位を初獲得した順に代数が与えられる。
称号としての実力制名人は、名人戦制度発足から51年後の昭和63年(1988年)、升田幸三の功績を讃えるにあたって制定された。選定基準は70歳以上で3期(もしくは抜群の成績で2期)以上名人位にあった引退者とされ、現在この称号を冠しているのは、升田幸三(昭和63年(1988年)に襲位)と塚田正夫(平成元年(1989年)に追贈)である。なお、永世名人は「称号としての実力制名人」を冠さない。
1949年の日本将棋連盟の規約改定により、名人位を通算5期以上保持した棋士に「永世名人」の資格を与え、引退後に襲位するようになった。ほかの将棋タイトルの永世称号や囲碁の名誉名人とは要件が異なるほか(例、将棋の永世竜王の要件は5期連続もしくは通算7期、囲碁の名誉名人の要件は5期連続もしくは通算10期など)、将棋の永世名人の場合は「○世名人」という称号となる。代数は家元制(世襲制)および推挙制の数字を引き継ぎ、十四世からとなっている。
大山康晴は名人位通算18期および13連覇など、中原誠は名人位通算15期など、谷川浩司は将棋界への貢献や史上最年少(21歳2か月)での獲得などの偉業を讃え、特例として現役のまま襲位することを許された。
現役当時は名人に在位しなかったが、その功績が名人位に相当する者として、引退後や没後に名人を贈位(追贈)されるものに贈名人や名誉名人がある。また、日本将棋連盟は公認していないが、生前に関西名人と呼ばれた棋士がいる。
没後の顕彰により「名人位」を追贈された者は、以下の2名がいる。
推挙によって名人が襲位していた時代に諸般の事情により襲位できなかったが、のちに日本将棋連盟(または将棋大成会)によって「名誉名人」称号を贈られた者は、以下の2名がいる。なお、升田幸三が実力制第四代名人の称号を贈られる前に「名誉名人」を打診されたが、「名誉名人は名人になれなかった者への肩書きだ。私は名人になっている」として、断っている。
家元制(大橋家・大橋分家・伊藤家)から実力制(日本将棋連盟)への移行期にあたる明治・大正時代には、棋界が統一されておらず、さまざまな将棋団体が乱立することになった。特に大阪では、東京とは異なる独自の棋界運営が行われ、天野宗歩の弟子の小林東伯斎が関西名人もしくは大阪名人と呼ばれていた。 さらに小林の死後、小林の弟子ともいわれる坂田三吉は、大正14年(1925年)に京阪神の財界有力者に推挙されて「名人」を称した(坂田が称したのは「名人」であるが、東京の名人と区別するために、現在では「関西名人」、「大阪名人」などと表記することもある)。しかし、すでにほぼ棋界の統一を終えていた東京将棋連盟(当時)から「名人僭称」として追放され、一時的に孤立することになった。晩年に将棋連盟と和解し、実力名人制の名人戦でも活躍した坂田は、没後の顕彰により日本将棋連盟からも正式に「名人」「王将」を追贈され、大阪・通天閣のかたわらに「王将碑」が建てられた。
なお「関西名人」は、東京将棋連盟を前身とする日本将棋連盟によって統一された現代の将棋界においては非公認のものである。
将棋の名人に関する名言や格言など。
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