インプレゾンビは、X(旧・Twitter)で広告収益を得ることを目的とし、インプレッション(閲覧回数)を増加させるための迷惑投稿を行うアカウントの俗称。ミュートやブロックといった機能を利用しても、また別の投稿に同様のアカウントがゾンビのように湧くことに由来する。リプライ機能を用いるアカウントは「リプライゾンビ」とも称されるほか、インプレッションを増加させるための行為自体は「インプ稼ぎ」(インプレ稼ぎ、インプレッション稼ぎ)と称される。
X(旧Twitter)の有料プランで利用可能な収益化機能(後述)を悪用するものである。閲覧数(インプレッション)を増加させる手口としては、以下のようなものがある。
日本語の投稿であっても、実態は海外ユーザーが投稿したものというケースも多い。
中にはChatGPTやCopilotなどのAPIを利用し、自動化したとみられるアカウントも存在する。
収益化機能導入直後は、無意味な文章・絵文字のみを投稿するようなインプレゾンビが大半であった。しかし、2024年1月ごろには、トレンドに入っているハッシュタグ、拡散された日本語ポストのコピー・アンド・ペーストなどを用いたインプレゾンビ(コピペゾンビ)が目立つようになったと指摘されている。また、ユーザー名も外国語の名前から、日本語を使ったものが増え、プロフィールも日本語アカウントのプロフィールを丸ごとコピペしたものが現れてきている。[要出典]
自動化されている「インプレゾンビ」botの出現トリガー実験によると、「初動の勢い」をとりつくターゲット選択に用いている。
2023年8月より、一定の条件を満たすユーザはX Premium(旧Twitter Blue)に加入することによって、投稿の閲覧回数(インプレッション)に応じて収益を得ることができるようになった。これはX社が広告によって得た収入をXで活動するクリエイターに分配する目的で開始された取り組みである。収益の基準などは非公開ながらも、半年で100ドル前後の収入が得られたと報告するユーザも存在する。
なお、収益分配プログラムの開始前も「パクツイ」によってインプレッションを集めるアカウントはあったが、それらはフォロワー数を増加させて別のサイトへ誘導したり、承認欲求を満たしたりといったものに過ぎなかった。
インプ稼ぎのために行われた偽情報の発信源の一つとみられるパキスタンでは、深刻なインフレによる経済状況の悪化が続いており、仕事のない若者がSNSを利用して収益を得ようとする動きがある。より多くのインプレッションを得るために国外の情報や言語も使用する例があるという。
日本のユーザー1人当たりのX利用時間が世界1位であることや、1日4000万人の利用者がいることから、日本人の投稿がターゲットになっているとの指摘がある。
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、救助を求める実際の投稿をコピー・アンド・ペーストしたものが見られた。NHKの調査によれば、1月5日時点で石川県珠洲市の同じ住所を挙げ、直接関係ない画像・動画を貼り付けた上で救助を求める偽の投稿が30件以上あり、合計で200万回以上閲覧されていた。珠洲市の住所を挙げた投稿に関与したアカウント24件のうち、半数以上が居住地をパキスタンに設定しており、日常的にアラビア語やウルドゥー語で投稿しているものが9件あった。読売新聞の調査によれば、能登半島地震を巡り投稿された偽情報の多くは、海外の10か国以上から発信されていた。
コピー・アンド・ペーストされた投稿では元の発信者が分かりにくくなったり、既に救助済みの住所が拡散され続けたりするといった混乱が発生した。また、救助要請の文面を改変して、被災者本人かのように振る舞うものもあった。
他にも東日本大震災の動画を添付して、能登半島地震による津波であると誤認させる偽情報も投稿されていたり、公共の避難情報や、防災情報を配信するアカウントの投稿にもインプレゾンビによるリプライが寄せられた。
さらに、能登半島地震の翌日に発生した羽田空港地上衝突事故においても、事故に関連したデマやコピー・アンド・ペースト投稿が多数見られ、中には搭乗者による投稿をコピー・アンド・ペーストしたものもあった。
2024年3月19日に、「速報:チャールズ国王が前立腺がんのため75歳で死去。情報筋が報じた」というフェイクニュースが一気に拡散された。これに対し、ITジャーナリストの石川温氏は「X上で今、非常に出現している“インプレゾンビ”という存在が大きい」と指摘し、閲覧数を稼ぐことを目的に、検索に引っかかりやすい単語を羅列していると主張した。
2024年4月3日に台湾東部で花蓮地震 (2024年)が発生し、XなどのSNSでは能登半島地震などこれまでの災害の動画を今回のものだとする誤った情報や偽情報が広がっており、こうした情報を収益を得る目的で投稿する「インプ稼ぎ」も多く見られている。中には、能登半島地震の際に確認された津波の様子や、2年前に台湾で起きた地震の際、地面が揺れる様子を撮影した動画を今回の地震によるものだとする投稿もあり、3日午後5時時点で閲覧回数が170万回以上に上るものもあった。
イーロン・マスク氏のTwitter買収後、以前は認証済みの著名人のみに付与されていた認証済みバッジがTwitter Blue(現在のX Premium)加入者にも表示されるようになった。その後収益化システムの導入によりインプレゾンビが出現し、インプレゾンビに青い認証マークが付与されていることが多いことから、青い認証済みバッジを持つアカウントがインプレゾンビとして認識されるようになった。一般のTwitter Blue加入者にも表示されるほか、一定の条件を満たしたアカウントに自動で付与されることもあり、これらのアカウントがインプレゾンビと誤認される問題が発生した。
前述した能登半島地震における誤情報の拡散を受け、日本政府は、災害時における偽情報は迅速かつ円滑な救命・救助活動の妨げになりかねないものとして、主要な事業者に対して、明らかに事実と異なり、社会的に混乱を招くおそれのある情報の削除などを総務省を通じて要請した。
林官房長官は2024年1月5日の記者会見で、能登半島地震に関する偽情報の投稿の背景に「多数の閲覧やフォロワーを集めたユーザーが収益を得られる仕組みが関連しているとの意見がある」と語った。また、この問題に対し「国際的な動向や表現の自由を確保する観点も考慮したうえで、幅広い関係者の意見を踏まえて必要な対応を検討」するとした。2024年1月17日に日本政府はX(旧Twitter)などでは、能登半島地震関連情報や救助要請の偽情報拡散が救助活動の妨げになるため、該当投稿の削除をXなど事業者に要請していることを明らかにした。作業チームを立ち上げ、閲覧数やフォロワーの数が収益に繋がる仕組みが偽情報拡散の原因との指摘を踏まえ、偽情報拡散に対する制度面を論じることが決まった。
ITジャーナリストの三上洋は、「虚偽の投稿が救助活動を妨害する恐れもあり、人命の掛かった問題。X社は災害を悪用したインプレッション稼ぎができないよう、早急に対策すべきだ」とXの対応を批判した。ジャーナリストの平和博は「本当に必要な情報が届かず、探せない情報空間が濁ってしまう状況が現に起きている」と指摘した。
Xは、災害や戦争に関する投稿などを収益化に利用することを利用規約で禁じているが、特に対策は一切行っておらず、規約が守られていないと指摘されている。
他にもXでは偽情報対策として、誤解を招く投稿に匿名で注釈を付けられる「コミュニティノート」が導入されているが、災害時のインプレゾンビに対しては効果が不十分だったとの批判がある。
Xの日本法人であるツイッタージャパン代表取締役の松山歩は2024年4月に行われた読売新聞とのインタビューにおいて、本問題の原因にもなっている収益分配プログラムについては「今後も続けていく」としながらも、偽情報に関してはAI(人工知能)やアカウントの削除などを活用しながら、対策を強化することを明らかにしている。
総務省の有識者会議はSNS事業者を対象に、偽情報の削除件数や監視体制などの調査を始めた。国内では「表現の自由」を尊重する観点から政府の介入には慎重で事業者の自主性に委ねるのが基本的な立場だったが、今回の事態を受け法制化を視野に議論が進められている。削除義務を課すのではなく、事業者に対し偽情報への対応についての報告を義務化することを想定している。
インプレゾンビのポストを非表示にできる各種のブラウザ拡張機能も有志によって開発されている。また、スパム報告とブロックするという一連の動作を、ワンクリックで行えるようになるブラウザ拡張機能も開発されているが、インプレゾンビ行為を推奨するX社の非公認ツールのため、拡張機能の利用はアカウント凍結の恐れがあるとも指摘されている。
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