風評被害

風評被害(ふうひょうひがい)とは、根拠の不確かな噂や科学的根拠に基づかないデマ等によって被害を受けること。辞書的な意味では主に経済的被害を指すが、一般的な意味はそれに留まらず、風評を受けた人々への差別や虐め、名誉毀損等の人権侵害も含まれる。この記事では「風評加害」についても記載する。これらをまとめて情報災害とも呼ばれる。

概説

風評被害が起こる原因は、国内外のマスコミによる不安や怒りを煽る情報の拡散や、政治家・政党およびその支持者、市民団体活動家などによる政治的利益を狙った発言やデモ(パフォーマンス)である。また、科学的な安全性やメリットがいくら説明・証明されてもそれをあまり報道・拡散せず、逆に科学的な説明や根拠を軽視するマスコミの報道姿勢や、世論への強大な影響力を持つにも拘わらず風評被害防止の責任を放棄するマスコミの当事者性の欠如も、風評被害の原因となる。

SNS等のネット上で報道への批判が起きたり、政府や省庁等の行政機関が報道内容を否定したり、ネット記事や週刊誌が報道を批判したりすることで風評被害をある程度抑えられることもあるが、これを抑えられなかった場合、時には毎年数千人の死亡を招くなど極めて深刻かつ重大な情報災害にも繋がる。

上記のように科学的根拠の無視・無理解によるデマや不安を拡散する行為を「風評加害」、その行為をするマスコミ、政治家や政党およびその支持者、市民団体や活動家などを「風評加害者」と呼ぶ。

日本における風評被害・風評加害

日本で「風評被害」という言葉が一般に使われるようになったのは、ナホトカ号重油流出事故などが発生した1990年代後半に入って以降である。関谷直也は国会議事録の初出として、1956年3月に参議院で行われた曽祢益(当時日本社会党所属)議員の「ビキニ・マグロという風評」による間接被害に関する答弁を挙げている。

東日本大震災以後

「風評被害には加害者もいる、一般市民もその行動次第で加害者になる」という考えは東日本大震災直後から語られており、2020年代になると風評被害を広める言論人やマスメディアの加害性を重視、むしろそれらが積極的に風評を広めているとして『風評加害』『風評加害者』という言葉も大きく認知された。一方でそれに対する反発も新聞記者らから語られた。環境省は2022年9月1日の、 ラジエーションカレッジセミナーを開催するとの報道発表資料の表題を「伝わる表現力を試してみませんか ~風評加害者とならないために~」とした。

政党や支持層との関係

計算社会科学者鳥海不二夫東京大学大学院教授は、処理水放出に対する賛否と、それに伴う風評被害に対する考え方について、党派性が高い点を指摘している。鳥海は、2023年7月の日本のSNS投稿を分析し、処理水放出の賛否と支持政党の関連性を報道した。ただし、衆参で3議席を持つ「社会民主党」は調査対象外であり、その他の9つの国政政党が調査対象である。

その結果、処理水放出に反対しているのは「れいわ新選組」「日本共産党」「立憲民主党」の支持者アカウントが突出しており、逆にその他のアカウントから放出反対の投稿はほぼゼロであった。さらに、立憲民主党支持の投稿を5回以上拡散したアカウントの80%以上が共産党とれいわ新選組の投稿も5回以上拡散するなど、この3党は支持者の結び付きがかなり強い(あるいは支持者が重複している)ことも判明した。そして「処理水放出賛成派」の投稿は約30%が風評被害に関して言及しているのに対し、「処理水放出反対派」は投稿の4.6%しか風評被害に関する言及がなかったため、放出反対派は福島の人々が受ける風評被害を心配しているのではなく、単に科学的根拠の無視・無理解による主張を拡散していることも判明した。この結果について鳥海は「処理水放出反対派のイデオロギーは、科学的根拠よりも強い」ことを指摘している。

風評被害への対策

2011年、公正取引委員会が、東日本大震災に伴い、実害(のうち主として独占禁止法関連の事象)と共に風評被害の一部についても下請法を根拠に対処に当たった。また、経済産業省の医療機器分野の研究会において、風評被害が製造物責任法と共に、製造者にかかるリスク・コストの一つとして検討された事例がある。

風評被害の事例

1983年以前

1984年

  • 辛子蓮根による集団食中毒事件が発生、36名が中毒症状を起こし、内11名が死亡した。食中毒を発生させた辛子蓮根製造業者の株式会社三香の杜撰な衛生管理が原因だったのだが、連日の報道により全く無関係の辛子蓮根製造業者までも風評被害を受け、休業・廃業に追い込まれるなど、辛子蓮根業界全体は多大な影響を受けた。

1985年

  • 豊田商事事件の影響で名称が似ている豊田通商トヨタグループ)や、同名の豊田商事(山口県販売業者。創業者の名字が由来でトヨタグループとは無関係)に対する風評被害。
    • そもそも事件を起こした豊田商事の名はトヨタグループであると錯覚させるために創業者永野一男が意図的に名付けたものである。

1986年

1989年

1993年

1995年

1996年

  • 大阪府堺市学校給食による学童の腸管出血性大腸菌集団感染により死者3名が発生した堺市学童集団下痢症事件で、「原因食材としてカイワレ大根が疑われる」という厚生省(現・厚生労働省)の中間発表(疫学調査によりカイワレが有意となった)により、カイワレ業界が壊滅的な打撃を受け、中には自殺する農家もいた。この事件以降、カイワレ大根の保管には新たに規定が設けられた。

1997年

  • ナホトカ号重油流出事故によって、日本海沿岸の海洋が広範囲に亘り汚染された。これにより、カニシーズンを迎えていた加賀若狭北近畿山陰の各観光地で予約客のキャンセルが相次いだ。カニは海底に棲息するので重油被害を受けることはほとんどなく、また事故以前に水揚げされたものや、冷凍品のストック、その他の産地より直送されたものもあったため、事故とは無関係であると漁協や旅館組合が盛んに安全性をPRしたが、風評被害は免れず、一帯の観光客入り数は例年の半分以下に激減した。
  • テレビアニメポケットモンスター放送事故であるポリゴンショックが発生した。これによって、実際はピカチュウの放った光が原因であるにもかかわらず、ポリゴンが風評被害を受けて以降ポケモンの作品にほとんど登場しなくなった。

1999年

2001年

  • アメリカ同時多発テロ事件の影響により、沖縄旅行を取り止めた人は、平成13年度末までで、修学旅行17万人、一般旅行5万人、合計22万人と言われている。特に修学旅行の中止が多いのは、文部科学省が9月28日付けで各都道府県教育委員会に送付した「海外修学旅行先では米軍施設に近寄らないように」という内容の通達がきっかけである。これを受けた一部の教育委員会が、地域の公立校へ情報を転送する際「米軍基地がある韓国沖縄への修学旅行は特に注意するように」という情報を追加したため、キャンセルが相次いだ。10月10日、この事態を受けた観光業界団体が文部科学省初等中等教育局へ抗議を行なった結果、あらためて、沖縄への修学旅行を予定通り実施することと、海外への修学旅行の中止に伴う代理地として沖縄を検討することを薦める通達が出された。

2003年

2004年

  • 鳥インフルエンザに感染した疑いのある鶏肉鶏卵が京都府、滋賀県、大阪府に流通したとされ、健康被害などは発生しなかったにもかかわらず、鶏肉の売り上げが減少。
  • 新潟県中越地震により、佐渡島など被害軽微な地域にも旅行キャンセルが殺到し、観光客が激減。

2005年

  • 3月22日、カリフォルニア州の女が、ファーストフード店「ウェンディーズ」の料理の中に『人間の指が入っていた』と訴え、メディアの報道が過熱した。調査の結果、この女は過去にも他店に対して同様の訴訟を起こしており、この事件も産業事故で失った知人の指を女自らが混入させたものと判明。女は逮捕されたが、「ウェンディーズ」は風評被害により約250万ドルの経済損失が出た。

2006年

  • 1月3日、平成18年豪雪により、新潟県南魚沼郡湯沢町の有名スキー場など3か所で雪崩が起きた。翌々日には一部のリフトを除いて営業を再開したが、報道により「湯沢町全体のスキー場が全部危険である」という印象が広まり、安全が確認されているスキー場にも予約のキャンセルが相次いだ。

2008年

  • 6月14日に発生した「岩手・宮城内陸地震」において、大崎市では一部地域に被害が集中したが、不適切な報道により「大崎市全体が危険である」との印象がもたれ、被害が軽微だった鳴子温泉郷でも観光客による宿泊の取り消し(キャンセル)が相次いだ。

2010年

2011年

福島第一原子力発電所事故による風評被害

3月11日に発生した東日本大震災を発端とした福島第一原子力発電所事故が原因で、避難民が放射能検査を要請される、タクシーへの乗車を拒否される、いじめに遭うなどのケースが発生。同様に工業製品への風評被害も存在するほか、被曝を恐れてトラックドライバーが(原発事故とは無縁の)被災地に入ろうとせず結果として救援物資が被災者に行き渡らないというケースがおきた。また風評被害を受けたとする住民やケアセンターの従業員の苦悩ぶりが報道番組などより明らかとなり放送されたケースもある。更には農作物への風評被害があったとの主張もある。

2021年5月23日にオンラインで開催された「福島、その先の環境へ。」対話フォーラムにおいて、登壇者で東京大学大学院情報学環准教授開沼博は「風評の原因になるような理屈とか言葉とか、そういったものを風評加害と呼ぶ」と発言、また同じく登壇者で環境大臣小泉進次郎も同調して「私は風評加害者にならないこと」と発言した。2021年9月3日には朝日新聞がこの「風評加害」「風評加害者」という語について論ずる記事を発表している。

スペイン産キュウリ

5月にドイツ北部を中心に起きている腸管出血性大腸菌感染事件で5月26日、ハンブルク市当局により、感染源がスペイン産のキュウリであると発表された後、その後キュウリが原因ではなかったと発表された。これによる風評被害に対してホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロスペイン首相などは損害賠償を請求する意向を示しており、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はEUが財政支援を行うと述べている。

2018年

2019年

2020年

2022年

2023年

2024年

  • 1月1日に発生した能登半島地震に伴い、支援物資到着の遅れや救助・救援活動の支障になる事から個人による能登地域(内灘町以北)への不要不急の来訪は控えるように石川県が呼び掛けた。しかし、震源奥能登)から離れており、被害も比較的軽微だった加賀地域(金沢市以南)の宿泊施設でも観光客による宿泊のキャンセルが相次ぐ風評被害が発生したことから、石川県出身者などが加賀地域への観光を呼び掛ける事態になった。
  • 3月、小林製薬が製造・販売している紅麹を配合したサプリメントを摂取した人に健康被害が発生していることが発覚。更に同社の紅麹を他社にも原料として供給していることが報じられた。このため、小林製薬とは無関係の企業で製造された紅麹を使用している企業にも問い合わせが殺到するなどの風評被害が発生した。

関連項目

脚注

注釈

出典

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