ミンククジラ: ナガスクジラ科ナガスクジラ属のクジラ

ミンククジラ(Balaenoptera acutorostrata)は、ナガスクジラ科ナガスクジラ属に属するヒゲクジラの一種である。

ミンククジラ
ミンククジラ
Balaenoptera acutorostrata
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
ミンククジラ: 分類, 名称, 形態
* ワシントン条約附属書I(西グリーンランド海域群のみ附属書II)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
階級なし : クジラ目 Cetacea
亜目 : ヒゲクジラ亜目 Mysticeti
: ナガスクジラ科 Balaenopteridae
: ナガスクジラ属 Balaenoptera
: ミンククジラ B. acutorostrata
学名
Balaenoptera acutorostrata
Lacépède1804
和名
ミンククジラ
コイワシクジラ
英名
Minke Whale
Lesser Rorqual

分類

ナガスクジラ科コククジラ

他のクジラ

クロミンククジラ

ミンククジラ

ドワーフミンククジラ

キタタイヘイヨウクジラ

キタタイセイヨウクジラ

本種はかつてはクロミンククジラと単一の種「Balaenoptera acutorostrata」とされたうえで、生息する海域によって北半球のオホーツク海‐西太平洋系群などに分けられていた。

現在ではこれらは別種とされ、既存学名を引き継いだ北半球の「B. acutorostrata」は英名では「Common Minke Whale」とされる。

また、北半球の「B. acutorostrata」については、「キタタイセイヨウミンククジラ」と「キタタイヘイヨウミンククジラ」の2亜種に分けられることがある。

さらに、南半球に確認された矮小型の「ドワーフミンククジラ」を加えた3亜種 とされることもある。

名称

ミンククジラ: 分類, 名称, 形態 
骨格

陸上動物のミンクとの関連は無く、名前の由来は19世紀にこの鯨種をシロナガスクジラと誤認したマインケ(Meincke)というノルウェー人の鯨取りの名が訛ったものではないかとされており、マインケが誤認を他の鯨取りから冗談交じりに揶揄されたことによる命名だと思われる。

なお、英語の「minke whale」は「ミンキー・ホエール」と発音する。

和名については、イワシクジラにちなんだ「コイワシクジラ(小鰯鯨)」とも呼ばれる場合があるが、イワシクジラと特に近縁という訳ではなく、日本語でも「ミンククジラ」の方が現在では多用されている。

形態

ミンククジラ: 分類, 名称, 形態 
ヒトと比較した大きさ

ミンククジラは、現生のヒゲクジラ亜目の中ではコセミクジラに次いで2番目に小さい鯨種である。

成獣ではオスで平均体長6.9メートル、メスで7.4メートル、報告された最大の数字はそれぞれ10.7メートルと9.8メートルである。成獣の体重は平均して7トンから8トンの範囲となる。誕生時の体長は2.4から2.8メートルとされる。

ミンククジラ2種は、1960年代の南極海での試験操業で確認されるまでは同一の種とみなされており、極端な違いはみられない。(ナミ)ミンククジラの手鰭には白い模様があるが、クロミンククジラの手鰭に模様はなく、それが顕著な外観の違いとされる。遺伝子レベルで(ナミ)ミンククジラに近いとされるドワーフミンククジラは、外見でも手鰭に白い模様がみられる。

生態

ミンククジラ: 分類, 名称, 形態 
ブリーチングステルワーゲンバンク国立海洋保護区
ミンククジラ: 分類, 名称, 形態 
水中のドワーフミンククジラ(グレートバリアリーフ
ミンククジラ: 分類, 名称, 形態 
人間を観察する個体(スピッツベルゲン島

ミンククジラは他のヒゲクジラ同様、高緯度海域の摂食域と低緯度海域の繁殖域の間で大回遊を行うが、一部の個体は北極海付近や富山湾黄海など、餌が豊富な海域に通年滞在する可能性がある。また、例外的に南極海で越冬するミンククジラもいるが、これがどの亜種かは不明である。

分布も広く、沿岸部や浅瀬にもよく見られ、瀬戸内海バルト海の様な陸地に囲まれた海域に入る事も散見され、中には黒海モントリオールに到達した事例もそれぞれ複数存在する。しかし、本種もドワーフミンククジラもクロミンククジラも、決して全ての沿岸域に普遍的に見られるわけではなく、たとえば地中海に入ることは少なく、北半球南半球共に温帯や亜熱帯や熱帯の沿岸域で普遍的に確認される地域は上記のグレートバリアリーフの様に限定的であるなど、回遊自体が少ない海域も数多い。概して、比較的に観察が多いのは、極海から亜寒帯にかけての比較的に寒い海域や温帯の一部である。

妊娠期間は10か月程度であり、生後5か月ほどは哺乳によって成長する。日本海東シナ海などに分布する絶滅危惧の「J-Stock」は、夏に繁殖・出産をするという極めて特異な性質を持つとされている。

自然界における平均的な寿命は50-60年程度と考えられている。

頻度は多くないが、ブリーチング・ヘッドスラップ(ジャンプ)やスパイホッピングなどの海面行動(英語版)を行い、ナガスクジラ科においてこれらの行動を行う頻度はニタリクジラカツオクジラと共に、ザトウクジラに次いで多い。ただし、テイルスラッピングやペックスラッピングなどの行動は行わず、潜水時に尾びれを持ち上げる(フルークアップ)事もない。

体は小さいが遊泳速度は現生のヒゲクジラ類でもかなり速い部類であり、時速30km/hに達することもある。

体が小さくて派手な行動を見せる事も少ないが、沿岸でもよく見られ、好奇心が強く、(捕鯨による影響を受けていない場合は)人間や船舶に近づき、人間を観察しようとする事も少なくないため、ホエールウォッチングの対象とされる事も多く、例えばオーストラリアグレートバリアリーフでは、ドワーフミンククジラと共に遊泳するツアーが人気である。

主な天敵は、シャチ、大型のサメ人間であるが、ザトウクジラがミンククジラをシャチから救助した事例も存在する。

生息数

ミンククジラの生息数は、国際捕鯨委員会(IWC)によると、南半球における1985-90年の調査でクロミンククジラは72万頭程度 とされていたが、1992年-2003年の調査では51.5万頭程度まで減少している。

北西太平洋とオホーツク海では1989-90年の調査で2.5万頭程度、北大西洋中部及び北東部については、2002年から2007年の調査によると8.1万頭程度と推定されている。IWCのHitter・Fitterプログラムにより北西太平洋のミンククジラの資源量は比較的高位状況にあり近年増加傾向にあると分析されている。ただし、IWCによる北西太平洋とオホーツク海の生息数推定については、日本の研究機関は過少な推定値と主張している。

しかし一方で、日本哺乳類学会は生存数が1,500頭前後と推測される、日本海黄海渤海東シナ海などに分布する「J-stock」の保護を提言しており、国際自然保護連合もJ-stockの商業捕鯨に重大な懸念を示している。

2007年に、アイスランドの海洋研究所はミンククジラが「2001年以降に激減した」という調査結果を発表した。グリーンランド西方海域については、2007年の調査では1.7万頭と推定されている。

人間との関係

捕獲と保護

日本列島において、古来からの鯨類と人間の関係は決して捕鯨に限定されていたわけではなく、クジラを神聖視して捕鯨を禁止する風潮も強かったとされている。

本種およびクロミンククジラも「ボン条約」の保護対象種に指定されているが、クロミンククジラは近年まで日本による「調査捕鯨」の対象になっており、北半球のミンククジラは現在もいくつかの国々による商業捕鯨の対象となっている。

小松正之が2001年に「(本種やクロミンククジラは)海のゴキブリである」という旨の発言をしたことにより、本種をはじめとする鯨類による「害獣論」を支持する風潮が見られる様になるなど捕鯨論争が拡大した。しかし、この「鯨食害論」の理論的正当性については国内外から様々な批判を受けており、2009年6月の国際捕鯨委員会の年次会合にて、当時の日本政府代表代理(森下丈二水産庁参事官)が鯨類による漁業被害(害獣論)を撤回している。

日本では主に戦後以降に獲られ、1985年の商業捕鯨モラトリアム以降では、ノルウェーによる商業捕鯨日本による調査捕鯨、グリーンランド先住民による生存捕鯨の3形態を中心に捕獲が行われている。IWCの統計によると、2007年には、ノルウェーが商業捕鯨として北大西洋で597頭、日本が調査捕鯨として759頭、アイスランドが北大西洋で商業捕鯨6頭 と調査捕鯨39頭、デンマーク領グリーンランドの先住民が169頭(うち西部167頭・東部2頭)を捕獲した。

2019年7月の日本の商業捕鯨再開に際し、水産庁が設定したミンククジラの年間捕獲枠は171頭となっており、引き続き捕獲対象となる。しかし、上記の通り、「J-Stock」が捕獲される可能性が重大な懸念要素として挙げられており、これまでも数多くの「J-Stock」由来の個体が捕獲されてきた可能性がある。

ドワーフミンククジラは日本の調査捕鯨の研究調査により、亜種に分類され、以後捕獲対象から外されている。

日本と韓国は、定置網で偶然に混獲されたミンククジラの食用などへの利用も許可しており、日本では年間100頭ほどが水揚げされている。しかし、日本でも韓国でも、「混獲」という状況を利用して意図的に捕獲する疑似的な捕鯨が横行する懸念が指摘されてきた。上記の「J-Stock」も混獲の犠牲になる可能性が高い。2010年代から韓国政府は本種を対象とした密猟の積極的な摘発を開始し、2021年には鯨類福祉の向上政策の一環としてミンククジラを法的に保護して混獲も含めた肉の流通の禁止を宣言したが、蔚山広域市の長生浦の食品業界の関係者など一部の住民が抗議をしている。

アラスカでは本種とザトウクジラが、原住民による「生存捕鯨」によって無許可で捕獲されていたことも判明している。

なお、ミンククジラに限らず鯨類は概して高次捕食者であるために環境汚染に由来する汚染物質が体内に蓄積されやすく、地球温暖化などによる生息環境の悪化による生態への影響も懸念されている。北太平洋のミンククジラにも、20%のオスの精巣に異常が発生している可能性があるとされており、また汚染物質の影響から一部の皮質が食料に不適切であるために流通されていない。

ホエールウォッチング

上記の通り、生息数が多い地域ではホエールウォッチングの対象とされる事も少なくなく、オーストラリアグレートバリアリーフはミンククジラ(ドワーフ種)と共に遊泳する事ができる唯一の海域として知られている。日本列島では、主に北海道の各地とくに知床半島網走室蘭噴火湾)で商業的なホエールウォッチングの対象になっており、それら以外でもほぼ全域の沿岸に出現するが、北海道以外の場所ではツアー中に偶発的に観察される場合があるものの主立ったホエールウォッチングの対象にはなっておらず、たとえば津軽海峡を利用する個体の一部がカマイルカのウォッチングで知られる陸奥湾にて観察されたり、本州以南のウォッチングツアー中に偶発的に目撃される程度である。

なお、日本の様な捕鯨国では、商業捕鯨によってウォッチング業に支障が出る可能性もある。

飼育

ミンククジラとコククジラとライスクジラ(英語版)は、ヒゲクジラ類で飼育記録が存在する稀有な種類であり、ミンククジラの場合は、同程度の大きさの鯨種であるシャチの飼育に使われるような、大型の飼育施設が必要となる。

過去には日本の伊豆・三津シーパラダイスにおいて、1938年、1954年5月、1955年11月に飼育した実績があり、1955年の例では37日間の飼育の後に逃亡されている。伊豆・三津シーパラダイスは1982年にも、保護個体を短期間飼育している。

現在は、ミンククジラを飼育している施設は存在しないが、和歌山県太地町にて『森浦湾くじらの海』という本種をふくむ飼育展示プロジェクトが企画されたこともある。

脚注

注釈

出典


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