フライ・バイ・ワイヤ(英語: Fly by wire, FBW と略される)とは、航空機等の操縦・飛行制御システムの1種。直訳すると「電線による飛行」。航空機の従来の手動飛行制御を電子インターフェースに置き換えるシステム。
飛行制御装置の動きは、ワイヤによって送信される電子信号に変換され、飛行制御コンピューターは、各制御面でアクチュエータを動かして、順序付けられた応答を提供する方法を決定する。機械式飛行制御バックアップシステム(ボーイング777など)を使用することも、完全なフライ・バイ・ワイヤ制御を使用することもできる。
フライ・バイ・ワイヤ以前の機力操縦システムでは、パイロットが操縦桿(輪)やラダーペダルに与えた入力は、金属製のロープ(鋼索、この分野における「ワイヤ」との呼び分けでは「ケーブル」と呼ぶ)、ロッド、滑車による機械的リンクを経由して直結、あるいは油圧式や電動式、空気圧式等のアクチュエータの補助により、補助翼・昇降舵・方向舵などの操縦翼面が動かされていた。自動操縦も自動操縦装置がケーブルなどへ機械的入力を与えることで達成されていた。
フライ・バイ・ワイヤでは、パイロットの操作をセンサーによって感知し電気信号で伝え、アクチュエータを動作させ操縦翼面を操作するものである。実際には、パイロットの操作はコクピットにある発信器と人工感覚装置で電気信号に変換され、機体にかかる加速度や傾きを検知するセンサとコンピュータを組込んだシステムを介して、アクチュエータへ電線で伝達されており、操縦者の感知能力を補うことができるシステムとなっている。操縦桿や方向舵ペダルは操縦者の操縦信号をコンピュータに入力するためのものとなるため、今までの操縦システムでの重さと操舵量の2つの機械的入力が不要となり、加える力の大きさの入力信号だけで十分となる。
従来の操縦システムにおいて、航空機の姿勢を変える場合には機体ごとに異なる量の当て舵を操縦士が適切に当てる必要があったが、フライ・バイ・ワイヤでは、コンピュータが計算して必要な分だけ当て舵を取ることが可能となり負担が軽減された。また飛行性能が良くても、操作性や安定性が悪く操縦が困難な航空機を実用化することが可能となった。
アナログコンピュータを使用した初期のものはアナログFBW、デジタルコンピュータを使用するものはデジタルFBWと呼ばれる。また電気信号を伝える電線を複数にして、多重系にすることにより冗長性を持たせている。
おおむね以下のような利点と欠点がある。
FBWへの移行の前段階として、CAS(コントロール増強システム)と呼ばれるものがある。操縦桿およびフットペダルの操作を電気信号に変換して各動翼の油圧サーボ・シリンダを作動させるもので、コンピュータによる飛行制御を補助として用いるものである。FBWほどの効果は得られないが、コンピュータとリンク機構の片方が故障しても操縦可能という利点がある。F-15など第4世代ジェット戦闘機の一部に採用されている。
1930年代にソビエトのツポレフANT-20は、最初にサーボ電気で作動する操縦でテストされた。機械的および油圧接続の長時間の実行は、ワイヤおよび電気サーボに置き換えられた。
1941年、シーメンスのエンジニアであるカール・オットー・アルトファーターは、航空機が電子インパルスによって完全に制御されるハインケル He111用の最初のフライ・バイ・ワイヤ・システムを開発およびテストをした。
1934年、カール・オットー・アルトファーターは、航空機が地面に接近したときにフレアさせた自動電子システムについて特許を申請した。
1958年に、フライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムを使用して設計および飛行された最初の試作航空機は、アブロ・カナダ CF-105 アロー。
60年代初頭から中期にかけて、英国では、2人乗りのアブロ 707Cは、機械的バックアップを備えたフェアリーシステムで飛行した。機体が飛行時間を使い果たしたときにプログラムは縮小された。
1964年に、月面着陸試験機(LLRV)が、機械的なバックアップなしでフライ・バイ・ワイヤ飛行を開拓した。制御は、3つのアナログ冗長チャネルを備えたデジタルコンピュータを介して行われた。
1968年に最初に飛行したアポロ月面着陸試験機(LLTV)は、機械的または油圧バックアップのない最初の純粋な電子フライ・バイ・ワイヤ航空機である。
1969年、コンコルドは、最初のフライ・バイ・ワイヤで製造された民間旅客機である(アローは5機の製造でキャンセルされた試作機)。このシステムには、ソリッドステートコンポーネントとシステムの冗長性も含まれ、コンピューター化されたナビゲーションと自動検索および追跡レーダーと統合するように設計され、データのアップリンクとダウンリンクを使用して地上制御から飛行可能であり、パイロットに人工的な感触(フィードバック)を提供した。
1972年に、米国のNASAによってテスト航空機として電子的に改造されたF-8 クルセイダーは、機械的バックアップのない最初のデジタルフライバイワイヤー固定翼航空機。F-8は、アポロのガイダンス、ナビゲーション、および制御ハードウェアを使用していた。ほぼ同時に、ソ連で初めてのフライ・バイ・ワイヤのスホーイT-4も飛行した。また、イギリスでは、ロイヤル・エアクラフト・エスタブリッシュメントで改造されたホーカー ハンター戦闘機のトレーナーバリアントが、右席パイロット用のフライ・バイ・ワイヤ飛行制御を備えた。
1988年に、エアバスA320は、デジタル・フライ・バイ・ワイヤ制御を備えた最初の旅客機としてサービスを開始した。
フライ・バイ・ワイヤは、元々はアポロ計画での月着陸船やVTOL機などの空気力により安定を得られない宇宙船や航空機に使用されていた装置であったが、その後、超音速機の運動性向上や大型機の経済性向上の手段として採用されている。以下に採用例を示す。
軍用機では、試作のみで終わった大型戦闘機・CF-105 アローがデジタルFBWを採用していた。
実用機ではF-16に初めてアナログFBWが搭載された。F-16はCCV技術の導入により運動性の向上が図られており、以降の多くの戦闘機で同様の技術が採用されるようになった。F/A-18は実用機として初めてデジタルFBWを搭載し、F-16も後にデジタルFBWに換装された。
F-16以前においても、F-15の場合、機械系統が戦闘などで破損しても、前述のCASを通じて問題なく操縦が可能になっており、完全なデジタルFBWの一歩手前の状況まで来ていた。ただしCASはFBWと異なり1重のシステムであり、故障時を考慮して制御範囲を最大舵角の数%程度に抑えていたため、機体それ自体の安定性を放棄するCCV技術の導入は不可能であった。またF/A-18も機体の設計それ自体はF-16よりも古く、また機械的操縦機構をバックアップとして備えており、CCV技術の導入はされていない。
日本ではP2V-7にアナログFBWを搭載した可変特性研究機が開発され、データ収集が行われた。
エアバスはA320で、旅客機として初めてデジタルFBWを採用した。同時に操縦桿はジョイスティック型となり、操縦席の脇に配置された。以降のA330・A340・A380などでも踏襲されている。エアバスではボーイングに比べるとコンピュータによるプロテクション機能を優先しており、その点も含めた設計思想の違いはたびたび議論の的となっている(前述のエールフランス296便事故や中華航空140便墜落事故を参照)。
マクドネル・ダグラスはベストセラー三発機DC-10の拡大型であるMD-11においてFBWを採用。DC-10に比して水平尾翼面積を30%削減して燃費の向上を計ったが、ETOPS認定で双発機での長距離路線が可能になったことで販売が伸び悩む。他の旅客機も軍需も振るわず窮地に陥った同社は、後にボーイングに吸収されることになる。
ボーイングは777で初めてデジタルFBWを採用した。形状は従来と似た操縦輪であり、エアバスのようなジョイスティックではない。プロテクション機能はあるものの、操縦感覚が重くなることでパイロットに注意を促すだけで、それ以上の力を操縦桿に加えれば、プロテクション機能を越える操縦をすることもできる。これは空中衝突などを避けるための急激な回避行動を取れるようにするための措置で、安全性に劣るということではない。
他にはイリューシンのIl-96、ボンバルディアのCRJシリーズ、エンブラエルのエンブラエル E-Jet(アナログFBW)などの例がある。
ヘリコプターの操縦システムは、リンク機構やリンク機構を介して油圧アクチュエータを作動させることにより、メインローターやテールローターのブレードを動かす機体がほとんどであるが、フライ・バイ・ワイヤを採用しているものもある。例としてNH-90では、メインローターとテールローターをフライ・バイ・ワイヤによって制御する、また、メインローター、テールローター、エンジンの動きをモニタリングするセンサーと機体の姿勢を検知するセンサーからの情報を、FBWの飛行制御コンピュータにフィードバックすることにより機体を安定させるようになっている。
民間機では、ベル・ヘリコプターが開発中のベル 525がフライ・バイ・ワイヤを採用し、サイクリック・レバー(操縦桿)をサイドスティック式に配置している。
純然たるヘリコプターではないが、ティルトローター機であるV-22やAW609は固定翼機モードと回転翼機モードの間を転換する途中で飛行特性や機体の制御方法が変化することもあり、操縦系はコンピュータによって制御されたフライ・バイ・ワイヤによるもののみとなっている。
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