ゲリラ豪雨: 突発的な局地的大雨

ゲリラ豪雨(ゲリラごうう)は、集中豪雨の一種。正式な気象用語ではなく、突発的で天気予報による正確な予測が困難な局地的大雨を、軍事用語のゲリラ(奇襲を多用する非正規部隊)に例えた表現で、従来から使用されていた驟雨(にわか雨)や集中豪雨、夕立といった言葉をマスメディアが代用する形となった。2008年には新語・流行語大賞トップ10に選出されている。局地豪雨、ゲリラ雨、ゲリラ雷雨などの呼び方もある。

ゲリラ豪雨: 使用例と普及, 対策, 用語に対する批判意見
ゲリラ豪雨
ゲリラ豪雨: 使用例と普及, 対策, 用語に対する批判意見
高降水型スーパーセル

集中豪雨・ゲリラ豪雨・夕立は、気象学での定義づけは明確になされておらず、日本でのみ用いられる。日本の気象庁は予報用語としてゲリラ豪雨は用いず、集中豪雨と「局地的大雨」、または「短時間強雨」などの用語を雨量などに応じて使い分けている(参考 : 集中豪雨#にわか雨と局地的大雨・集中豪雨の違い)。

使用例と普及

1970年代〜

「ゲリラ豪雨」という用言の初期の使用例には、1969年8月の『読売新聞』がある。

1960年代までは気象災害による死者、負傷者の最大の原因は台風だった。しかし伊勢湾台風(1959年)後に災害対策基本法が制定され、防災のためのインフラストラクチャーが整ってくると、接近時期や進路が事前に予測しやすい台風の被害は減少していった。

その一方で、梅雨前線などにより、夏季を中心として集中豪雨の被害が目立つようになった。そして従来の気象台による粗い観測網では予測困難な集中豪雨に対し、「ゲリラ豪雨」の名称が用いられるようになった。ゲリラの語には突然発生すること、予測困難であること、局地的であること、同時多発することがあることなどのニュアンスが含まれている。

このような集中豪雨の発生を捕捉するために、1970年代アメダス観測網の整備が行われた。また気象衛星ひまわり」により、日本上空のの動向を網羅的に把握できるようになった。数値予報の精度向上も集中豪雨の発生の予測に大きな役割を果たした。このようにして梅雨前線に伴って発生するような集中豪雨では全くの不意打ちになることは少なくなった。

1999年7月21日に東京都区部で発生した、いわゆる練馬豪雨(被害範囲は新宿区杉並区足立区も含む)では、練馬区役所で1時間あたり91ミリの降雨を記録した。この豪雨の被害は、死者1人、重傷者1人、軽傷者2人、床上浸水493棟、床下浸水315棟に上った。周辺では豪雨はおろか雨自体が降っておらず、降雨範囲は極めて狭かった。

2000年代以降

2006年頃から広く用いられるようになった理由としては、マスメディアや民間気象予報事業者によって、予測困難と思われる「局地的大雨」に対して用いられるようになってきていることが考えられている。

これらの豪雨は、10km四方程度の極めて狭い範囲に、1時間あたり100mmを超えるような猛烈な雨が降るが、雨は1時間程度しか続かないという特徴がある。これは前線に伴って次々に積乱雲が発生・通過して大雨になる集中豪雨とは、明らかにタイプが異なる。都市の下水道は一般的に最大降水量として1時間に50〜60mm程度を想定しているため、これを超える雨量では、短時間であっても処理しきれずに都市型洪水を発生させる。このような豪雨は、ヒートアイランド現象地方風によって積乱雲が著しく発達し、もたらされている可能性が指摘されている。

2008年7月から8月末の、日本各地での豪雨災害(2008年夏の局地的荒天続発)の際、特に同年8月5日に練馬区周辺での局地的豪雨の際には、豪雨になっていなかった下流で、下水道工事中の作業員5名が流され死亡した。これが大きく報道された時にゲリラ豪雨という用語が頻出したことから、第25回「現代用語の基礎知識選『ユーキャン新語・流行語大賞』」(2008年)では、「ゲリラ豪雨」がトップ10に選出された(受賞対象者は株式会社ウェザーニューズ)。このこともあり、「ゲリラ豪雨」の言葉が広く一般的に用いられるようになった。

1970年代からの当初の定義では、気象観測網に捉えにくい豪雨という難捕捉性・難予想性の意味合いが強かった。しかし現在では、大気が不安定な状態で関東平野の広い範囲で降った(気象レーダー・アメダス捕捉が容易な)散発的豪雨を、マスコミがゲリラ豪雨と報じるなど、当初の「難捕捉性・難予想性」から「難予想性・強降雨性」を念頭に置いた意味合いに変質しつつある。

2017年には、1976年からの10年間と、直近10年間の気象庁の観測結果を比較した結果、ゲリラ豪雨の発生数が全国平均で約34%増えていることが判明した。

対策

このような豪雨への対策として、行政や研究機関などは更なる研究と観測・予測の強化、官民の防災機関などはゲリラ豪雨に対応した防災体制の構築と、主に2つの方面からの取り組みによって、防災・減災が図られつつある。

前者では、現存する気象レーダー(雨粒の位置と密度を観測できる)を生かしつつ、観測間隔を30〜10分間隔から5〜1分間隔へ短縮したり、雨雲あるいは風の移動速度・方向が観測できるドップラー・レーダー(デュアル・ドップラー・レーダー観測)の設置箇所を増やす対策が行われているほか、さらに数値予報モデル(メソ数値予報モデル)の高精度化、(密度よりも実際の雨の強度に近い)雨粒の直径を計測できる新しいタイプの気象レーダーの設置、また多数のリアルタイム観測データから、積乱雲の発達段階において豪雨を予測する技術(現状では雨粒がある程度成長した成熟期・減衰期でしか正確な予報は困難)の開発が進められている。

後者に関しては、特に洪水などの情報伝達に関して課題があるのが現状で、地方公共団体により差がある。防災行政無線の整備や情報受信端末の各家庭への普及などの費用が掛かる対策は、なかなか実行できないという自治体もある。こうした地域では、自主防災組織消防団水防団といった、従来の活動を活かし強化する手法も重要とされている。また、民間気象会社やIT企業では、携帯電話を利用して多数の利用者から豪雨の情報を収集・再配信したり、独自の予報を発表・配信したりしているところもあり、ボトムアップ型の対策も多様なものが提供されている。

突発的な豪雨を予測できても、降雨自体は防げない。また都市部を中心に地面をアスファルトコンクリートで隈なく舗装した結果、雨水が地中に浸透しにくくなり、短時間で市街に水が溜まったり、建物の浸水が起きたりするようになった面もある。このため、透水性舗装雨水浸透ます、地下貯水槽の設置、舗装しない緑地の確保といった雨水を地面に滞留させない対策が自治体により進められている。また降雨が短時間なら、水が退くまでの間、建物への浸水を防ぐために入口に土嚢を積んだり、止水板・シートを展開したりする方法もある。

用語に対する批判意見

爆弾低気圧」と同様に、「ゲリラ」という言葉は軍事を連想させ不適切とする指摘、また既に驟雨や集中豪雨など同義・類義語がある中で、新語を採用する必要はないという観点から、ゲリラ豪雨という言葉の使用に否定・批判する意見も存在する。

また鳴や雲の発生など雨の前兆を観測するのは容易いことから、「奇襲攻撃」の意があるゲリラという語はそぐわないという見方もある。『読売新聞』は「局地豪雨」への言い換えを記載した。またNHKは、公共放送であるという性質上「ゲリラ豪雨」という呼称は使わず(ただし報道番組や天気予報以外の場面(バラエティ番組における気象予報業務の紹介など)ではこの限りではない)、気象庁と同様に「集中豪雨」「局地的大雨」で放送している。

脚注

注釈

出典

関連項目

外部リンク

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