フランス 著作権法

フランスの著作権法(フランスのちょさくけんほう、フランス語: Les droits d'auteur et les droits voisins du droit d'auteur en France、意訳:著作者および著作隣接権者に関する権利)は、文芸・音楽・美術・ソフトウェアといった著作物、およびその著作者や著作隣接権者などを保護するフランス国内の法律である。その条文は知的財産法典(フランス語版)の第1部に収録されている。本項では、他国との相違点や著作権法に関連した判例も取り上げながら、フランス著作権法の条文を解説していく。

フランス 著作権法
著作権を管轄する文化省などが入るパレ・ロワイヤル(2010年)

文化・芸術大国のフランスが、他国の著作権法に与えた歴史的影響はきわめて大きい。たとえば、世界の先進国の著作権法は大陸法英米法に大きく二分されるが、大陸法諸国の中で著作権法を初めて制定した国がフランスである。今日の著作権法の世界的基盤となっているベルヌ条約の起草を、19世紀後半に提唱したのもフランスである。美術著作物の追及権を保障したのも、フランスが初である。また、フランスのSACEMフランス語版英語版は、音楽業界では最古の著作権管理団体である。

現代のフランスは欧州連合(EU)の加盟国として、EUの各種著作権指令に基づき、社会の変化に合わせた著作権法の整備をほかの加盟国とともに進めている。21世紀に入ってからインターネットを介した著作物の海賊版が急増したことから、EUでは2001年に情報社会指令を出している。これを受けてフランスでは、著作権の改正立法を成立させて著作権侵害の刑事罰を強化し、文化省傘下の監視組織であるHADOPIフランス語版を中心にインターネット上の取り締まりを行っている。

現行法

※本節における「現行」とは、特記のない限り2019年7月現在の知的財産法典 第1部(文学的および美術的著作権)のフランス語原文に基づき記述している。

  • フランスにおける著作権の分類方法
    • 著作者本人の権利
      • 著作者人格権(著作者の「心」を守る権利)
        • 「公表権」-- 無断で著作物を公表されない権利(L121条-2、L121条-3)
        • 「氏名表示権」-- 著作物を公表する際に表示する名前を選べる権利。変名や無名(匿名)を含む(L121条-1)
        • 「尊重権」-- 無断で著作物の内容を改変されず(いわゆる同一性保持権)、かつ著作物が正しく伝達される権利
        • 「修正・撤回権」-- 公表済の著作物の修正を求めたり、市場から著作物の回収を求める権利(L121条-4)
      • 著作財産権(著作者の「財布」を守る権利)
        • 「複製権」-- 印刷・写真現像・鋳造・映画フィルム・その他デジタル媒体など、何らかの記録媒体に固定する権利。また、翻訳や編曲などの二次的著作物の創作も、フランスでは複製と見なされる(L122条-3)
        • 「演奏・上演権」-- 朗読・生の演奏・展示・上映・テレビ放送・衛星配信・通信などの手段で公衆に伝える権利(いわゆる公衆伝達権を含む)(L122条-2)
        • 「追及権」-- 美術品が転売されるたびに売買価格の一定割合を著作者が受け取れる権利(L122条-8)
    • 著作隣接権者の権利
      • 実演家の人格権 -- 著作者本人と同様、尊重権が認められる(L212条-1、L212条-2)
      • 実演家の財産権 -- メディア企業に無断で複製・頒布されないよう、労働法典に基づく書面契約と正当な報酬支払が必要(L212条-3)
      • 実演家以外の財産権 -- レコード製作者、映画などの視聴覚著作物製作者、放送事業者(すなわちメディア企業など)に複製権、頒布権、貸与権が認められる(L213条-1、L215条-1およびL216条-1)
    • スイ・ジェネリス権(データベース権)-- データベース製作者に認められる権利で、著作権や著作隣接権に根拠を持たない特別な権利

特徴まとめ

フランス 著作権法 
世界の法体系:フランスを含む水色が大陸法系、桃色が英米法系、緑色がイスラム法系、黄色が慣習法系の国

一般的に大陸法系の国々は、著作者本人の権利を著作者人格権と著作財産権に分ける二元論を採用している。その中でもフランスでは、著作者人格権を著作財産権に優先させている点が特徴的である。知的財産法典は「精神の著作物の著作者」という条文表現から始まっており、著作者の人格を尊重するフランスの立法精神がうかがえる(L111条-1)。

またフランスでは、著作権は「所有権」であると考えられている。フランスを含む大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投映した成果物であることから、ほかの誰でもない著作者の所有物であり(人格理論)、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある(労働理論)という考えに基づいている。

これらの考え方は、英米法諸国とは対極的である。たとえば英国のアン法を模倣して発展してきた米国著作権法は、あくまで産業・文化の振興という目的を達するため、その手段として著作権保護があると捉える「産業政策理論」や「功利主義」に立脚している。その結果、著作権は英語ではCopyright(コピーする権利)と表現されるように、英米法における著作権は、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義にとらえられてきた。

著作者の人格を守ることを重視し、権利の範囲を広くとらえるフランスでは、著作物が著作者の元から離れたあとでも人格は投映されたままであることから、著作権法で保護を与え続けている。著作者人格権を例にとると、著作者本人の死亡により消滅すると考える国もあるが、フランスでは死後も永続するとされる(L121条-1-3)。また、追及権を世界で初めて認めたのがフランスである。この追及権とは、絵画や彫刻などの美術品を創作した美術家が、その作品を売却したのちも、オークションなどで転売されるたびに売買価格の一定割合を得ることができる権利である。

著作者の人格が投映されていれば、その表現形態がいかなるものであれ、著作物として認められる。著作物というと、書籍や絵画、音楽、映像など視覚または聴覚を使って鑑賞する作品をイメージしやすいが、フランスではさらに嗅覚に訴える香水にまで著作権を認めた判例があるほどである。また、美術作品については純粋美術のみ認め、実用品のデザインといった応用美術に対する著作権保護を否定する国もあるが、フランスでは応用美術も保護対象としている。

職務著作についても、フランス著作権法は創作した個人を尊重する態度をとっている。一般的に職務著作とは、職務の一環で雇用主の命で創作された著作物は、創作した個人ではなく、雇用主に著作権が帰属するという考え方である。しかしフランスでは、単に雇用契約や発注契約を締結していたからといって、自動的に雇用主や発注主である企業・団体に著作権が認められるわけではない。

著作財産権の観点では、一般的な著作権法で認められる「頒布権」および「消尽論」がフランス著作権法では認められてこなかったが、21世紀に入ってインターネットを通じた海賊版が横行した結果、これらを明文化する法改正を行っている。頒布権とは、著作権者が独占的に著作物を社会に流通販売できる権利である。また消尽論とは、その著作物の購入者は中古売買(再販)するなど自由に処分できる(すなわち著作権者の独占権は、購入者の行動にまでおよばずに消え尽きる)という考え方である。この消尽論に則ると、たとえばデジタル楽曲の購入者は、インターネット上で楽曲ファイルをシェアすることができてしまう。しかし、2006年のDADVSIフランス語版英語版(情報社会における著作権・著作隣接権法)と、2009年のHADOPI法によって著作権法が改正され、頒布権が著作者に認められることで、このようなファイルシェアは頒布権を侵害していることになり、刑事罰の対象となった。

また、米国などで採用されているフェアユース(公正利用)の法理は、フランスをはじめとする欧州各国では否定されている。米国のフェアユースは、著作物を第三者が無断で利用しても著作権侵害にあたらないとする抽象的な一般基準を条文で定めたもので、具体的にどこまでを合法とするかは、もっぱら司法判断に任されている。フランスではこのような一般基準ではなく、著作権法の条文上で個別具体的な基準を設けており、それ以外は原則禁止としている。これは、功利主義的な米国では、著作物の利用がどこまで社会的・文化的に価値があるのかの線引きするのは著作者ではなく裁判所だととらえるのに対し、フランスなど著作者の権利 (droits d'auteur) 意識が強い国では、あくまで他者による著作物の利用は「例外」でしかないためである。

権利の内訳

著作者人格権

フランス著作権法では、以下の諸権利が著作者人格権として認められている(L121条)。著作物そのものが転売されたり、著作財産権を第三者に譲渡したとしても、著作者人格権は「一身専属性」の原則により、著作者本人を死後も永続的に守り続ける(L121条-1-2、L121条-1-3)。

    公表権
    公表権は判例で認められてきた保護内容を、1957年の法改正時に明文化している。公表権に関する代表的な判例として、1900年の破毀院(フランスの最高裁判所)による「ウィスラー判決」や、1931年の「カモワン判決」(Camoin v. Carco) が知られている。前者は、アメリカ合衆国出身でイギリスでおもに活躍した画家ジェームズ・マクニール・ウィスラー(ホイッスラーとも綴る)が、完成した作品を契約主に対して引き渡し拒否した事例である。破毀院は、ウィスラーに対して損害賠償は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した。また後者は、出来栄えに不満を持った画家シャルル・カモワンフランス語版英語版が切り刻んでゴミ箱に捨てた作品を、ゴミ漁り人がアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年にフランシス・カルコフランス語版英語版が所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5,000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた。
    なお、ベルヌ条約は第6条で著作者人格権を全般的に規定しているが、公表権については規定がないことから、各国の著作権法で保護状況にバラつきがある。フランスでは単に無断で公表されない権利だけでなく、公表する手段についても著作者の意思が尊重され、手厚い保護がなされている。たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにもかかわらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害にあたる。
    氏名表示権
    氏名表示権とは、著作者が実名で公表している場合は、その作品に著作者名と肩書を表示しなければならない権利である。したがって、著作者名を削除する行為だけでなく、著作者以外の第三者の名前を表示する行為(盗作を含む)も、氏名表示権の侵害に当たる。しかし、先述のとおりフランスでは応用美術の作品にも著作権を認めていることから、たとえば自動車のデザインにまで逐次デザイナーの氏名を表示するのは現実的ではない。このようなケースでは氏名の非表示が免責される判例も存在する。
    また、変名や無名(匿名)を選択することも氏名表示権の範疇である。いわゆるゴーストライターを起用して著作物を発表する場合は、ゴーストライター本人に著作者人格権が発生するため、一身専属性の原則に基づき、ゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、フランスでは契約自体が無効になる。ただし、ゴーストライターは本人の名前を表示しない意思であることから、ゴーストライターの起用主の名前を著作物に表示する行為そのものは、氏名表示権の侵害にはあたらない。
    尊重権
フランス 著作権法 
尊重権が問われた『ゴドーを待ちながら』の原作は男性主人公(1978年、アヴィニョン演劇祭
    フランスの尊重権は、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり、他国の著作権法で一般的な「同一性保持権」よりも保護範囲の広い概念である。尊重権に関する判例はフランスで多数存在する。たとえば、サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』(1952年出版)は、ベケットが男性主人公を想定していたにもかかわらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めて提訴している。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている。また、画家ベルナール・ビュッフェは冷蔵庫に絵を描いたが、その作品の購入者がビュッフェの意に反して冷蔵庫を解体して絵だけを切り売りしようとした事件では、破毀院が1965年にビュッフェの意思を尊重する判決を下している。同一性保持(改変禁止)以外でも、自動車大手ルノーが彫刻家デュビュッフェに作品を発注したにもかかわらず、ルノーが完成を拒んだことから、彫刻家の作品を完成させる尊重権が侵害されたと、ベルサイユ控訴院は1981年に判示している。このように、フランスの尊重権は条文上だけでなく、実質的にも広く適用されている。
    修正・撤回権
    一方の修正・撤回権であるが、こちらについては著作者が権利行使すると出版者などに実損害が発生するため、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、尊重権と比較して実際の権利行使はきわめて限定的である。
    著作者人格権の制限・例外
    なお、一部の著作物ジャンルでは、これら著作者人格権の例外が存在する。映画などの視聴覚著作物の場合、プロデューサーや主たるディレクター、あるいは法定上の共同著作者が最終版を確定した場合、無断で改変や転写は不可とされる(L121条-5)。したがって、製作実務者として参加していても、後述する「共同著作者」として認定されない者は、著作者人格権の修正・撤回権や尊重権を主張できない。また、視聴覚著作物の共同著作者が製作過程で途中離脱しても、完成版からその離脱者の寄与分を取り除いたり、公表を阻止することはできない(L121条-6)。
    ソフトウェアに関しても、名誉棄損に該当しない限りにおいて、著作者は同一性保持権および修正・撤回権を行使できない(L121条-7、L122条-6-1)。これは、感情を表現した芸術的な著作物とは異なり、実用的なソフトウェアの場合は、中身を修正・改変しても、著作者であるプログラマーが精神的に傷つく可能性が低いためである。

著作財産権

一般的な著作権法では、著作財産権の支分権を細かく用語定義する傾向にあるが、フランス著作権法ではシンプルに「複製権」(L122条-3)、「演奏・上演権」(L122条-2)、「追及権」の3つに分類している。このうち、複製権と演奏・上演権は「利用権」であるととらえられている(L122条-1)。著作財産権における利用権とは、著作者以外が無断で利用できない権利、すなわち著作者のみに排他性を認める権利であり、使用権とは異なる。したがって、無断で第三者が著作物の複製や演奏・上演を行えば、著作権侵害にあたる。ただしこの利用権には、後述する著作権の保護期間が定められていることから、永久に利用権を独占することはできない。また、著作者は第三者に有償または無償で利用権を譲渡することができる(L122条-7)。

著作財産権3つのうち、追及権だけは利用権とは定義されていない(L122条-1)。つまり、美術作品の著作者は、その作品を手放したあとに作品の購入者がどのように利用するかを拘束することはできない。また、追及権は複製権や演奏・上演権とは異なり、譲渡不能と定義されている(L122条-8)。EU指令によって、追及権はEU加盟国で広域に認められていることから、EU加盟国民が美術作品の著作者であった場合でも、追及権は適用される(L122条-8)。ここでの「美術作品」であるが、絵画や彫刻などの一点物だけでなく、リトグラフ、版画、写真のように複製可能な作品であっても、シリアルナンバーが付されているなど、著作者がオリジナルだと何らかの方法で認めている場合は、追及権の対象となる(EU追及権指令英語版第2条第2項)。

一般的には著作財産権のひとつとして「頒布権」を規定する国が多いが、フランスでは頒布権、およびこれとセットで議論される「消尽論」が否定されてきた。頒布権とは、著作者が著作物を販売するなどして、社会に流通させることができる独占的な権利である。消尽論とは、複製・頒布された著作物の購入者は、その著作物を自由に売却処分(再販)できるとする考え方であり、換言すると著作者に認められた独占的な権利は、購入者のその先の使用行動にまではおよばず、消え尽きてしまう。たとえば、小説家は執筆した小説の著作権を有しているが、その小説が文庫本として出版されたら、その文庫本の購入者は小説家に無断で古本屋に売却しても、著作権侵害にはならない。

ところがフランスでは、この消尽論を認めておらず、代わりにフランスでは「用途指定権」(: le droit de destination)の考え方を判例上で用いてきた。用途指定権とは、複製された著作物の購入者が再販するのを禁じる、あるいは事前許諾を求める権利である。しかし、デジタル著作物への対応強化を目的とするWIPO著作権条約に基づき、2001年に施行されたEU指令のひとつである「情報社会指令」で、頒布権を規定している(第4条第1項)。フランスもこのEU指令に対応すべく、2006年に通称「DADVSIフランス語版英語版」(フランス語: Loi sur le Droit d'Auteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Information、情報社会における著作権・著作隣接権法、法令番号: 2006-961)を、2009年には通称「HADOPI 1法フランス語版」(法令番号: 2009-669)と「HADOPI 2法フランス語版」(法令番号: 2009-1311)を成立させ、特にインターネットを介した頒布権に関し、フランス著作権法の条文上で明文化するようになった(詳細は#情報社会指令と国内法化の遅延で後述)。

また、従来の複製権を拡大する形で、「複写複製権」が導入されている(L122条-10以降)。ここでの複写とはコピー機を想定しており、RAMへの書き込み・保存は対象外である。複写複製権は、国が認可した著作権管理団体(集中管理機関)に著作権者から譲渡される。

著作隣接権

一般的に著作隣接権とは、著作物を社会に伝達する者の権利である。直接著作物を創作はしていないものの、準創作的に寄与しているため、権利保護されている。具体的にフランスにおける著作隣接権者とは、歌手・俳優・朗読者といった実演家や(L212条-1)、レコード製作者(L213条-1)、映画など視聴覚著作物の製作者(L215条-1)、および放送事業者(L216条-1)の計4者が著作権法上で定義されている。

実演家には著作者本人と同様、尊重権が認められており、相続は可能だが、譲渡は不可能であり、時効はない(L212条-2)。また、財産権としては、複製権や頒布権が実演家にも認められており、たとえばレコード製作者が歌手や演奏者に無断で音楽CDなどを販売できないことから、書面での契約を必要とする(L212条-3)。同様に、映画製作者が俳優に無断で映画の配給やDVD販売を行うことはできず、やはり書面契約が必要となる(L212条-4)。これらは、実演家の報酬を保護する労働法典フランス語版第762-1条および第762-2条の規定とも密接に関連している(L212条-3)。

実演家や映画製作者への報酬支払については、著作権管理団体が徴収・分配業務を代行すると規定されている(L214条-5)。具体的には、対実演家の窓口としてADAMIフランス語版SPEDIDAMフランス語版の2団体が、また対映画製作者の窓口としてはSCPPフランス語版SPPFフランス語版の2団体がフランスには存在する。これらの規定は、1961年採択・1964年発効のローマ条約(実演家等保護条約)に準拠している。

一方、レコード製作者、視聴覚著作物の製作者、および放送事業者の3者には、財産権として複製権や頒布権以外に貸与権(第三者が無断で作品をレンタル貸出できない権利)が認められている(L213条-1、L215条-1およびL216条-1)。

歴史的に著作隣接権を見てみると、フランスでは著作者本人よりも著作隣接権者に特権を与える形で発達してきた(#歴史節で後述)。しかし現代の著作権法では、著作隣接権が著作者本人の権利を害してはならないと明記されており(L211条-1)、保護の優先度が逆転している。

では、どこまでが著作者本人の権利(: droits d'auteur)で、どこからが著作隣接権(: droits voisins)なのか。社会が技術的に発展するに伴い、この棲み分けに問題が生じた。たとえば、写真は創作者の創造性というよりは、機械による創作品だとみなせるかもしれない。また映画は著作者個人の創作物ではなく、企業・団体の創作物とみなせる。これらを伝統的な droits d'auteur で同様に保護すべきなのか検討した結果、フランスをはじめとする大陸法諸国では、写真も映画も著作物として認めて著作者本人の権利で保護する一方、実演家やレコード製作者、放送事業者は著作隣接権で保護する棲み分けとした。これは、英米法圏の米国著作権法とは異なり、米国ではレコード製作者は共同著作者として著作者本人の権利で保護されている。ただし1990年代に採択されたTRIPS協定WIPO実演・レコード条約により、著作隣接権者の保護水準が高まったことから、このような棲み分け論の意義は大きく後退しているとの指摘もある。

著作物の定義と保護対象

著作物のジャンル

フランス 著作権法 
ロワール=アトランティック県の村にある壁画広告。都市アートは著作権保護されるのか?

14ジャンルの著作物が著作権法上で定義されている(L112条-2)。ただしこれら14ジャンルに限定されない。

  1. 言語著作物 -- 書籍、小冊子その他の文芸、芸術および学術の文書
  2. 口述著作物 -- 講演、演説、説教、口頭弁論など
  3. 演劇著作物 -- 演劇やミュージカル作品
  4. 舞踊・パフォーマンス著作物 -- 舞踊、サーカスの出し物、芸当、無言劇作品(ただし演出が文書その他の方法で固定されている必要あり)
  5. 音楽著作物 -- 楽曲およびその歌詞
  6. 視聴覚著作物 -- 映画やテレビ番組などの動画(楽曲などの音声を伴う場合も含むが、ゲームは含まれない)
  7. 純粋美術・建築著作物 -- スケッチ、絵画、建築、彫刻、版画、石版画など
  8. 図形・組版著作物 -- グラフィック・デザイン、プリント・デザイン
  9. 写真著作物 -- 写真に類似の技術を用いた著作物を含む
  10. 応用美術著作物 -- 著作者の人格を反映し、かつ新規性があれば著作権法で保護される
  11. イラスト著作物 -- イラスト、地図など
  12. 図面等著作物 -- 地理学、地形学、建築学および科学に関する設計書、スケッチ、立体造形作品
  13. ソフトウェア -- 開発計画段階の資料を含む
  14. ファッション -- 流行に左右される季節産業の創作物(婦人服、下着、刺繍、帽子、靴、革製品など)

著作物の保護要件

フランス 著作権法 
デュシャン作『』は小便器に署名しただけの作品。コンセプチュアル・アートに著作権保護は発生しない場合がある。

著作権はジャンル、表現形式、価値または用途を問わず、あらゆる精神的な著作物を保護すると規定されている(L112条-1)。また著作物が未公表や未完成であったとしても、著作者の構想の実現という事実だけをもって、著作物は創作されたと見なされる(L111条-2)。さらに、著作物を当局に登録する、あるいは著作権マーク「©」(マルC、Copyrightの意)や「℗」(マルP、レコードのPhonogramの意)などを表示するといった手続も任意であり、これらを怠ったとしても著作権保護される。つまり、著作者による知的な創作活動によって(創作性)、何らかの表現がなされていること(表現性)が、著作権保護の要件として挙げられる。

      アイディア・表現二分論
    したがって、単なるアイディアや発見は創作性や表現性の要件を満たさないため、著作権の保護外となる(これを一般的な著作権法上では「アイディア・表現二分論」と呼ぶ)。ただし、どこまでがアイディアそのもので、どこからがその表現なのか、境界線が曖昧な創作物も存在する。たとえば、フランス人芸術家マルセル・デュシャンの『L.H.O.O.Q.』は、名画『モナリザ』に鉛筆で髭をつけ加えた作品である。また、男性用の小便器に署名だけを施した『』という作品もある。髭や署名をつけ加えること自体はアイディアに過ぎないが、このような現代美術のコンセプチュアル・アートに著作性が認められるのか、フランス国内外で議論がなされている。
      応用美術・実用品デザイン
    イアリングやおもちゃ、椅子やランプなどの応用美術・実用品デザインについては、以下のとおり各国で法的保護のアプローチが異なる。
    1. 実用品も他の著作物と同様に保護対象に含める -- フランスなど
    2. 実用品も一部保護に含めるものの、ほかの著作物よりも保護要件の水準を高く設定する -- ドイツなど
    3. 実用品は意匠法など別の法律で保護する、あるいは著作権法と二重で保護する -- 米国、過去のイタリアなど
      コンピュータ・プログラム
    コンピュータ・プログラムの著作物性については、1986年破毀院の「パショ事件」(英: Pachot case)などがある。フランスでは伝統的に、著作者の精神性が反映された作品を著作物として認めていたが、パショ事件では「知的な操作であり、個人にゆだねられた創作活動」だとして、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている。
      題名(題号)
    著作物が著作者の人格を投映しており、創作性が認められれば、その著作物の題名も著作権保護が与えられ(L112条-4)。しかし、その題名が汎用的で一般的な用語の場合、判例では著作権保護の対象外と判示されており、題名における創作性の具体的な線引きは司法判断に任されている。また、題名は商標登録できる場合があり、このようなケースでは商標権と著作権で二重保護される。
      その他
    また、法律の条文や裁判所の判決文など、公的機関の作成した著作物は、著作権保護の対象外となるほか、所有者の許可なく行われる壁への落書きアートなど、不法行為によって創作された著作物は著作権保護の対象外となる。

保護される権利者

フランスの著作権法では「精神の著作物の著作者」と謳われていることから(L111条-1)、原則は個人(自然人)のみ著作者として認められる(L113条-1)。しかし、1993年の判例でこの原則が覆され、法人も著作者として認める判決が出ている。著作者は以下に分類される。

  • 原始的帰属(原則ルール)-- 著作物を創作した個人が著作権を有する(L113条-1)
  • 職務著作 -- 著作物の創作を指示した雇用主あるいは発注主が著作権を有するには、個別の譲渡契約が必要となる(L111条-3、L131条-3)
  • 共同著作物 -- 複数の著作者によって創作された場合、共同著作者が権利を共有する(L113条-2、L113条-3)
  • 集合著作物 -- 複数の著作者によって創作された個々の著作物をまとめ直した場合、集合著作物の創作を発意した者が著作権を有する(L113条-2、L113条-3)
  • 二次的著作物 -- 原著作物を活用して、翻訳・編曲などの手段で新たな著作物が創作された場合、原著作物と二次的著作物は別々の著作権が発生する(L113条-2、L113条-3)

職務著作をどのような条件下で認めるか、各国の著作権法で異なっており、フランスの場合は雇用契約に基づいて著作物を創作しただけでは、その著作権は雇用主が有することはできない。したがって、雇用契約とは別に、従業員から雇用主に著作財産権を譲渡する契約を締結しなければならない。職務著作をめぐっては、医療現場で用いられる頭蓋計測分析英語版のソフトウェア裁判などがある。このソフトウェア企業はコンピュータ・エンジニアと医学者の2名で設立されたが、のちに医学者がこの会社の支配権を増したことから、開発されたソフトウェアの著作権が個人ではなく、会社に帰属するとして提訴した裁判である。2015年1月、破毀院は原告である医学者の主張を棄却して、ソフトウェアの職務著作を認めなかった。

共同著作物については、特に映画などの視聴覚著作物に関し、個別規定が存在する(L113条-7)。多くの関係者が映画製作に携わるのが一般的であることから、誰を共同著作者として認め、著作権を与えるかの線引きが必要になる。条文上では、シナリオの著作者(たとえば映画化の原作小説を執筆した小説家)、翻案および台詞の著作者(原作を元にした脚本の執筆者など)、楽曲の作詞・作曲家(その映画用に創作された楽曲に限る)、監督・ディレクターが具体的に例示されている。ただし、これら以外でも共同参画を立証できれば、共同著作者として法的に認められる場合がある。映画の場合、著作財産権だけでなく、著作者人格権も重要な要素となる。先述のとおり、映画の共同著作者以外の者が、完成版を無断で改変したり、また途中で製作を離脱した者が、自分の寄与分を除去するよう求めることができない(L121条-5、L121条-6)。

集合著作物も共同著作物と同様、複数名によって創作されるが、その定義は曖昧である。集合著作物と、その素材となる各著作物との間に上下関係があり、集合著作物の創作をある特定の者が指示した場合には、共同著作物ではなく集合著作物だとされる。この指示者には法人も含まれることから、集合著作物の場合は原則として職務著作が認められていると考えられる。

権利の所在が不明な著作物(いわゆる孤児著作物)が公表される際には、DRフランス語版フランス語: droits réservés、権利留保の意)の文字が表記される。孤児著作物とは、著作権者が誰なのか不明なだけであり、著作権を放棄したわけではない。しかし、2012年10月に孤児著作物に関するEU指令英語版が成立し、一定条件を満たせば孤児著作物の著作者から許諾を得ずとも、第三者が著作物を利用できるようになった。欧州連合知的財産庁(EUIPO)が孤児著作物の検索データベースを一般公開している。

著作権の保護期間

フランス 著作権法 
著作者の平均余命に基づく著作権保護期間の歴史的変遷
フランス 著作権法 
著作権の保護期間:2018年創作著作物の場合

先述のとおり、著作人格権は著作者の没後も権利保護が永続し、時効はない(L121条-1-2、L121条-1-3)。一方、著作者本人の著作財産権、および著作隣接権には、以下のとおり一定の保護期間が設定されている。換言すると、この保護期間を過ぎた著作物はパブリック・ドメイン(公有)に帰し、著作者人格権を侵害しない限りにおいて、第三者が自由に利用することができる。

    著作者本人の著作財産権の保護期間

1997年3月27日制定の改正法以前は、著作権の保護期間は著作者の存命中、および没後50年間が著作者の相続人に対して認められていたが、これが当改正により70年間に延伸した(L123条-1)。「70年間」の計算法であるが、没した当年は含まれず、没した翌年1月1日から起算する。

    例外 (1) 戦時加算
    第二次世界大戦で国家のために命を落とした著作者に対しては、通常の保護70年間に加えて戦時加算の30年間が適用されることから、著作権の保護期間は計100年間となる。ただし、著作物が戦争勃発前に公表されている場合は、1997年法改正以前に認められていた50年間 + 14年272日間(すなわち計64年272日間)に保護期間は短縮される(L123条-8、L123条-9)。
    例外 (2) 変名・無名・集合著作物・共同著作物・未公表の遺作など
    変名、あるいは無名(匿名)著作物で実際の著作者が一般には判明しない場合、または集合著作物の場合は、原則は発表から70年間が著作権の保護期間として認められている(L123条-3)。
    共同著作物も通常の没後70年間が適用されるが、共同著作者でもっとも長く存命した者の没日を起点として算出する。映画やテレビ番組といった視聴覚著作物は、多くの共同著作者によって制作されるのが常であるが、視聴覚著作物における「共同著作者」の定義は法的に限定されている。シナリオおよびセリフの脚本家、視聴覚著作物用に創作された楽曲の作詞・作曲家、ないし主なプロデューサーやディレクターのみが共同著作者として規定されている(L123条-2)。
    没後に公表された遺作の場合、没年翌年から70年間を基本とするが、延伸が認められるケースもある(L123条-4)。遺作が70年間公表されずに保護期間が消滅したあとに公表された場合は、公表日の翌年1月1日から起算して25年間に保護期間が延伸する(L123条-4)。たとえば著作者が1980年7月1日に没したと仮定して、その遺作が2000年に公表されようが2020年に公表されようが、保護期間は2050年12月31日までである。しかし同遺作が70年保護期間満了後の2060年3月1日に公表された場合は、2085年12月31日までの25年間が保護される。
    著作隣接権者の著作財産権の保護期間

実演家の権利は、実演の翌年1月1日を起点にして、原則60年間を保護期間としている(L211条-4-I)。レコード製作者の権利は、音の媒体固定から50年間を原則とする(L211条-4-II)。映像製作者の権利は、映像の媒体固定から60年間を原則とする(L211条-4-III)。放送事業者など視聴覚著作物の伝達者の権利は、伝達から50年間を原則とする(L211条-4-IV)。

著作物の合法的な利用

仮に著作権の保護期間中であっても、公表済の著作物を著作権者に無断で利用しても、以下の条件を満たす場合は著作権侵害にあたらない(L122条-5)。

  1. 私的な実演 -- 私的な空間内で、私用かつ非営利で行われる実演
  2. 私的な複製 -- 私的用途に限定され、かつ集団に配布・展示するなどを意図しない場合に限る
  3. 利用に際して著作者の氏名および出所を明示する必要がある場合:
    1. 要約・短い引用 -- 著作物の批評、論評、教育、学術、報道を目的とした場合に限る
    2. プレスレビュー
    3. 演説の報道 -- 立法・行政・司法機関の各種会議や学会、政治的儀式といった公共性の高い場における演説内容を、報道機関やテレビ放送がニュースとして報道する行為(報道する発言が全量であっても構わない)
    4. オークション -- グラフィックアートや造形美術作品の全部または一部複製し、公的競売に用いられるカタログに収録して、競売前に公衆に頒布する行為
    5. 教育・研究 -- 教育・研究目的の例示のために行う、著作物の複製や演奏・上演。ただし教育現場であっても娯楽活動の目的は不可。想定対象者は学生、教員および研究者など教育・研究活動に直接関与する主体に限る。また、演奏・上演や複製によって収益が発生してはならない。第三者による著作物の利用に際し、複製権の譲渡に不利益を生じることなく、また利用料が著作者に支払われなければならない。ただしこの支払条件は教育目的の著作物、言語著作物のデジタル版、ないし楽譜には適用されない
  4. パロディ等 -- 著作物を活用したパロディ、作風の模倣風刺人物画の創作(ただし当該分野の慣習に基づく)
  5. データベース -- 契約に基づき、データベースの中身にアクセスが必要な場合
  6. 技術プロセス -- 技術的な目的で、一時的に著作物の複製が必要な場合(インターネット・ブラウザのキャッシュなど)
  7. 障害者福祉 -- 一定の条件に基づく、図書館、公文書館、資料館、マルチメディア文化施設などによる著作物の複製ないし演奏・上演
  8. 保存・閲覧 -- 美術館や公文書館が著作物の保存、あるいは私的な調査・研究のため施設内での閲覧または専用端末での閲覧目的であり、その行為に営利性が認められない限りにおいて行われる複製
  9. 直接報道 -- グラフィックアート、造形美術ないし建築作品の一部または全部を使った文書化・映像化・デジタル化による報道(ただし利用量・質や目的妥当性が考慮される)
    フェアユース導入論

フランスを含む欧州各国では、米国著作権法のようなフェアユースの法理による、一般的な著作権制限の条項に対して否定的な立場をとっている。したがって、フランスでは上述のとおり、著作権者の権利を制限し、利用者の自由な著作物の利用を認める条件を個別具体的に列記している。この方針は、2001年のEU情報社会指令に起因する。情報社会指令では、制限条項を21条件に限定しているだけでなく、EU加盟国の国内法でこの21条件以外を追加規定することを禁じている。さらに2019年に成立したDSM著作権指令によって、制限条項を3条件追加した。

フェアユースの法理を採用するかは、法的な安定性と柔軟性のどちらを重視するかに依存する。フランスのように限定列挙すれば、著作権者にとっては著作財産権の価値が高まると同時に、著作物の創作のための投資と回収の見通しが立ちやすくなる。一方で米国のように一般的な基準を設け、個別判断は裁判所に任せることで、著作物の内容や流通経路といった社会的・技術的な変化にも対応しやすくなるメリットが考えられる。実際、フェアユースを導入している米国よりも、導入していない欧州の方が、インターネットを通じた著作権侵害の件数が多いとの指摘がなされている(2013年時点での比較)。

たとえば、Googleサジェスト機能(オートコンプリート機能)が著作権法上の複製権侵害に該当するかについて、欧州各国の司法判断は分かれている。楽曲を例にとると、一般ユーザがGoogle検索で「(楽曲のタイトルの名前)、.mp3、.rar」などとキーワード入力すると、違法なデジタル楽曲シェアサイトが検索ヒットすることから、Googleが著作権侵害サイトにユーザを誘導してしまうおそれがある。これに対し、フランスではパリ大審裁がGoogle有利の判決を2011年5月に出している。これは、サジェストされた検索結果が必ずしも違法サイトに限らないとの理由からである。

著作権侵害と救済

権利侵害された者は、民事あるいは刑事手続によって救済される。民事訴訟の場合、侵害行為を「認識」してから5年以内の出訴が認められている、また刑事手続の場合は、侵害行為が「発生」してから6年以内とされている。

著作権侵害とは具体的に、著作物の演奏・上演、複製、翻訳、翻案、変形、編曲などが挙げられている (L122条-4)。刑事事件の場合、文書・楽曲・スケッチ・絵画などを印刷出版すると、偽造の罪に問われ、3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金が科される (L335条-2)。また、著作隣接権者に無断で実演、複製、公衆伝達、利用の提供を行うと、同様に3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金となる (L335条-4)。ただし著作権侵害者が組織犯罪の場合は、それぞれ7年以下の禁固または75万ユーロ以下の罰金に上限が引き上げられる。さらに再犯の場合、初版の刑罰の上限が2倍に引き上げられる。これらの罰則は、2006年のDADVSIを受けて追加された条項である。

禁固や罰金以外にも、偽造品の差押や破棄、侵害行為の差止、企業活動の停止、インターネットへのアクセスなど著作権侵害の手段利用を最大1年間禁止といった刑事上の措置も取られる。海賊版などの輸出入が発見された場合は、税関がその物品を差し押さえる権利を有している。

このような著作権侵害を行った者に対して、その手段であるインターネット・サービスを提供したISPなどに対しては、原則として著作権侵害の免責規定が適用される。ただし、著作権者からの通報を無視して、不法コンテンツを掲載し続けた場合には、その責が問われる (2004年制定・デジタル経済法フランス語版 (通称: LCEN、法令番号: 2004-575) 第6条 I.1)。

民事訴訟の場合、提訴できるのは著作権者 (著作者本人だけでなく、著作財産権を譲渡・相続した者を含む)、あるいは著作権者に代わって利用料を徴収する著作権管理団体のみである。独占ライセンスあるいは非独占ライセンス先は提訴できないものの、著作権侵害が認められた場合、損害賠償の受取人になることができる。2015年4月より、事前に著作権者が侵害者に対して警告を発したり、和解などを試みることが、民事訴訟の事前要件として定められた。ただしその後の判例により、これらの友好的な事前対応を怠った場合でも、著作権侵害の訴訟を認めるケースが存在している。

違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的とした2009年制定のHADOPI法に基づき、インターネットを介した著作権侵害に対し、文化省に属する組織であるHADOPIフランス語版が監視の目を光らせている。HADOPIが著作権侵害を認識すると、被疑者に対して警告・改善通知を発信できるようになった。ただしHADOPIは行政機関であることから、司法機関である裁判所のように、侵害行為の差止命令を出すことはできない。いわゆる「三振法」をHADOPIは採用しており、三度の警告後、著作権侵害を検察に通達し、刑事手続に進む流れとなっている。

著作権は著作者および著作隣接権者に独占的な権利を与えるものであるから、原則として欧州連合競争法 (特に欧州連合の機能に関する条約 第101条および第102条) の適用対象外となる。ただし、著作権を預かる著作権管理団体が、その地位を濫用して市場に大きな影響をおよぼしている場合には、不正競争行為の取り締まり対象となる。

著作権法の成立と改正の歴史

ここからは、フランス著作権法がどのような歴史的変遷を経て現行法に至ったのか、時代背景とともに解説していく。フランスの法制史は一般的に、フランス革命以前を指す「古法時代」、1789年に勃発したフランス革命から1804年制定のナポレオン法典 (民法典) までの「中間法時代」、民法典以降の「近代法時代」に三分類される。

古法時代

フランスにおいて、著作権の概念の前身とも呼べる「特権許可状フランス語版」を国王が初めて発行したのは、ルイ12世治世下の1500年頃である。この特権許可状は劇場運営者、文芸業界団体の側面もある王立アカデミー (例: アカデミー・フランセーズ)、大学、印刷業者、書籍商、コメディアン (俳優) といった著作隣接権者に対して与えられるものであった。したがって当初の特権許可状は、著作者本人の保護を目的としたものではなく、むしろ著作者を搾取する側面があった。その後、徐々に特権許可状の発行対象が広がっていき、1777年の王令によって、言語著作物の著作者とその相続人に対し、永久著作権 (無期限の著作権) が認められることとなった。以下、著作物のジャンル別に古法時代を見ていく。

    書籍
フランス 著作権法 
木版画家Jost Amman英語版作、1568年当時の印刷技術

フランスでは13世紀に入ると、識字率の向上にともなって、手書きの写本の需要が高まった。13世紀前半にはパリ大学が公的な存在となり、大学が書物の修正、監督、価格決定の役割を担うようになっている。一方で当時の著作者たちは、著作物の販売だけでは生計を立てられなかったことから、もっぱら王家や貴族などパトロンの庇護を受けていた。

1445年頃のグーテンベルグによる活版印刷術の発明により、1500年にはパリ市内の印刷業者は50軒以上に達し、当時のパリは欧州で2番目に印刷業が盛んな都市であった。この印刷業者の急増に加え、海賊版印刷が横行した結果、特権がなければ出版業界が経営上成り立たなくなってしまったことが、1500年頃に初めて特権許可状がフランスで発行された背景にある。しかしまだ、著作者本人には特権許可状は与えられていない。当時の印刷出版の対象はギリシャやローマの著作物、あるいは聖書が主体だったため、新作を執筆する著作者を権利保護する必要性がなかったからである。

著作者本人に特権許可状が徐々に与えられるようになったのは、17世紀に入ってからである。書籍商の中でもパリが特権許可状を独占していたことから、都市と地方の書籍商との間で対立が起きた。その結果、著作者たちは地方の書籍商から擁護されるようになる。したがって、著作者本人の権利保護は著作者自らが求めたものではなく、都市と地方の書籍商の抗争の副産物とも言える。この抗争を解決すべく、ルイ16世治世下の1777年8月30日に「特権許可状に関する裁定」が出され、初めて著作者本人の文学的所有権が認められ、書籍商と著作者の権利を分けて捉えられるようになった。また、この裁定 (王令) は、書籍商の永久著作権を10年間に短縮する一方で、著作者とその相続人に永久著作権を認めている。

    戯曲
フランス 著作権法 
ボーマルシェ作『セビリアの理髪師』のシーン

フランスでは、アンリ4世 (在位: 1589年 - 1610年) による国家統治の結果、観劇を楽しむ余裕と社会秩序を回復したことから、17世紀にはフランスで劇場文化が興隆する。当時は有名な劇作家であっても、戯曲の台本を俳優に売却する1回限りの取引が主流であったが、17世紀中頃には、現代で言うところの「ロイヤルティー」に該当する「台本使用料」の考え方を取り入れているケースもあった。1757年になるとようやく、王立劇団であるコメディ・フランセーズと著作者との間で、台本使用料の名目で劇場「利益」の一定割合が著作者にシェアされる協定が結ばれるようになった。

しかし実態は、著作者 (つまり劇作家や伴奏の作曲者) の弱い立場が続いていた。コメディ・フランセーズと著作者間の対立が激化したことから、1777年には演劇法立法促進事務局 (フランス語: Bureau de législation dramatique) が設立された。当組織は世界初の著作権集中管理団体と言われており、著作者の待遇改善をコメディ・フランセーズに求め、最終的には権利保護の立法を目指すことを目的とし、終身会長には『セビリアの理髪師』などで有名なボーマルシェが就任している。なお、この組織は後の劇作家作曲家協会 (SACD)英語版フランス語版として継承されることになる。1780年には、凡庸とも言われるルイ16世 (在位: 1774年 - 1792年) への直接陳情が行われ、国王顧問会議がコメディ・フランセーズへの新たな規制を公布したが、むしろ改悪だと批判された。

    音楽

音楽に関しても同様で、著作者である作詞・作曲家に対してではなく、楽譜を出版する印刷業者や書籍商に対して特権許可状が与えられていた。初の音楽特権許可状は、イタリアのベネチアで聖歌集を対象に発行されており、フランスでは1551年にアンリ2世リュート演奏者のギヨーム・モルレ英語版フランス語版に与えている。しかしモルレ自身は出版できず、楽譜の特権許可状を持つ書籍商に権利放棄せざるをえなかった。作曲者自らが楽譜を出版・販売できる特権許可状が発行されるようになったのは、1723年のことである。

その後、大規模な印刷装置が必要だった活版印刷ではなく、美術業界で使用されていた彫版印刷が楽譜に用いられるようになった。彫版印刷によって、特権許可状も設備投資の余力も有しない中小業者にも楽譜の印刷が可能となったことから、18世紀に入ると楽譜印刷の海賊版が出回るようになり、特権許可状の効力が弱まることになった。そこで、楽譜の著作者本人を法的に保護し、版権を著作者から出版業者に譲渡させることで、出版業者を間接的に保護するスキームへの転換が必要認識されるようになった。

    美術

絵画、版画、彫刻などの美術品については、(楽譜を含む) 言語著作物とは歴史が異なる。美術作品にも著作権が認められるようになったのはフランス革命以降であり、古法時代には著作権が成立していない。

14世紀から16世紀にイタリアのルネサンスがフランスにも流入し、フランス美術業界が質・量ともに向上した。画家や版画家、彫刻家は王室や貴族などのパトロンから直接の庇護を受ける者と、それ以外は業界ごとに設立された組合に属せざるをえない者に二分された。前者は「特権享受者」と呼ばれていたものの、後者の組合は1623年に初めて団体として特権享受者として認められるようになる。しかし、アンリ3世 (在位: - 1589年) の頃には、才能のない芸術家を組合から除名するよう命じたり、フランス王朝の最盛期を築いたルイ14世 (在位: - 1715年) の頃には、組合における特権享受者の削減を要求している。フロンドの乱 (1648年 - 1653年) の最中、組合はアカデミー・ロワヤル (フランス語: Académie Royale de Peinture et de Sculpture) とアカデミー・ド・サンリュック英語版 (フランス語: Académie de Saint-Luc) に二分され、対立と和解を繰り返すようになる。1654年にアカデミー・ロワヤルがデッサン教育の特権許可状を取得し、プロの芸術家のみを会員に限定することとなったが、アカデミー・ド・サンリュックはアマチュア芸術家、住宅の装飾家、配管工にも会員資格の門戸を広げていた。1777年にはアカデミー・ド・サンリュックが職人組合として認定される宣言が出された。

中間法時代

国王の権威を否定するフランス革命が1789年に勃発し、同年8月4日の憲法制定会議によって、特権許可状の制度も廃止されていくこととなる。1791年1月13日 - 19日法、および1793年7月19日 - 24日法の2本の法律制定により、現代の著作権法の原点となる制度が開始された。当時、本格的な著作権法としてはイギリスで制定された1710年のアン法が存在したが、フランスはこれに次ぐ、世界2番目の著作権制度整備国となった。1791年法は演劇著作物に限った上演権・演奏権を、1793年法は著作物の範囲を広げた上で出版権・複製権を、それぞれ著作者に認めるものであった。しかし1777年の王令によって書籍に永久著作権が認められていたにもかかわらず、1791年法と1793年法によって、権利保護期間はそれぞれ著作者の没後5年および10年にそれぞれ短縮されている。この2本の法律は、1957年3月11日法まで160年以上もの間、抜本的改正なしで運用され続けた。

    1791年1月13日 - 19日法
    3か条から構成されている。劇場を通じた表現の自由、および劇場著作物の権利保護を保障する内容であった。フランス革命以前は国王からの特許付与なしでは劇場は開設できず、また上演される題目も劇場ごとに指定されていた。これが1791年法により、政府当局に申請すれば誰でも劇場は開設できるようになり、上演の題目も自由に選べるようになった (第1条)。劇場で上演するには、その著作物の著作権者から正式な文章で許諾をとる必要があり、違反した場合は上演の収益すべてが著作権者に損害賠償された (第3条)。著作者の没後5年で劇場著作物はパブリック・ドメイン (公有) に帰し、劇場で無差別に上演できると定められた (第2条)。
    当法律の制定された同年、著作者に代わって使用料を徴収する委託管理事務所 (現代の著作権管理団体) が劇作家のフラムリによって開設されたほか、1798年にはフィエット・ロロがフラムリの事務所から独立しており、徴収手数料として2%を課金していた。
    1793年7月19日 - 24日法
    7か条から構成されている。著作物の保護対象として、あらゆる文章、作曲、絵画および図案に拡大規定された。また販売による頒布権 (出版権) が「排他的権利」であると謳われ、所有権は一部または全部を譲渡可能とも規定された (第1条)。海賊版を偽造した者は、出版物3000部相当の価値を著作権者に賠償し、また海賊版を流通させた小売業者は、500部相当の賠償が義務付けられた (第4・第5条)。著作者は告訴の前提として、国立図書館あるいは国立図書館版画室に複製2部を納本し、登録する必要があった (第6条)。著作権保護期間は、著作者の没後10年であり、本人および相続人・譲受人が権利を有する (第2・第7条)。
    フランス人権宣言との関係
    1791年法と1793年法は、1789年に出されたフランス人権宣言を法源としていると言われる。同宣言の第17条では、「不可侵かつ神聖な権利である」として所有権全般を規定していることから、現代のフランス著作権法が人格権として著作者本人の権利を尊重する根拠となっている。しかし著作者本人の人格権を保護する著作権法はしばしば、著作物を社会的に利用することで達成される「表現の自由」と概念や利害が対立することがある。この対立は、1948年に国際連合で採択された世界人権宣言の第2章 第27条との間にも見られ、同条では文芸・科学の成果を社会が共有する権利が謳われている。実際の法整備にあたっては、フランスに限らず世界全般的に、著作権の人格的側面と利用者の表現の自由に優劣をつけるのではなく、バランスをとっているのが実情である。
    ナポレオン帝政期

1791年法により自由が保障された劇場であるが、1800年にナポレオン・ボナパルト (ナポレオン1世) と各県知事たちは、劇場の組織見直しと取り締まり強化に転じている。その結果、県知事のもとには著作者から多くの陳情書が届き、また法務大臣が各地の訴追官、判事などに著作物の剽窃や所有権の偽造を取り締まるよう、多数の通達を出している。さらに1806年6月8日法によって、ナポレオンは再び劇場を特権許可状制度に戻し、上演の題目も制限し、検閲制度も復活させている。これによって閉鎖された劇場もあった。ただし、著作者と劇場の自由契約や金額交渉などの自由は保障されており、観客動員も満員であった。1812年10月15日には、遠征中の地から「モスクワの勅令」をナポレオンが発し、コメディ・フランセーズに対する国の管理体制が強化された。

また、ワーテルローの戦いのあった1815年6月は、経済不況のあおりを受け、劇作家の著作権徴収代行手数料も下がり、同年1月の徴収総額の1/3以下に落ち込んでいる。1829年には、劇作家の著作権管理団体である二つの事務所を再編する形で、劇作家作曲家協会 (SACD) が立ち上がっている。これにより、SACDの協会員 (劇作家・作曲家) は劇場に直接台本を送ったり、対立する劇場と直接交渉することが禁じられ、違反者には罰金が科された。

第二帝政に入ると、1852年のルイ・ナポレオン (ナポレオン3世) 勅令により、フランス国立博物館に複製2部を寄託すれば、外国著作物もフランス国内で保護を与えるとした。ここでの外国著作物であるが、たとえその国がフランス著作物を保護していないケースであっても、フランス側では保護対象とした。ルイ・ナポレオンのこの方針は、著作権が自然権であり、国籍や政治的な壁を乗り越えるとのフランス著作権法の哲学に立脚していた。

近代法時代

19世紀のフランスはナポレオン帝政後に王政、共和制、帝政、共和制と体制が目まぐるしく変化していたが、欧州で最も中央集権化が進んでいた国でもあった。また欧州で最も使用頻度が高い言語がフランス語であった。したがって、フランス語の著作物は欧州に広く流通し、その結果、フランス国外で海賊版が大量に複製され、それがフランスに逆輸入する事態も発生した。また、フランス国内における外国人著作物の保護もなされていなかった。

    著作権保護期間の延伸

フランス国内における19世紀の著作権法は、総合的な著作権法の制定には至らず、保護期間の延長が改正議論の中心であった。1791年法により演劇著作物の上演権は没後5年、1793年法によりその他著作物の出版権は没後10年と定められていたが、判例法によって演劇著作物にも1793年法が適用され、上演権も没後10年とされた。しかし19世紀に入り、権利保護期間が問題となった。なぜならばこの当時、文盲率が大幅に改善されたことにより、書籍商は過去の名著を重版出版するようになった結果、1793年法で定めた死後10年という期間では権利保護が短すぎたからである。

1830年に7月革命が起こり、シャルル10世 (在位: 1824年 - 1830年) が言論統制のために検閲制度を復活させたものの、市民蜂起の結果、シャルル10世からルイ・フィリップ (在位: 1830年 - 1848年) に代わった。ルイ・フィリップの治世の下、著作権改正法案策定のための委員会が1832年から立ち上がっている。この委員会では原則、永久著作権を認めたかったものの、実社会での適用に難があった。出版社が恒久的に著作権料を払わざるを得なくなると、書籍の末端販売価格が上がり、これを回避しようとして国外で海賊版を誘発する副作用が懸念されたためである

こうした議論を経て1844年8月3日法が制定され、演劇著作物の複製・上演にかかる著作権の保護期間は没後20年に延伸した。さらに1854年4月8日 - 19日法により、著作権の保護期間は没後30年に延伸した。条文上の対象には著作者、作曲家、美術家と書かれていることから、演劇著作物以外にも保護期間の延伸が認められている。続いて1866年7月14日法によって、著作権の保護期間が著作者の没後50年に延長している。これら一連の延伸に関する法改正は、当時大衆から人気の高かった作家たちが、政治家として国政に進出しており、彼らの尽力が大きかったとされる。しかし、土地・建物のように著作権についても所有権を永久に認めるべきとの考え方も根強く残っていた。

    二国間条約とベルヌ条約
フランス 著作権法 
国際著作権法に寄与した文豪・政治家ヴィクトル・ユーゴー(1876年当時、Étienne Carjat作)

フランス国外に目を向けると、本格的な多国間条約であるベルヌ条約以前、19世紀当時のフランスは二国間条約を通じて自国の著作物の保護に努めていた。しかし二国間条約の場合、保護水準の低い国、すなわち文化の輸入国に合わせて締結内容が定められるため、保護水準が高く、文化の輸出国であったフランスは、国内と比較して国外でのフランス著作物の保護が十分ではなかった。

具体的には、自国民が外国で著作物を発行した場合、内国民としての保護を排除する国や、翻訳権や小説の劇化といった翻案権を認めていない国、翻訳権の保護期間が著作物登録から3か月で失効する国もあった。このような状況下で、フランスの著作物が国外で無断翻訳され、損害を被っていたのである。そもそも、各国の権利保護期間にもバラつきがあり、国際的な統一の必要性があった。

こうした国際状況を背景に、まずは民間レベルで動きが始まる。1858年9月、著作権の国際的な保護を協議すべく「文学的美術的所有権会議」がブラッセルで非公式に開催された。さらに、1878年のパリ万国博覧会を契機に、フランス政府の呼びかけによって各国の学者・美術家・文学者・出版業界の代表者が集まり、著作権に関する会合が持たれた。この会合の結果、フランスの文豪であり政治家でもあったヴィクトル・ユーゴーを名誉会長とした国際文芸協会 (後の国際著作権法学会 (略称: ALAI)) が創設された。当会合からフランス政府に対し、多国間条約の起草・締結を要請することとなった。

これ以降は、各国政府による公式な外交協議へと移った。第1回ベルヌ公式会議 (1884年9月)、および第2回ベルヌ公式会議 (1885年9月)を経て、第3回ベルヌ公式会議 (1886年9月) でベルヌ条約の条文が固まり、10か国が調印し、翌年1887年12月7日にベルヌ条約は発効した。

    レコード録音権

20世紀初めに蓄音機とレコードが一般に商品化されているが、それ以前はオルゴールが音楽再生の唯一の手段であり、19世紀に入ってオルゴールは上流階級だけでなく、一般庶民にも広まっていた。オルゴール生産主力国であるスイスの国策圧力により、フランスでは1866年5月16日法を成立させ、音楽の著作権者に無断でオルゴールに楽曲を利用・複製することを合法化している。1886年署名のベルヌ条約でもその第3条で、オルゴールの製造・販売は音楽の偽造とみなさない旨が規定されている。しかし、レコード録音権を巡る訴訟がフランスで相次いだことから、オルゴールの楽曲無断利用合法化の対象からレコードを切り離すこととなり、レコード録音使用料の支払が義務化された。1908年のベルヌ条約ベルリン改正でも、オルゴールの免責を改定し、オルゴールを含む全ての音楽複製権が著作者にあると規定した。これを受け、世界初の録音権協会である機械的複製権協会 (SDRM)フランス語版が1935年に設立され、録音使用料の徴収・分配を権利者に代わって行うようになった。

    追及権

1920年5月20日法により、世界初の「追及権」が美術作品に認められた。追及権とは、絵画や彫刻などの美術品が転売されるたびに、その売買価格の一定割合を著作者が継続して得ることができる仕組みであり、著作者が作品を安値で手放しても、後に価値が高騰した時に金銭的に報いられるようになっている。この追及権は、著作物が著作者から離れても、著作者の支配権は残るという大陸法著作者人格権思想に基づいている。

第二次世界大戦後

1957年3月11日法によって著作権法は大幅改正され、フランス革命期の1791年法と1793年法以降、約160年の間に蓄積されたさまざまな判例法を1957年法に取り込んでいる。また、著作財産権だけでなく、著作者人格権も成文化している。

1985年7月3日法によって、コンピュータ・プログラムが著作権保護の対象として追加されたほか、著作隣接権が新たに明文化されている。また、音楽著作物に関しては著作権の保護期間が50年から70年に延伸している。

1992年7月1日法 (法令番号No. 92-597) によって過去の法令を全面改廃し、現在の知的財産法典フランス語版に著作権法が収録された。

EU指令とフランス国内法改正

フランスは欧州連合 (EU) 加盟国として、EUの各種著作権指令に基づき、必要に応じて国内法化を行っている。EU指令の国内法化とは、既存の国内法ではEU指令の求める結果・水準を満たせない場合、国内法を改正あるいは新たに立法する手続を指し、既に国内法で満たしている場合は、特に国内法化は発生しない。EU指令が発効してから、各国が国内法化を完了させるまでの導入期限は、指令ごとに個別設定されている。以下、代表的なEU著作権指令 (左) とフランス国内法化 (右) を対比してまとめる。

  • 1993年の欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令 (93/98/EEC指令) -- 1997年3月27日法を成立させて、フランスでもすべての著作物の著作財産権保護期間を70年に延伸させた。音楽著作物のみは、1985年7月3日法ですでに70年に延伸していたが、1997年3月27日法によって音楽以外も70年に合わせている。なお、93/98/EEC指令はその後2006/116/EC指令により改廃され、さらに2011/77/EU指令で改正されている。2011/77/EU指令に伴い、フランスでは2015年に国内法化の改正を行っているが、国内法化の期限である2013年1月11日から2年以上遅延したことになる。
  • 2000年の電子商取引指令英語版 (2000/31/EC指令) -- インターネット・サービスを提供したISPなどに対して、侵害コンテンツを削除するよう求めるデジタル経済法フランス語版 (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)が2004年6月21日に成立している。またデジタル経済法以外にデクレ (政令) 1本とオルドナンス英語版フランス語版 (大統領による委任立法) 1本が発せられている。電子商取引指令はEU加盟各国で国内法化の期限日が個別に設定されており、フランスは2002年1月17日であったことから、2年以上遅延した。
  • 2001年の情報社会指令 (2001/29/EC指令) -- WIPO著作権条約を具現化するために成立した、EU著作権指令の根幹を成す指令である。フランスでは2006年8月1日法、通称: DADVSIフランス語版英語版で情報社会指令を国内法化し、さらに2009年制定のHADOPI法で強化・補完した。詳細は後述する。
  • 2001年の再販権指令英語版(2001/84/EC指令、追求権指令とも) -- フランスは世界で初めて追及権を認めた国であり、追及権指令が出る前に基礎的な法制度は整っていた。2006年8月1日法により、部分的に改正している。
  • 2004年の知的財産権の執行に関する指令英語版 (2004/48/EC指令) -- 当指令を受けて、フランスでも著作権侵害の救済に関して国内法化を行っている。2007年10月29日法 (法令番号: 2007-1544) および2008年6月27日法 (法令番号: 2008-624) により、民事訴訟手続上、著作権侵害者の個人情報を得ることを合法化したほか、金銭賠償に関しフランス著作権法が改正されている。当指令の国内法化期限は2006年4月29日に設定されており、1年以上遅延した。
  • 2014年の著作権集中管理指令 (2014/26/EU指令) -- フランスは世界初の著作権管理団体発祥の地であり、既に2000年から著作権管理団体を統制するために監督委員会が設けられていた。2014年のEU指令を受け、監督委員会の役割を拡大させる法改正を2016年7月7日に成立させている。
  • 2019年のDSM著作権指令 (2019/790/EU指令) -- DSM著作権指令は2001年の情報社会指令以来の大型改革である。2019年6月7日に発効し、フランスを含む各国は2年後の2021年6月7日までに国内法化を完了させる義務を負っている。
    情報社会指令と国内法化の遅延

インターネットを介した著作物の流通における技術的保護 (いわゆるデジタル著作権管理、DRM) を定めた情報社会指令 (2001/29/EC指令) は、フランス国内でも著作権法の改正が複数回発生している。2006年制定のDADVSIでは、個人による違法ファイルの共有を初めて刑事罰として規定した。しかしDADVSIが成立する過程で紛糾し、法案は修正・削除が繰り返された結果、国内法化の期限である2002年12月から3年半以上も遅延した。その結果、2004年2月に欧州委員会はフランスを欧州司法裁判所に提訴し、2005年1月にフランスへ制裁金を科す判決が下っている。なお、情報社会指令の国内法化に苦戦したのはフランスだけではない。国内法化の期限に間に合ったのはギリシャとデンマークの2か国のみであり、特に遅延が著しかった国々 (ベルギー、スペイン、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン) はフランス同様に提訴されている。

国内法化がフランスで大幅に遅れた要因は複合的であるが、もともとフランスは著作権に限らず、EU指令全般で国内法化の遅延比率が他国よりも高いことが欧州委員会から指摘されている。その文化・政治的背景として、自国で決めていない指令を導入することへの抵抗感、政治的圧力団体によるロビイングによって立法過程が複雑化していること、そして国会提出法案の入念なチェック手続の3点が挙げられる。

DADVSIを巡っては、フランスで紛糾の種となったのが法案の第1条に盛り込まれていた「グローバル・ライセンス」(: licence globale) である。これはインターネットユーザが毎月一定額を著作権者に支払うことで、音楽や映画などのデジタルファイルを合法的にPeer-to-peer (P2P) で共有できるようにする制度であった。フランス政府は反対したものの、著作権管理団体や消費者団体などからの強い支持を背景に、中道左派の社会党や、後の大統領を務めたニコラ・サルコジを擁する保守系の国民運動連合などが賛成に回り、2005年12月にフランス国民議会 (下院) はグローバル・ライセンス条項を含む法案を可決した。しかしながら政府が多数派党に法案反対を働きかけた結果、最終的にグローバル・ライセンスは廃案に追い込まれている。対案として一般ユーザではなくISPに対して賦課金を課す提案が提出されるも、こちらも廃案となった。

また、DADVSI法案の第7条は欧米メディアから「iPod法」と呼ばれて批判を受けた。この条項では、楽曲ファイルをダウンロードした一般ユーザが他社製の再生機器を使って鑑賞できるよう、アクセスコントロール技術に互換性を持たせることを義務化する内容であった。そのため、iTunesで楽曲配信し、iPodで楽曲再生するビジネスモデルを展開していたAppleなどに打撃を与えると懸念されていた。しかし、相応の金銭的補償なしに楽曲配信事業者に互換性の義務を負わせてはならないとして、フランスの司法機関である憲法評議会が当条項の違憲性を指摘して、大幅な修正に至っている。

さらにDADVSIを補完する形で、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的としたHADOPI法が2009年に制定されている。しかしこれらの改正法の内容を巡って、利害関係者や世論の間で激しい論争が起こった。HADOPI 1法については、その一部が憲法評議会にて違憲と判示され、これに修正対応したHADOPI 2法が追加成立した経緯がある。

関連項目

註釈

出典

引用文献

    主要文献 (50音・アルファベット順)
    補完的文献 (50音・アルファベット順)

外部リンク

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