炭素繊維(たんそせんい、英: carbon fiber、中: 碳纤维)は、アクリル繊維またはピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して作った繊維。日本工業規格(JIS)では「有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られる、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維。」と規定されている。アクリル繊維を使った炭素繊維はPAN系(英: polyacrylonitrile)、ピッチを使った炭素繊維はピッチ系(英: pitch)と区分される。炭素繊維を単独の材料として利用することは少なく、合成樹脂などの母材と組み合わせた複合材料として用いることが主である。炭素繊維を用いた複合材料としては炭素繊維強化プラスチック、炭素繊維強化炭素複合材料などがある。
炭素繊維の長所を一言で言うと、「軽くて強い」という点である。鉄と比較すると比重で1/4、比強度で10倍、比弾性率が7倍ある。その他にも、耐摩耗性、耐熱性、熱伸縮性、耐酸性、電気伝導性に優れる。短所としては、製造コストの高さ、加工の難しさ、リサイクルの難しさが挙げられる。また、素材自体が異方性を持ち、どういった形で積層するか、また、損傷を受けた場合の破損の判断が難しく、クリティカルな状況での使用は細心の注意が必要である。
PAN系炭素繊維の単繊維は太さは5-7µmである。この多数の単繊維で構成された繊維束をフィラメントと呼び、さらに1,000本から数万本のフィラメントの束をトウと呼ぶ。このトウがPAN系炭素繊維の製品形態として最もよく扱われている。
トウは、そのフィラメントの本数の多寡により区分されており、24,000本以下でレギュラートウあるいはスモールトウ、40,000本以上でラージトウと呼ばれる。レギュラートウは低密度、高比強度、高比弾性率で、航空機や人工衛星の材料や、ゴルフ用シャフト、釣り竿、テニスラケットといったスポーツ・レジャー用途で多く使われている。一方のラージトウは、レギュラートウに比較的して安価なため、風車や自動車などの材料など産業用として主に利用されている。
PAN系炭素繊維の2010年の全世界生産量は、レギュラートウが55,300トン、ラージトウが14,800トンで合計70,100トンと推計されている。
PAN系炭素繊維は以下の工程で連続的に製造される。
ピッチ系炭素繊維の単繊維の太さは7-10µmである。ピッチ系炭素繊維は原料の違いによりさらに等方性ピッチ系とメソフェーズピッチ系に分類される。一般的に等方性ピッチ系からは汎用の炭素繊維が、メソフェーズピッチ系からは高強度、高弾性率の炭素繊維が製造される。
等方性ピッチ系炭素繊維は高い柔軟性、低熱伝導性、優れた摺動特性から、高温炉用の断熱材や自動車のブレーキパッド・クラッチ材に用いられる。一方、メソフェーズピッチ系炭素繊維は高弾性率、優れた振動減衰特性、高熱伝導性、低熱膨張率といった特長があり、印刷用・フィルム用などの工業用ロール部材、薄型テレビ用大型板ガラスの搬送用ロボットアーム、人工衛星用部材などに使われている。
日本発の技術であり、現在でも世界市場に占める日本企業製品のシェアは高い。
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