故意四球(こいしきゅう、intentional base on balls (IBB), intentional walk)とは、野球・ソフトボールにおいて投手が打者に対して、意図的に四球を与えた場合の記録である。
通常、野球・ソフトボールにおいて守備側のチームは打者をアウトに打ち取ることを目的とする。しかし、打者の個人能力や試合の局面を勘案し、あえて打者に四球を与えて打席を終わらせてしまう方が、最終的な勝利のために適切であると判断される場合には、意図的に、つまり故意に四球を与えることがある。
故意四球が通常の四球と区別されて公式記録となるには後述の要件を備えていなくてはならないが、それら要件のすべてを満たさない場合でも、見た者に守備側の四球にしようとする意図が感じられるときには「敬遠」あるいは「敬遠気味」などと表現される。
故意四球自体はルール違反にあたる行為ではなく、相手を封じるための戦術の1つである。しかしながら、故意四球を意図した投球中に、観客が投手に対してブーイングを行ったり野次を飛ばしたりすることがある。試合そのものの勝敗、特に優勝争いが関わる状況などの故意四球は勝利を確実にするための作戦と許容されることも多いが、後述の打撃タイトルの阻止や過去の記録(本塁打数等)を保存するための故意四球やそれに類する行為に対しては、非常に強い批判が行われ、故意四球狙いにされていることに気づいた打者の中には、抗議の意味も込めてわざと空振りし、ストライクにする選手もいる。記録妨害行為が大きな反響を呼び、コミッショナーやリーグの会長が厳重注意したこともある。
なお、蛭川皓平の著書「セイバーメトリクス入門」では、1974年の王貞治を敬遠し、次打者となる同年の平均的な打者と勝負する場合、2死二、三塁のシチュエーションぐらいでしか有意に得点期待値が下がらない一方で、次打者が打率2割2分程度、長打率3割1分程度という控えレベルの選手を想定した場合、2死二塁、2死三塁、1死二、三塁でも有意に得点期待値が下がると結論付けられている。
2017年からは、メジャーリーグ(MLB)において、試合時間の短縮などを目的とし、投手が投球を行わずに、守備側の監督が故意四球の意思を球審に示した場合、投手が投球を行うことなく打者に一塁への安全進塁権が与えられる規則が採用された(公認野球規則5.05(b)(1)【原注】および用語の定義7)。これは元々ソフトボールの国際ルールで採用されていた制度であるが、日本でも2018年からプロ野球・大学野球・社会人野球で採用され、2020年からは高校野球でも採用された。この規則を用いて打者に故意四球を与えるプレーは一般に「申告敬遠」と表現される(後述)。
公認野球規則では、捕手は投手が投球を開始するまで本塁の直後に位置しなければならないとされている。特に故意四球を意図した投球を行う際には、ボールが投手の手を離れるまではキャッチャースボックスから片足でも出してはならない(公認野球規則5.02(a))とされており、これに違反すれば投手にボークが科せられる。したがって、投手はあらかじめ故意四球を行う旨を捕手と示し合わせ、捕手はある程度遠く離れた球が投げられても対応できるよう準備をする必要がある。
この「捕手は投手がボールをリリースするまでキャッチャースボックス内に位置する」というルールは、近年、特に日本のプロ野球においてはおよそ守られていない。審判員も黙認していることが多く、現実に捕手がキャッチャースボックスの外に片足を出して構えているときに投手が投球しても、ボークと判定される事例はほとんど見られない。
野球規則において、「故意四球」が記録されるのは「投球する前から立ち上がっている捕手に4球目にあたるボールを、投手が意識して投げた場合」である(捕手の位置は問わない)。例えば、
という2つのケースでは、前者は「故意四球」が記録されるが、後者は通常の「四球」が記録される。
また、捕手が投球前から立ち上がっているのが要件であるから、ストライクゾーンから遠く離れたところに意図して投球を行ったが捕手が立ち上がっていない場合や、投手が投球してから捕手が立ち上がったような場合も故意四球は記録されずに四球が記録される。
故意四球の投球を打者は打っても差し支えなく、後述されているように安打した事例も存在する(下記「故意四球を意図した投球を安打にした例」を参照)。
故意四球を行うには、投手は意図的にボールと判定される投球を投げる必要がある。
一般的な故意四球では、投手は明らかにボールと判定される投球をするために、そしてボール球を無理矢理打たれる事態を避けるために、打者から十分に離れた場所に投球する。捕球の準備のため、捕手は立ち上がった姿勢で投球を待つ。キャッチャースボックスから大きく離れられないために投球の目標として打者から遠いほうの手を大きく横にかざすことがセオリーとされる。多くの場合、投手は捕手が捕逸しないよう緩やかに球を投げる。必要に応じて、捕手は本塁から外れた位置に移動して捕球する。これを4回繰り返すことで打者に四球が与えられ、故意四球が記録される。これで暴投してしまう癖を持つ投手もおり、その場合は座った捕手に投げるため故意四球は記録されない。
捕手が故意四球の構えを取らずに投手が明確に外した場合は敬遠気味の四球と呼ばれるが、ある程度勝負に行った場合は「無理に勝負をしない」と表現されることがある。
守備側の監督が故意四球の意思を球審に示した場合、投手が投球を行うことなく打者に一塁への安全進塁権が与えられる規則がメジャーリーグ(MLB)、日本プロ野球、その他アマチュア野球、ソフトボールで採用されている。日本では申告による故意四球は「申告敬遠」(しんこくけいえん)と呼ばれることがほとんどである。
申告敬遠制はソフトボールの国際ルールで以前より定められていた規則である。日本では2013年のルール改正により導入された。
さらに2017年には、MLBで試合時間短縮を目的に申告敬遠制度が採用され、日本でも翌2018年の野球規則改正によって、プロ野球、大学野球、社会人野球において採用された。高校野球では制度導入が見送られていたが、2020年より投球数制限と同時に採用されることとなった。
申告敬遠制では、すでに何球か投球した後(例えば1ボール1ストライクから)でも故意四球を申告することができる。また申告敬遠を選択した場合、投手の投球数は加算されない。ただし申告する前にその打者に投球していた場合、その投球数は加算される。
日本プロ野球では、故意四球を申告するためには監督がダッグアウトより球審に伝達し審判が故意四球をコール、それを見て場内放送が「申告敬遠」である旨を告げる。日本の高校野球では時間短縮が目的ではなく、球審に対してダッグアウトから伝令を出すことが必要で、球審が場内放送を促し「申告故意四球」するというアナウンスがかかった後に球審がコールして、初めて打者の一塁進塁が認められることになっている(伝令の審判への伝達を聞いて打者が進塁しようとしても止められる)。
申告敬遠は通常の四球と異なりボールデッドとなるため、守備側としては暴投や捕逸などによる予期せぬ進塁を確実に防げる一方、これには試合が面白くなくなるという批評も少なからずある。
故意四球によって攻撃側に対して1人または2人の走者を与えることは得点機会につながるので、守備側はそのデメリットが直接負けに繋がらず、かつそれを補うに足るメリットがある場合にのみ故意四球を行うことになる。以下のようなケースが典型的なものである。
ごくまれではあるが、走者満塁で本塁打をよく打つ強打者と対戦した際、本塁打を打たれるより取られる点が少ないという考えで、押し出しを覚悟のうえで故意四球を行うことがある。
この節に雑多な内容が羅列されています。 |
所属及び球団名はすべて当時のものである。
いずれも申告敬遠が導入される以前の試合である。
この節の加筆が望まれています。 |
順位 | 選手名 | 故意四球 | 順位 | 選手名 | 故意四球 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 王貞治 | 427 | 11 | 土井正博 | 106 |
2 | 張本勲 | 228 | 12 | 山内一弘 | 101 |
3 | 長嶋茂雄 | 205 | 13 | イチロー | 98 |
4 | 野村克也 | 189 | 金本知憲 | ||
5 | 門田博光 | 182 | 15 | A.カブレラ | 95 |
6 | 落合博満 | 160 | 16 | 山本浩二 | 94 |
7 | 谷繁元信 | 158 | 17 | 大杉勝男 | 92 |
8 | 田淵幸一 | 125 | 18 | 達川光男 | 88 |
9 | 江藤慎一 | 118 | 19 | 中西太 | 85 |
10 | 中村武志 | 112 | 20 | 若松勉 | 83 |
順位 | 選手名 | 所属球団 | 故意四球 | 記録年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 45 | 1974年 | セ・リーグ記録 |
2 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 41 | 1966年 | |
3 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 38 | 1973年 | |
4 | 野村克也 | 南海ホークス | 37 | 1968年 | パ・リーグ記録 |
5 | 長嶋茂雄 | 読売ジャイアンツ | 35 | 1961年 | セ・リーグ右打者記録 |
6 | 川上哲治 | 読売ジャイアンツ | 34 | 1955年 | |
7 | 長嶋茂雄 | 読売ジャイアンツ | 32 | 1960年 | |
8 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 30 | 1967年 | |
9 | 王貞治 | 読売ジャイアンツ | 29 | 1965年 | |
A.カブレラ | 西武ライオンズ | 2002年 |
通算記録・シーズン記録ともにバリー・ボンズが圧倒している。ボンズの688敬遠のうち、満塁での敬遠は上述の1回だけだが、無走者での敬遠は41度(うち無死無走者の場面での敬遠が5度)、2ストライクを取られている場面での敬遠が5度(うち0ボール2ストライクからフルカウントになり敬遠されたのが3度)ある。
順位 | 選手名 | 故意四球 |
---|---|---|
1 | バリー・ボンズ | 688 |
2 | アルバート・プホルス | 316 |
3 | スタン・ミュージアル | 298 |
4 | ハンク・アーロン | 293 |
5 | ウィリー・マッコビー | 260 |
6 | ブラディミール・ゲレーロ | 250 |
7 | ケン・グリフィー・ジュニア | 246 |
8 | テッド・ウィリアムズ | 243 |
9 | ミゲル・カブレラ | 238 |
10 | ジョージ・ブレット | 229 |
順位 | 選手名 | 故意四球 |
---|---|---|
11 | ウィリー・スタージェル | 227 |
12 | エディ・マレー | 222 |
13 | フランク・ロビンソン | 218 |
14 | マニー・ラミレス | 216 |
15 | ウィリー・メイズ | 214 |
16 | デビッド・オルティーズ | 209 |
17 | トニー・グウィン | 203 |
18 | アーニー・バンクス | 202 |
19 | マイク・シュミット | 201 |
20 | ラスティ・スタウブ | 193 |
順位 | 選手名 | 所属球団 | 故意四球 | 記録年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | バリー・ボンズ | サンフランシスコ・ジャイアンツ | 120 | 2004年 | ナ・リーグ記録 |
2 | 68 | 2002年 | |||
3 | 61 | 2003年 | |||
4 | ウィリー・マッコビー | 45 | 1969年 | ||
5 | アルバート・プホルス | セントルイス・カージナルス | 44 | 2009年 | 右打者記録 |
6 | バリー・ボンズ | サンフランシスコ・ジャイアンツ | 43 | 1993年 | |
2007年 | |||||
8 | ウィリー・マッコビー | 40 | 1970年 | ||
9 | バリー・ボンズ | 38 | 2006年 | ||
アルバート・プホルス | セントルイス・カージナルス | 2010年 |
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