投手(とうしゅ)とは、野球やソフトボールにおいて打者にボールを投げる役割の選手。英語からピッチャー(pitcher)とも呼ぶ。
野球における守備番号は1。また、英略字はP(Pitcherから)。クリケットの投手はボウラー(bowler)と呼ぶ。
投球の速度(球速)を表示する一般的な単位として、メジャーリーグではマイル毎時(mph)、日本プロ野球ではキロメートル毎時(km/h)が使われる。これはアメリカ合衆国やイギリスなどの一部英語圏ではヤード・ポンド法が主流なのに対し、世界的には国際単位系であるメートル法が主流であるため。
投手の主な役割は、投球によって失点を最小限に抑え、チームの勝利に貢献することであり、野球は投手で7-8割が決まるともいわれている。特に第1イニングから投げる先発投手の場合は「試合を作る」と表現され、6イニング以上を3失点以内に抑えることをクオリティ・スタートと呼び好先発投手の目安の一つとなっている。また、リリーフ投手は引き継いだ試合の状況を守りきること(先発投手が作った勝てる試合を逆転させないこと)が要求される。
投手の役割は、単にボールを投げるだけではなく「打者を出塁させないこと、走者を生還させないこと」であるとも言える。投手は打者から三振を奪ったりゴロやフライを打たせるなどしてアウトを取る。そのために捕手とサインを通じて連携して個々の打者が苦手とするコースや球種を投げるなどする。『ドジャースの戦法』の著者アル・キャンパニスは投球で最も大事なのは制球だとしている。
塁上に走者がいる場合は、簡単に盗塁されないために状況に応じて目線による牽制あるいは牽制球による牽制を行う必要がある。
投手は投球を終えた時点で「五人目の内野手」として他の野手同様に守備をすることが求められ、投球時点で後の守備に備えて体のバランスを取れているか否かという点で守備の得手不得手が明確になる。
一般的に投手へのゴロやフライは処理しやすいため、それほど高い守備力は求められない。投手の疲労及び怪我を回避する目的や打球処理に慣れていると思われる選手に任せた方が確実であることから、バントによる小飛球を除けば投手の守備範囲へのフライであっても捕手や一塁手、三塁手などが処理することが多い。この時、投手は飛球があがっている位置を指さし、野手に知らせる。しかし、「ピッチャー返し」と呼ばれる強いライナーが飛んでくることもある。この場合は、投球により崩れた体勢を整える前に高速の打球が飛んでくるためうまく反応することは難しく、ピッチャー返しが体に直撃すると負傷につながりやすい。中には顔面に受けて大怪我を負った例もある(マイク・ムッシーナ、石井一久など)。
打球処理以外で重要なプレーとしてはベースカバーがある。一塁手がゴロを追ってベースを離れた場合には、投手は素早く一塁をカバーし、送球を受けて打者走者をアウトにしなければならない。他にも、走者三塁の場面で暴投や捕逸が出た場合は本塁へのベースカバー、三塁手がバント処理などで空けているベースを走者が狙った際には三塁へのベースカバーを行う必要がある。
また、ヒットなどで外野から本塁(三塁)への送球が考えられる時、外野と本塁(三塁)を結ぶ線上のファウルゾーンに入り、送球が逸れた場合に備えることも忘れてはいけない(バックアップ)。さらに状況によっては捕手や外野からの送球をカットし、適切な塁に送ることでアウトにするプレーも求められる。塁間に飛び出している走者を挟殺するランダウンプレイには投手も参加しなければならない。
このように投手に求められる守備は細かいものが多いが、よい守備ができれば結果として自分自身の投球を楽にするので、その役割は軽視できない。
投手は投球が役割の中心となるため、打撃に関しては期待されないことが多い。リーグによっては打撃を務める指名打者という打撃専門の選手を置くルールを採用することもあり、そのルールの下では投手が打撃を行わない場合がほとんどである。指名打者制がない場合も投手は作戦上安打を打てないのを前提として、走者がいる時にはバントを試みることが多い。また「2死」や「大差でリード」、「凡退でチャンスが潰れる」場面で打席が回った際にわざと本塁から最も離れて立って三振し、投球に負担を掛けない(走者になると接触プレー等での怪我の可能性がある)、ランナーがいる場合に安易に打っての併殺を防ぐ、自軍の攻撃を上位打線から始めさせ、次打者以降に安打を期待という先を見越した作戦を取る事もよくある。ただしこれには「わざと三振するのはスポーツマンシップ上問題」とする意見もある。
このように様々な理由で、特にプロ野球の投手に打撃力は求められないが、打撃に優れる投手も存在する。メジャーリーグベースボールのナショナルリーグでは、最も打撃に優れた投手にシルバースラッガー賞が与えられる。マイク・ハンプトンは2001年には7本塁打を放つなどし、同賞を投手として最多の5度受賞している。また川上憲伸は2009年代打として2試合に出場したり、中日時代は通算8本塁打を放っている。
少年野球などでは、運動能力に優れている選手が、投手と打者の両方の実力で他の選手を上回ることがある。高校野球でも、投手が上位打線に組み込まれていることが多い(いわゆる「エースで4番」)。そのため、ベーブ・ルース、川上哲治、王貞治を筆頭に投手としてプロ入りした後、打者に転向する選手は比較的多い。対照的に、野手がプロ入り後に投手に転向した例は野口正明、ティム・ウェイクフィールドなど極少数である。その理由は、投手の技術は野手の技術と大きく異なり、習得に時間を要するからである。
野手は右投左打の選手も多いが、大半の投手は利き腕と同じ側の打席に入る。理由は右投左打(左投右打)の場合、打席に立った時に投球腕である右側(左側)を相手投手に向けることになってしまい、死球を受けるなどして負傷すると投球に支障をきたすからである。ただし,打撃時に詰まった打球を打つと押し手側のほうがよりしびれ,投球に支障をきたしてしまう場合もあるのであえて反対側の打席に立つ投手も存在する上,幼少時より右投左打(左投右打)で打っていた投手は矯正が難しいため右投左打(左投右打)の投手も少数ながらいる。また利き腕と反対側の打席に入る場合、アームガードで腕を保護する投手は少なくない。
進塁した投手がウインドブレーカーを着ることがある。これは肩を冷やさない、擦り傷を防ぐ意味があり、コーチや監督が着ているが、選手としては投手のみ許されている。
投手は利き腕でボールを投げることが多く、右投げと左投げ(サウスポー)の区別がある。極く稀に「両投げ」の投手(スイッチピッチャー) も存在する(逆にスイッチヒッターつまり両打ち打者はそれほど珍しくはない)。
「カーブ」「シュート」「スライダー」などの左右に変化する変化球は、投手の利き腕の左右により逆方向に変化する。即ち、右投げ投手のスライダーが右打者視点で外角に逃げていくのに対し、左投げ投手のスライダーは右打者視点では内角に食い込む変化となる。
右腕投手・左腕投手の状態的差違はセットポジション(投球前の一旦静止する姿勢)で最も如実に現れる。右投手が三塁方向を向いて静止するのに対し、左投手は一塁方向を向いて静止する。走者が一塁にいる場合、左投手は投球の直前まで走者の動きを捉えることができるため有利と言われる。
特に左打者は左投手を苦手にする場合が多いとされるため、左打者を専門に抑える「ワンポイントリリーフ」などと呼ばれる起用法がある。
なお、先発で登板した投手は同一イニング内に最低1人の打者との対戦を終えるまで交代できない。救援投手は最低1人の打者との対戦を終えるか、そのイニングが終了するまで交代できない。投手コーチ等がマウンドに行ける回数についても、1人の投手につき、同一イニング内に1回と決められている。
野球の投手は投球腕の左右にかかわらず、投球フォーム(投球の際に球を放す位置)で以下の4種類に分類される。
大まかな分類は上記の通りであるが、投手の投球フォームは千差万別であり、同じ投法に分類されていても必ず個人差は存在するため、あくまでも概念的な分類でしかない。
特に個性的な投球フォームにはニックネームが付けられることがある。野茂英雄の「トルネード投法」、村田兆治の「マサカリ投法」、山内泰幸の「UFO投法」、村山実の「ザトペック投法」などが知られる。
ソフトボールの投手は以下の2種類に分類される。
現在ではウインドミルが主流であり、スリングショットはまれ。
投手は役割によって大きく2つに分類され、試合開始からマウンドに立つ投手を先発投手(スターター)、試合展開によって途中イニングから先発投手に代わり登板する投手を救援投手(リリーフ)と呼称する(交代は6~7イニング目が多い。これは5回まで抑え切れば試合が成立し先発は勝利投手の権利が得られるため)。さらに、リリーフは試合を決める終盤イニングに登板する抑え投手(クローザー)、先発投手と抑え投手の間に投げる中継ぎ投手(セットアッパー)などに分類される。
投手は、その投球スタイル(球種、球速などの傾向)の特徴によっても分類されることがあり、大きく「本格派投手」と「技巧派投手」に分類される。両者を分類する指標として「PFR(Power/Fitness Ratio)」があり、この数値が高い投手は本格派、低い投手は技巧派と見なされる。
威力ある速球と優れた変化球、豊富なスタミナと一定以上のコントロールを高いレベルで兼ね備えた投手で、先発完投型やエースと呼ばれる投手に多い。剛速球や大きく変化する変化球で奪三振を量産するプレースタイルである。MLBではパワーピッチャー(英語版)と呼ばれる。
多彩な変化球や制球に優れた投手で、奪三振は多くないもののポップフライや内野ゴロなど、“打たせて取る”投球で投球回を稼ぐ。変化球以外にも、同じ球種でも球速を変えたり、内外角を攻め分けたり、打者の弱点に投げ込む他、打者のタイプ、ストライクカウント、ゲーム状況をも考慮した高度な投球術を持ち合わせる。高い制球力を指して「精密機械」などと表現される投手もおり、MLBではコントロールピッチャー(英語版) と呼ばれる。与四球率とK/BBがその目安の数値となり、投球術についてカート・シリングはストライクゾーン内に投げる能力を「コントロール」、狙ったところに投げる能力を「コマンド」としている。奪三振による球数増加に伴う故障のリスクを避けるため、メジャーでは近年技巧派投手が増加傾向にある。
対戦打者にゴロを頻繁に打たせることが出来る投手はグラウンドボールピッチャーと呼ばれる。高い割合でゴロを打たせることで長打になる危険性を低下させ、これが失点を減らすことに繋がる。平均的にはフェアボールのうち50%程度の割合でゴロを打たせており、極端なグラウンドボールピッチャーは55%前後の割合でゴロを打たせている。西本聖、グレッグ・マダックス、マリアノ・リベラ、ブランドン・ウェブ、デレク・ロウらがこのタイプの投手である。一方で、あまりゴロを打たせることが出来ず、グラウンドボールピッチャーの対極にある投手はフライボールピッチャーと呼ばれる。投手が打たせるゴロの割合はFanGraphs.comなどで確認することが出来る。
正規の投球姿勢にはワインドアップポジションとセットアップポジションがあり随時自由に用いることができる(野球規則5.07(a))。
野球規則では試合中ボールデッドのときなら、原則としてプレーヤーはいつでも交代できる(野球規則5.10 1(a))。しかし、投手には以下の制限がある。
勝敗に直接関わった投手を「責任投手」と呼び、「勝利投手(勝ち投手)」と「敗戦投手(負け投手)」がある。また、自チームのリードを最後まで守り抜き、自チームの勝利を確定させた救援投手には「セーブ」が記録される。これらの記録の条件について詳しくはそれぞれの項目を参照のこと。なお、引き分けとなった試合でも各チームの最後に登板した投手に対して「引分」が記録される。尚勝利投手・敗戦投手・セーブの記録は、勝利チームに没収試合が宣告されると取り消しとなる。
プロ野球で投手に与えられる表彰または賞には以下のものがある。
投手はバッターが打ったボールが当たりやすい位置におり、頭部に被弾する重大な事故も多発しているが、投手用のヘルメットは集中を削ぐことや、嵩張ってマリオの帽子のように見えることから敬遠され普及していなかった。近年のアメリカではベンチャー企業が開発した帽子の中に入れる薄いプロテクターがプロアマ問わず普及している。
なお頭部に被弾した99%は投手の利き手側という分析結果がある。
投球動作は肩や肘に負担がかかり特有の障害を引き起こす。
平成27年、全日本野球協会や日本整形外科学会などが全国の小学生チーム硬式・軟式合わせて1万人以上を対象に肩・肘の痛みについて調査した結果、投手経験者の半数以上が痛みを感じたことがあると分かった。球数が多くなる、ポジションの兼任などの選手ではその傾向は強くなっている。
アメリカの少年野球では投球障害のリスクの観点から、試合において投手というポジションを無くして打撃をティーで行う場合がある。
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