性別(せいべつ、英:sex(セックス))、主に生物学的な性差。男性と女性の別。オスとメスの別。
(生物学的な)性別の様式は多様である。遺伝的に染色体で決定している種(ほ乳類一般)、発生時の周囲の温度など環境によって決定する種(カメ、ワニなどは虫類の多く)、個体の大きさによって決定する種(ウラシマソウ、テンナンショウなど)、齢によって決定する種(メロン、キュウリなど)、周りに存在する同種異個体との相互関係により決定する種(クマノミ、ホンソメワケベラ)などが知られている。詳しくは性決定を参照のこと。
人間の場合はそれぞれを「男性」「女性」あるいは「おとこ」「おんな」や「男子」「女子」などと呼ぶ。人間の場合は、生物としての性別を前提としながら、加えて精神的・文化的に、また社会的な立場としても異なった存在として成長する。この意味での性の区別を生物学的なそれとは区別してジェンダーと呼ぶこともある。
生物的な性と性自認が著しくずれたり反転しているケースが性別不快症候群や性同一性障害、生物学的な性の形成そのものが定型的でないケースが性分化疾患である。詳しくは個々の項目を参照。
人間の性別は、根本的には男性化を促す遺伝子の有無に由来し、受精の瞬間にほぼ決定される。人間の23対の染色体のうちの1対は性染色体と呼ばれ他の常染色体とは区別される。この性染色体の型(X染色体とY染色体の組み合わせ)によって、性別発達の機序は大きく左右される。これは、Y染色体の上に、精巣形成を誘導し男性化をもたらすSRY遺伝子が載っているためである。
性染色体の型としては、次の2つが典型的である。
非典型的な例として、次のようなものがある。これらの多くは、精子・卵子の生産時に減数分裂に失敗したことによる。
また、上ではSRY遺伝子を重視して述べたが、Y染色体上の他のいくつかの遺伝子も男性化の引き金として重要だという説もある。
X染色体は生命維持に必須であるため、Y染色体1つのみを持つYO型は出生されず、受精直後に致死となると考えられている。
妊娠第4週ほどに卵黄嚢に発生した原始生殖細胞は、第6週には下腹部の生殖隆起に移動して原始生殖腺を形作る。この時点では原始生殖腺は精巣にも卵巣にもなりうる。
第7週になって、SRY遺伝子が存在して正常に機能する場合には性腺原器は精巣に分化する。
同遺伝子が存在しなかったり正常に機能できないために精巣への分化が起こらないままであると、第11週以降卵巣に分化していく。
この際、多数の因子とその受容体が作用しているので、何らかの障害により精巣決定性遺伝子の有無と性腺分化が食い違うこともある。上に挙げたような染色体変異により、精巣と卵巣の中間的な形に分化したり、2つの原始生殖腺のうち一方は精巣に他方は卵巣にと分化することもある。
精巣が形成されると、その中のライディヒ間細胞は活発にテストステロンを生産し、セルトリー細胞はミューラー管抑制因子を生産する。
卵巣は、エストラジオールなどを生産する。
原始生殖腺が精巣に分化した場合、原始生殖細胞は思春期まで休眠する。思春期になると、これらは活発に分裂を始めて精子を生産する。
卵巣に分化した場合、妊娠第3ヶ月から7ヶ月にかけて原始生殖細胞は減数分裂を始め、一次卵母細胞が作られていく。ここから9ヶ月までの間に原始卵胞が形成され、原始卵胞は思春期まで休眠する。
思春期までに99.9%の原始卵胞は卵胞閉鎖する。残ったもののうち、いくつかが月経周期ごとに何らかの機構によって選択され成長し、その内の1つがグラーフ卵胞へと成長して排卵を起こす。
この機構が卵巣や脳下垂体の間のフィードバックによって調整される種種の化学物質に支配されていることは知られているが、詳細な機構は不明な点が多い。
性腺形成と平行して、中腎管(ウォルフ管)に沿った形で中腎傍管(ミュラー管)が形成される。妊娠第7週以降、性腺の分泌する物質に依存してこれらの管が生殖管に分化していく。
典型例は次の2つである。
非典型例としては次のような場合もある。
外性器の分化はテストステロンの有無に従う。原始生殖腺が精巣に分化してテストステロンを生産している場合には男性型に、そうでない場合には女性型に分化する。
非典型的な例としては、次のようなものがある。
脳にも性差が存在する。脳の性分化を決定するのはアンドロゲンである。脳科学の研究成果によると、男児は生まれた直後の2日目ぐらいから生後6ヶ月ぐらいまでの間、成人の半分ぐらい量のアンドロゲンが分泌され、またテストステロン受容体の脳内での分布上の性差がエストロゲンと同じく、海馬・扁桃体内側核・腹内側核等に見られる。アンドロゲンには左脳の発達を抑える働きがあり、このため少年の脳は少女よりも発達が遅い。女性は男性の脳よりも脳梁という右脳と左脳を繋ぐ神経が多い。また、男性と女性の肉体の大きさに違いがあるように、脳も男性は女性の脳に比べて約12~3%大きい[要出典]。
乳児期以降では視床下部のネガティブフィードバックにより性ホルモンの分泌が抑制されているが、第一次性徴が終わり、第二次性徴・思春期になるとこの抑制能が低下し始め、これにより男女それぞれに特徴的な身体の発達を生じるとともに、性的欲求や性的興奮の頻度が急激に高まる。
典型例としては次のものがある。
非典型例としては前述の仮性半陰陽などの他、思春期早発症(男子9歳未満・女子7歳未満で二次性徴・思春期が始まる)と思春期遅発(男子14歳・女子12歳になっても二次性徴・思春期が始まらない)がある。
性的指向(sexual orientation)は誰を好きになるかという「性愛・恋愛対象」である。ここで言う「好きになる」は「恋愛感情を抱く」「同棲したいと思う」「性交したいと思う」などの感情であるが、そのレベルは人によってさまざまである。単に「性交したい」という性交渉の欲求のみを持つ人も存在し、「性交したいのは女性だが、一緒に暮らしたいのは男性」といった人もいる。
一般的に多数派だとされる異性愛者(heterosexual)は、男性は女性を、女性は男性を恋愛対象とする。しかし同性を恋愛対象とする同性愛者(homosexual)と呼ばれる人々も古くから一般的に存在し、男性で男性を好きになる人をゲイ(gay)、女性で女性を好きになる人をレズビアン(lesbian)と呼ぶ。日本では男性が男性を好きになるケースを「ホモ」、女性が女性を好きになるケースを「レズ」と俗に呼んでいたが、この言葉はいずれも差別(侮辱)的であるとして避けられる傾向にある。特に最近女性の同性愛者達は自分たちの性指向をビアンと呼んでいる。同性愛の気がない人をノンケと言う(non+気、で日本語)。アメリカでは男女区別せずにゲイとも呼ばれる傾向がある。
世の中には、男性でも女性でも好きになる人も多く両性愛(bisexual)と呼ばれている。両性愛の人の中にも男女等しく愛するタイプもあれば、どちらかというと異性愛だが、同性でも魅力的な人がいれば好きになるというタイプもあり、その程度はさまざまである。また、自分では異性愛と思っている人も実際に機会がなかっただけで、両性愛の素質がある場合も多いのではないか、という説もある[要出典]。
基本的には異性愛者である者も特定の環境下(異性が少ない戦場や刑務所、同性のみの学生寮など)で同性を恋愛とセックスの対象に選択する場合もあり、機会的同性愛と呼ばれる。この場合除隊、釈放、卒業などにより環境が変わることで、同性愛傾向は消滅する場合もある。つまり、機会的同性愛は根源的な性的指向自体によるものではなく、環境において一時的に形成される性的嗜好(sexual preference)と見なすことができる[要出典]。
このほか、男性および女性のどちらも恒常的に性欲の対象としない、つまり性指向を持たないという場合は無性愛(asexuality)と呼ばれ、これを性指向の中に分類することもできる。
また、男性・女性やその2分法に基づいた性の分類に適合しない人々も含め、あらゆる人々に恋をしたり、性的願望を抱いたりする人々。さらに、性別に囚われず、特定の人間に恋することができる者などの要素を持つ人々を全性愛という。
性指向と次項の性自認は独立のものである。詳しくは次項参照。
詳細は「性同一性(性自認)」を参照。
性同一性(gender identity)は、性自認、ジェンダー・アイデンティティなどとも呼ばれ、自身のジェンダー(性別)をどのように認識しているかを指す。出生時に身体的特徴から割り当てられた性別が性同一性と一致するシスジェンダーの人と、一致しないトランスジェンダーの人がいる。UCLAのウィリアムズ研究所の研究では、アメリカ合衆国の成人の0.9%がトランスジェンダーであると自認している。
トランスジェンダーの人は戸籍や対外的な性別と自身の性同一性の不一致により生じる性別違和(Gender Dysphoria, GD)を解消するために、社会的な性別移行(使用する名前の変更、服装などの性表現の変更)や医学的な方法を用いた身体的な性別移行を行うことがある:745。以前は国際的に性同一性障害(Gender Identity Disorder, GID)との名称で精神疾患として扱われていたが、WHOのICD-11やアメリカ精神医学会のDSM-5において性別違和の脱病理化が行われ、疾患ではなく「性別違和」や「性別不合」という状態を指す呼称に変更された。
人の性自認(ジェンダーアイデンティティ)は連続体でありグラデーションである。そのため、Xジェンダーをはじめとしたさまざまなアイデンティティが存在する。
現代の日本では主に出生時に外性器の外観で医師によって性別を判定されて、出生届を介して戸籍に登録される。物心付く頃から出生時に割り当てられた性別に違和感を感じ、「自分の性が反対のものであったら良かったのに」と思ったり、「自分の本来の性は反対のものである」と確信していたりする人がいる。しかし出生時のに割り当てられた性別と違う性別で生活することには偏見や障害も多い。
性自認と性指向は独立したものとして明瞭に区別されて考えられるが、誤った認識により混同されているケースも依然として散見される。トランスジェンダー女性の場合、性指向としては男性を好きになるのであろうと他者から思われる場合もあるが、シスジェンダーの人と同様、女性を恋愛対象とする同性愛者もいる。もちろん、男性が恋愛対象であるトランスジェンダー男性もいる。
ことばの上でも「ゲイ」は本来同性愛とりわけ男性同性愛者を意味するのに、日本で「ゲイボーイ」というと酒場で女装して給仕をする人のことを指すのが普通であった。また「おかま」という言葉(この言葉は本来は女装男娼を意味し侮辱的である)も女装者の意味で使用したり男性の同性間性交の意味で使用したりして、やはり言葉の混乱が生じている。
そもそも出生的な性、性指向、性自認は「連動しやすい」ものではあるが「完全に連動する」ものではないのである。条件を「性指向は男女どちらか一方、または男女両方を持つ」「性嗜好を考慮に入れない」とすれば下記の12種類のパターンが存在すると考えられる。[要出典]
出生の性 | 性自認 | 性的指向 | 概要 |
---|---|---|---|
男 | 男 | 男が好き | 男性同性愛者:シスジェンダー男性かつゲイ |
男 | 男 | 女が好き | 男性異性愛者:シスジェンダー男性かつ男性ヘテロセクシュアル |
男 | 男 | 男女両方が好き | 男性両性愛者:シスジェンダー男性かつ男性バイセクシュアル |
男 | 女 | 男が好き | 女性異性愛者:トランスジェンダー(MtF)かつ女性ヘテロセクシュアル |
男 | 女 | 女が好き | 女性同性愛者:トランスジェンダー(MtF)かつレズビアン |
男 | 女 | 男女両方が好き | 両性愛性転換者:トランスジェンダー(MtF)かつ女性バイセクシュアル |
女 | 男 | 男が好き | 男性同性愛者:トランスジェンダー(FtM)かつゲイ |
女 | 男 | 女が好き | 男性異性愛者:トランスジェンダー(FtM)かつ男性ヘテロセクシュアル |
女 | 男 | 男女両方が好き | 両性愛性転換者:トランスジェンダー(FtM)かつ男性バイセクシュアル |
女 | 女 | 男が好き | 女性異性愛者:シスジェンダー女性かつ女性ヘテロセクシュアル |
女 | 女 | 女が好き | 女性同性愛者:シスジェンダー女性かつレズビアン |
女 | 女 | 男女両方が好き | 女性両性愛者:シスジェンダー女性かつ女性バイセクシュアル |
これはほんの一部であり、すべてではない。それほどさまざまな性自認、性的指向が存在する。
性指向は出生時に割り当てられた性別ではなく、性自認から判断する。
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