生涯
タルブ (現在のオート=ピレネー県 の県都)で生まれ、父の転勤で3歳からパリ で育った。はじめは画家を志したが、中学の上級生ネルヴァル の影響で詩作にも励み、学生時代にネルヴァルの紹介でヴィクトル・ユーゴー と出会い、ロマン派 詩人として出発する。いわゆる青年フランス派に属し、1830年 の"エルナニ合戦" (Bataille d'Hernani ) ではロマン派の先頭に立って活躍している。当時仏訳されたE.T.A.ホフマン の影響を受けて、愛と死をテーマにした多くの幻想的な作品を書いた。
やがて当時のロマン主義者達の並はずれた自我の誇示・感情の吐露に反発し、没個性的で正確な描写を試みるようになる。また、その個人的感情を外界の冷静な描写に流し込むようになり、ロマン主義から脱した。また当時の政府の出版物への弾圧により、ゴーティエの評論等も掲載禁止とされた、小説「モーパン嬢」の序文においてはロマン主義の社会有用説を痛烈に批判している。
一時は画家を目指したことから、感情の美よりも外形の美に心をひかれ、「芸術のための芸術 」を主張。形態と色彩と光沢への美に憧れ、画家や彫刻家が絵筆とのみで表そうとする美を、彼は詩人としてペンで表そうとした。ここから、後に高踏派 と呼ばれる思想が形成されていったのである。
ロマンティック・バレエ のために、いくつか台本を書いており、カルロッタ・グリジ が最初に踊ったことで知られる『ジゼル 』が有名である。グリジは彼が生涯で一番愛した女性だったが、彼女がそれを受け入れることはなく、彼はグリジの妹で歌手のエルネスティーヌと結婚し、2女をもうけた。娘のジュディット・ゴーチエ(フランス語版 、英語版 ) も作家で、その美貌で知られた。明るく楽天的な性質だったとされるが、その一方でたいへんな迷信家であったと言われる。晩年の幻想的な作品である『アヴァタール』、『邪眼』、『精霊』などにはその傾向が現れており、スウェーデンボルグ の影響も認められる。
1863年 に、大半を若き日に執筆していた『キャピテン・フラカス』が大きな成功となる。1865年 、マティルド・ボナパルト のサロンに招かれたのをきっかけに、皇帝ナポレオン3世 の宮廷へつながる足がかりを得た。
シャルル・ボードレール の詩集『悪の華 』巻頭で「十全無瑕の詩人にして完璧なるフランス文学の魔術師テオフィル・ゴーチエ氏に」という献辞を受けた。
ゴーティエ自身、ボードレールの死後に追悼文と作家論を書き、新版『悪の華』の序文となっている。また若き日のラフカディオ・ハーン が愛読し英訳 も行っている。
1872年 、長年苦しんだ心臓病によりパリで没し、モンマルトル墓地 に埋葬された。
語録
ゴーティエの詩による音楽作品
著書
『コーヒー沸かし』(La Cafetière , 1831) 『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『アルベルトゥス』(Albertus , 1831) 『オニュフリウス』(Onuphrius , 1832) 『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『ナイチンゲールの巣』(Le Nid de rossignols , 1833) 『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『若きフランスたち』(Les Jeunes-France , 1833)『若きフランスたち 諧謔小説集』所収。 『オムパレー』(Omphale , 1834) 『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『モーパン嬢』(Mademoiselle de Maupin , 1835) 『死霊の恋 』(La Morte amoureuse, 1836) 邦題「死霊の恋」、「廃墟の恋」、「死女の恋」など(以下参照) 『金の鎖またはもやいの恋人』(La Chaîne d'or, ou l'Amant partagé , 1837)『魔眼 フランス幻想小説』所収。 『或る夜のクレオパトラ』(Une nuit de Cléopâtre , 1838) 田辺貞之助訳、斎藤書店、1948年。河出書房、1951年。 『阿片パイプ』(La Pipe d'opium , 1838)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『金羊毛』(La Toison d'or , 1839) 奥栄一訳、新潮社 、1920年。 『ミイラの足』(Le Pied de momie , 1840)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『二重の騎士』(Le Chevalier double , 1840)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『ふたり一役』(Deux acteurs pour un rôle , 1841)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『ジゼル 』(Giselle , 1841)- バレエ 台本 『千二夜物語』(La Mille et Deuxième Nuit , 1842)『吸血女の恋 フランス幻想小説』所収。 『スペイン紀行』(Un Voyage en Espagne , 1843) 桑原隆行訳、法政大学出版局 〈叢書・ウニベルシタス 〉 2008年。 『夜の訪問者』(Une visite nocturne , 1843)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『カンダウレス王』(Le Roi Candaule , 1844)『吸血女の恋 フランス幻想小説』所収。 『ハシッシュ吸飲者倶楽部』(Le Club des hachichins , 1846)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『パンの靴をはいた子供』(L'Enfant aux souliers de pain , 1849)『ゴーチエ幻想作品集』所収。 『サバチエ夫人への手紙』(Lettre à la Présidente , 1850) 長田俊雄訳、学芸書林、1972年。 『七宝とカメオ』(Émaux et Camées , 1852)(詩集) 東京創元社 「齋藤磯雄 著作集 第3巻」に収録。元版は平凡社『世界名詩集12』。 『アッリヤ・マルケッラ』(Arria Marcella , 1852) 『ゴーチエ幻想作品集』所収ほか。「ポンペイ夜話」の邦題も。 『アヴァタール』(Avatar , 1857) 『換魂綺譚 アヴァタール』林憲太郎訳、創元社、1948年、『変化 フランス幻想小説』所収。 『ミイラ物語』(Le Roman de la Momie , 1858) 田辺貞之助訳、国書刊行会 (世界幻想文学大系 7)1975年。 『ロシア紀行』(Voyage en Russie , 1867) 『キャピテン・フラカス』(Le Capitaine Fracasse , 1863) 田辺貞之助訳、岩波文庫 (上中下)、1952年、復刊1986年・2001年。 『スピリット』(Spirite, 1866) 田辺貞之助訳、沖積舎 、1986年 - 訳者自身の遺作 『ロマンチスムの誕生』(Histoire du Romantisme , 1874)(評論) 渡辺一夫 訳、青木書店 (ふらんすロマンチック叢書)1939年。「青春の回想」冨山房 百科文庫、1977年 『ゴーチエ幻想作品集』 店村新次 、小柳保義編訳、創土社 、1977年。 (オニュフリウス / オムパレー / アッリヤ・マルケッラ / ミイラの足 / コーヒー沸かし / 死女の恋 / 化身 / ハシッシュ吸飲者倶楽部 / ふたり一役 / 二重の騎士 / 阿片パイプ / 夜の訪問者 / ナイチンゲールの巣 / パンの靴をはいた子供) 『死霊の恋・ポンペイ夜話 他三篇』、田辺貞之助訳、岩波文庫、1982年。 旧版『廃墟の恋』(廃墟の恋 / 水辺の楼 / 黄金の鎖 / 詛いの星をいただく騎士) 田辺貞之助訳、創藝社(近代文庫91)1953年。 『魔眼 フランス幻想小説』(魔眼 / 金の鎖またはもやいの恋人 / ある夜のクレオパトラ)小柳保義訳、社会思想社 (現代教養文庫 )1991年。文元社(教養ワイドコレクション)2004年 『吸血女の恋 フランス幻想小説』(吸血女の恋 / カンダウレス王 / 千二夜物語 / 双つ星の騎士)小柳保義訳、社会思想社(現代教養文庫)1992年。文元社(教養ワイドコレクション)2004年。 『変化 フランス幻想小説』(変化 / ポンペイ の幻 / ミイラ の足)小柳保義訳、社会思想社(現代教養文庫)1993年。文元社(教養ワイドコレクション)2004年。 『舞踊評論』 井村実名子訳、新書館 (Classics on dance7)1994年。 『若きフランスたち』 井村実名子 訳、国書刊行会 、1999年。 (テーブルの下で / オニュフリユス、あるいはホフマン崇拝者のファンタスチックな焦燥 / ダニエル・ジョヴァール、あるいは古典派の改宗 / この女をあの女、あるいは情熱的な若きフランス女性 / エリアス・ヴィルドマンスタディウス、あるいは中世男 / ホンスのボール) 『ボードレール』 井村実名子訳、国書刊行会、2011年。 ※ミシェル・レヴィ版・ボードレール全集『悪の華 』(1868)の序文評伝。詳細な訳註・解説に図版を付す。 『死霊の恋/ヴィシュヌの化身 ゴーティエ恋愛奇譚集』 永田千奈 訳、光文社古典新訳文庫 、2023年 脚注
研究
『テオフィル・ゴーチエと19世紀芸術』 吉村和明ほか編、上智大学 出版会、2014年。論考集 参考文献 フランス語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります。
フランス語版ウィキクォートに本記事に関連した引用句集があります。
外部リンク
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