学力偏差値

学力偏差値(がくりょくへんさち)とは、学力試験の受験者の得点が、受験者全体の中でどの程度高い(低い)位置にいるかを示す偏差値。学力試験の得点分布が正規分布に従うと仮定しており、上位何%にいるかを知ることができる。

一般的なテスト・試験では通常、偏差値は25(下位0.62%)から75(上位0.62%)程度の範囲に収まることが多い。しかし、極端な分布では、偏差値が100を超えたりマイナスになることもありえる(例えば、100人が受けたテストで、0点99人で1人だけ100点だった場合、0点99人は偏差値-49、100点1人は偏差値149.5となる)。

定義

学力偏差値は、統計学に基づいて定義される。標準得点の一種であり、学力試験の得点の分布は正規分布に従うとしたときの、受験者の得点が受験生全体の中でどれくらい高い・低いかを表す指標である。

データを標準化する(平均標準偏差を一律にする)ことで、満点点数や母集団が異なる試験同士でも一律に比較でき、「個々の学力試験の学習到達度」「受験における合格可能性の判定」に利用される。

計算式 偏差値 = A × {(得点 − 平均点) / 標準偏差} + B

日本では「平均を50、標準偏差を10」(すなわち、A = 10, B = 50)にした偏差値であるが、SATGREではA = 100, B = 500であり、SATSではA = 15, B = 100である。

平均偏差値とボーダー偏差値

大学受験などにおいて、大手予備校が公表しているものには「平均偏差値」と「ボーダー偏差値」が存在する。どちらも各予備校が模試を受けた受験生に対し、追跡調査を行い「模試の成績」と「各大学の受験結果(合否)」を照らし合わせ算出するが、両者が示すものは全くの別物である。

平均偏差値 ボーダー偏差値

意味・用途

  • 当該大学合格者の平均学力

「当該大学合格者」の「前年の模試における偏差値」の平均値。

「当該大学の入試」において「合否確率が半々 (50%)」になる偏差値。

主な使用機関

  • 多くの予備校が使用

留意・注意点

  • 「合格者の平均」であり「入学者の平均」ではない
  • 合格者の学力を示したものではなく「学力平均値」とは乖離がある

特に平均学力が同じだとしても、競争率(倍率)が上がれば、ボーダー偏差値は上昇しやすい。

    (例)大学A(競争率3倍)と 大学B(競争率1.5倍)の比較
     大学A (合格者平均)57→(50%ボーダー)57.4
     大学B (合格者平均)57.6→(50%ボーダー)52.5
  • 正確に算出するのは困難
  1. 不合格者のデータを、合格者のデータと同等の精度で集める必要があるが、サンプルが集めにくい。
  2. 統計学的に合否確率が50%になる地点を算出するのは困難。河合塾においては、算出方法が公開されていない。

日本における誕生と歴史

1957年(昭和32年)

    東京都港区立城南中学校(当時)理科教員であった桑田昭三により考案された。勘を依りどころに行われていた「志望校判定会議」における日比谷高校の合格判定を、より科学的、合理的に割り出すために考案された。当時、生徒には自分の偏差値を秘密にするよう指導していた(後述)が「あの中学では桑田先生が考案した画期的な方法で受験指導をしているらしい」という噂が徐々に広まり、偏差値の存在が知られるようになる。

1963年

    城南中学校出入りのテスト業者である進学研究会は「偏差値計算をする」と言い、桑田は進学研究会に転職し、偏差値を社内で啓蒙する。間もなく偏差値は、点数と順位に代わって、テストの成績や進学情報を表す主要な方法となる。

1965年ごろ

    広まり出し、大学受験では、旺文社の『螢雪時代』1965年8月号の付録に初めて偏差値が登場する。

1970年代前半

    全国津々浦々の地方の業者テスト学習塾などにまで広まるようになる。生徒の受験校を偏差値によって切り分けるような「輪切り」と呼ばれる進路指導がなされるようになる。

1993年2月

    偏差値は特に中学校で批判を浴びるようになるようになり、文部省(当時)が「(中学校で)業者テストによる偏差値等に依存した進路指導は行わないこと」を国公立教育行政機関に通達する。これにより、国公立中学内での業者テスト(模試)の実施が禁止になった。

日本での使用状況

現在の日本では、学力偏差値は中学受験高校受験大学受験などを含む学力試験で広く用いられている。中学受験では、大手塾は、模試での得点分布を元に、各中学校の「合格可能性80%偏差値」を算出し、公開している。

国公立中学においては、前節で述べた通り、1993年2月の文部省(当時)の通達により、業者テスト(模試)の実施、および生徒の希望や適性を無視し、その学力偏差値によって受験校を決めるのは禁止となっており、実施されていない。

  • 森口朗(教育評論家)は、『偏差値は子どもを救う』(森口 1999)で偏差値で学力を測定することの妥当性と限界を示した。
  • 桑田昭三(開発者)は、生徒の能力を決めてしまうことにつながりかねないため、開発当初も、啓蒙時も、偏差値は生徒に知らせるべきでないと考えていた。しかし、偏差値は生徒に努力目標を明確にさせるのに便利であり、多くの学校教員は、生徒に自分の偏差値を知らせた。結果、学力偏差値が悪者扱いされてしまったことを、心底残念に思っている。
  • 朝比奈一郎(元通産省官僚)は、昭和の後半から平成の時代にかけて顕著だった偏差値教育について、科挙と同じような弊害を日本にもたらしたのではないかと指摘している。

偏差値操作

日本において「各大学の学力偏差値」は単に大学への入学難易度という意味でなく、「偏差値の高い大学=良い大学」という「偏差値の高さ=ブランド」としての意味合いを持つ。受験生が大学を選ぶ指標として「ブランドとしての学力偏差値」が使用される実態があり、多くの大学が「偏差値操作」を行っている実態がある。

基本的な原理は「受験予備校が各大学の偏差値比較に用いる偏差値・メディアに掲載される偏差値を『意図的に操作し高くする』こと」である。大学が「複数ある入試回・方式」を用意していても、受験予備校やメディアが注目・掲載するのは「メイン方式」や「偏差値の最高値」のみなので、それらの方式の偏差値を「意図的に上げる」ことで「レベルの高い大学・人気のある大学」と受験生などに認識されることで宣伝になり、大学の価値を上げようとする企みである。

偏差値操作の方法 効果
  • 基本原理
  • 合格者数を絞り込む

操作したい方式における合格者数を絞り込む。合格者数を高いレベルの受験生に絞り込むことで「合格者平均偏差値」においても「ボーダー偏差値」においても、実態より高い数値に操作できる。その「合格者」は、より高いレベルの大学に合格しているため、当該大学には入学しないが、他の方法(メディア掲載や予備校が大学比較に用いない方式)で学生を確保する。対外的に示す「偏差値を出すこと」と「実際の学生確保」を別個に行っている。

  • 方法①

入試方式の多様化・複雑化

メイン方式以外にも、非常に多くの入試方式を設け、それらの方式で合格者を多く出すことで、メイン方式の合格者数を絞り込むことが可能である。

対策)「偏差値」を見る際には、その方式の「募集定員」や「合格者数」などを確認する必要がある。

  • 方法②

AO入試や推薦入試の枠の拡大

AO入試推薦入試で学生を確保することで一般入試の倍率を意図的に操作しやすくなる。2017年度時点では、私立大入学者の半数以上が推薦・AO(推薦40.5%、AO入試10.7%)で大学に入学している。中堅以下の私大では約7割に上る。

問題点)「英語の音読をすれば一発でAO入試組だと分かるほど基礎学力が低いケースが多い川成洋)」「受験による、挫折も大きな成功体験もないまま学生生活を送ることでの精神的未熟」などが挙げられている。少子化で受験生が減っている現状を受け、学生確保・偏差値維持のために、学生の質が落ちることを承知していながら、多くの大学が推薦やAO入試を拡充している。

事例文部科学省による2017年度調査の調査では、推薦入試で定員の5割以上の合格者を出していることが発覚した武蔵大学に対し、是正意見(早急な改善を求める)が出された。また、AO入試による入学者が多い大学・学部の学生の採用を避けている企業がある。

対策)AOや推薦入試には良い面もあるが、各大学は推薦入試の割合や基準を公表するなど「透明性」を高める必要がある。上記の様な要因により、学生の学力低下を憂慮した文部科学省は、2009年に「推薦入試やAO入試には、応募に際し各種条件を課す」ように促す通達を出したが、あくまでガイドラインのため効力は薄いとされている。

  • 方法③

付属校からのエスカレーター入学

AO入試や推薦入試と同じ理由で、一般入試の倍率を意図的に操作しやすくなる。学生が就職活動を行う際、採用側は付属出身者に対して警戒しており、出身高校をチェックしているケースがある。

海外での使用状況

海外では、あまり使われておらず、入試が非常に厳しい台湾中国韓国インドなどでも偏差値は使われていない。桑田は、上級学校に合格することは、海外では自己責任であり、親も子も学校の教員に頼り、教員もそれに応えるのが職務であるかのように思っている国は、日本しかないのではないか、とインタビューで答えている。

  • その他の考察

偏差値の計算に必要な標準偏差は、1860年代後半にフランシス・ゴルトンが考案したといわれている。

GRE, SAT, SATSのように、外国にも類似の指標が存在する。

Lodico, Spaulding & Voegtle 2010は、その著書 "Methods in Educational Research: From Theory to Practice" で「多くの標準的学力測定では、生徒の点数を偏差値 (standard score) として通知する。それにより、生徒の学力を直接比較することが可能となる。」と述べている。

英国の国立教育研究所 (NFER) は、多くのテストで偏差値が使われると指摘した上で、素点でなく偏差値を用いる理由を説明している:「1) 受験者の得点を分かりやすい物差しの上に並べるため、2) [訳注:初等教育において]同じ学年の中で誕生月による影響を補うため、3) 複数の試験の得点を意味のある形で比較したり合計したりするため」。

脚注

注釈

出典

参考文献

関連項目

外部リンク

Tags:

学力偏差値 定義学力偏差値 日本における誕生と歴史学力偏差値 日本での使用状況学力偏差値 海外での使用状況学力偏差値 脚注学力偏差値 関連項目学力偏差値 外部リンク学力偏差値偏差値学力検査正規分布

🔥 Trending searches on Wiki 日本語:

桂由美Ado神尾楓珠アンナチュラル藤吉久美子彬子女王井上祐貴石橋凌亀井久興克美しげるNのために高山みなみSixTONESリンダカラー∞終末トレインどこへいく?ヒグマ生見愛瑠西岡剛 (内野手)鳥貴族第五海洋丸の遭難ロジャー・ストーン浦田理恵名探偵コナン 黒鉄の魚影チーズ牛丼 (ネットスラング)今永昇太平野紫耀神田沙也加子連れ狼三浦涼介尊属殺パブロ・エスコバルクロエ・グレース・モレッツ冴羽獠磯野貴理子アルベルト・アインシュタインMIU404AKB48山村紅葉森香澄自殺・自決・自害した日本の著名人物一覧長徳の変コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-町田啓太佐山聡木戸大聖菊川怜舘ひろし芦田愛菜澄田綾乃やす子板谷由夏宮﨑あずさダルビッシュ有森田望智橋本潮シャイロックの子供たち女性器よよよちゃん水俣病サザエさん (テレビアニメ)森次晃嗣仲野太賀ダイアンまんこ木村文乃映画玉置玲央火野正平山口勝平太陽とシスコムーンこの素晴らしい世界に祝福を! (アニメ)響け!ユーフォニアム (アニメ)佐藤たくみ必殺仕業人ゴジラ-1.0須藤元気福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件🡆 More