最高裁判所 判例事件名 所得税決定処分取消請求事件 事件番号 昭和55(行ツ)15 1985年(昭和60年)3月27日 判例集 民集39巻2号247頁 裁判要旨 租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法14条1項に違反するものということはできない。 給与所得の金額の計算につき必要経費の実額控除を認めない所得税法(昭和40年法律第33号による改正前のもの)9条1項5号は、憲法14条1項に違反しない。(1、2につき補足意見がある。) 大法廷 裁判長 寺田治郎 陪席裁判官 藤崎萬里 、木下忠良 、塩野宜慶 、伊藤正己 、谷口正孝 、大橋進 、木戸口久治 、牧圭次 、和田誠一 、安岡満彦 、角田礼次郎 、矢口洪一 、島谷六郎 、長島敦 意見 多数意見 全員一致 意見 なし 反対意見 なし 参照法条 憲法14条1項、所得税法(昭和40年法律第33号による改正前のもの)9条1項、所得税法(昭和40年法律第33号による改正前のもの)10条2項、所得税法の一部を改正する法律(昭和39年法律第20号)附則 テンプレートを表示
概要
私立大学の教授であった原告は、1964年(昭和39年)分の所得として給与所得と雑所得があったが確定申告 をしなかったため、税務署長(被告)は所得税の決定と無申告加算税の賦課決定処分をした。原告は、この旧所得税法の給与所得に関する諸規定が日本国憲法第14条 第1項(法の下の平等 )に違反して無効であり、したがって本処分を違法だとして出訴した。
原告の主張の論点は以下の3つである。
所得税法が事業所得には必要経費の控除を認めるのに対し、給与所得にはそれを認めていないのは不公平であること。 給与所得と他の所得の捕捉率には大きな格差があり、給与所得者は著しく不利益な取扱いを受けていること。 事業所得等の所得には合理的な理由のない各種の特別措置が設けられており、給与所得者は著しく不公平な税負担を負っていること。 一審の京都地方裁判所(昭和49年5月30日判決、行集25巻5号548頁)、二審の大阪高等裁判所(昭和54年11月7日判決、行集30巻11号1827頁)とも原告の請求を棄却した。原告は上告審の係属中に死亡したため、原告の子が裁判を承継した。
最高裁判所判決
1985年(昭和60年)3月27日大法廷判決は、原告の上告を棄却した。
「旧所得税法が必要経費の控除について事業所得者等と給与所得者との間に設けた前記の区別は、合理的なものであり、憲法一四条一項の規定に違反するものではない」 「所得の捕捉の不均衡の問題は、原則的には、税務行政の適正な執行により是正されるべき性質のものであつて、捕捉率の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく、かつ、それが長年にわたり恒常的に存在して租税法制自体に基因していると認められるような場合であれば格別……そうでない限り、租税法制そのものを違憲ならしめるものとはいえない」 「仮に所論の租税優遇措置が合理性を欠くものであるとしても、そのことは、当該措置自体の有効性に影響を与えるものにすぎず、本件課税規定を違憲無効ならしめるものということはできない。」 なお、本判決には伊藤正己 をはじめ4裁判官が補足意見を述べており、2裁判官が伊藤の意見に同調している。
その他
なお、似たケースで、総評 の指導の下に全国各地で提起された所得税返還請求訴訟については、「総評サラリーマン税金訴訟」と呼ばれる。これについては1件のみが上告審まで争われ、原告である労働者側が敗訴している(最高裁判所平成元年2月7日判決)。
判例評釈
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関連項目
クロヨン - 給与所得者の課税対象所得捕捉率に関する俗称 外部リンク
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