ゴールパフォーマンス

ゴールパフォーマンス(和製英語:goal performance)は、サッカーの試合において選手が得点を決めた後に行う表現方法である。得点後のパフォーマンスには「拳をあげる」「両手を広げる」といったシンプルに喜びを表現するものから、複数の選手が絡む趣向を凝らしたアイデアの物まで様々な種類があり、サッカー観戦における娯楽の一つとなっている。英語圏ではゴールセレブレーション(英語: goal celebration)と呼ばれ、日本サッカー協会ではそれを直訳した「得点の喜び」という言葉を用いている。

ゴールパフォーマンス
得点後に歓喜する選手達

経緯

ボディランゲージを伴った意志伝達や感情の表現方法については国や地域の文化や生活習慣、あるいは時代ごとによって認識に差異があり、例えばイギリスドイツをはじめとした北ヨーロッパ東アジアなどの国々では、成人が感情を率直に表現する行為は幼稚か未成熟さの表れと見做されている。これに対し、イタリアスペインといった地中海沿岸のラテン系の国々や南米のブラジルなどでは成人が社会的な制約もなく外向的に振舞うことが許容されている。また、ピースサイン親指立てのような親愛や友好を表す身振りや手ぶりの表現が、ある国ではそのままの意味で受け止められる場合もあれば、別の国では猥褻さや下品さを表すもの、あるいは敵意として受け止められる場合もある。

「ラテン系の選手の行為は初めのうちは嘲笑の対象となっていたが、感情を表に出さない北ヨーロッパの選手たちも自制心を捨て、軽く抱き合う動作をせざるを得なくなってきた。驚きだったのは、そうすることがごく自然と思うようになり、終いには当たり前となってしまったことである。得点をあげた最高の瞬間という特別の状況に相応しいのは、ラテン的抱擁であって、文化的に抑制された北ヨーロッパ式の儀礼行為ではなかったのである」
- デズモンド・モリス

第二次世界大戦前に得点後のパフォーマンスは目立ったものは存在せず、選手同士が握手をしたり得点者の肩を叩いて祝福する程度のものだったという。戦後、各国のサッカークラブの間での選手移籍が活発化し、テレビ放送の普及や航空機を使用した国際便の就航によりグローバル化が進み、異なる国や地域の選手の表現方法を目の当たりにする機会が増加した。

選手による率直的な表現方法が普及すると、そのなかでも新しい情報に対し閉鎖的であり公共の場で他者とのボディコンタクトを避ける傾向が強いといわれるイギリスの社会は衝撃を受け、長きに渡って「スポーツマン精神に反する」として非難の対象となった。一方で、自制心が強いとされるヨーロッパ北部の国の選手達もラテン系の選手達に倣って喜びの感情を表現するようになった。

こうした中、いつどこで誰が特別なゴールパフォーマンスを始めたのかは定かでないが、1966年にイングランドで開催された1966 FIFAワールドカップの際に9得点を挙げて得点王となったポルトガル代表エウゼビオが行ったパフォーマンスが大きな影響を与えたと言われている。サッカージャーナリストの大住良之はエウゼビオの得点後に大きく飛び上がり握り締めた拳を空に向かって突き出すパフォーマンスが世界中へと広まり、特別なパフォーマンスが行われるようになった、との説を採っている。

選手によるパフォーマンスは、一時的な流行に留まらず1970年代に入った後も様々なバリエーションを生み出すなどサッカー文化の一部として定着している。

特徴

イギリス動物学者であるデズモンド・モリス1983年に出版した著書『サッカー人間学-マンウォッチング2』の中で、ゴールパフォーマンスの基本的なパターンについて以下のものを挙げている。

    全力疾走
    得点者がピッチを駆け回る表現。試合の進行により抑圧されたエネルギーを、得点を挙げた本人が全力疾走することで和らげる狙いがあり、「両腕を高く突き上げる」や「飛び跳ねる」や「チームメイトが祝福のため追走する」などの行為を伴う場合もある。
    片手を使った表現
    片手を頭上に突き出す表現としては人差し指を突き出すパターン、手の平を伸ばす敬礼風のパターン、握りこぶしを突き出すパターンなどがある。
    両手を使った表現
    両手を広げたり頭上に突き出す表現は最も一般的な表現方法とされる。両手を頭上に突き出した選手が飛び上がれば得点者の存在を相手により大きく誇示することが出来る。この他には、膝から上体を後方に反り返して両手を突き上げるパターン、両手の人差し指を天に向けるパターンなどもある。
    ジャンプ
    ピッチを疾走する際に伴う表現。これに「片手の拳を振り上げる」や「両手を高く挙げる」などの動作が伴うが、前者にはボクサーパンチを見舞うような動作を行うことで、後者には自分の身長の2倍近く高く見せることで、相手に対して圧倒的な力を誇示する狙いがある。
    ダンス
    表現手法としては変則的なもので、先住民による戦勝の儀式を模したもの、駆け足による足踏み、両足を小刻みに動かしてステップを踏むものなどのパターンがある。
    抱擁
    得点者に他の選手が駆け寄り抱きしめる表現。得点者の脚に抱きつくパターンや、得点者に抱きつく勢いが余ってピッチに転倒させるパターン、得点者の髪の毛をかき乱す、倒れている選手を集団で抱き上げて抱擁するなどのパターンもある。こうした表現には他の選手も次々に加わり、互いの肩に手を回し大きな集団を形成する。
    接吻
    得点者の額や頬に唇を接触させる表現。文化圏によっては男性同士でも親愛の情を示すスキンシップとして認知されている場合もあれば、タブー視される場合もある。
    背中を叩く
    集団的な抱擁の一種であり、頭を軽く叩くなどの動作も加わることが多い。大人が子供に対してからかい半分に行う動作に類するが、やや盛り上がりに欠ける行為とも評される。
    握手
    儀礼的な表現。身体接触を伴うパフォーマンスが行われるようになった後も、完全に影をひそめた訳ではなく、得点を挙げた側の選手が試合が再開されるまでの間に互いに握手を交わす光景が見られる。

規則

国際サッカー連盟 (FIFA) は競技規則の第12条の中で「得点時の選手によるパフォーマンスは過剰であってはならない」と定めている。規則では適度な表現方法は認められているものの、過剰な表現により時間が浪費され試合進行が妨げられる場合は、審判が介入してパフォーマンスの中止を命ずることが出来る。このほか「相手に対し挑発的な態度を取る」「得点後に周辺のフェンスによじ登る」「ユニフォームを脱ぐか、頭部をユニフォームで覆い隠す」「頭部を覆面か、それに類似したアイテムで覆い隠す」行為を行った選手は警告の対象となっている。また「ピッチ外へ飛び出して喜びを表現する」行為は本来は警告の対象とはならないが、選手達を速やかにピッチ内に誘導するように定めている。

各国の事例

ヨーロッパ

ゴールパフォーマンス  アイスランド

    ストヤルナンFCの選手達は得点後に独特なパフォーマンスを行うことで国際的に知られている。有名な物では、選手の一人が釣り人に扮し、に見立てた選手を吊り上げると、魚に見立てた選手を皆で抱き上げて記念撮影を撮る「釣りパフォーマンス」がある。このほか、「を乱射するパフォーマンス」や「人間自転車」などの様々なバリエーションがある。

ゴールパフォーマンス  イタリア

「私はあの時の疾走も、絶叫も覚えていない。あの場面を再びビデオで観た時の記憶だけが残っている。しかし、あの瞬間、私の心の中は大小様々な感情が入り混じり狂喜に包まれていたことは覚えている」
- マルコ・タルデッリ

ゴールパフォーマンス  イングランド

ゴールパフォーマンス  スウェーデン

    トマス・ブロリンは得点後に拳を高くあげて、体を素早く横に回転させるパフォーマンスを行っていたが、スウェーデンではこの技をバレエの技術になぞらえて「ピルエット」と呼んでいた。

ゴールパフォーマンス  スペイン

ゴールパフォーマンス  ドイツ

ゴールパフォーマンス  フランス

ゴールパフォーマンス  ポルトガル

    クリスティアーノ・ロナウドは得点後に、両手を頭上で交差させながら飛び上がり、着地と同時に後方に両手を大きく広げるパフォーマンスがトレードマークとなっているが、2009年のレアル・マドリードへの移籍以来、「スライディング」「爪のジェスチャー」「ダンス」など、さまざまなゴールパフォーマンスを披露しており、世界各国のスポーツ選手に模倣されている。一方、2015年3月22日に行われたFCバルセロナ戦において、手の平を下げてサポーターに冷静になるように求めたパフォーマンスは、相手への挑発あるいは観客を暴力に駆り立てるものとして物議を醸した。

南米

ゴールパフォーマンス  アルゼンチン

ゴールパフォーマンス  エクアドル

ゴールパフォーマンス  ブラジル

    ベベットアメリカ合衆国で行われた1994 FIFAワールドカップ準々決勝のオランダ戦で得点を決めた際に、赤ん坊を抱える様な格好で両手を左右に揺らす「揺り籠」のパフォーマンスを行った。これは試合の数日前にベベットの妻が第3子を出産したことを祝福する意味があり、ロマーリオマジーニョもこのパフォーマンスに加わった。このパフォーマンスは世界各国の選手達に模倣されている。
    このほか、ロナウドをはじめブラジルの選手の中には得点後に両手を広げて飛行機が離陸する姿を模倣したパフォーマンスを行う者もいるが、カカは敬虔なクリスチャンであることから、ゴールを決めると両手の人差し指で空を指し、空を見上げて神に感謝するパフォーマンスを行うことで知られる。

北中米

ゴールパフォーマンス  アメリカ合衆国

    ブランディ・チャスティン英語版1999 FIFA女子ワールドカップ決勝のアメリカ中国戦で、PK戦の5人目のキッカーとしてシュートを決め、アメリカを優勝に導いた。その際にチャスティンはユニフォームを脱ぎ捨て、スポーツブラの格好のまま脱いだユニフォームを振り回しガッツポーズをとるパフォーマンスを行った。このチャスティンによるパフォーマンスは『ニューズウィーク』誌や『タイム』誌などの表紙に選ばれたほか、「女子選手が大観衆や視聴者の前で自らユニフォームを脱いだ」行為が論議となり、「彼女が着用していたスポーツブラの宣伝のための計画的行為」とする説も流布した。

ゴールパフォーマンス  メキシコ

アフリカ

ゴールパフォーマンス  カメルーン

    ロジェ・ミラ1990 FIFAワールドカップにおいて得点を決めるたびにコーナーフラッグ付近へ駆け寄り、右手を掲げ腰をくねらせて踊る「マコッサ・ダンス」と呼ばれるパフォーマンスを行った。マコッサとはカメルーンの伝統的な音楽に由来している。

アジア

ゴールパフォーマンス  日本

    日本サッカーリーグ時代には釜本邦茂が拳をあげて飛び上がるパフォーマンスを行ったが、これは1966年にイングランドで開催されたワールドカップでポルトガルのエウゼビオがみせたパフォーマンスを模倣したものである。
    Jリーグが開幕した1993年以降では三浦知良が両足でサンバのダンスの様に細かいステップを踏む「カズダンス」と呼ばれるパフォーマンスを行っているが、これはブラジルのカレカが得点後に行っていたパフォーマンスに影響を受けたもので、三浦自身は「カレカのダンスを模倣しようとしたらああなった」と評している。
    2000年代以降、サンフレッチェ広島に所属する選手達が趣向を凝らしたパフォーマンスを行っているが、2012年に日本で開催されたFIFAクラブワールドカップ2012での「相撲パフォーマンス」や、2014年のAFCチャンピオンズリーグ2014での「3.11と祈り」のパフォーマンスについては国外のメディアから報じられた。
    このほか、長友佑都の「お辞儀」や藤本主税の「阿波踊り」の様に日本の伝統文化に基づいたパフォーマンスを行う選手もいる。

ゴールパフォーマンス  韓国

問題となった事例

ヨーロッパ

ゴールパフォーマンス  イタリア

ゴールパフォーマンス  イングランド

ゴールパフォーマンス  ギリシャ

ゴールパフォーマンス  スペイン

    アンドレス・イニエスタ2010年7月11日2010 FIFAワールドカップ・決勝スペインを初のW杯勝者に導く先制ゴールを挙げ、ユニフォームを脱いで喜びを表現したが、アンダーウエアには手書きで「DANI JARQUE SIEMPRE CON NOSOTROS(ダニ・ハルケはいつも我々と共に)」と、元スペイン代表で前年8月に26歳で急逝した親友ダニエル・ハルケに捧げたメッセージが書かれていた。一方、イニエスタの行為に対し罰金などの制裁は科されなかった。
    同年9月18日RCDエスパニョールホセ・カジェホンUDアルメリア戦で得点を決めた際、元チームメイトのハルケの顔が描かれたTシャツを見せるパフォーマンスを行った。これに対しスペインサッカー連盟 (RFEF) の競技委員会はカジェホンの行為が規律条項第91条の「得点後にユニフォームをめくって広告、スローガン、デザイン画などを披露した」行為に該当すると判断し、3000ユーロの罰金を科した。一方、カジェホンとクラブがRFEF側と争う構えを見せたため、制裁は取り消しとなった。

ゴールパフォーマンス  セルビア

ゴールパフォーマンス  フランス

北中米

ゴールパフォーマンス  メキシコ

    CDグアダラハラに所属するマルコ・ファビアン2011年10月15日に行われたCDエストゥディアンテス・テコス英語版戦で得点を決めた際、駆け寄ってきたアルベルト・メディナ英語版の眉間に人差し指を突き立て拳銃で打ち抜く真似をするパフォーマンスを行った。メキシコ国内では薬物犯罪を巡る紛争により多数の死者を出していることから、このパフォーマンスが問題視され、 クラブは両者にそれぞれ5万メキシコ・ペソ(約28万円)の罰金を科した。

アフリカ

ゴールパフォーマンス  エジプト

    アル・アハリに所属するアフマド・アブドゥル・ザヘルフランス語版は2013年11月10日に行われたCAFチャンピオンズリーグ決勝のオーランド・パイレーツ戦で得点を決めた際、親指以外の4本の指を突き立てるパフォーマンスを行った。これはアラビア語で「ラバア」といい数字の4を示すと共に、同年8月に治安部隊との衝突で600人以上が亡くなったラバア・アル=アダウイヤ広場を意味するもので、暫定政府に反対する象徴となっている。ザヘルは政治的意図はないと主張したが、クラブは同選手の出場停止と事情聴取が終わるまでの間、給与を支払わないないことを発表した。

ゴールパフォーマンス  トーゴ

    2009年夏にアーセナルFCからマンチェスター・シティFCへ移籍したエマヌエル・アデバヨールは、同年9月の両クラブの対戦においてゴールを決めた後、逆方向に陣取るアーセナルサポーターの前へ走り、相手を挑発するパフォーマンスを行った。アデバヨールは、この試合においてアーセナルのロビン・ファン・ペルシーの顔を踏みつけるラフプレーを行っていたが、FAはパフォーマンスに対して2万5000ポンド(約355万円)の罰金と執行猶予付きの2試合出場停止処分、ラフプレーに対して3試合の出場停止処分を科した。

アジア

ゴールパフォーマンス  イラン

    ペルセポリスFCに所属するモハメド・ノスラティ英語版は2011年10月29日に行われたSCダマシュ・ギラン戦でチームメイトが先制点を決めた際、抱き合って祝福していたシェイズ・レザエイ英語版の背後に近寄りレザエイの尻に指でカンチョー悪戯をした。 この模様はテレビで生放送されていたこともあって問題視され、イラン・イスラム共和国サッカー連盟はノスラティに対し無期限出場停止処分と40,000ドルの罰金を科した。またレザエイもチームが3-2と勝ち越した得点の際に他の選手の股間を触る行為があったとして同様の処分が下った。

脚注

参考文献

関連項目

Tags:

ゴールパフォーマンス 経緯ゴールパフォーマンス 特徴ゴールパフォーマンス 規則ゴールパフォーマンス 各国の事例ゴールパフォーマンス 問題となった事例ゴールパフォーマンス 脚注ゴールパフォーマンス 参考文献ゴールパフォーマンス 関連項目ゴールパフォーマンスサッカー和製英語幸福得点日本サッカー協会英語試合

🔥 Trending searches on Wiki 日本語:

吉田正尚ボルチモアジュリアン・アサンジあさま山荘事件龍が如くシリーズの登場人物勇気爆発バーンブレイバーングッド・ウィル・ハンティング/旅立ちハドソン川の奇跡 (映画)佐世保小6女児同級生殺害事件フライデー襲撃事件文化大革命大林ミカDUNE/デューン 砂の惑星三種の神器寺田心一条天皇大橋巨泉ジョジョの奇妙な冒険平本蓮坂本龍一西田尚美イチローSPY×FAMILYVaundy九州南西海域工作船事件スティーブ・ジョブズSHOGUN 将軍谷尻萌HYBE上原浩治響け!ユーフォニアム (アニメ)2026 FIFAワールドカップ・アジア予選Chilla's Art五稜郭デッドデッドデーモンズデデデデデストラクションONE PIECE後藤田正純シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜アン・ハサウェイ瀧内公美ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ松重豊箱館戦争ヤマト王権オーガズム新庄剛志真田広之岡本信彦叶姉妹ピート・ローズ森喜朗橋本龍太郎おジャ魔女どれみGTO (1998年のテレビドラマ)荒波部屋AKB48ブックメーカー長澤まさみ魔女と野獣新納慎也菊池風磨雨穴魔女の宅急便目黒蓮鈴木誠也大島由香里悠仁親王森永ヒ素ミルク中毒事件江口のりこハリー・ポッターシリーズ日本サクラ石田ゆり子今泉佑唯宮沢賢治僕のヒーローアカデミアジャニーズ事務所🡆 More