『さかしま』(仏: À rebours)は、フランスの作家ジョリス=カルル・ユイスマンスによる小説。1884年に刊行され、象徴主義、デカダンスの作品として、モーリス・メーテルリンク、ポール・ヴァレリーやオスカー・ワイルドなどに影響を与えた。「さかしま」は「逆さま」「道理にそむくこと」といった意味(英訳ではAgainst the GrainまたはAgainst Nature)。「デカダンスの聖書」とも評される。
登場人物は(回想シーンなどを除き)ほとんど主人公フロレッサス・デ・ゼッサント(Floressas des Esseintes)1人のみである。
主人公は貴族の末裔で、学校を卒業後、文学者との交際や女性との放蕩などで遺産を食い潰す。やがてそうした生活に飽き、性欲も失い、隠遁生活を送る決意をする。祖先の遺した城館を売り払い、使用人とともに郊外の一軒家にこもって趣味的な生活を送る。
デ・ゼッサントは俗悪なブルジョワ的生活を嫌い、修道院の隠棲生活に憧れを持つが、カトリックの信仰には懐疑的である。自分の部屋にラテン語の文献、好みの書物(ボードレール、マラルメなど)を集め、幻想的なモローの絵画(『ヘロデ王の前で踊るサロメ』、『出現』)、ゴヤの版画で飾り、美と廃頽の「人工楽園」を築いてゆく。
次第に神経症が悪化し、不眠、食欲不振などに悩まされる。ある日、ディケンズの小説を読み、ロンドンで暮らそうと考えて家を出るが、結局汽車に乗らずに帰ってきてしまう。医師から、現在のままでは神経症はよくならないので、パリで普通の人間に交わって生活するよう命じられる。パリへ向かうべく、デ・ゼッサントは住居を引払う。
エミール・ゾラは本作を非難し、作者のユイスマンスに「君は自然主義文学に恐ろしい一撃を与えた」と言ったという。また、田辺貞之助は本作を「自然主義文学の内部的崩壊の第1作として注目すべき」と指摘しつつ、以下のように述べている。
この書で語られるボードレール、ヴェルレーヌ、マラルメらの象徴派文学への理解はきわめて深く、かつ的確で、おりから形成の途上にあったこの派へ、大きな援助を与えた。しかし、このような耽美的な書は決して作者の魂に救済を与えるものではなく、バルベー・ドールヴィリーはこの書を読んで「かかる作のあとでは、作者はピストルの口か十字架の下かを選ばねばなるまい」というが、はたせるかな、この作は彼のキリスト教改宗への遠き予告となった。
澁澤龍彦訳 - 訳者としての澁澤自身の代表作。
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