Fiaヨーロッパヒルクライム選手権

FIAヨーロッパヒルクライム選手権 (フランス語: Championnat d'Europe de la Montagne de la FIA、英語: FIA European Hill Climb Championship) は、毎年国際自動車連盟 (Federation Internationale de l'Automobile, 以下、FIA) が主催するヒルクライムの年間シリーズ戦である。略称としてフランス語ではCEM、英語ではEHCも公式に用いられる。

FIAヨーロッパヒルクライム選手権
カテゴリ ヒルクライム
国・地域 欧州
開始年 1930年
クラス 乗用車 (ツーリングカーグランドツーリングカー)
競技用車 (シルエットタイプカースポーツカー、シングルシーター)
公式サイト https://www.fia.com/node/3586

概要

Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 

1930年に「ヨーロッパヒルクライム選手権」(Championnat d'Europe de la Montagne) として始まった最古の自動車スポーツ国際選手権である。競技コースの技術的規格、組み入れられている競技会の数、各競技会の歴史の深さなどから、ヒルクライムの年間シリーズ賞典では、優先順位最高に位置づけられている

FIAの主催により、毎年4月から9月にかけて欧州各地の著名なヒルクライムを、12大会を上限に選出して行われる。各競技会で選手が獲得した順位点の合計で乗用車部門と競技用車部門それぞれの年間総合順位を決する。

競技用車部門にはシルエットタイプカースポーツカー、シングルシーターが参加し、サーキットロードレースでは競合しないこれら車両類型が直接競合する。

沿革

Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 
スポーツ部門初代チャンピオンのR.カラツィオラ
Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 
レーシング部門初代チャンピオンのH.シュトゥック

自動車を用いたスポーツは自動車黎明期から既に始まっており、中でもヒルクライムは欧州で最も関心の高い種目であった。1920年代にはラリーグランプリロードレースを圧して競技会のほとんどがヒルクライムという状況であり、これを受けて1930年に国際認定自動車クラブ協会 (Association Internationale des Automobile-Clubs Reconnus, 以下、AIACR) は著名なヒルクライムを10大会選出してシリーズ戦を組み、自らの主催でヨーロッパ選手権をかけて開始した。当時、AIACRの国際スポーツ法典付則C項における自動車スポーツの車両分類は単座席のレーシング部門と、二座席以上で灯火類とフェンダーを備えたスポーツ部門しかないため、賞典もこの2部門が対象であった。両部門とも参加にあたり多くの製造者が直接関与したため、選手権はファクトリー対決の最前線となった。しかし主催するには多額の費用が問題であり、それゆえに1931年は12戦での実施を目論んだが、実際は8戦となった。1932年 (この年度のみ国際選手権) はさらに減り5戦となり、1933年は4戦を消化した時点でシリーズを打ち切り、タイトル授与も行わずシーズンは終了し、翌年以降は取りやめとなった。

第二次世界大戦が終わり、欧州自動車製造者が疲弊している中、再開した欧州各地のヒルクライムは戦後急増している多くの個人競技者 (プライベーター) で占められていた。この状況のもと全ドイツ自動車クラブ (Allgemeiner Deutscher Automobil-Club, 以下、ADAC) の主導と働きかけにより、AIACRの後継組織であるFIAが1957年から年間6戦で復活させた。そして1959年は米国のパイクスピーク国際ヒルクライムもシリーズに加えられた。ただし、欧州と米国のどちらの選手も海を渡って遠征しあうことはなく、この試みは失敗した。この時までの車両部門はスポーツカーのみであったが、さらなるプライベーターの参加を促すべく1960年からグランドツーリングカーが加えられた。

復活と共に、戦前とは異なる顔ぶれではあるが製造者も戻り始め、再びファクトリー対決の様相を呈してきた。そして毎年5戦から7戦で行われていたヨーロッパヒルクライム選手権は、1963年からその内の4戦がグランドツーリング製造者世界選手権 (製造者の国際選手権) の一部を兼ねる交流戦となり、それまでのヒルクライムにはなじみのない車種も出場するようになった。その後、製造者国際選手権の対象車種の変遷に伴い1966年からは1戦のみ兼ねるようになり、1967年を以て交流戦は終了した。

Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 
スタートを待つカテゴリー1車両

1967年以降、量産車とツーリングカーを交えて部門の追加、廃止、復活が度々行われ、1972年からスポーツカーと二座席レーシングカーを統合したレーシングカー部門を含めて3部門から4部門で行われるようになる。しかし70年代に入るとファクトリーチームは撤退していき、参加もプライベーターで占められていった。スポーツカーの様相も大きく変わり、1982年に導入された新世代のグループCはヒルクライムに向かないため、前年いっぱいで廃止された二座席レーシングカーを「グループ6」として当面の出走を認める事となった。1985年からは部門が大幅に整理され乗用車のカテゴリー1と競技用車のカテゴリー2の2部門となっている。

競技会の数は70年代から漸増して1979年には年間12戦、1980年には一気に15戦まで増えるが、1983年以降は概ね11戦から12戦で推移している。

構成競技会 (2012年度以降)

:初回開催年|コース全長|平均勾配率

  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 サンジャンデュガル-サンピエール峠国際ヒルクライム (Course de Côte Internationale St. Jean du Gard - Col St. Pierre):1972年|5080メートル (m)|6.60パーセント (%)
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 オーストリア大山岳賞国際レヒベルクレース (Grosser Bergpreis von Österreich Internationales Rechberg-Rennen):1972年|5050 m|5.30 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ファウペハ国際ヒルクライム (Rampa Internacional da Falperra):1976年|5200 m|5.00 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 フィート国際ヒルクライム (Subida Internacional al Fito):1970年|5320 m|5.96 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 エッツェホモ・シュテルンベルク (Ecce Homo Šternberk):1905年|7800 m|3.94 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 国際ADACグラースバッハレース (Internationales ADAC Glasbachrennen):1974年|5500 m|4.70 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 パオリーノ・テオドーリ杯 (Coppa Paolino Teodori):1962年|5031 m|7.50 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 トレント-ボンドーネ (Trento - Bondone):1925年|1万7300 m|8.88 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ドプシンの丘 (Dobšinský Kopec):1973年|6810 m|5.80 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 リマノヴァヒルクライム (Hill Climb Limanowa):1965年|5493 m|5.17 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 モンドール・シャンボンシュラックヒルクライム (Course de Côte du Mont-Dore Chambon-sur-Lac):1961年|5075 m|7.5 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 サンテュルサンヌ-レ・ランジェ国際ヒルクライム (Course de Côte Internationale St-Ursanne - Les Rangiers):1926年|5180 m|6.9 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 イリルスカビストリツァヒルクライム (GHD Ilirska Bistrica):1995年|5010 m|5.07 %
  • Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ブゼットの数日 (Buzetski Dani):1982年|5001 m|5.01 %

これらから、毎年度12大会を上限に選出されている。

※2020年度よりFiaヨーロッパヒルクライム選手権 ボチカスヒルクライム (Rampa de Boticas) がこれらに加わる予定。

コース

以下の基準に適合したコース (スタート・フィニッシュ間) で実施されている大会がシリーズに選出される。

  • 全長5000 m以上、1万8000 m以下
  • 平均勾配率5 %以上
  • 勾配率2.4 %に満たない区間 (緩い登坂路、平坦路、降坂路) の合計長が、全体の10 %以下
  • 幅員5 m以上 (原則)
  • 幅員の特例条件を満たして5 m未満 (最小4 m) となった区間の合計長が、全体の10 %以下
  • 十分に維持されている公道用アスファルト舗装の路面

競技の運営方法

シリーズを構成する各競技会は、ヒルクライムの競技方式に則って実施される。

計時には最低でも1/100秒を計測できる計測器が用いられる。

フィニッシュラインはその先の近傍に駐車場などの車両集積に適した広場があるように設定され、その広場はパルクフェルメに利用される。またパルクフェルメはコース途上の近傍にも数か所設けられる。

選手1名が競技として走行する距離は最小1万 mであり、全長がそれに満たないコースでは2ヒートないし3ヒートが番組され、2ヒートの合計時間 (3ヒート制では最良の2ヒート) が決勝成績とされる。諸事情からコース全長が規定最小の5000 mを確保できない場合は最大3ヒートを番組して1万 mを満たすようにされる。1万 mを確保できない場合は年間得点の対象外となる。また、全長が1万 m以上のコースでも最大2ヒートを番組できる。競技走行前に行われる練習走行も成績の予備として計時されており、不測事態などにより決勝番組が消化できない場合に全選手の決勝成績として取り扱われる。

参加車両と選手資格

乗用車を対象としたカテゴリー1と、競技用車を対象としたカテゴリー2に大分類され、それぞれさらに車両類型別の数グループに中分類、エンジン排気量の多寡による数クラスに小分類されている。クラスは、1.6リットル (L)以下1.6 L超から2.0 L以下2.0 L超から3.0 L以下3.0 L超、の4クラスであり、最低重量は国際モータースポーツ競技規則 (国際スポーツ法典) 付則J項 (以下、J項) の規定が適用される。

選手はFIA国際ドライバーライセンスのグレードA、B、C、D、R取得者でなければならず、さらにグループ別に制限が設けられている。

カテゴリー1

  • グループN:J項のグループN (プロダクションカー) とグループR1 (ラリー1)。このグループのみホイールリムの最大寸度と最低重量、素材に制限がある。
  • グループA:J項のグループA (ツーリングカー)とグループR2および3 (ラリー2および3)。ワールドラリーカースーパー1600
  • グループS20:J項のグループR4および5 (ラリー4および5)。ラリー用とレース用いずれも含むスーパー2000
  • グループGT:J項のグループRGT (GTプロダクションカー) とグループGT3 (カップグランドツーリングカー)。

全てのグループは共通して4クラスが全て適用されている。

※2020年度より類型別グループ分類と排気量別クラス分類は廃止され、専用カリキュレーターで算出されるパフォーマンスファクターにより、5グループ、9クラスとなり、シルエットタイプカーが加わる予定である。

カテゴリー2

  • グループE2-SHシルエットタイプカー。4クラスが全て適用されるが、最大排気量は6.5 Lである。
  • グループCN:J項のグループCN (プロダクションスポーツカー)。クラスは3.0 L以下までの3クラスが適用される。参加選手はグレードA、B、Cに限定される。
  • グループE2-SC:J項のグループCNを除くスポーツカー。クラスは3.0 L以下までの3クラスが適用される。参加選手はグレードA、B、Cに限定される。
  • グループD/E2-SS:J項のグループD (国際フォーミュラレーシングカー) と、それ以外の単座席レーシングカー。クラスは3.0 L以下までの3クラスが適用される。オープンホイールとスポーツカー式カバードホイールのいずれも対象である。参加選手はグレードA、B、Cに限定される。

※2020年度よりグループCNとグループE2-SCが統合されグループCN/E2-SCとなり、シルエットタイプカーが外れて2グループとなる予定である。

順位の算定方式

Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 
チャンピオンズカップ

賞典は生産車のカテゴリー1と競技用車のカテゴリー2に分けられている。参加選手の年間成績を得点化し、その多寡で順位が決定され、第1位の者がFIAヨーロッパヒルクライム・チャンピオンとなる。製造者を対象とする賞典はない。

各カテゴリーは1大会でグループ別に1位から10位までの選手へ25点から1点を分配する。ただし同一グループ内に出場選手が2名以下の場合は、得点は規定の1/2となる。

シーズンは前半と後半に二等分され、大会数が奇数の場合は前半を1大会多くされる。選手の年間合計得点は前半と後半でそれぞれ不出場を含め最も低い得点の1大会分 (年間で2大会分) が差し引かれて集計される。

各グループ別に競い合われた結果の合計得点の多寡で決まるため、車両類型の性能差は順位に関係しない。同点者が複数の場合は、シーズンを通してより高い順位の多寡を優劣の決定要素とする。それでも優劣が付かない場合は同位となる。

2019年から、各カテゴリーでFIAヨーロッパヒルクライム・チャンピオンが属していないグループの最も高位の選手には、副賞典のFIAヒルクライム・トロフィーが授与されている。

歴代受賞者 (2013年度以降)

※括弧書きは所属グループ

年度 FIAヨーロッパヒルクライム・チャンピオン カテゴリー1 FIAヨーロッパヒルクライム・チャンピオン カテゴリー2 FIAヒルクライム・トロフィー カテゴリー1 FIAヒルクライム・トロフィー カテゴリー2
2019 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ルーカス・ヴォヤーツェク (A) Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 クリスティアン・メルリ (E2-SS)
Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 シモーネ・ファッジオリ (E2-SC)
Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 アントニーノ・ミリウオロ (N) Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ダン・ミシュル (E2-SH)
2018 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ルーカス・ヴォヤーツェク Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 クリスティアン・メルリ
2017 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 「テッシトーレ」 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 シモーネ・ファッジオリ
2016 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 ニコラ・ミリコヴィッチ Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 シモーネ・ファッジオリ
2015 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 イゴル・ステファノフスキ Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 シモーネ・ファッジオリ
2014 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 イゴル・ステファノフスキ Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 シモーネ・ファッジオリ
2013 Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 トミスラフ・ムーヴィッツ Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 シモーネ・ファッジオリ

脚注

出典

参考文献

  • Fédération Internationale de l’Automobile, Prescriptions Générales applicables aux Compétitions Internationales de Course de Côte/ General Prescriptions applicable to International Hill Climb Competitions, Paris: Fédération Internationale de l’Automobile, 2018.
  • Fédération Internationale de l’Automobile, Règlement Sportif du Championnat d'Europe de la Montagne de la FIA/ Sporting Regulations of the European Hill Climb Championship, Paris: Fédération Internationale de l’Automobile, 2018.
  • Krejci, Roman (2020年2月). “Euromontagna.com” (英語). Euromontagna.com. 2020年2月27日閲覧。
  • Snellman, Leif (2019年10月). “The Golden Era” (英語). The Golden Era. 2020年2月27日閲覧。
  • Robert Weber (ed.), Automobilsport, Issue #22, Dueren: Sportfahrer Verlag Verlags- und Handelsgesellschaft, 2019.

関連項目

外部リンク

Tags:

Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 概要Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 沿革Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 構成競技会 (2012年度以降)Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 コースFiaヨーロッパヒルクライム選手権 競技の運営方法Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 参加車両と選手資格Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 順位の算定方式Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 歴代受賞者 (2013年度以降)Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 脚注Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 出典Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 参考文献Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 関連項目Fiaヨーロッパヒルクライム選手権 外部リンクFiaヨーロッパヒルクライム選手権ヒルクライム (自動車)フランス語国際自動車連盟英語

🔥 Trending searches on Wiki 日本語:

訃報 2024年3月田沼意知笘篠賢治メインページ河野太郎テラフォーマーズ神谷浩史手塚理美菊池風磨鈴木福森葉子目黒蓮BABYMETAL石田ゆり子嶋田泰夫陰の実力者になりたくて!みいつけた!北村一輝二階堂ふみ大塚千弘近藤勇キスカ島撤退作戦アンミカ福永美春中村倫也 (俳優)ダンジョン飯春になったら (テレビドラマ)それって!?実際どうなの課必殺仕置屋稼業本田紗来我修院達也井上和彦 (声優)まんこ飯塚事件蓮光院 (徳川家治側室)地下鉄サリン事件森口瑤子柄本佑プロジェクトX〜挑戦者たち〜の放送一覧川人博長澤まさみモンテ・クリスト伯松坂桃李射精葬送のフリーレンムーキー・ベッツ相棒のエピソード一覧 (season21-)櫻坂46福山潤フランシス・スコット・キー橋崩落事故アルベルト・アインシュタインNiziUOmoinotakeカピバラ青の祓魔師アルコ&ピース京本大我日本エレキテル連合SODクリエイト森喜朗張型フランシス・スコット・キー橋 (ボルチモア)SixTONES斉藤由貴粗品 (お笑い芸人)魔法少女にあこがれて永野芽郁イ・ソンギュン田口壮福島県立大野病院事件筒香嘉智Mrs. GREEN APPLE箕面萱野駅アレックス・ラミレス瀧川剛史西谷浩一🡆 More