黒幕(くろまく)とは、政治において表の最高権力者を裏で操る人物や、最高権力者を降りた後にも政治的影響力を行使する人物などである。語源は歌舞伎で、舞台裏で黒い幕を操作し進行に関わることから、背後で影響力を行使する強力な人物をこの進行役になぞらえ、こう呼ぶようになった。
欧米諸国では灰色の枢機卿(Éminence grise:直訳すると「灰色の猊下」)という。
政官財で大きな影響を与えている人物であり、表向きは有力財界人や元高級官僚、右翼団体の最高幹部として認知されている人物が多いが、一般にはほとんど知られていない人物もいる。裏では様々な利害調整や斡旋、仲介などを働き、そのやり取りを通じて政官財に影響を与えているとされている。
日本では、「影の総理」「闇(影)の権力者」「総理指南役」「ゴッドファーザー(女性の場合はゴッドマザー)」「フィクサー」「キングメーカー」といった名称で呼ばれることもある。
久野収は、戦前の日本(大日本帝国)の支配体系に関して、「天皇は、国民に対する『たてまえ』では、あくまで絶対君主、支配層間の『申しあわせ』としては、立憲君主、すなわち、国政の最高機関であった。小・中学および軍隊では、『たてまえ』としての天皇が、徹底的に教えこまれ、大学および高等文官試験(以下「高文」)にいたって、『申しあわせ』としての天皇がはじめて明らかにされ、『たてまえ』で教育された国民大衆が、『申しあわせ』に熟達した帝国大学卒業生たる官僚に指導されるシステムがあみ出された」として、高文組のエリート官僚が天皇を隠れ蓑にして、権力を把握していたことを指摘している。
戦前の日本の政治では、ヤクザ・右翼団体からなる暗黒街と、政界・財界からなる表(合法)社会とを橋渡しする右翼(通常は極右)の事を指す事もある。宗教団体を利用することもある。有名な人物が頭山満。
フランスの場合は灰色の枢機卿(Éminence grise)と言う。ルイ13世の首相をしていたリシュリューの黒幕であったフランソワ・ルクレール・デュ・トランブレーで現れた用語。リシュリュに及ぼした強い影響に際して、フランス史ではじめて日本の黒幕のような原則が現れたのである。デュ・トランブレーは枢機卿であったが、茶色の制服を着ていたので灰色の枢機卿として呼ばれていた。用語は現代フランス政治にも政治家に強い影響を及ぼす人物を示すために使われている。
第一次世界大戦後、帝政の瓦解により成立したドイツ共和国(ワイマール共和国)では、まだ堅牢な民主主義体制が確立されていなかったため、旧帝政時代の有力軍人などが政界で暗躍している。ヒンデンブルク大統領の信任が厚かったクルト・フォン・シュライヒャー将軍は黒幕的人物だった。
アメリカ合衆国は大統領制を敷く国であるが、大統領に強い影響を及ぼす長官やスタッフを「アメリカ合衆国の首相」と呼ぶことがある。
第二次世界大戦以後の日本の政治における黒幕は、主に「総理大臣を裏で操る人物」のことを指す。特に、かつてA級戦犯容疑者であった児玉誉士夫や笹川良一が、豊富な資金力と人脈で暗躍したことから、「黒幕」として恐れられていた。A級戦犯容疑者のうち、岸信介は総理大臣になったが、退任後もキングメーカーとして、日本の政治に影響力を持っていた。ほか、三浦義一はGHQと三井グループを初めとする財界と自民党官僚派の橋渡しをやり、戦後の黒幕としての影響力は児玉と並ぶものであった。三浦と児玉の時代の後には西山広喜が大きな力を持った。
戦前の日本で強大な権力を握っていた官僚は、GHQの占領政策によって、官僚機構の中枢だった内務省が解体・廃止されたが、大蔵省などは、ほぼ戦前と同じ形で生き残り、行政指導を武器に強い影響力を行使した。
ラテンアメリカでは、CIAの意向を受けた政治家や軍人が、大統領として表の最高権力者になったり、政治を裏で動かす人物になっていた。彼らもまた、大統領を退陣した後も軍部などで「キングメーカー」として君臨した。
CIAが黒幕として操り、大統領として表の最高権力者になった人物としては、チリのアウグスト・ピノチェトが代表例である。一方で、CIAが黒幕として操り、更に自身が大統領にならずに政治を裏で操った人物としては、ボリビアのクラウス・バルビーが代表例である。
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