サウジアラビア法

サウジアラビア法(サウジアラビアほう、アラビア語: قانون سعودي‎、英語: Legal system of Saudi Arabia)

概要

サウジアラビアにおいては、イスラム法(シャリーア)そのものが法源となり、制定法を介さずに直接適用される。しかも、一般の法律を制定できる範囲が限定されている、つまり、イスラム法で明示的な規定がない事項について、イスラム法に抵触しない範囲でのみ制定が許容されている(ここにおいて、シャリーアは、クルアーンスンナを第一次的法源とし、イスラム法学者の合意や見解を第二次的法源とする法規範であり、条文の形で成文化されているものではない。)。

他のイスラム諸国では、制定法内にイスラム法(シャリーア)の理念や原則を取り入れることはあるが、イスラム法そのものが裁判規範として直接適用される主権国家はサウジアラビアのみとされている。例えば、類の製造等が禁止されていることは、サウジアラビアもクウェートも同様であるが、クウェートでは、刑法典において、販売目的で酒類を製造等した者を10年以下の禁固刑に処すると規定しており、その効力として酒類の製造等が禁止されていることになるのに対し、サウジアラビアでは、そのような制定法は存在せず(制定法を設けることが許容されず)、イスラム法の直接命じるところとして、酒類の製造等が禁止されていると解される。同様のことは、イスラム法が詳細な定めをする家族法についても該当し、サウジアラビアには、婚姻相続などの実体ルールを規定する制定法は存在せず、イスラム法が直接の実体規範となっている。このように、イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアは、現代の主権国家の中では、イスラム法による統治を最も徹底した国といえる(対照的に、イスラム教シーア派の雄イランの法制は、シャリーアを最高法規としつつも、制定法の適合性審査で用いるにとどまり、裁判規範として直接適用まではしない法体系をとっている。)。

ただし、民商事取引分野においては、シャリーアと抵触せず、これを補完するものと位置づけで、いくつもの法律が制定されており、その例としては、会社法、商業代理店法、不動産所有・投資に関する法律、特許法商標法著作権法、保険会社法、不動産担保に関する法律、仲裁法、民事執行法などが挙げられる。他方で、取引分野の基本法というべき民法典については、ルールの明確化・予見可能性向上などの観点から、国王のイニシアティブの下、制定に向けた動きがありつつも、反対論も根強く、未だ制定には至っていない。その背景には、民法が取引分野の基本法だけに、そのような制定法が導入されると、シャリーアを中心とすべき法体系との整合性が保てないなどの懸念が指摘されている。

また、このような民法典制定論争を巡っては、取引法制の整備という視点のみならず、「シャリーア」を重視しつつ「現代の実態」にも即した基本法整備を行うことが、現代における真のシャリーアに基づく統治のあり方を示していくきっかけになり、偏った形でイスラム法(シャリーア)による統治を掲げるテロリズムに対し、理論的・実践的な反論にもなるとの意見もある(このような「シャリーア」と「現代社会」との調和の試みは、イスラム金融発展の歴史にも通じるといえよう。)。

統治機構

サウジアラビアは、国王元首とする絶対君主制の国家であり、その統治は、実質的にも国王の親政で、「司法行政立法の三権は、国王の下で、相互に協力して執行される」とされている(統治基本法44条)。

国王は行政府の長である首相も兼ね、副首相以下の閣僚を任命する。制定法の立法権も国王に属するが、国王が任命する150名の議員と1名の議長で構成される諮問評議会が法律制定・改正などの実質的な検討をする機関として存在する。法律制定の通常のプロセスは、行政府の担当閣僚等が法律案を起草し、諮問評議会の審議に付され、諮問評議会に異議がなければ国王の承認を得た上で法律として公布されるというものである。ただし、上記のとおり、制定法を設けることができる範囲は、イスラム法(シャリーア)との関係で、相当に制約されている。

司法制度

サウジアラビアの裁判所は、統治基本法上単一の種類しかなく、特別裁判所の定めはないが、イスラム法(シャリーア)を主たる法源とする法制であることの反映として、裁判所の裁判官(ガーディー)は、シャリーアの専門家たるウラマーである。そのため、サウジアラビアの裁判所は、通称として、シャリーア裁判所と呼ばれるのが一般化している。

一方、このような(シャリーア)裁判所とは別に、苦情処理庁と訳される国王直属の紛争処理機関や、商業金融労働交通等を所管する各関係省庁の委員会等が各関連の民商事紛争処理の任に当たっている。結果として、統治基本法の定める(シャリーア)裁判所は、建前上は全ての訴訟を管轄するにもかかわらず、実態としては、家事事件(親族、相続など)や刑事事件など限定的な事件のみを担当している(このような管轄の実態は、本来的に管轄が限定されているインドネシアの宗教裁判所に、実質的に接近するものともいえる。)。

脚注

関連項目

外部リンク

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