理論計算機科学(りろんけいさんきかがく、英語:theoretical computer science)または理論コンピュータ科学は、計算機を理論的に研究する学問で、計算機科学の一分野である。計算機を数理モデル化して数学的に研究することを特徴としている。「数学的」という言葉は広義には公理的に扱えるもの全てを指すので、理論計算機科学は広義の数学の一分野でもある。理論計算機科学では、現実のコンピュータを扱うことも多いが、チューリングマシンなどの計算モデルを扱うことも多い。
この分野のテーマの例を以下に挙げる(特に意図や理由のある選出ではない)。
正確な研究範囲を述べるのは容易ではないが、ACM の Special Interest Group on Algorithms and Computation Theory (SIGACT) は同グループの目的を理論計算機科学の振興であるとしており、その対象範囲を次のように定義している。
ACMの学術誌 Transactions on Computation Theory ではこの一覧にさらに符号理論と計算論的学習理論を加え、データベース、情報検索、経済モデル、ネットワークなどの理論計算機科学的側面をも含めている。このように範囲は広いが、計算機科学の理論畑の人間は応用畑とは違うという意識を持っていることがあり、「コンピューティングを支えている(より基本的な)科学」を研究しているという意識をもっていることがある。これは必ずしも対立を意味するものではなく、むしろ協力関係にあることを意味する。
数理論理学 | オートマトン | 数論 | グラフ理論 |
型理論 | 圏論 | 計算幾何学 | 量子計算 |
アルゴリズムは何千年も前から存在していたが(例えば、2つの数の最大公約数を求めるユークリッドの互除法は今も使われている)、計算におけるアルゴリズムの定義を定式化したのはアラン・チューリング、アロンゾ・チャーチ、スティーヴン・クリーネで、1938年のことである。一方、二進法と数学の形式体系はそれ以前からあり、ゴットフリート・ライプニッツが17世紀に二進法を数学的に定式化し、19世紀にジョージ・ブールがブール論理/ブール代数を定式化した。論理的推論と数学的証明は古代から存在したが、1931年クルト・ゲーデルは自身の不完全性定理で、公理体系には証明できない限界が存在することを証明した。
それらの発展が論理学や計算可能性の現代的研究をもたらし、全体として理論計算機科学という分野を生み出した。1948年、クロード・シャノンによる『通信の数学的理論』から生まれた情報理論がこれに加わった。同じ頃ドナルド・ヘッブが脳における学習の数学的モデルを導入した。生物学的データがこの仮説を裏付けつつ、若干の修正が行われていき、ニューラルネットワークと並行分散処理が確立された。
20世紀初頭から始まった量子力学の発展により、量子の波動関数上で演算が可能ではないかという概念が生まれた。これはすなわち、複数の状態を同時並行的に計算できることを意味する。そこから20世紀後半に量子コンピュータの概念が生まれ、1990年代にはピーター・ショアが量子コンピュータを使えば素因数分解を多項式時間で解けることを示し、もし(数千万量子ビットを量子的に扱える量子コンピュータが)実現すれば公開鍵暗号システムも安全ではなくなることを示した。
理論計算機科学の研究はこれらを基盤としているが、他にも多くの数学問題や学際的問題を扱っている。
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