中世の温暖期(ちゅうせいのおんだんき、英:Medieval Warm Period:MWP)とは、ヨーロッパの中世に相当する時期、およそ10世紀から14世紀にかけて続いたヨーロッパが温暖だった時期を指す。この時期の温暖化は地球温暖化や温室効果についての議論でしばしば話題にされる。ただし最新の報告では、現在と同程度に温暖であった地域は限られ、地球全体での平均気温は今よりもずっと寒冷であったとしている。
ヨーロッパではこの時期、ヴァイキングが凍結していない海を渡ってグリーンランドに入植するなど、より北方へ領土を広げたことが知られている。また農業生産力が拡大し、人口増加・経済の復興などが見られ、そのエネルギーは盛期ロマネスク建築やゴシック建築の建設や十字軍の派遣などへと向かった。この温暖期のあと小氷期に入り19世紀まで寒冷な時期が続き、その後に現在の温暖化が始まっている。
歴史時代の地域的な気候を研究をしているほとんどの古気候学者は、寒冷な時期を小氷期、温暖な時期を中世の温暖期と便宜的に使用している。他の場合でも、小氷期や中世の温暖期の時期に相当する気候イベントに対して便宜的に用いられている。
中世の温暖期と小氷期についての初期の研究はほとんどヨーロッパのものである。一方地球全体が(20世紀のように)温暖であったかについては、2007年のIPCC第4次評価報告書においては、中世のいずれの時期についても証拠が不十分だと指摘されている。また2009年に各種データを横断的に調べた報告においても、中世に現在と同程度に温暖であった地域は限定的であり、世界的には現在よりも寒冷であったとしている。
日本でも歴史気候学の研究が行われており、屋久杉の年輪の炭素同位体比の分析や平安海進の痕跡から、ヨーロッパ中世に相当する時代に温暖な時期があったことが示されている。
中世の温暖期は太陽の活動の中世の極大期(AD1100年-1250年)と呼ばれる時期と部分的に一致する。
メリーランド州のチェサピーク湾の研究では、中世の温暖期(AD800年-1300年)と小氷期(AD1400年-1900年) の間に大きな気温の変化があるのが発見され、北大西洋の熱塩循環強度の変化との関係が指摘されている [1]。ハドソン川渓谷の下流にあるピアモント湿原の堆積物からは、中世の温暖期(AD800年-1300年)には乾燥していたという証拠が得られた。
この時期アメリカ西部の多くの地域、特にカリフォルニアやグレートベースンでは長期の旱魃の影響が見られ、アラスカではAD0年-300年と850年-1200年、1800年以降の3回の温暖化が認められている。
放射性炭素年代が得られているサルガッソー海の海底試料の分析結果では、約400年前(小氷期)と1700年前は表層海水温が現在よりおよそ1℃低く、1000年前(中世の温暖期)には1℃高かったということが示されている [2]。
赤道東アフリカでは、それまで現在より乾燥な気候と比較的湿潤な気候が繰り返されていたが、中世の温暖期にあたる時期(AD1000年-1270年) にはより乾燥した気候へと変化した [3]。
南極半島の東ブランスフィールド盆地で得られた氷床コアにも小氷期と中世の温暖期が認められるが、AD1000年-1100年の頃に明らかな寒冷期が見られる。
これらのことから、中世の温暖期という言葉が一様な出来事を示すのではなく、温暖な時期の間にも、地域的に温暖だったり寒冷だったりしたこともあったとされている [4]。
熱帯太平洋のサンゴの分析結果では、比較的冷涼で乾燥した状態が千年紀初期まで続いており、この変化はENSOパターンのラニーニャのような形状と調和している [5]。
LIA(Little Ice Age:小氷河期)時代にはイギリスでは温度計による気象観測があったが、MWP(中世の温暖期)の時代にはなかった。C14測定法、年輪、植物等の観測記録などの証拠より、中世の一時期は現在より温暖だった可能性がある。。しかし当時の地球全体の平均気温が、現在より高かったと断定できるほどの証拠ではないとする資料もある。(IPCC報告書における中世温暖期と小氷期の記述#2007年報告書(AR4:IPCC第4次評価報告書)も参照)。
IPCCの第3次報告書では“小氷期”と“中世の温暖期”は存在するのか?ということが議論されていた。しかしIPCC第4次評価報告書では中世に比較的温暖だった時期があり、地域によっては現在以上に温暖だったことも示唆されるもののその証拠は一様ではなく、地球全体が現在よりも温暖であったとは言えないとしている。詳しくはIPCC報告書における中世温暖期と小氷期の記述を参照のこと。
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