シャンバラ(Shambhala)は、『時輪タントラ』に説かれる伝説上の仏教王国である。同タントラではシャンバラの位置はシーター河の北岸とされ、シーター河が何を指すかについては諸説あるが、中央アジアのどこかと想定される。シャンバラ伝説は『時輪タントラ』とともにチベットに伝わり、モンゴルなど内陸アジアのチベット仏教圏に広く伝播した。
シャンバラは元はインドのヒンドゥー教のプラーナ文献に登場する理想郷(ユートピア)であった。ヒンドゥー教のヴィシュヌ派は釈迦をヴィシュヌ神の化身の1つとするが、釈迦のカースト制度批判によって揺らいでしまった社会秩序を正し、カースト制度を立て直すために10番目のアヴァターラとしてカルキが出現すると説いた。シャンバラとは、カルキの治める国の名であった。
『時輪タントラ』とその註釈書『ヴィマラプラバー』(無垢光)は、シャンバラ王カルキは人民を仏教に教化して「金剛のカースト」という1つのカーストに統一し、カースト制度を解消させると説いた。『時輪タントラ』はヒンドゥー教のカルキ説を取り入れつつも、これを批判してヒンドゥー教とは方向性を異にする教説に転換させたのである。
18世紀のゲルク派の学匠ロントゥル・ラマの『本初仏吉祥時輪の由来と名目』の説明によると、シャンバラには9億6千万の町があり、96の小王国がある。小王たちの上に立つシャンバラ王は王宮カラーパに住んでおり、そこから南の方角には立体型の大きな時輪曼荼羅がある。そしてシャンバラの人たちは寛容な法の下で健やかに暮らし、善行に勤しんでいるという。
シャンバラは近代には西洋の神秘思想家らの関心を引き、欧米でも有名になった。H・P・ブラヴァツキーをはじめとする神智学者らは、シャンバラはゴビ砂漠にあったと述べた。神智学協会と関係していた平和運動家・画家のニコライ・リョーリフは、チベット国境に至るモンゴル遠征の体験記のなかでシャンバラについての自分の考えを発表し、欧米のシャンバラ解釈に影響を与えた。
中国四川省カンゼ・チベット族自治州郷城県にはシャンバラ鎮と呼ばれる鎮が存在する。もともとは別の名前だったが、2005年にシャンバラ鎮に改称された。
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