インデックス・ケース(英語: index case)は、疫学調査上で集団内最初の患者となった人物を指す言葉である。プライマリー・ケース(primary case)、ペイシェント・ゼロ(patient zero)も同様の意味である。日本語では「初発症例」「発端症例」などの訳語が当てられることがある。
インデックス・ケースという語は、この他、遺伝学では原因と目される遺伝要因を家族内で調査するきっかけを作った最初の発症者(発端者、英: propositus / proband)を指したり、前頭葉に大きな損傷を負いながら生還したフィニアス・ゲージの一例など、文献上「古典的な」位置づけを得ることもある。
インデックス・ケースからは、病気の出所や考えられる伝染状況、アウトブレイク中に病気に感染していたリザーバーが誰かなど、さまざまな情報を得られる可能性がある。また、アウトブレイクのきっかけとなった最初期の感染例でもあり、第1・第2・第3(英: primary, secondary, tertiary, etc.)とナンバリングされることもある。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の感染症疫学者であるデイヴィッド・ヘイマンは、インデックス・ケース(ペイシェント・ゼロ)を見つける意義について問われ、「ペイシェント・ゼロを見つけることが重要な例もあるが、それは患者がまだ生きていて病気を蔓延させている時に限る。大概の場合、特に病気の大きなアウトブレイクの場合、そういうことは必要無い」と述べている。
AIDS流行の最初期、アメリカ疾病予防管理センター (CDC) のウィリアム・ダロウらのチームは、「ペイシェント・ゼロ」 から伝染が起きたというシナリオを考えていた。CDCは、カナダ人のガエタン・デュガがヨーロッパからアメリカへウイルスを持ち込んだキャリアで、別の男性へ感染を広げたと特定した。発表された疫学研究は、「ペイシェント・ゼロ」がどのようにヒト免疫不全ウイルス (HIV)を複数のパートナーへ感染させたか、そして彼らがさらに別人に感染させ、このウイルスがどれだけのスピードで全世界に広がったかを示すものだった (Auerbach et al., 1984)。
ジャーナリストのランディ・シルツはダロウらの発見に基づいて、1987年の著書『そしてエイズは蔓延した』で、デュガこそがペイシェント・ゼロだとした。この本はピューリッツァー賞を受賞し、後に『運命の瞬間/そしてエイズは蔓延した』として映画化された。。シルツの著書に拠れば、客室乗務員だったデュガは北アメリカの複数の都市の有料発展場で乱交を行っていたという。デュガはゲイ男性間のHIV感染を広めた人物として広く知られ、「マス・スプレッダー」(英: "mass spreader")として中傷された。4年後、ダロウは研究のメソッドと、シルツが結論に至った過程を批判するに至った。
2007年に投稿された論文では、遺伝子解析に基づき、現在北アメリカで流行しているHIVの系列は、アフリカからハイチを辿って1969年頃にアメリカへ入ったものと推定され、そのソースは1人の移民だったと結論付けられている。しかしながら、ミズーリ州セントルイスでAIDS合併症により1969年に死亡したロバート・レイフォードは、1966年以前にHIV感染したと考えられており、北アメリカのHIV系列最初期のキャリアとされている。これにより、デュガが北アメリカにHIVをもたらしたのではなく、多くの患者の1人にすぎなかったことがあらためて立証された。
「ペイシェント・ゼロ」の語は、ネットワークであるマルウェアに初めて感染し、その後他のシステムへ感染を広げたコンピュータ・ユーザを指して使われることがある。
モニカ・ルインスキーは、インターネット上で大勢からの嫌がらせを受けた最初の人物だとして、自身を「ペイシェント・ゼロ」と表現した。
1993年の映画『ゼロ・ペイシェンス』は、AIDSの「ペイシェント・ゼロ」の汚名を着せられた人物が死者の国から戻ってくるというミュージカル映画。
映画『アウトブレイク』では、インデックス・ケース探しが物語の大筋となっている。映画『コンテイジョン』では、グウィネス・パルトロー演じるエリザベス・エンホフが、登場する致死性ウイルスMEV-1のインデックス・ケースとなる。
スマートフォン・ゲーム『Plague inc.』では、プレイヤーの作ったウイルスについて情報を集めるため、CDCにペイシェント・ゼロを探させることができる。ゲーム『Prototype』では、主人公のアレックス・マーサーが、研究所で開発されたウイルスのペイシェント・ゼロとなってしまう。
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