統合失調症(とうごうしっちょうしょう、英語: Schizophrenia、ドイツ語: Schizophrenie、略: SZ)は、自分が他者からコントロールされていると考え、思考、知覚、感情、言語、自己の感覚、および行動における他者との歪みによって特徴付けられる症状を持つ、精神障害の一つである。青年期以降に後天的に発症し、服薬などの治療をしないと症状は徐々に悪化または再発していく特徴がある。
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統合失調症 | |
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統合失調症患者が作成した刺繍 | |
概要 | |
診療科 | 精神医学, 臨床心理学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | F20 |
ICD-9-CM | 295 |
OMIM | 181500 |
DiseasesDB | 11890 |
MedlinePlus | 000928 |
eMedicine | med/2072 emerg/520 |
Patient UK | 統合失調症 |
統合失調症患者の症状には、幻覚や妄想、会話や行動における統合喪失、突然興奮や大声などの陽性症状、周囲への無関心や意欲や集中力の低下といった陰性症状がある。この精神障害は「統合失調症スペクトラム障害」の一つであり、症状が進行しやすい。日本では2002年(平成14年)まで、精神分裂病(せいしんぶんれつびょう)と呼称されており、2002年から「統合失調症」という呼称に改訂された。
一般に幻聴や幻覚、異常行動が見られる。発症のメカニズムや根本的な原因は解明されておらず、また、単一の疾患ではない可能性が指摘されており、症候群である可能性がある。様々な仮説が提唱されているが、未だに決定的な定説が確立されていない。
有病者の人数は、世界では2300万人ほどで、日本では71万3千人の患者がいると推計されている。成人の年間有病率は0.1から7.5%、生涯有病率は0.1から1.8%と世界保健機関(WHO)は報告している。患者の死亡率は、一般人口より2.0から2.5倍ほど高く、世界の障害調整生命年(DALY)のうち約1%を占める。
精神疾患として深刻なもの (Severe mental disorder) とされるが、治療が可能な病気である(具体的な治療法については「#治療」を参照)。しかし患者の2人に1人は、医師の受診につながっていない。この疾患の担当診療科は精神科であり、精神科医が治療に当たる。
罹患者の90%は低所得国および中所得国に居住している。世界保健機関は、低所得国および中所得国を対象とした計画である世界精神保健アクションプログラム (mhGAP) を策定し、クリニカルパスおよび診療ガイドラインを作成、公開している。
「統合失調症スペクトラム障害」、または「統合失調症スペクトラム」、「統合失調スペクトラム」とは、「統合失調症およびそれに連続する障害や病気のまとまり」を指す医学用語。DSM-5(『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版)で定義された診断基準である。
統合失調症スペクトラム障害の中心は、次の5つの症状である。
現れた症状の数や重症度によって、診断名が次のように決まる。
大分類 (上位診断名) | 小分類 (下位診断名) | 症状 | 期間 |
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統合失調症スペクトラム障害 | 統合失調症 | 5症状のうち2つ以上が現れており、かつ、それらのうち最低1つは妄想・幻覚・思考障害のどれか | 6か月以上 |
統合失調感情障害 | 統合失調症と共に、うつ病や躁病が現れる(※事例としては少ない) | (特に無し) | |
統合失調症様障害 | 5症状のうち2つ以上が現れている | 1か月以上6か月未満 | |
短期精神病性障害 | 陰性症状を除いた4症状のうち1つ以上が現れている | 1日以上1か月未満 | |
妄想性障害 | 妄想だけが現れている | 1か月以上 | |
統合失調型パーソナリティ障害(STPD) | 対人関係での苦手さ、風変わりな行動など | 成人期になるまで徐々に |
また精神医学論文では、スキゾイドパーソナリティ障害(SPD、統合失調質パーソナリティ障害)も、統合失調症スペクトラム障害の一種として分類されることがある。『MSDマニュアル』では「シゾイド〔スキゾイド〕パーソナリティ障害は,統合失調症または統合失調型パーソナリティ障害の家族歴がある人々でより多くみられる場合がある」とされている。スキゾイドパーソナリティ障害にはしばしば併存症があり、それは例えば統合失調型パーソナリティ障害やうつ病などである。
精神医学的障害の一種である。現在の統合失調症の定義は妄想・幻覚といったヒト特有の高次脳機能(心理症候)に全て依存している。
1899年、エミール・クレペリンは、感情の欠如、奇妙な歩行、筋痙攣(きんけいれん)などを呈し、痴呆へと至る患者を「早発性痴呆」と記述した。
1908年、オイゲン・ブロイラーが「schizophrenia」と名付けた。
1917年、コンスタンチン・フォン・エコノモが「嗜眠性脳炎」を記述し、「schizophrenia」から「嗜眠性脳炎」が除外された。
1920年代〜30年代、精神医学の教科書の記述が変化した。従来の身体症状が全て削除され、幻覚、妄想などの精神症状が残った。
1937年、日本精神神経学会は、同学会における用語を「精神分裂病」とした。
1968年、DSM-IIの前文は「最善は尽くしましたが、(アメリカ精神医学会の)委員会はこの障害について合意を得ることができませんでした。合意できたのは診断名だけです」としている。
1980年、DSM-IIIは「精神分裂病の概念の範囲は曖昧です」としている。また、精神障害の基本概念に関して、「精神分裂病患者 (a schizophrenic) 」という人間を分類する表現は誤解を招くため、「精神分裂病を有する人 (an individual with Schizophrenia) 」というぎこちないがより正確な表現を採用すると説明している。DSM-III-R(1987年)、DSM-IV(1994年)、DSM-IV-TR(2000年)にも同様の説明がある。精神分裂病患者 (schizophrenics) が存在するのではなく、精神分裂病 (schizophrenic disorder) の診断基準を満たす症状を有する人々がいるだけである。
1987年、DSM-III-Rは「精神分裂病に限っては、単一の特徴をいつも示さなかったり、生じないことに注意すべきです」としている。
1988年、ニューヨーク州立大学のトーマス・サズ博士は「精神分裂病はとても曖昧に定義されています。実のところ、話し手にとって気に入らない行動のほとんど全てにしばしば適用される用語です」と述べている。
1990年、メアリー・ボイルは、精神分裂病の指示対象について、「徐々に変化し、この診断名が最終的には、クレペリンの症状と表面的にもほとんど類似点がない集団に適用されるようになった」と述べている。
1994年、著名な精神分裂病研究者であるナンシー・C・アンドレアセンは、何が精神分裂病なのか分からないと認めており、「ヨーロッパの人々は、誰が本当に精神分裂病を持っているのか、何が本当の精神分裂病なのか、理解することによって、アメリカの科学の一助となる」と述べている。
2002年、日本精神神経学会は、「精神分裂病」には差別的な意味合いが包含されているとして、同学会における用語を「統合失調症」に変更した。
2014年、アメリカ精神医学会が、DSM-5を発行し、DSM-IVにより画期的に明確化された診断基準を受け継ぎ、5つの統合失調症の特徴を示した。すなわち、以下の症状のうち、少なくとも2つがおのおの1か月症状として継続して示すものを、統合失調症として、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群の一領域と定義した。
日本の精神医学は、概ねこの診断基準に基づいて、診断している。
統合失調症に共通する症状は、思考や行動、感情がまとまりにくくなることである。自閉や連合障害からくる大脳の疲弊によって、一部の患者では妄想や幻覚を発症する頻度が少なくない。また、社会的または職業的機能の低下、つまりは、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している場合がある。認知、情動、意欲、行動、自我意識など、多彩な精神機能の障害が見られる。大きく陽性症状と陰性症状の二つが挙げられ、他にその他の症状に分けられる。全ての患者が全ての症状を呈するのではないことに注意が必要である。WHOによる国際的予備研究によれば、最も多く見られる症状は幻聴または関係念慮であり、患者の約70%に認められた。
陽性症状 (Positive symptoms) とは、おおよそ急性期に生じるもの。妄想や幻覚などが特徴的である。
思考過程の障害と思考内容の障害に分けられる。統合失調症の最大の特徴はこの自我意識面での思考の障害であるとされる。総合的に診断して自閉症と重複し、誤診されることもたびたびある。
妄想 (Delusions) とは、客観的に見て物理的にありえないことを事実だと完全に信じていること。以下のように分類される。
一人の統合失調症患者においてこれら全てが見られることはまれで、1種類から数種類の妄想が見られることが多い。これらの妄想症状は突発的に起こることもあれば、数週間をかけて形成されていくこともある。
関連語に妄想着想(妄想を思いつくこと)、妄想知覚(知覚入力を、自らの妄想に合わせた文脈で認知すること)がある。また、妄想に質的に似ているが、程度が軽く患者自身もその非合理性にわずかに気づいているものを「 - 念慮」という。
統合失調症以外の疾患に伴って妄想がみられることもある。クレペリンは双極性障害(躁うつ病)の特徴として迫害妄想をあげており、双極性障害でないことが診断に重要である。
幻覚 (Hallucination) とは、実在しない知覚情報を体験する症状。以下のものがある。
統合失調症では幻聴が多くみられる一方、幻視は極めてまれである。幻聴は、人によっては親切・丁寧であることもあるが、多くの場合はしばしば悪言の内容を持つ。
幻覚を体験する本人は、外部から知覚情報が入っていると感じるため、実際に知覚を発生する人物や発生源が存在すると考えやすく、これらの幻覚の症状を説明するために、患者は妄想を形成しているのである。幻嗅、幻味などは被毒妄想に結びつくことがある。また、患者が嫌がらせや迫害を受けているなどと訴える例もある。
統合失調症以外の疾患(せん妄、てんかん、ナルコレプシー、気分障害、認知症など)、あるいは特殊な状況(断眠、感覚遮断、薬物中毒など)におかれた健常者でも幻覚がみられることがある。
自己と他者を区別することの障害である。自生思考や作為体験など、思考や行動における能動感と自他境界感の喪失がみられる。一説に自己モニタリング機能の障害と言われている。すなわち、自己モニタリング機能が正常に作動している人であれば、空想時などに自己の脳の中で生じる内的な発声を外部からの音声だと知覚することはないが、この機能が障害されている場合、外部からの音声だと知覚して幻聴が生じることになる。音声に限らず、内的な思考を他者の考えと捉えると考想伝播につながり、さらには「考えが盗聴される」などという被害妄想、関係妄想につながることになる。
行動が無秩序かつ予測不可能となる。
陰性症状 (Negative symptoms) とは、エネルギーの低下からおこる症状で、おおよそ消耗期に生じる。無表情、感情的アパシー、活動低下、会話の鈍化、社会的ひきこもり、自傷行為などがある。
陰性症状は、初回発症エピソードから数年以上継続しうる。患者はこれらの陰性エピソードのために、家族や友人との関係にトラブルを招きやすい。
発病メカニズムは不明であり、明確な病因は未だに確定されておらず、いずれの報告も仮説の域を出ない。仮説は何百という多岐に及ぶため、特定的な原因の究明がきわめて困難であり、今日の精神医学・脳科学の発達上の限界・壁となっている。現在の精神医学主流の仮説として、神経伝達物質のドーパミンの過不足による認知機能不全を原因とする説が有力である。
根本的な原因は不明ではあるが、遺伝と環境の複合要因と考えられている。遺伝の影響度は研究によって異なるが、双子を用いた研究のメタ分析では遺伝率が81%と報告されている。また、双生児法による研究によると、一卵性双生児のうちの一方が統合失調症に罹ると、もう一方も統合失調症に罹る確率は、50%であるという報告がある。
生物学的な因子としては、妄想および幻覚症状は脳内の神経伝達物質の化学的不均衡であるという仮説が提唱されている。主にドーパミン拮抗薬である抗精神病薬の適量の投与によって、症状の抑制が可能であるとする理論であるが、大きな成功をおさめている仮説であるとまでは言えない。
環境要因としては、心理社会的なストレスなど環境因子の相互作用が発症の発端になると予想されている。心理社会的な因子としては、「ダブルバインド」や「HEE(高い感情表出家族)」などが注目されている。家庭や学校が、歪んでいたりして、本人の意思や努力ではどうにもならないところで、不本意な想いをしていることが多く、それが発病のきっかけになっていることもよくあるという。
2019年、東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻の廣川信隆特任教授らのチームが、神経細胞のキネシン分子モーターKIF3Bの異常が統合失調症の原因とみられると発表した。2021年、東京都医学総合研究所などの研究グループが、思春期に砂糖を過剰摂取すると、脳の毛細血管の炎症により神経細胞のグルコースの取り込みを低下させ、統合失調症などの精神疾患の原因となる可能性を発表した。
生物学的指標は存在せず、現在の診断は患者の心理症候に依存している。精神科の病気の診断に最も重視される方法は、患者の体験を言葉で語ってもらうことによる問診であるが、同時に他の疾患との鑑別のため、各種の血液検査や生理検査が行われる。長時間に渡る問診と共に、エビデンスすなわち科学的な根拠を基とする判断の上で、精神科医は正確な統合失調症の症状を診断しなければならない。精神医学は数字で測れる指標は少ないが、主要な精神疾患については症状や経過の詳細がわかれば通常の診断能力を持つ精神科医にとって、正確に診断することは困難なものではなく、誤診も一般に思われているよりはるかに少ないとしている。
ICD-10での診断基準 | DSM-IV-TRでの診断基準 |
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分類はICD-10により、「妄想型」「破瓜型」「緊張型」の3つが代表的である。
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第5桁の数字(F20.XYのY)は、経過分類に用いる。
第5桁の数字 | 経過 |
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0 | 持続性 |
1 | エピソード性の経過で進行性の欠陥をともなうもの |
2 | エピソード性の経過で固定した欠陥をともなうもの |
3 | エピソード性の経過で寛解しているもの |
4 | 不完全寛解 |
5 | 完全寛解 |
8 | その他 |
9 | 観察期間が1年未満 |
出典: |
先進的な医療、研究事例として統合失調症の判別に光トポグラフィー、脳SPECTなどの装置による画像診断をおこなうことがある。
以下の疾患を除外する。
前述におけるプレパルス抑制およびびっくり病、さらには糖尿病や低血糖症と差異を見出さなければならない。抗NMDA受容体抗体脳炎も2007年に提唱された比較的新しく発見された疾患であるが、NMDA受容体機能低下による統合失調症と共通病態と考えられるため、鑑別が必要である。
薬物誘発性精神病の症状は、統合失調症の症状に酷似しており、熟練した精神科医でも鑑別は困難とされる。症状は同様であるが、薬物誘発性精神病は後天性で、統合失調症は遺伝性であるという点で異なる。薬物誘発性精神病と統合失調症の区別は曖昧なため、薬物誘発性精神病モデルは、統合失調症モデルとして研究で頻用されているが、これが動物モデルとして理想的であるかは決定されていない。つまり、1.幻覚など陽性症状、2.平坦な感情など陰性症状、3.混乱した言語や非論理的という認知症状の3種類の症状が統合失調症に特徴的であるが、アンフェタミンに誘発された精神病症状は陰性症状を明らかに誘発しないなど不完全であり、発症機序に関して別々であることは明らかである。DSM-5においては、薬物誘発性精神病は統合失調症と区別されており、統合失調症と異なり使用をやめると症状はおさまるものだと定義されている(精神刺激薬精神病#鑑別診断も参照)。
発達障害の自閉症スペクトラム障害 (ASD) と間違われやすい精神疾患・障害であり、見分け方かつ正反対な点としては、他者の目線を気にするか否かの点がある。ASDの場合は先天性で非進行性の疾患・障害であり、自分がどう見られているか、どう思われるかを全く気にしない。
統合失調症の確定診断は、そもそも難しい。統合失調症の性質、精神医療現場の環境が原因となって、他の精神疾患や発達障害との誤診が起きる可能性がある意見や報道もある。誤診されやすいものとしては双極性障害、統合失調感情障害、強迫性障害、びっくり病、ナルコレプシーにおけるカタプレキシーやアスペルガー症候群が挙げられる。特に双極性障害は、統合失調症と遺伝子的スペクトラムをなすという仮説もあり、しばしば幻聴やてんかんを伴う。
児童精神科医は約200人ほどしかおらず、児童精神医学は専門外の場合がある。
様々な提唱がされているが、どれも反証可能性がない。貧困対策、大麻および違法薬物の使用の防止あるいは大麻の推奨、アルコール飲料摂取の防止、喫煙の防止、あるいは喫煙の推奨、小麦製品などのグルテン含有食品の摂取の防止(グルテン原因仮説)、レバーなどに含まれるピリドキサミンの積極的な摂取(カルボニルストレス説)、コーヒーなどのカフェインの摂取の防止、幼少時期のトラウマ(虐待、いじめなど)の防止、家族・医療関係者の高感情表出、いわゆるHIGH-EE (High expressed emotion) の防止、妊婦のインフルエンザなどの感染症の防止、睡眠不足の防止あるいは過眠の防止、過食の防止、運動不足の解消、魚介類に多く含まれるω-3脂肪酸の積極的な摂取、朝食の摂取、親知らずの抜歯などが挙げられるが、いずれも仮説である[要出典]。
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、統合失調症発症リスクの高いグループについては、個人単位での認知行動療法(CBT)を提供し、さらに、もしパーソナリティ障害・薬物乱用・うつ病・不安障害などが見られれば、それらに診療ガイドラインに従った治療を提供するとしている。発症防止・予防を目的とした、抗精神病薬の投与は行ってはならない。
精神科医(精神保健指定医)・薬剤師・看護師・保健師・精神保健福祉士・社会福祉士・作業療法士・理学療法士・公認心理師・音楽療法士・管理栄養士・栄養士などの専門職が挙げられる。全国精神保健福祉会連合会が結成されている。地方自治体は家族への相談窓口などを設置していることが多い。家族の多くが精神障害者の地域生活を支えている。
統合失調症の患者の中にも病状悪化による再入院を繰り返す過程で、自分が統合失調症であることや、服薬中断が精神症状悪化につながると分かるようになっている場合もある。いろいろなことに深刻にならずに、「病気だからそう言うこともあるんだな」と受け止めることが大事との意見がある。治療の開始にあたっては、統合失調症も他の病気と同様に薬で症状をコントロールできること(特殊な病気ではないこと)を伝え、回復への見通しを持てるようにサポートする。同時に、医師や周囲の人のサポートを約束し、本人のペースを尊重しながら協同で治療に取り組んでいくことを伝え、安心感を持てるよう支援する。精神科医は、理解しようとすること、少なくともサポートしようとしている姿勢が患者に伝わることが必要となる。
患者に妄想・妄言が含まれる場合、それを否定すると孤立感が増し症状が悪化する例が多いとされ、また、逆に肯定すると妄想を補強することになり、症状が悪化する可能性がある。話を聞かない場合においても孤立感が増すため、話を根気よく聞く必要があるが、あまりに真剣に聞きすぎると、聞き手側のストレスになり、場合によっては聞き手側にうつ病などの精神疾患をもたらすことがあるため、あまりに真剣に聞くことも推奨されない。介護職の対応としては、妄想の話をしているときには、否定も肯定もせず、中立的に話を最後まで聞き、相手には真剣に聞いている態度を示しつつも、内実あまり真剣に聞かずに軽く受け流すという対応を正解としている(ただし、症例は多様であり、ケースバイケースのため専門医の指示は必須である)。実際に、本当のことを訴えている場合、あるいは利害関係から病気に仕立てられるケースが実在するので注意が必要である。
厚生労働省のウェブサイトにおいて、患者家族に対しては「病気とそのつらさを理解する」「医療チームの一員になる」「接し方を少し工夫する」「自分自身を大切にする」ことなどを推奨しており、患者に対して非難的あるいは批判的な言動を慎み、また「原因を探すのはひとまず脇に置いて、具体的な解決策を一緒に考える、という接し方が理想的」と呼びかけている。また、心配しすぎてオロオロしないようにも勧めている。
精神保健福祉法、生活保護などの公的扶助制度の活用や様々なアドバイスなど治療や社会復帰をすすめるために必要な社会的援助を、精神保健福祉士などが支援する。看護師と精神保健福祉士が協働する訪問看護などもある。
外来治療と入院治療に分けられる。英国国立医療技術評価機構 (NICE) のガイドラインによれば、第一選択肢は経口抗精神病薬と心理療法(個別認知行動療法および家族介入)の両方を行うことを提案している。しかしプライマリケア医は、精神科専門医のアドバイスを得ていない限り、初回発症の段階で抗精神病薬を処方してはならないとしている。薬物療法が大きな柱となるが、その他の治療法も病相の時期(急性期、慢性期など)に応じて適宜選択される。いずれにせよ、精神科医を受診、相談することが望ましい。統合失調症患者の主体的な人生や生活のゴールを達成するために、患者と医師による治療内容についての共同意思決定(SDM)が関心を高めている。
薬物療法によって完治することはまれであるが、対症療法にはなる。日本神経精神薬理学会が『統合失調症薬物治療ガイド』を公開している。
抗精神病薬(日本では20数種類が使用できる)の投与が、陽性症状を中心とした症状の軽減に有効である。また、統合失調症に抑うつ症状や強迫症状を伴う場合などには抗うつ薬を、不安症状が強い場合には抗不安薬を、不眠が強い場合には睡眠薬を併用することもある。NICEは、抗精神病薬の処方は利益と副作用を考慮した上、年に一度レビューするとしている。
近年、従来の定型抗精神病薬と呼ばれる薬剤よりも、副作用が少なく陰性症状にも有効性が高いなどの特徴をもった非定型抗精神病薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤であるリスペリドン、ペロスピロン、オランザピン、クエチアピンが開発され、治療の主流になりつつある。さらに、最近アリピプラゾール、ブロナンセリン、クロザピン、リスパダール・コンスタ、パリペリドン、アセナピン、ブレクスピプラゾール、ルラシドンが加わった。クロザピンは治療抵抗性統合失調症に唯一有効な抗精神病薬であるとされる。ただし、非定型抗精神病薬における新たな問題もあり、副作用面では、オランザピン、クエチアピンが、高血糖・糖尿病・肥満を誘発することがある。また医療経済面では、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾールなどは薬価が非常に高く設定されている。こうした見解を経て、定型抗精神病薬が再考されている。
抗精神病薬の一般的な副作用として、黒質線条体系のドーパミン拮抗作用によるパーキンソン症候群、錐体外路症状、アカシジア、悪性症候群、ムスカリン拮抗作用による便秘、口渇、眼のかすみ、ヒスタミン拮抗作用などによる眠気、体重増加など、アドレナリンα1拮抗作用による低血圧、性機能障害が生じることがある。抗精神病薬の治療の副作用対策として抗パーキンソン病薬の使用は、認知機能を低下させる副作用があるため、なるべく少量の使用か、使用しない傾向にある。
NICEは、薬剤切替時を除いて抗精神病薬を多剤投与してはならない、急速大量抗精神病薬飽和療法 (Rapid Neuroleptization) は、急性エピソード時の差し迫った暴力鎮静を除いて行ってはならないと勧告している。日本の薬物療法においては多剤大量処方という問題を抱えており、その副作用で死亡者が出るなどの事例がある。抗精神病薬の換算方法としてクロルプロマジン換算があり、統合失調症においてはクロルプロマジン換算量600mg程度を理想としている。
統合失調症維持期の抗精神病薬治療については、継続、中止、間欠投与、減量・低用量の4つの戦略がある。中止については、近年各国のガイドラインは初回エピソード患者を中心に肯定的に傾いてきており、減量・低用量についても、ガイドラインは完全に否定してはいない。一方、複数エピソードを経験している患者に対しては中止は推奨されておらず、間欠投与については、いずれのガイドラインも推奨していない。
薬物療法を中断すると、中断した当初は調子がいいように感じることもあるが、多くは3か月、半年と時間が経つにつれて再発する(拒薬、怠薬)。自己判断で中断するのではなく、精神科医の指導のもとで継続して服用することが重要である。
2006年、アラスカ州最高裁判所は抗精神病薬に関する訴訟の判決文で、「向精神薬は患者の心身に重大で永続的な悪影響を及ぼすことがある」「数々の破壊的な副作用を引き起こす可能性があることが知られている」と説明している。
統合失調症に柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏瀉心湯、加味逍遥散、抑肝散など、漢方薬が有効なこともある。ただし、統合失調症を漢方薬のみで治療するのは難しく関連症状に対して使用される。また、漢方の温胆湯が統合失調症に効果があり、短期的に全体的改善が生じる。温胆湯は抗精神病薬と比較して有効性が高くはないが、錐体外路症状が生じにくいことが示されている。
2010年代後半から、陰性症状の1つである認知機能低下の改善を目指し、製薬会社各社がグリシントランスポーター1阻害薬の開発を進めている 。グリシントランスポーター1阻害薬は現在イクレペルチン(ベーリンガーインゲルハイム)、ビトペルチン(ロシュ)、ORG-25935(Organon & Co.)、ペサンパトル(ファイザー)が臨床試験に入っている。
十分な傾聴と受容を通して、妄想や幻覚の背景にある苦しみや、妄想や幻覚による苦悩を理解し、治療関係を構築した上で、次のような効果的な治療を患者と協同で進めていく。
薬物治療や入院治療を極力避け、対話による回復を目指す治療法である。世界的に注目されており、日本への導入が進められている。
NICEは患者に対し、健康的な食事と運動プログラムの組み合わせを提供すべきであるとしている。統合失調症の患者はファーストフード、炭水化物や脂質の多い加工食品(インスタント食品や菓子)、ソフトドリンクの摂取が多く、食物繊維や果物の摂取が少ない傾向にあり適切な量や回数の理解が必要である。長期間の運動プログラムを定期的に行った統合失調症患者は、そうでない患者と比較して高いメンタルヘルスの改善が認められた。また、統合失調症における精神科のリハビリテーションにおいてメタボリックシンドロームの予防を目的にした運動プログラムが盛んになった。
経過は、前駆期、急性期、消耗期(休息期)、回復期に分ける4区分と、前駆期、進行前駆期、精神病早期、中間期、疾患後期に分ける5区分の2種類がある。
例えば、重度の骨折をした場合、一般的に診断、治療、回復、リハビリ、寛解(かんかい)という段階を経るが、統合失調症もこれと同じことが当てはまり、中でもリハビリは困難を伴う一方大変重要な段階である。陽性症状は時間の経過により改善することも多いが、それとともに陰性症状が目立ってくる。しかし、抗精神病薬の投与をしても慢性的に陽性症状および陰性症状が持続して残る患者も多い。長期療養の結果、晩年期になると長年続いた顕著な精神症状が燃え尽きる様に寛解されるに至るという医学的な考え方もあり、「晩期寛解」と呼ばれる。多くの統合失調症患者は加齢とともに症状が改善する。
英国を中心とした実証的な家族研究の結論によると、確実な服薬遵守より、家族が患者に批判的な言動をするかどうかのほうが、患者の経過を左右する。
統合失調症の予後について、過去(特に薬物療法がなかった時代)と比較すると、全体的にかなり向上しているといわれている。「進行性の経過を取り、ほとんどが人格の荒廃状態に至る」というイメージやスティグマ(偏見)が残っているが、これは事実に反しており、一部の人が荒廃状態に至るだけである。イギリスのデータでは、患者は困難や将来的な再発への脆弱性を抱えながらも、一部の人々は、完治はしないが寛解するという根拠がある。
イギリスでの5年追跡調査では、22%は1回の発病エピソードのみで完全寛解、35%は数回のエピソードを繰り返し軽い機能障害が見られる、8%は数回のエピソードで障害も継続、35%は数回のエピソードで障害も増悪していた。病型別の予後では、妄想型や緊張型は、妄想幻覚などの症状のほうが抗精神病薬に反応しやすいため、予後がよく、破瓜型や単純型などの陰性症状には治療の効果が得られにくいため、予後が悪いと一般的に言われている。ただし、こうした傾向はあるが、妄想型などでも治療に反応しない例がまれではなく、病型により機械的に予後が予測できるものではない。患者の生活態度や薬物投与を含めた環境を改善することで症状を軽減できるが、生活レベルでの具体的な改善策は得られていないのが現状である。
1961年、カリフォルニア州精神保健局は、18か月以内の退院率について、非投薬群が88%、投薬群が74%と報告している。
1977年、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の臨床研究施設における研究報告は、退院時期について、非投薬群は投薬群より早いと報告している。また、退院一年後の再発率について、非投薬群が35%、投薬群が45%と報告している。
1978年、モーリス・ラパポートの研究は、退院3年後の転帰について、非投薬群は投薬群より良好で再入院率も低いと報告している。
1992年、世界保健機関の10ヵ国を対象とする研究報告は、2年後の転帰について、貧困国は3分の2近くが良好な転帰、3分の1強が慢性化、富裕国は37%が良好な転帰、59%が慢性化と報告している。抗精神病薬の使用率は、貧困国が16%、富裕国が61%であり、使用率が3%のインドのアグラが最も良好、使用率が最も高いモスクワが最も悪かった。
2007年、マーティン・ハロウの研究は、15年後の転帰について、抗精神病薬なしは40%が回復、44%が良好な転帰、16%が一様に不良、抗精神病薬ありは5%が回復、46%が良好な転帰、49%が一様に不良と報告している。
どの年齢でも発症するが、特に思春期から青年期において、自立した生活を開始したころに発症することが多い。男性と比較して女性は平均発症年齢が遅く、閉経後にも小さな発症のピークがある。
データなし 185年未満 185年から197年 197年から207年 207年から218年 218年から229年 229年から240年 | 240年から251年 251年から262年 262年から273年 273年から284年 284年から295年 295年を超える |
生涯発病率は約0.85%(120人に1人)であり、まれな病気ではない。アメリカ合衆国では、生涯罹患率は約1%で年間発症者数は10万人当たり1,000人、カナダにおける12か月有病率は男性・女性ともに0.61%であった。5歳から18歳の児童青年においては、有病率は0.4%、イギリスの精神病院に入院する10歳から18歳のうち、24.5%は統合失調症であった。研究対象となった地域・人種などにより罹患率に差があるが、診断基準によっても左右され、その意味は明確ではない。アイルランドでの地方間における罹患率の差も議論の対象となっている。
統合失調症患者の死亡率は、一般人口の約2倍以上とされる。
患者の生涯自殺率は10%以上で、これは一般人口の12倍の値であり、およそ5%が自殺を完遂する。特に初発後・退院後に多く、初発退院後1年間の自殺率は一般人口に比べて100倍になっているという報告がある。患者が喫煙者の場合も、自殺企図の危険は有意に高くなる。陽性症状が強い時期に、幻聴から逃れたり妄想のために自殺をする患者もいるが、陰性症状しか見られない段階でも思考の短絡化によって、少しの不安でも耐えられずに、自殺してしまうこともある。
統合失調症患者の生命予後(平均余命)は一般人口と比べると悪く、死因の大部分は心血管系疾患によるものと言われる。統合失調症患者は心疾患や窒息による不慮の突然死が多く、突然死のリスクは健常者と比較して統合失調症患者全体で4.9倍、入院療養中の統合失調症患者では6.7倍であるとされる。特に、メタボリックシンドロームは心血管系疾患および心血管系疾患死のリスクを上げ、原因として生活習慣、抗精神病薬による治療、統合失調症の自体の影響などがある。突然死リスクを減らすために対応可能な6つのリスクファクター(喫煙、高血圧、高血糖、運動不足、肥満、高脂血症)への取り組みが、発病早期から求められる。
統合失調症患者の合併症で、特に多いのは抑うつと薬物乱用である。患者の少なくとも25%は常時抑うつであり、また米国患者ではアルコール依存症は30%以上、麻薬は25%以上、喫煙率は50%以上であった。
統合失調症患者はがんによる死亡率が低いことが知られている。デンマークで1980年まで行われた研究では、がん発生率は健常者との比較により男性で67%、女性で92%であった。男性統合失調症患者の肺がんは高い喫煙率にもかかわらず、健常者の38%であった。統合失調症治療に使われる向精神薬が抗腫瘍効果をもつためであるとされている。また、統合失調症患者は関節リウマチに罹患しにくいことが知られており、最近の研究によれば、およそ4倍程度罹患しにくいとされる。
19世紀のドイツの精神科医エミール・クレペリンが複数の脳疾患を統一的な脳疾患カテゴリーとしてまとめ、早発性痴呆症を提唱した。1911年、スイスの精神科医オイゲン・ブロイラーが症状群の性質から、著書『早発性痴呆症あるいは精神分裂病群の集団』(『Dementia Praecox oder Gruppe der Schizophrenien』)の中でSchizophreniaを造語し定義した。ブロイラーによれば、当該疾患の特徴は「精神機能の特徴的な分裂(Spaltung der verschiedensten psychischen Funktionen)」であるとし、Schizo(分裂)、Phrenia(精神病)と呼称した。ここでいう精神機能とは、当時流行した連合主義心理学(en:Associationism)の概念であり、また精神機能の分裂とは主に連合機能の緩みおよび自閉症状を意味する。クレペリンは死後の脳解剖から前頭葉に類似の細胞変性を観察しており、早発性痴呆群を統一的な統計カテゴリーとした。しかし、ブロイラーは相当多数の疾患群の集合からなると予想しており、現在まで決着はついていない。クレペリンおよびブロイラーが例示した疾患群は単純型痴呆、破瓜病、緊張病、妄想性痴呆の4つである。
江戸時代の日本の医家の間では、「柔狂」や「剛狂」と呼ばれる精神疾患が知られており、それぞれヨーロッパでの「破瓜病」、「緊張病」に相当する病状であったとされている。中期の儒医の香川修徳は著書『一本堂行余医言』(いっぽんどうこうよいげん)で「狐憑きも野狐の祟りなどではない。被害妄想、誇大妄想、感情荒廃、強迫観念、自閉、不眠、幻想、抑うつなどは狂の症状である」との意味を記している。
19世紀には原因は不明であり、認知症が早期に発症したものと誤解されたため早発性痴呆という名称がベネディクト・モレルによってつけられ浸透した。古代ギリシア語の σχ?ζειν+φρ?να(分裂+理性、心)に由来する、ドイツ語の Schizophrenie という言葉が作られた。
日本では、明治時代に精神分裂病が、ドイツ語の Schizophrenie に対する日本語訳として用意された。精神分裂病の「精神 (phrenie)」は、本来は心理学的な意味合いで用いられた単語であり、知性や理性を現す一般的な意味での精神とは意味が異なる。また、「分裂 (schizo)」は、精神そのものの分裂を言うのではなく、「太陽に対して暑い」などの言語連想の分裂を指していた。ところが日本では、「精神分裂病」という名称から、文字通り「精神が分裂する病気」と解釈され、さらには「理性が崩壊する病気」と誤った解釈がされてしまうことが多々あった。
統合失調症の患者の家族に対して、社会全体からの支援が必要とされておりながら、誤った偏見による患者家族の孤立も多く、その偏見を助長するとして患者・家族団体などから、病名に対する苦情が多かった。また、医学的知見からも「精神が分裂」しているのではなく、脳内での情報統合に失敗しているとの見解が現れ始め、学術的にも分裂との命名が誤りとみなされてきた。そこで、2002年に、日本精神神経学会総会で Schizophrenia に対する訳語を統合失調症にするという変更がなされた。訳出にあたっては、その訳語が当事者にとって社会的な不利をもたらさない原則を加味することや、「病」ではなく「症状群」であるといった指摘がなされた。名称変更にかかった費用の一部は、治療に使われる抗精神病薬を販売している外資系企業から提供されたという(全国精神障害者家族会連合会を参照のこと)。
古代ギリシア時代から色々な治療が試みられており、近代医療においても100年以上の歴史を有することから、膨大な種類の治療が試みられてきた。現代の主流は、薬による薬物治療が効果をあげており、それにより80 - 90%が治癒する。しかし、再発する確率も高く、治療および再発防止には家族の協力が不可欠とされる。古くは、日本において漢方薬での治療が試みられ、西洋などでは治療不可能と判断して監禁したり、手足を拘束する、あるいは折檻する、また、近代においても脳の一部を切断するなど現代から見たら非人道的な行為が行われてきた。長らく説得(あるいは根気よく話を聞くことや対話)による治療が試みられてきたが、それらについてはあまり効果が確認できず、近代医学では掃除などの簡易作業を行わせる軽作業型の作業治療による若干の改善が認められて一時期盛んに研究され実施された。この軽作業型の作業治療は、医療現場で患者と接することが多い看護婦(当時の名称)から好まれたという。しかしながら、患者を安全に作業させるには医療機関の手間・暇などの負担が大きい上に、劇的に効果を確認できるものでもなく、症状が若干改善したとしても、他のストレスなどの悪化要因があれば、一進一退を繰り返すなど、根気と忍耐がいるものであり、当時は労務させられる患者や一刻も早く治癒を望むその家族からは不評であり、軽作業型の作業治療は下火となっていった。軽作業の代わりに、趣味(園芸など)を行う作業治療が登場したが、患者の要望に応えるためには看護師が、その趣味を指導できる程に覚える必要があり、趣味には膨大な種類があることから患者から寄せられる数多い要望に対応できず、また、要望を出しても病院が対応できない場合は患者症状に悪化をもたらすこともあることから、次第に医療現場では減少した。しかしながら、薬ほど劇的ではないものの、確かに改善効果は認められるために、現在では専門の作業療法士制度を創設して担当している。1950年代から様々な薬が開発されると、劇的に効果を上げるようになったため、歴史的に様々な経緯を経て薬物治療がその主流に存在しており、他の治療法はその補佐的に利用されている。
統合失調症を患った著名人は少なくなく、ドイツの物理学者、アルベルト・アインシュタインの二男エドゥアルト・アインシュタインや、イギリスの数学者・哲学者、バートランド・ラッセルの多くの家族・親類(叔父、叔母、息子、孫娘)、アイルランドの小説家・詩人、ジェイムズ・ジョイスの娘ルチアなども統合失調症を患ったため、病跡学の研究対象となっている。
統合失調症は精神保健福祉法の対象となる精神障害者である。統合失調症者で症状が安定し、就労可能な場合は障害者雇用促進法の対象となる。統合失調症は日本の刑法における心神喪失者、心神耗弱者の要因である精神の障害に含まれる。もっとも、日本の刑事裁判においてはうつ病という精神医学的診断(疾病診断)によって直ちに責任能力の有無が決められるものではなく、更に個々の事例における精神の障害の質や程度を判断し、その精神の障害と行為との関係についての考察に基づいて責任能力が判断されることになっている。そのため、医学的に統合失調症と診断されたとしても、それによって直ちに刑責が軽減されるわけではない。統合失調症者は医療観察法による入院対象者になりうる。精神障害者に対する差別や虐待は障害者差別解消法および障害者虐待防止法で禁止されている。障害者手帳や障害年金の統合失調症の障害認定では、障害の状態に応じて1から3の等級がある。患者の申請によって、障害者総合支援法の自立支援医療(精神通院医療)が受けられる。長期間の治療に対する医療費の自己負担軽減策として、国民健康保険の3割負担に加えて、公費負担医療による医療費減額が受けられる。統合失調症など精神上の障害により判断の能力が低下した人を支援する成年後見制度がある。日本の民法おいて重度の統合失調症で意思疎通が取れない場合は離婚事由となる。統合失調症を含む精神障害はいくつかの資格免許において相対的欠格事由となっている。
2017年の国内の統合失調症関連の年間の医療費は男性が4602億円、女性が4869億円であり、年齢別では0歳から14歳が10億円、15歳から44歳が1703億円、45歳から64歳が3713億円、65歳以上が4045億円であった。2008年の調査によると日本における統合失調症の社会的コストは約2兆7700億円、約7割が間接費用と推定されている。アメリカ合衆国の統合失調症関連の経済的負担額は少なくとも600億ドルと見積もられている。
統合失調症の一日当たりの一般医療費は入院が13,745円、入院外が9,206円となっている。
5月24日は「世界統合失調症デー」と定められている。また、1992年から世界精神保健連盟により10月10日は「世界メンタルヘルスデー」と定められている。
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